鹿島鉄道がまたまた大変なことになっています。

 今晩の大垣夜行で鉾田へ行くことにしています。15年ぶりに鹿島鉄道を乗ろうと考えています。「ムーンライトながら」の利用も4年ぶりになりますが、はたしてちゃんと眠れるのでしょうか。
 2006年3月頃から報道されている鹿島鉄道の廃止問題については、ご存知の方も多いと思います。2006-12-11「鹿島鉄道線の運行事業者を募集します」の〆切は今日。に経緯を書きましたが、鹿島鉄道対策協議会が同年11月から鹿島鉄道線の運行事業者を募集していました。
 最終的に2団体が参加していたのですが、審査の結果、12月24日に双方とも落選、すなわち2007年3月での廃止が決まってしまいました。
 これで物語は幕引きに向かうと思っていたのですが、どうも違ったようです。「未来鉄道研究所(新館)」というブログを見ていると、なんだか鹿島鉄道関東鉄道、関連諸団体は妙な状況に巻き込まれているというのが分かります。

読解の前提となる文書と"推測"

 ここの2006-12-27「最終決戦」、2006-12-29「関東鉄道常陽銀行 『折衝ご担当者』様へ」というエントリを見ると、公募に参加した団体の一つ、有限会社 トラベルプランニングオフィス(以下、TPO社)というグループが、「鹿島鉄道線の継承」を訴える文書を関連機関に配布したというのです。また、
★収支試算表
★計画書(鉄道事業許可取得編)
★計画書(会社取得編)
という3つの文書もアップされています。TPO社さんが「鹿島鉄道線を継承・運営する『具体的な方法』と、私共TPOが将来的に計画している事業計画案について」記した計画書らしいのですが、とにかくこれは"貴重な"情報提供だと思います。
 さて、一昨日にこのブログを見つけてから、この文書の読解に取り組んだのですが、これがなかなか難しかった。大学時代に簿記を少しだけかじって、会社でも損益計算書貸借対照表を参考に事業計画を検討したこともあったりするのですが、この計画案を理解する上で、そこで経験したイロハは全く通じなかった。自分の財務諸表に対する理解不足を痛感させられました。
 そこで、一部、行間から読み込んだ私の"推測"を交えながら、「事業計画案」を解読していきたいと思います。なお、このブログの運営者である「goo ID future-rail」いう方とTPO社とがどのような関連なのかは存じ上げませんが、とりあえず社長さんが自らが書かれていると"推測"した前提での論考になります。また、この計画案の日付やどこに提出されたものなのかどこにも記されていないので、「2006年12月に作成され、鹿島鉄道対策協議会のプレゼンテーションで提出された書類」と"推測"して語りたいと思います。
 なお、私独自の解釈は、「未来鉄道研究所(新館)」と3つの計画書にあった文言のみを前提としており、ここでは鹿島鉄道などその他の団体が作成した書類については一切触れません。

鹿島鉄道線の継承」計画書の論点の整理

 文書は「収支試算表」と「計画書(鉄道事業許可取得編)」、「計画書(会社取得編)」の3つに大きく分かれます。主語がなかったり、呼応や修飾が判読できなかったり、各項目の因果関係が理解しづらかったり、計画書の前提となる"推測"の根拠が何も示されていなかったり、結論がどこにあるのか見つけにくかったり、そもそも第三者が読んでも十分理解できる内容でなかったりするのですが、まあそれはそれ。私の"推測"を交えて、意訳すると、次の通りになります。
 まず、

  • TPO社が鹿島鉄道線を継承して路線を維持・運営することは十分に可能
  • 関係各位のご支援とご協力があれば不可能ではない。「ジョイントベンチャー」なら実現性は高い。「地域の未来を拓き、そして地球環境の未来を守る」という観点にも着目。

という主張が冒頭に記されているので、これらがTPO社が経営引き継ぎに名乗り上げた理由と"推測"できます。なぜ鉄道事業での運営が必要なのか、なぜTPO社が運営する必要があるのか。その根拠については一切書かれていませんが、それは「TPO社主導による鉄道の存続は自明の前提である」と判断されていたからだと好意的に"推測"することにします。
 その上で、「短期的な事業計画(おおむね1年以内)」、「中期的な事業計画(おおむね2〜5年以内)」、「長期的な事業計画(5年以上)」を提案されています。中期・長期に関してはほとんどその実態に触れられていないので、それらの費用対効果や実現可能性については何も研究されていないのだろうと"推測"した上で、短期計画について言及します。
 さあ、ここから私独自のアクロバットな解釈を始めていきます。短期計画のポイントをあえて以下の6点にまとめます。

  • 現行のサービス水準、ダイヤ、運賃を維持
  • 人件費を抑制するため、要員2割カット+人件費3割カット+5カ年昇給見送り
  • くりはら田園鉄道KD95気動車3両を取得+ICカード乗車券を導入
  • 新規投資に関連する減価償却費を計上しない
  • 鉄道事業許可を新規に取得するのではなく、「関東鉄道からTPO社が「『会社をまるごと』」取得し、TPOの子会社として運行を継続する」ことが望ましい
  • 施設を適正価格(197,025千円?)で譲り受け、鉄道施設取得費用として計上していく。その費用は常陽銀行から融資を受けることになるが、低利の「常陽エコ・セレクトローン」を利用する

 短期的な計画と中期的なものが混在して説明されている上に論旨が分かりづらく、結論も見当たらなくて途中で分からなくなったのですが、以上のポイントがTPO社のスキームであると"推測"しておきます。その前提となる「収支試算表」は鹿島鉄道作成のものをベースにしたということです。

要員2割カット+人件費3割カット+5カ年昇給見送り

 本計画の目玉は、社員数を2割、給与水準を3割カットするという人件費抑制策です。
 まず社員数の抑制の話。鹿島鉄道は「平成19〜23年度(5ヵ年)鉄道事業収支作成基準」で38名と試算しているようですが、TPO社は社員数30名で問題ないと指摘しています。車掌要員を1人→0人として、指令+機関区+保線の三部門の要員を15名→8名に抑えることで、8人分を削減できるという計算のようです。助役という肩書きの方が指令と機関区と保線を兼務するという方針のようですが、どこからどこまでがそれぞれの職制に該当するのか。なぜ兼務が可能なのか。肝心なところの説明はありませんが、鹿島鉄道あるいは同規模の他社での実態を踏まえた上での適切な要員配置であると"推測"できます。
 また、平均給与計というデータもあります。この言葉が何を指し示すのか不明ですが、仮に月当たりの基準内賃金であると"推測"しておきます。鹿島鉄道(=旧会社試算)は「474,166」円*1としていますが、TPO社はそれを「333,333」円に削減できるとしています。公的な統計以外に、鹿島鉄道線の親会社が補填していると"推測"できる金額もあったりしてその詳細は分かりづらいのですが、実質的には現行の7割に抑制、3割カットということでしょうか。
 なぜそれが可能なのかという論拠として、他社の基準賃金が挙げられ、「他の地方民鉄における人件費水準は『より低廉であり(下表参照)TPOの提示額が安すぎるとは言い切れない。」と"推測"されています。
 企業の賃金というのがどうやって決定されるのか。業種や立場によって考え方はいろいろあると思いますが、少なくとも、「地域別格差、業種別格差、年齢階級差、勤務体系などによって決定されている」という共通認識は労使間にあると信じています。都道府県によって平均賃金が1〜3割違うというのは当たり前ですし、各企業の平均賃金は労働者の平均年齢によってもかなり変わってきます。第3セクター会社は他社からの転職組、嘱託組が多いですよね。正社員の比率も各社で異なっている。なのに、そうした前提となる条件を無視し、単純に他社と比較されてしまうと、労働者としてはたまったものではない。経営者側の都合で給与水準を策定するのは勝手なのでしょうが、条件の安い他社を引き合いに出して給与3割カットを飲めというのはやや強引だと思います。5年間賃金を据え置くというのは社員のモチベーションにとってはマイナスに働きます*2
 もっとも下の項目では「全員がそのままTPOへ移行してくれるとは限らない。」とあり、TPO社の社員や協力会社、知人などで欠員分を賄うとあります。全員が辞めてしまったら、いざというときには30名ぐらいのスタッフがすぐに参画してくれると言うことでしょうか。その人脈の広さは羨ましい限りです。

くりはら田園鉄道KD95気動車3両を取得

 もう一つの施策の柱が、くりはら田園鉄道のKD95気動車の取得です。3両分の取得費用として約3000万円を想定されているようです。その値段を想定した基準、根拠は不明ですが、くりはら田園鉄道での簿価を踏まえ、宮城県からの回送費、鹿島鉄道線用の改造費、諸税なども考慮した具体性のあるデーターであると"推測"したいと思います。
 それと、ICカード乗車券システムの導入で事務的経費の合理化を図るというのは興味深い発想です。車載機器は概算で100万円/両、全車に付けると1200万円かかるそうです。私は知らなかったのですが、意外と安い物ですね。「新規投資は車載機器と窓口用発券端末のみが新規投資となる」とあります。JR東日本の「Suica」に対応させるならば、Suicaのシステムも変更しなければならないと思いますが、東日本さんは無償でTPO社さんに協力してくれるということなのだろうと"推測"しておきます。
 あと、ICカードに慣れない人たち、ヨソから来た人たちってのも利用者には含まれるわけですが、そうした方たちにはどのように対応されるのか。説明があれば良かったのに……とは思います。

斬新な「収支試算表」

 私が一番驚かされたのは、事業計画の柱となる「収支試算表」です。修繕費4割減とかなんだか怪しい推定値もありますが、もとは鹿島鉄道が作成されたという 「平成19〜23年度(5ヵ年)収支予想表」をベースにされているということなので、そこらをツッこむのは無粋というものです。
 TPO社さんの案が、鹿島鉄道の提出した予想表と違うのは以下の2点です。
 まずは、「5年間昇給なし」、「社員一人平均給与年額400万円に減額」*3という点です。2006年度1.55億円の総人件費が、2007年度以降の5カ年では毎年1.22億円に抑制されるという思惑のようです。これまでの2割減か……って、あれ、おかしい。要員を2割、給与水準を3割ほど落とすなら、もっと人件費を落とせるんじゃないですか。さすがにここらの数字が算出された意図は私でも"推測"できません。
 第2に、鉄道施設取得費等という項目です。なにか解説らしい文章も付いてあるのですが、これも私の読解力では、その意図と狙いと実現可能性を"推測"することはできませんでした。施設などの適正価格を197,025千円とされていますが、これが企業会計上の正しい数字なのかどうかも判断できません。おそらく、きちんとした会計士の方から指導を受けられた上での提案であると"推測"します。また、企業努力で欠損を抑えた上で、金融機関から「鉄道施設取得費用相当分」を借金するとあります。鹿島鉄道というか関東鉄道が197,025千円ぐらいで施設を譲ってくれて、そして常陽銀行さんが常陽エコ・セレクトローンでお金を貸してくれるといいですね。
 あと、収支試算表には計上されていませんが、JR直通による旅客入込(増加)収入というのも具体的な数字を出してくれています。「青春18夜行」というのはなんのことか分かりかねますし、「概算で年間2938万円 平均乗車率50%・定員はムーンライトながら相当の540名・年間120日運行」というのも理解できませんでしたが、鹿島鉄道線に夜行列車が乗り入れれば増収に繋がるのは間違いないと"推測"されているのだと思います。まあ、何事でも増収のために企業努力をすることは大切です。
 それと、「減価償却費をあえて算出しない」というコメントも驚きました。特別損失として車両取得費3000万円を計上しているのに、なぜ減価償却費の方では上がってこないのでしょうか。値切れるかどうか未確定な要素ですし、とりあえず中古車3両3000万円分の減価償却費を算出して計上してくれてほうが第三者には理解しやすいと思います。実際、企業会計に携わっていると、意外とここらの費用が嵩んでしまって困るんですよ。JR直通設備設置費用とかICカード導入費用とかが算入されていないのも分かりづらいです。新規事業の費用対効果と根拠も説明してほしいです。
 「適正価格での株式売買であれば、税負担は不要である」というのも斬新なアイデアです。貸借対照表とかの見方はある程度なら理解したつもりでいたのですが、まだまだ勉強不足です。反省します。
で、買収構想が実現する可能性は、鹿島鉄道の親会社である関東鉄道の判断に委ねられたと言うのが結論であると"推測"しておきます。どうしてそのような飛躍した話になったのか分かりませんが、「もし買収案が実現しなかったら、それは関東鉄道の責任である」とTPO社が判断されている......と私は"推測"しています。もっとも、突然、よく分からない方向からボールを投げられた関東鉄道も回答に窮していると思いますが。

最後のコメント

 この世界は善意によって包まれています。賃金をカットしても職員はついてきてくれる。関東鉄道鹿島鉄道は2億円弱で施設その他を譲ってくれる。鉄道維持のためにサポートしてくれる仲間がたくさんいる。「青春18夜行」を鹿島鉄道線に走らせれば年間3万人のお客さんが訪れてくれる。減価償却費などお金がかかる案件については、とりあえず事業計画で算出しなくてもいい。そんな計画でも銀行は低利でお金を貸してくれる。
 そうした発想が出来るって素晴らしいと思います。ていうか、ここまで楽天的だと羨ましいですね。現実世界で企業経営をしようとすると、日銭を計算して細かくやりくりしながら地道に仕事をしなければならない。そんなところにいた私にとって、鉄道会社の企業買収なんて夢のまた夢の話です。
 以前、私はこんな文書を書いたことがあります。

鉄道マニアって、何て禁欲的な人種なんだろう。
愛すべき鉄道は、赤の他人が経営する公共物である。個人所有が不可能な「ホンモノ」に近づくのは容易ではない。だからこそ、遠くから対象物を見守りながら、写真やら模型やら切符やら乗り潰しやらで代用せざるを得ない。
もちろん、鉄道会社の社長にでもなれば話は別である。マニアなら誰でも夢見る。
「鉄道未成線を歩く 私鉄編」(JTB,2001)、「鉄道未成線を歩く3 阪神・兵庫南部編」(とれいん工房,2004)の前書きより

 ホント、鉄道マニアの最大の夢って、鉄道会社の社長になることなんですよね。川島令三じゃないけど、いろいろ未来像を妄想しているのは楽しいことだし、夢のある話とは思います。でも、僕の自意識、美意識では、そうした妄想は自分の脳内だけで抑えていくものであり、他人に見せるなんていうのは恥ずかしいことだと小学生の時から思っていました。今でもそう感じています。
 でも、それを臆面もなく晒しだしてしまうTPO社みたいな考え方の人もいる。しかも、関東鉄道常陽銀行自治体など現実社会で生きている人たちに自分たちの"夢"を直接突きつけていく。そーいや、有田鉄道南海電気鉄道(貴志川線)、のと鉄道高千穂鉄道北海道ちほく高原鉄道神岡鉄道くりはら田園鉄道などもそうした"夢"に巻き込まれていました。ただ、他人の"夢"って、第三者が聞いても面白くないケースがほとんどなのですよね。
 そして、その都合良く曲解された物語の歪みを論破しても、「お前とは価値観が違う」と言われればそれで話はストップしてしまいます。そういう意味で言えば、今日の書き込みは全て無駄であったということにもなります。
 彼らの"夢"を見ている限り、以下の懸念が残ります。

  • 公募に参加したこと自体、鉄道会社の社長ごっこの延長線上だったのではないか?
  • 鹿島鉄道関東鉄道から買い取る意思など最初から皆無なのではないか?
  • TPO社の「本気度」が見えず、かつ折衝能力に課題があるのではないか?

 まあ、これも私の"推測"です。「鹿島鉄道の存続に向けた『事実上の最終決戦』」とやらがうまく解決できることを心から祈っています。
 実は本当に気の毒だなあと思っているは、この文書の読解と分析を丸投げされているであろう関東鉄道常陽銀行の総務スタッフ。たぶん意味不明の文章の真意を理解するために、この年末年始、いろいろ頭を悩まされていたのだろうなと勝手に"推測"して同情しているのですが、それはまた別の話。

追伸

 で、「そのため本件(編注 鹿島鉄道線の継承)につきましてのご回答を願いたく、来る1月9日の11時頃関東鉄道本社へ伺わせて頂きます」とありますが、なにか実りのある話を聞くことが出来たのでしょうか。

補遺(07.1.14)

 1月14日のエントリーにも書きましたが、未来鉄道研究所(新館)にあった「収支試算表」「計画書(鉄道事業許可取得編)」「計画書(会社取得編)」の3つは抹消されてしまいました。あの元ネタがないと、ここで皮肉と揶揄をした意味がないんですね。残念。

2007-01-14「1月13日の第2土曜日は鹿島鉄道の駅を全部降りてきました。 」・「鹿島鉄道とTPOと消えた事業計画書。」

*1:単位はyenだと思いますが、何も記されていません

*2:この文章を読んでいる限り、作成された方は、過去に労働者側、あるいは経営者側の立場で、賃金交渉に臨まれた経験がなかったのだろうなと勝手に"推測"しています

*3:平均給与年額とは何を指すのでしょうか。意味不明の用語です。平均給与計は333,333(円?)だったのではないのでしょうか。