「萌えタイ」で萌えたい!
- 作者: 藤井伸二,鮭
- 出版社/メーカー: イカロス出版
- 発売日: 2006/12/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 作者: 鮭
- 出版社/メーカー: ジーウォーク
- 発売日: 2006/09/05
- メディア: コミック
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う〜ん、驚異のガイドブックが出ました。題して「萌えタイ」。アニメ絵の萌えキャラでタイを紹介した旅行ガイドブックです。今までに見たことのないスタイルであり、しかも224ページオールフルカラーで1500円。なかなか大判振る舞いされた本です。
日本の男子高校生シンジが、タイから日本の高校にやってきた留学生アムちゃんに誘われてタイを訪れることになった。その旅を通して、今まで知らなかったタイという国の魅力を知ることになる……というのがコンセプトでしょうか。そうした学習マンガのノリで物語はスタートし、タイ国内を旅する中でふれあった様々な人や景色を解説していきます。
「タイってこんな国」という基礎情報から始まり、タイ旅行の心得、バンコク市内の魅力、さらにはタイの田舎であるイサーンやチェンマイ、南のリゾート地プーケットなども紹介されています。カラーのマンガが1ページに、著者の藤井による解説が3ページ......という組み合わせで、タイを旅するための様々な情報が盛り込まれています。
イサーンにあるウボン・ラーチャターニー行きの列車にはヒュンダイの気動車は入っていないだろうとか、主人公が高校生なのにゴーゴーバーへ行く項目はマズいだろうとか思わないわけではないのですが、まあそれはそれ。著者のスタンスはきわめてマジメであり、かつ的を射た解説ばかりです。作画の鮭という人は知りませんが、万人受けしそうな親しみやすいキャラクターです。肌が小麦色というだけであまりタイの女の子っぽくないのですが、確かに、かわいらしい。オタクの人なら、ちょっと手を出してみようかなと思うような魅力的な絵柄です。
となると、やはり疑問に思うのは、「萌え」と「タイ」という要素を無理矢理引っ付けたというコンセプト。ガイドブックとして、そしてオタク絵として魅力的であっても、それを2つ繋げるのは……やはり違和感を覚えます。著者の藤井伸二が、編集部から依頼を受けた後の苦悩の日々を吐露するボヤキ(p.220)はいろんな意味で興味深い。その上で、
タイで萌えることは可能です。しかし、この国は日本ではありません。住んでいるのも日本人ではなくタイ人です。彼ら彼女らに自分たちの希望や願望を一方的に押しつけても、萌えることなどできません。
と言い切り、「自然なタイ風の『萌え』を追求してみてください」とまとめています。ある種、本書の存在価値をも否定しかねない言葉ですが、著者の真摯な気持ちが伺えます。と共に、そこまで言わせてしまったイカロス出版って何を考えていたのでしょうか。
上のメイド喫茶の項にも書きましたが、日本のオタクの人って海外の事情に興味を示す人は極めて少ない。SFやミステリー、メカ系などの古手の人なら欧米ぐらいには興味を示すでしょうが、東南アジアに興味を示す人ははたしているのか。過去のオタク文化を見ても、インドや中国とかだといろいろ先例を思い出すのですが、東南アジアを舞台にした作品って何かあったかな。「萌え」と「タイ」にそれなりに興味のある自分にとっても意味不明の本です。
昨年、イカロス出版は萌えキャラによる戦車や警察の本を出していて、それなりに話題となったらしい。その延長線上にある企画だったのでしょう。ただ、読者の方に受け入れる素地がなかった。発売から1ヶ月ほど経ってさほど話題になっておらず、たまにコメントがあっても「なぜに萌えとタイ?」ということぐらいしか書いていないところを見ると、あまりにも冒険的すぎた本だったのかもしれません。