岩日北線跡と「とことこトレイン」。

katamachi2007-03-27

 先週の3月21日、錦川鉄道錦川清流線を訪れました。拙著「鉄道未成線を歩く 国鉄編」(JTB、2002年)で岩日北線を取材して以来ですから6年ぶりのことです。終点の錦町駅のある錦町って、岩国市に吸収合併されていたんですね。不覚にも現地に行ってから気付きました。
 今回の目的は、日本鉄道建設公団が建設していた岩日北線(未完成)の路盤跡を走るLP自動車「とことこトレイン」に乗ることです。

とことこトレインが走るまで。

 もともと錦川鉄道の前身の岩日線は、名前から推定できるように、山口県岩国市と島根県日原町を結ぶ構想でしたが、1963年10月に川西〜錦町間が開業した後、以北への延長は実施できませんでした。錦町駅から峠を越えて六日市町(島根県)までの区間の路盤は完成していましたが、線路を敷く直前の1980年、工事は凍結されてしまいます。国鉄分割民営化の後、路盤は放棄され、実際に鉄道車両が運行されることはありませんでした。開業していた岩日線も廃止対象路線となり、第3セクター会社の錦川鉄道に継承されます。
 さて、問題となったのは、錦町駅〜六日市駅予定地間の路盤です。単線の鉄道路盤ですから道路に転用することはできませんし、橋や築堤を撤去するにもカネがかかる。跡地をどのようにするのか。錦町と国鉄清算事業団との交渉は長引きますが、最終的に、清算事業団アスファルト舗装を行った上で、町役場に引き渡します。地域おこしの目玉として鉄道跡を活用する方針が決まったからです。
 「とことこトレイン」という遊覧自動車の運行が始まったのは2002年7月。現在は3〜11月までの土日祝と休み期間を中心に、錦町駅〜雙津峡温泉間6kmを1日3往復しています。

鉄道じゃなくて、「公園内の遊具」って扱いになっています。

 この施設、鉄道マニアとしては、いろんな意味で興味深いポイントがあります。

  • 詳しい情報は錦川鉄道ホームページで。2007年は、南口(錦町駅)発が1便10:00、2便12:30、3便14:10、北口(そうづ峡駅)発が1便10:50、2便13:20、3便15:00の3往復。片道600円、鉄道利用者は500円に割り引き。通常は1編成が往復するだけだが、ピーク時には2編成が続行運転する(それでも満員になるらしい)。
  • 正式名称は「岩日北線記念公園内遊覧車」。この鉄道線跡は、あくまでも錦町(→岩国市)の「岩日北線記念公園」であり、走っているのは「遊具」である。鉄車輪でレール上を動く「鉄道車両」とは別物で、鉄道事業法による鉄道事業の許可を得ていない。公道を走っていないので、自動車のナンバープレートも付けられていない。車両には「遊覧車は輸送機関ではありませんので、雨天・強風等の天候不良や、当社の都合により予告なく運休する場合がございます。」と表示がある。
  • 錦町(岩国市)は錦川鉄道に運営を委託しており、パート職員が運営にあたっている。
  • もともと、この遊覧車は、2001年夏に開催された「山口きらら博」の会場内で「きららトレイン」として使われていた。トモエ電機工業http://www.tomoedenki.co.jp/index.html(日本輸送エンジニアリング?)製で、LPガスを使ってゴムタイヤ(前輪は自動車用ノーパンクタイヤ、後輪はフォークリフト用)で駆動する。先頭車には運転士が乗り、3両の客車を牽引する(20人+20人+16人)。町が2編成を660万円で購入し、同年11月に運び込む。
  • 当初、博覧会の時と同じ「きららトレイン」という名前が付けられていた。地元山口県では知名度が高く、その名称にあわせて、キラキラ星のイメージで「きらら夢トンネル」の整備も行っていた。だが、諸事情により、運転開始直前に「遊覧車」と改称せざるを得なくなった。後に公募で「とことこトレイン」という名前が付いた。
  • 2003年の輸送人員は3.5万人、その後も同程度の利用者を確保している。この手の遊覧施設としては比較的好成績を挙げている。財団法人地域活性化センター「地域再生リニューアルアイディア 事例集2005」にも取り上げられている。ただ、遊覧車は製造してから6年目。駆動している先頭車のエンジンや車体の具合はあまり思わしくないようで、あちこちに継ぎ接ぎが行われていた。あと何年持つんだろう......
  • 鉄道用の広瀬トンネルを蛍光石で装飾し、「きらら夢トンネル」として幻想的な光の世界を演出している。赤や青、黄、緑などに光る人工石が壁面に散りばめられているのだが、その製作には町内の小学生や園児、関係者、あるいは地域の学生たちが携わった。

とことこトレインの乗車報告

 西岩国駅から錦川鉄道「かじか号」に乗って1時間。2007年3月21日9:35、錦町駅に到着しました。
 ホームの側には気動車の車庫があり、線路の車止めの先に、とことこトレインの乗り場、そして岩日北線のトンネル坑口が見えます。
 キップは、駅窓口に隣接する旅行センターで発売しています。鉄道でやってきた証明書を見せると割引になります。雙津峡温泉駅まで往復で1000円。ピーク時には満席で乗れないときもあると聞いていたので事前に電話で予約していたのですが、今日はまだそれほど混んでいるわけでもないようです。
 ホーム風になっている待合室へ行くと、とことこトレインがちょうどやってきたところです。今日はオレンジ色の「ゴトくん」。相棒の「ガタくん」(水色)はお休みのようです。
 今日は今年(2007年)初の運転日なのですが、お客さんは私を含めて10人。やっぱりまだ寒いからかそれほど多くはありません。私は、最後尾の3両目に乗り込みます。
 1便の錦町駅の発車は10:00ですが、直前に事務所から連絡があり、クルマでやってきた家族連れを待つことになりました。定刻から2分遅れでホームからスタート。
 さっそく、とことこトレインは広瀬トンネル(1796m)に入っていきます。時速は10km/hぐらい。タイヤに空気が入っていないからか、やたらとガタガタ揺れます。お隣に座る車掌さんが話しかけてくれるのですが、ちょっと会話は難しい。
 出発して6分ぐらいしたでしょうか。いきなりトンネルの壁面が輝き出し始めます。沿線に住む子供たちや関係者がデザインした蛍光石が列車に反応して光り出したのです。
 ここで6分間の臨時停車。車掌さんが列車の扉を開けてくれるので、乗客は自由に下車することができます。つて、こどもたちは、勝手に外へ出て、みんなはしゃいでいます。人工石って分かって入るんだけど、全天が光に覆われているのって......きれいなんですよね。


 促されて列車に戻り、10:14に出発。5分ほどで外に出ます。ここは国道と宇佐川を跨ぐ出市橋梁、そして第一宇佐川橋梁です。ここらは出市駅の予定地でもあり、下には駅施設の骨組みができていました。

 ここからは錦川を眼下に見下ろしながら山の中腹を進んでいきます。客車は透明のビニールカバーで覆われているのですが、撮影用に後ろの部分だけオープンしてもらいました。比較的温かいとはいえ、まだ3月。ちょいと寒いですね。沿道には桜の木が植栽されているので、花が咲き出すと桜吹雪で覆われて......と車掌さんに聞いていると、ちょっと惜しい気もする。いや、自生の菜の花が築堤を覆っていてそれもまた一興なのですが……
 1kmほど行くと、第1山根トンネル(1158m)です。ここのポイントは、壁面で巣くっているコウモリの大群です。ちょうど入って3分ほどしたところに、黒い固まりがいました。何十羽、匹もいます。凄い……。それを眺めていると、何を勘違いしたのか、そのうちの一匹が車内に入ってきました。
 再びトンネルの外に出ます。超ミニの深竜寺トンネル(20m)、そして深川橋梁を跨ぐと、小さな集落が見えます。ここが周防深川駅の予定地(錦町より5.7km地点)になります。近くの田んぼで老夫妻が農作業をしており、それを見つけた車掌さんが手を振って合図をします。以前からの知り合いのようで、列車がやってくる時はいつも手を振り合っているとか。なんだか微笑ましい光景です。

 続いて道念トンネルを過ぎると、第二宇佐川橋梁(97m)で国道と川を跨いでいきます。その先の第一小山トンネル(51m)を潜れば、終点の雙津峡温泉駅(そうづきょう)です。10:36着。錦町駅から34分間の旅が終わりました。
 その先には東屋があり、第二小山トンネルの手前にロータリーが設けられています。ここでグルッと一回りして方向転換を行うわけです。
 帰りの便は11:00発。時間になると、先ほどとは別の乗客たちが集まってきます。私の待ち受ける最後尾の車両にも、春休みで帰省してきた家族連れが乗り込んできます。帰路では、こどもたちと車掌さんとの愉快な交流もあったのですが、それはまた別の話。
 いやあ、とにかく気持ちいい旅でした。「この施設は鉄道じゃない」というのは何度も繰り返してきましたが、それでも鉄道マニア的には楽しめる要素がたくさん転がっている。機会があれば、ぜひ現地に行ってみてください。では。