「しぶちん京都」 嗤われる京都人と嗤う京都人
漫☆画太郎の再来? グレゴリ青山のエッセイ漫画
西原理恵子の「鳥頭紀行」がヒットした90年代末あたりから、女性漫画家による実体験型エッセイ漫画というのが一つのブームになっています。現代洋子や倉田真由美なんかもその延長線上にあるのでしょうか。鉄系だと菊池直恵の「鉄子の旅」なんかもその一つか。
最近は「ダ・ヴィンチ」あたりが"コミックエッセイ"とか称していろんな展開をしているようですが、そのレーベル名でメディアファクトリーから今月発行されたのが、グレゴリ青山の「しぶちん京都」です。
- 作者: グレゴリ青山
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2006/09
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 28回
- この商品を含むブログ (34件) を見る
もともとは、バックパッカー御用達の雑誌だった「旅行人」で海外旅行ネタなんかをやっていた方で、「旅のグ」なんて、この業界では伝説となっている名作もあります。大仏さんとキューピーちゃんとを足して2で割ったような"グ"ことグレゴリ青山本人。そしてその周囲の奇天烈な人々が巻き起こすドタバタが妙な魅力となって、海外旅行好きの旅人を魅了してきました。
- 作者: グレゴリ青山
- 出版社/メーカー: 旅行人
- 発売日: 1996/06/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 4回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
絵のレベルはイマイチというか下手というか、はっきり言ってラクガキみたいなもんです。ヘタウマなんてお世辞でごまかせるレベルではない。人間のデッサンなんかも微妙に、いや確実に歪んでいます。普通のマンガ読みなら、初見でかなり引いてしまうでしょう。スクリーントーンを全く使わないというのは凄いし、均質でシンプルなラインもある意味では新鮮だけど、石川雅之や福島聡のような画力があるわけではない。あえていうなら、漫☆画太郎から下品さを抜いたようなモノか。
そんな彼女*1がメジャーな舞台(?)に進出し、出身の京都を描いた連作があり、本作は単行本2作目になります。
いけずな京都人。しぶちんな京都人。
京都の人の"いけず"ぶりは、かなり手強いです。入江敦彦の「京都人だけが知っている」(洋泉社新書)で取り上げられたりして他地域の方にも知られるようになりましたが、"他者"に対する手厳しさは徹底しています。
私は生まれてこの方、京都の隣県で過ごしてきたので、その片鱗を垣間見ることが少なからずありました。京都の人って、話のオチに何気なく一言付け加えるんですよねえ。それが他者にはかなり刺激的な言葉になる。
たとえばグレゴリ青山が、錦市場でアルバイトをした時の話をまとめた「京の台所の台所 しぶちんサクレツ編」。老舗商店で商品のラベル付けを担当していたはずが、いつしかウナギの寝床の一番奥にある台所へと連れて行かれる。その裏手で賄いを担当する"大奥さん"(先代の奥様)の手伝いをさせられることになるのだが、高校生のグはカツオ出しの取り方も知らない。その時の大奥さんの一言。
せやろなあ
でもかまへんにゃで
みそ汁なんか自分で作らんでもいいような
ええとこの家に嫁に行ったらええんやし
そして、最後にさらに一言。それは本書を読んでもらうとして、これがまたキツいんです。
なんで京都の人は他人にそこまで厳しいのか……とヨソ者は思ってしまいます。価値観を他人に押しつけている訳ではない。田舎の閉鎖性ともまた違います。嫌みをボソッと付け加えるのは彼らの習慣というか当たり前のことになっているわけです。
グレゴリ青山の指摘するように、京都の人は「他人に嗤われる*2」のを非常に嫌うという側面はあると思います。それを避けるために自分の日常にあらゆる注意を払う。それはそれでいいんでしょうけど、嗤われるようなことをしている他者も我慢ができないんですね。ついつい一言指摘したくなる。そこらのお節介さが"いけず"なところなんでしょう。
著者自身は京都で生まれ育ち、そこで青年期を過ごしてきました。でも、東京で過ごしたり海外で放浪したり、と京都という街へ完全に溶け込むことはなかったようです。それゆえに、"中"の人間だけが体験できる匂いを再現でき、なおかつそこでの体験を"外"からの視点で描くことができる。その微妙な距離感が、京都の中の人にも、外の人にも気持ちいいんです。で、そこらのねじれ方がまた楽しい。やはり、グレゴリ青山も京都人なんですね。
他にも、京都タワーや町屋、"未来くん"、地蔵盆、川床、舞妓はん......とツッこみどころが満載の同書。ぜひオススメしたいんですけど、あの画風が苦手な人は多いんだろうな。50ページ目ぐらいまで行けば3割ぐらいの方は慣れるとは思うのですが……