大阪市営地下鉄今里筋線に漂うそこはかとない不安。

katamachi2006-12-08


 今年の12月24日、本当に今里筋線井高野〜今里間が開通してしまうんですね。大阪市で8番目の地下鉄線です。
 90年代に整備された長堀鶴見緑地線は黒字転換もままならず、お荷物になっているまま。旧大阪トランスポート線は事実上経営破綻してしまい、大阪市が引き取る羽目になった。御堂筋線谷町線以外は赤字路線のまま。それに加えて今里筋線ですもんね。
 開業する前からここまで悲観的な話しか出てこない新線鉄道って、さすがに珍しい。私も15年ぐらい前に大阪外環状線のレポートを論文や同人誌でまとめたときから同じことを行っていました。でも、勝算がないのは誰の目にも明らかですからね。
 地下鉄線が1路線もない東淀川区絡みの大阪市議会議員たちがごり押ししていたとはかねてから漏れ聞いていました。大阪市交通局にも深く関わってきた西尾正也元大阪市長がここの出身と言うことも。でも、まさか本当に実現するとは。確かに、地下鉄不毛の区だった西淀川区JR東西線此花区にも中央線(北港に延伸予定)が建設されているのだし、おらが町にも……という気持ちは分からないわけでもありません。でもねえ。

関連 2006-12-09 ■今里筋線建設までのウンチク。

今里筋線の輸送人員は1日あたり12万人というのはありえない

 日本経済新聞関西版のhpで興味深い記事があります。

 大阪市東部の東成区から東淀川区まで南北に走る市営地下鉄・今里筋線が24日に開業する。ただ、立地や沿線人口の減少傾向を踏まえると利用者数は市の需要予測を下回る公算があり、採算を疑問視する声は強い。市本体の財政が厳しいなかでの新路線開業を機に、将来像が見えない市営地下鉄の経営と、行財政への影響を考える。
地下鉄見えぬ行き先 大阪・今里筋線24日開業(上)──甘い予測、採算はや赤信号(12月5日)http://www.nikkei.co.jp/kansai/topics/37013.html

 内容自体はさほど目新しいものではありませんが、多くの部署やデーターにあたって精力的に書かれた記事です。大阪市交通局が2005年に算出した数値によると、

  • 想定輸送人員に12万人/日
  • キロあたり1万人の計算
  • 20年後に黒字転換、30年後に累積赤字や償却負担は解消する

ということ。なかなか強気な計算式を描いているようですが、これは、開業から16年経っても年間100億円の赤字を産み出している長堀鶴見緑地線と同レベルです。
 この長鶴線も、開業前の需要予測で算出されて輸送人員の半分ぐらいしかお客を集めることができなかった。他地区の新線鉄道でもそうですが、需要予測の数値は実際の数値の倍ぐらいの数を示してしまうようですね。というと、今里筋線の輸送人員は5万人?? まあ、そうならないように祈ります。
 当然、これには批判がでてくる。私が学生時代にお世話になったI先生なんかは「過大な見積もりだ」と批判されています。

地下鉄を造れば地価と利用者は勝手に増えるという神話

 また、大阪市郊外を結びターミナルを通らない今里筋線長堀鶴見緑地線と同レベルの利用者があるとは思えない。確かに沿線から他線に乗り換える短区間の利用は多いんだろうけど、単なる「輸送人員」ではなく「キロあたりの輸送人員」で計算すればかなり少なくなるのは間違いない。
 そして、忘れていけないのは、既存の谷町線長堀鶴見緑地線大阪市バスの利用者数は逆に減ってしまうと言うこと。これは「お得!今里筋線効果 大阪市営地下鉄24日開業」という産経新聞の記事が詳しい。

>東淀川区出身の西尾正也・前々市長、生野区今里筋周辺で生まれ育った磯村隆文・前市長も強力に推進した。

>伊勢田氏は「採算を考えて建設すべきでないという我々の反対意見はかき消された」と振り返る。

 そーか。あの人は生野の人だったのか。90年代後半に市長になった後、学者出身のくせして後先考えずに大阪ドームやATCやWTCなどお荷物プロジェクトをごり押しし、その多くが現在破綻の憂き目に遭っています。前の大阪市長選では、共産党系候補が東住吉区方面への延長を凍結する方針を打ち出していましたが、今里筋線の建設には共産党系市議も同意していたのだから彼らはあまり偉そうなことは言えないでしょう。先に自己批判してもらわなきゃ。
 ちなみに、今里筋線建設にあわせて緑橋駅に新しく設けられた階段の一つは、もと国鉄清算事業団の土地だった所なんですね。明治時代に関西鉄道が放出〜玉造間に支線を造ろうとして用地買収をしておきながら、未成線のまま放置していた土地が回り回って今里筋線開業にあわせて陽の目を見たのです。そこらのウンチクについても語ろうとしたのですが、それはまた別の話。