いま「新幹線脳内ラブ」の「女性鉄道オタク」が増殖しているらしい。

katamachi2007-04-24

増殖中の女性鉄道オタク
鉄子」の新幹線脳内ラブ

TBS系「特急田中3号」にも登場する女性の鉄道ファン。
その世界は男性の鉄道趣味世界とはかなり違うようで。
(中略)
鉄子たちの多くは、自分の好きな車両を、どんどん擬人化する傾向にあるのはどうやら間違いない。

という、様々な方面からツッコミがいのある記事が、朝日新聞社の週刊誌「AERA2007.4.23号(1048号)p.82に載っていました。
 この雑誌、今じゃあ20〜40歳代のキャリアウーマン向け週刊誌となってしまった雰囲気がありますが、たまにオタク系やサブカル系のネタに触れたりするんです。自分の所のHPなんかでアンケートを採ってそれをベースに議論を展開するのですが(たとえば、http://www.aera-net.jp/talk/talk.php?talkid=26でのアンケートも同号で記事になっています)、その言説や論旨のトンチンカンぶりは以前から各方面で有名です。
 代表的な論客?は杉浦由美子AERAでの記事をベースとした「腐女子化する世界―東池袋のオタク女子たち (中公新書ラクレ)」とか「オタク女子研究 腐女子思想大系」とかでオタクたちに総スカンを食らっていました(三崎尚人の「同人誌生活文化総合研究所「『オタク女子研究 腐女子思想大系』批判」が詳しい)。
 別に対象となるオタクたちに思い入れがないのは問題ないと思います。そっちの方が中立的な視点を確立できるかもしれません。当事者たちを斜に構えた視線でネタにするのも構いません。多少、事実を針小棒大に語っても面白くなるならそっちの方がいい。ただ、杉浦って、自分の論旨に都合の良い情報しか集めていないんですよね。しかも、検索エンジンで引っかかるような最近のネタばかりで、きちんと当事者や業界内部から情報を集めることすらしない。ぜんぜん実感がないから、中の人間には意味不明な、いや別世界の話にしか聞こえてこない。杉浦が「オタク女子=腐女子」と決めつけ、その志向性を褒めてくれれば褒めてくれるほど気持ち悪くなってくるんです。

とりあえずネットに頼らず、自分で当事者を取材すれば(^_^;)

 で、この朝日新聞社AERA編集部員の内山洋紀、福井洋平による「ドラマにもなった鉄オタ女性は新幹線好き」という記事もスゴいんです。論旨は、

  • 鉄道ファンの女性(鉄子)が増えている。
  • 女性の鉄道ファンは男性とはアプローチが違う。
  • 鉄子たちの多くは自分の好きな車両を擬人化する傾向にある
  • なぜか新幹線

というものです。で、新幹線の500系をペットのように可愛がるという女性鉄道ファンというのを登場させ、その発想を面白おかしくコケにして紹介した上で、記者が「はあ〜」と溜息をつくところでオチにしている。
 この記事の不可思議な点をまとめると3点あります。
 まず、最初から最後まで読んでも、「増殖している鉄オタ女性」=「新幹線脳内ラブ」ということを立証する数字は何も示されていないんですね。ただ、

  • タレントの木村裕子「私の彼氏は、400系つばさなんです。」
  • エッセイストの酒井順子「新幹線の『顔』に惚れました」
  • IT企業に勤める女性会社員「新幹線の中で結婚式を挙げるのも夢」

という「鉄オタ女性」3人が登場し、記者の思い描いた通りのコメントをしているだけです。あまりにも予定調和過ぎる。先の2人は、どー見ても自分の商売のネタのためにコメントしたんでしょう。「『事務所の戦略じゃないの?』と訝る人も多いだろうが、聞くと逆。」とあるけど......なんだろうなあ。今どきアイドルのプロフィールに「家族が写真をタレント事務所に送ったのがきっかけでデビュー」って書いてあってそれを信じきる人っているんでしょうか。
 次に、女性の鉄道ファン(鉄子)の動向を自分の眼でリサーチしていない点。彼女たちのほとんどはそもそも「鉄道で旅行すること」に関心があるだけです。旅を実現していく過程で、様々な予備知識を仕入れて、上の"ステージ"に行かれる方もいらっしゃいますが、基本的には「鉄道旅行好き」という段階で留まっています。というか、旅先や鉄系イベントで出会った人たちを5、6人もリサーチすれば、彼女たちの趣向は明らかになると思うのですが……

鉄道車両の擬人化」という表現手法は確かに存在しますよ。ただ……

 最後に、新幹線を含めた「鉄道車両の擬人化」という手法があるのか本当に存在するのか否かという点。こうした発想をされる女性の方たちが存在するのは事実です。でも、AERAの記事が、「鉄子たちの多くは、自分の好きな車両を、どんどん擬人化する傾向にあるのはどうやら間違いない。」と断言するような状況とは程遠い...ってのが実情です。
 「鉄道車両を擬人化する」という表現方法が一つの固まりとして見られるようになったのは90年代半ば。イラストとか鉄道系同人誌とかの世界ででした。鉄道車両を男性や女性、あるいは中性っぽく人間風にデザインする鉄道好きの女性たちが出てきたのです。もっとも彼女たちは突然変異で出現したのではありません。当時、フジテレビの「機関車トーマス」の機関車たちがあらゆる層で話題になっていましたし、それ以前からマンガや同人誌の世界では非生命体を擬人化することは決して珍しくありませんでした。彼女らとしては「電車が好き」という気持ちを表現する一つの手法としてそうした描き方を選択しただけです。男連中のような情報や蘊蓄はさほど持っていないけど、それとは違う表現の仕方もあるんだという自負もあったのでしょう。今では一定程度マーケットは広がりましたが、担い手は男性が主体となっているし、「鉄道むすめ」みたいな「制服を着た鉄道職員萌え〜」という方面にも移っているし……
 と、この記事の杜撰さを挙げていけばキリはないのですが、鉄道趣味業界で活動している人間には違和感ありありの文章なんです。女性の方でもそうですよね。「おんな親子鉄発車! 鉄母&鉄子の鉄ブログ」における2007/04/19 (Thu)「AERA4/23号」での感想というのが真っ当な反応だと思うのですが……
 でも、「AERA」編集部で料理してしまうと、「鉄道好きの女性」=「新幹線脳内ラブ」という図式になってしまう。同誌の過去のオタク記事を見ていればそうした意味不明の論旨になるとは分かってはいたのですが......いやはや、トンデモない文章です。どっかで聞き及んで面白いネタになると思ったのでしょうが、当事者から情報を集めていけば、もう少し多面的な展開も可能だったはず。
 まあ、週刊誌、それにAERAのオタク記事だから真剣に怒るなよ......と言ってしまえば、それでオシマイなんですが、それはまた別の話。