JRが造る新駅の建設費を調べてみました。
週末、仙台に行って3月に開業した東北本線太子堂駅、仙山線東北福祉大駅を訪ねるつもりにしています。この2駅を含めた今春の新駅は5つ、昨年は1駅、一昨年は4駅。80年代半ばから90年代の初頭にかけての「新駅建設ブーム」ほどの迫力はありませんが、確実にその数は増えています。
でも、新駅を建設する費用って、意外に高いんです。政治的問題になっているケースもあります。
特にややこしいのが東海道新幹線の南びわこ駅。建設費240億円をかけるだけの価値があるのか以前から反対の声の方が強く、大津市のように露骨に反対する自治体もありました。その上に、建設凍結を訴える知事が出現し、起債差し止めの判決が出て、そして......なんだか県民にも訳の分からないような事態になっています。その可否はここで触れませんが、東海道新幹線の「非『のぞみ』停車駅」って使い勝手が悪いんですね。米原駅を利用しているとよく分かります。
さて、そんなわけで、新駅を建設するのっていくらぐらいかかるんだろう......と疑問を抱きまして、ここ3年の新駅10ヶ所、そしてこれから開業する予定の新駅17ヶ所について、いろいろ調べてみました。
- 2005年以降に開業したJRの新駅
駅名 | 路線区間 | 開業 | 建設費 |
---|---|---|---|
内野西が丘 | 越後線越後赤塚〜内野 | 2005.3 | 8億円? 内野西土地区画整理組合で整備。新潟市が駅前広場など |
ひめじ別所 | 山陽本線曽根〜御着 | 2005.3 | 8.2億円。姫路市が負担 |
北長瀬 | 山陽本線岡山〜庭瀬 | 2005.10 | 9億円。駅前広場込で12億円。岡山市が全額負担 |
九大学研都市 | 筑肥線今宿〜周船寺 | 2005.9 | 8億円 |
光の森 | 豊肥線武蔵塚〜三里木 | 2006.3 | 4.6億円。JRが1割。熊本県住宅供給公社が9割負担 |
太子堂 | 東北本線南仙台―長町 | 2007.3 | 13億円。仙台市と都市再生機構で折半 |
東北福祉大 | 仙山線北山―国見 | 2007.3 | 11億円。東北福祉大が全額負担 |
平田 | 篠ノ井線南松本〜村井 | 2007.3 | 38億円(周辺整備込み)。松本市が全額負担 |
野田新町 | 東海道本線刈谷〜東刈谷 | 2007.3 | 28億円(周辺整備込み)。刈谷市が全額負担 |
さくら夙川 | 東海道本線西ノ宮〜芦屋 | 2007.3 | 不明。 JRが全額負担 |
- これから開業する予定のJR新駅(JRと地元との協定済)
<参考>「鉄道が織り成す情景」「新駅設置の動き」
駅名仮称 | 路線区間 | 開業予定 | 建設費 |
---|---|---|---|
須磨海浜公園前 | 山陽本線鷹取−須磨 | 2007秋 | 9億円。JR全額負担*1 |
越谷レイクタウン | 武蔵野線南越谷〜吉川 | 2008春 | 37億円。越谷市と都市再生機構が折半 |
播磨勝原 | 山陽本線英賀保〜網干 | 2008春 | 12億円。姫路市9割、JRが1割負担 |
和木 | 山陽本線岩国〜大竹 | 2008春 | 7億円。関連込みで12億円。和木町と地元で全額負担 |
下関市梶栗地区 | 山陰本線安岡〜綾羅 | 2008春 | 5.6億円。下関市と地元で全額負担 |
島本 | 東海道本線山崎〜高槻 | 2008春以降 | 60億円。島本町が駅設置費の半分負担 |
JR桂 | 東海道本線西大路〜向日町 | 2008秋 | 36億円。キリンビール10億円、京都市25億円、JR1億円負担 |
西府 | 南武線分倍河原〜谷保 | 2008秋 | 34億円。西府土地区画整理組合と府中市が94%負担 |
大宮西部地区 | 川越線日進〜指扇 | 2009春 | 42億円。負担率は不明*2 |
名古屋市大高南地区 | 東海道本線大高〜共和 | 2009春 | 31億円。大高南特定土地区画整理組合が全額負担 |
上府 | 鹿児島本線古賀〜筑前新宮 | 2009春 | 不明。主に自治体などが負担 |
武蔵小杉 | 横須賀線西大井〜新川崎 | 2009年度 | 200億円。川崎市がほぼ負担。連絡通路はJRと折半 |
鹿部 | 鹿児島本線古賀〜筑前新宮 | 2010春 | 不明。主に自治体などが負担 |
加古川市西之山地区△ | 加古川線日岡〜神野 | 2010年度 | 不明 |
明石市硯町地区△ | 山陽本線西明石〜明石 | 2011年度 | 40億円。市が3分の1負担。JRの負担率不明 |
南びわこ | 東海道本線米原〜京都 | 2012年 | 240億円。滋賀県が117億円、栗東市が101億円、残りを他自治体が負担 |
草津線手原〜草津 | |||
広木 | 鹿児島本線上伊集院〜鹿児島中央 | 07年度着工 | 3.4億円。鹿児島市が9割、JRが1割負担。駅前広場2.5億円は市負担 |
※「鉄道事業法に基づく事業基本計画の変更認可」の申請を終えた新駅計画、あるいは準備をしている駅について示した。△は、準備にまでは至っていないと思われる新駅計画。駅名仮称は建設にあわせて付けられた仮称。最終的に変更される可能性あり。それが示されていない場合は地区名を記した。久原(大村線)やJR太宰府(鹿児島本線)、山の田、寺家、白島、古江、御筋、幡生(いずれも山陽本線)など、JRや地元が新駅構想を示しただけで、具体的な建設の動きが見られないものは除外した
この建設費、検索エンジンをかけて引っ張ってきた数字を並べてきたのですが、ちょっと注意して欲しいんです。たとえば光の森駅の建設費は単純に駅の設置費用だけだと思うのですが、平田駅とか野田新町駅には駅前広場や周辺道路の整備費用も含んでくる。どれが何の内容を含んでいるのか、ソースとなる情報を見てもあやふやなんですね。国や県の補助金が入っていたり、区画整理事業と混ぜ混ぜになっていたりして、単純に比較することはできません。
それを踏まえてリストを見て欲しいのですが、幹線で駅の建設(と付帯事業)にかかる費用は20〜40億円もするんですね。ローカル線でも複線区間や交換設備のあるようなところは5億円ぐらいはする。乗降に便利な橋上駅舎を設置すると、小さくても3億円ぐらいはするのでしょう。
請願駅だとJRが負担する費用は1割程度
さて、新駅に関係する費用の多くを負担しているのは、地元の自治体や土地区画整理組合です。あるいは新駅で利益を受ける事業者がカネを出すことがあります。
一方、新駅を運営していくJRが負担する割合は全体の1割程度。ゼロのケースもあります。開業後の運営費がかかるとしても、初期投資はかなり抑えることができるんです。地元がJRにお願いして推進する「請願駅」という扱いがなされているからです。
「請願駅」という言葉が使われるようになったのは国鉄末期の80年代になってからです。国鉄の各鉄道管理局が地域輸送の拡充、改善に努めていく過程で、自治体や開発者などの資金負担を頼りにたくさん新駅を造っていった。特に北海道と東北、四国、九州などでは山のように新駅が誕生しました。
その際の設置費用は、原則、地元が全額負担という形が取られました。1987年に分割民営化でJRが誕生した後、それじゃあ地元の負担が重すぎる......とJRも1割ぐらい負担するというルールができたようですが(新聞報道で読んだ記憶がある)、2000年の鉄道事業法改正?でそうした縛りがなくなったようです(ここ参照)。
しかも、JRの場合、新駅にあわせて設備改良も行うんですね。単線だと交換設備、複線だと追い越し設備を作ろうとする。地元自治体もついつい区画整理をして立派な駅前広場を整備する。駅舎もやたらに立派にしてしまう。なんだかんだ言って、そこらの付帯的な費用も建設費に加算されています。南びわこ駅や武蔵小杉駅の事業費が200億円を超えたのもそうした事情が絡んでいます。だから、梶栗地区の新駅(下関市)のように、巨額の建設費負担に反対の声をあげる人たちも出てくるのです。JRや地元の裏事情もいろいろあるとは想像できますが......推進する方も大変です。
一方で、新駅建設を安く仕上げている会社もあります。単線鉄道にホームを1面新設する程度なら1億円もしません。樽見鉄道のモレラ岐阜駅(2006年)で6000万円、弘南鉄道大鰐線の石川プール前駅(2002年)だと2520万円、今年できる山形鉄道四季の里は1900万円。80年代末に国鉄・JRでローカル線の新駅が建設された際も、その費用は1000〜3000万円ぐらい済んでいます。
個人的には、新駅を設置する場合、最初は安上がりの施設で十分だと思います。利用者が増えたのなら、それにあわせて設備を拡充したり、カネのかかる駅舎や駅前広場を造ったらいいのでは。エレベーターを導入するのではなく、スロープで直接、周辺道路と行き来できる方がよっぽど便利です。正直、立派な新駅を整備しても、いざ開業したらあまり利用者がいなくて......というケースは少なくありません。でも、将来のため......ということで、最初っから豪華な施設を造ってしまう。日本の公共投資ってそんなのばっかりですね。
ただ、2000年に施行された交通バリアフリー法とかの関係で駅内にエレベーターを付けなければならないケースが増えているのも事実。それが1台1億円。それを3台導入すれば3億円はかかる計算になります。他にも用地費、ホームや事務所の整備費とかいろいろ必要。う〜ん、新駅を設置する費用は想像以上に高いんですね。
そうした動向を踏まえると、驚くのは、東海道本線さくら夙川駅です(右上の写真は2年前の建設時の姿)。建設費がいくらかかったのか分かりませんが、必要経費はJR西日本が全額負担しているんです。駅周辺の整備事業は西宮市がやっているようですが、駐輪場などだけですからさほど巨額というわけでもない。読売新聞の2007年3月17日 の記事(キャッシュ)によると、
1987年4月のJR西発足後、新幹線を含め56の新駅が造られたが、東西線などの新線以外は、すべて地元自治体などが誘致して建設費の大半を負担した請願駅だった。JR西が進んで自ら建設したのは事実上が初めてで、
ということらしいです。
JRは太っ腹だなあ......と思っていたのですが、この駅、別のプロジェクトに便乗して設置されたんですね。都市計画道路建石線(県道82号大沢西宮線)の現在2車線の道路を4車線化する計画があって、それにあわせて東海道本線の跨道橋を新設せねばならなくなった。そこで、拡幅工事にあわせて駅を造ることになったようです。なんだかいろいろ裏事情があるんですかね。もう一つ、JRが全額負担して造る須磨海浜公園前駅についても言及しようと思ったのですが、それはまた別の話。
JR線の鉄道整備に関するカネと地方自治体の関係。4回シリーズ
1.2007-03-29JRが造る新駅の建設費を調べてみました。
2.2007-04-04「関西国電のエース」117系と国鉄型車両。
3.2007-04-05自治体がJRにカネを出すのを禁じた地方財政再建促進特別措置法第24条第2項
4.2007-04-06鉄道整備にカネを出す自治体。無関心な自治体。