宮脇俊三を語りたい。その1

 今月、宮脇俊三に絡む本が2冊出るというので、彼と作品についての私見を述べてみたい。


 宮脇俊三の文章って気持ちいい。通勤電車に揺られていても、ベッドに寝転がっていても、ひとたびページをめくると、鉄道と旅の楽しさに彩られた宮脇ワールドへと読者を誘ってくれる。
 けど、彼の作品を評価するのは難しい。書評とか文庫本の解説では、「軽妙なユーモア」、「滋味あふれる作品」、「効率主義の現代社会への批判」とかなんとかそれらしいことが書いてある。マニア系の読者は「鉄道旅行の神様」とか「内田百輭阿川弘之と並ぶ三代紀行作家」とか、やや安直な評価を行う。
 たぶんそんな側面もあるのだろう。
 ただ、ユーモアや批判を期待してわれわれは宮脇本を読んでいるのではない。レッテルを貼って神格化するのも不毛な話だ。正直、宮脇俊三の人となりとか旅先での行動とかについて語られることは多かったが、彼の作品そのものを語る文章に触れることはあまりなかった。

 エッセイというのは、作者の体験を趣くままに書き連ねることが主題となってくる。となると、作品の評価は「ネタの多彩さ」と「情報量の豊かさ」、そして「文章技術の妙」といった側面に左右されることになる。かといって、文芸批評や映画評論のように現象学記号論を持ってくるのにも無理がある。
 結局、紀行作品は、作者の文体や取り上げる題材に興味があるかどうか……という印象のレベルで語るしかできないのだ。他の文芸作品と比べてイマイチ評価が低いのはそういった理由もあるのだろう。
 宮脇作品の面白さを他人に伝えることは難しい。
 もう結論が出てしまった。このままでは私のもくろみから大きく外れてしまう。
 とりあえず、ここで記したエッセイの三要素について語ることで、宮脇作品について振り返っていこう。
(続く)

2006-12-14 宮脇俊三を語りたい その2

2006-12-12 宮脇俊三の娘さんが「父・宮脇俊三への旅」を刊行。
2006-09-06 宮脇俊三全44作品のオススメ星取表
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