マダガスカルを走るフランス・ミシュラン製の"ネコバス型"レールバス

katamachi2006-11-16


 今月初めまでマダガスカルに行っていました。アフリカ大陸の南東にある島国で、童謡「アイアイ」で有名なキツネザルの住まう場所としても知られています。
 と言いつつも、人種的にも言語的にも動植物の分布でもどちらかというとインドネシアやマレーシアなど東南アジアの色合いもあったりするわけで、大陸の諸国とは少し違った雰囲気が漂っています。
 それと、もう一つ特徴的なのは、かつてフランスの植民地であったこと。西アフリカでは珍しくないんですが、サハラ以南だとこことモザンビークぐらいでしょうか。そんなこともあって、とにかく飯が旨い。ちょっとしたレストランに行くと洗練された分厚いビーフステーキ(ゼブ牛)が食べれるんです。しかも、2ドル(450円)ぐらいで。市場だと庶民向けの食事もすることができます。茶碗一杯ぐらいのそれなりの味のモノでも30円ぐらい。パンなんかもうまいですね。

 そんなフランス風の色合いは鉄道にも見受けられます。
 他の途上国と同様、鉄道輸送の斜陽化は進み、旅客営業をしているのは150kmぐらいなのですが、その拠点となるフィアナランツアに行ってみると、世界にでもここだけというレールバス(気動車)がありました。
 これはフランス製なのですが、製造元はタイヤと料理店格付けで有名なミシュラン。しかも5軸配置でゴムタイヤで動く……という奇妙奇天烈な珍車でした。

トトロのネコバスを彷彿させるイカれたデザイン

 さて、この気動車というかレールバス。いやフランス製造だから、オートレールとでも言うのだろうか。なんだかデザイン的にモニョモニョなんですよね。先頭はボンネットになっているんですが、なんか鉄道車両らしくない。どちらかというとバス、いや「となりのトトロ」に出てきたネコバスに似ているんですよね。
 でも、お尻の方は丸みを帯びた真ん丸なんです。なんだか妙に愛嬌がある。運転台が片方だけ、すなわち蒸気機関車のように一方向にしか進めず、車庫で必ず方向転換をしなければならない。これは駆動装置が前側台車(これもなぜだか3軸)にしか付いていないからなんでしょうが、なんて非合理な設計なんでしょうか。

 少なくとも日本の鉄道車両の延長線にはない形状であり、正直かっこわるい。10年前に、南米のボリビア(ラパス〜アリカ)で乗ったドイツ製のレールバスFerrobusなんかと比べてもダサダサなんですよね。
 なんてのは失礼な印象だったのかな思っていたら、写真家の杉崎行恭さんもご自身のブログhttp://sugizaki.o-line.co.jp/archives/001533.html:TITLE=「SUGIZAKI@FLAG STATION 杉崎行恭の写真アーカイヴ」で同じようなことを言っていました。06.11.15の日記で50年代のフランス製気動車(AUTO RAIL)の写真をアップされているんですが、やっぱりデザイン的にはあまりセンスが良くない。これはお国柄なのかな。

ゴムタイヤ製の気動車が現役なのは世界でここだけ?

 マダガスカル中部の都市であるフィアナランツアの車庫にいた"ネコバス型"レールバスは1両のみでした。鉄道職員と身振り手振りのフランス語で会話したところによると、ここにいるのは1両のみ。とりあえず今でもなんとか稼働しているらしいんですが、週に5往復、フィアナランツアとマナカラを結ぶ運行されている旅客列車(貨客併結のの混合列車)には充当としておらず、年に数回特別列車として動いている模様です。
 私の愛読書に、この車両に関する話が載っていました。

最新 世界の鉄道

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 このゴムタイヤ気動車ミシュラン創始者が開発したとのことで、1932年頃からフランスやマダガスカルで運行を始めたそうです。鉄道車両の鉄車輪特有の揺れをゴム車輪で防ごうとしたとのこと。でも、保守の面から長続きしなかったようで、今ではマダガスカルにしか残っていないようです。

 この本に掲載されているタイプは1952年製らしいのですが、こちらよりはまともなデザイン。しかも、運行されていたのは首都アンタタナリボと島東岸の港町トアマシナを結ぶ路線であり、ちなみにここでは列車の運行は取りやめられている。休止線になっているんで、車両は稼働していないんです。
 というと、このミシュランのマークを誇らしげに掲げている"ネコバス型"レールバスって、動いている世界唯一のゴムタイヤ気動車になるんでしょうか。
 そう考えると、なんだか愛おしくなります。ああ、せめて目の前で動いている姿を見せてくれれば……と思うのですが、しばらくは運行する予定はないとのことでした。
 ちなみに車内を覗いてみると、座席は3席×10列になっているのですが、シートはなんと籐製のヤツを使っているんです。東南アジアなんかにある竹細工っぽいラタンによるものなのでしょうか。床面に固定されていないと言うのがなんとかかんとも。微妙な設計です。
 あとで国立公園をまわっていたときにガイドから聞いたのですが、植民地時代、フランス人は島に生えている竹をこよなく愛していたようで、わざわざ中国から外来種を輸入して自らのプランテーションで育てたこともあったとか。その名残なのでしょうか。

 訪れた翌日、峠を越えて港町まで乗った混合列車の想い出もいろいろあるのですが、それはまた別の話。