日本粘土鉱業岩手鉱業所のDLが11年ぶりに稼働。

katamachi2007-05-15

 この2007年4月27日、山田線と岩泉線を訪問した帰りに、岩手県岩泉町小川地区門にある三井金属資源開発株式会社岩手鉱業所に立ち寄りました。場所はYahoo!マップだとここ
 昔、日本粘土鉱業岩手鉱業所という名前で耐火粘土(耐火レンガなどに使用)を産出していた鉱山でしたが、1996年に坑内堀を止めて閉山。鉱石輸送を担当していたトロッコ軌道もそこで運転を取りやめています。
 比較的遅くまでトロッコを動かしていたこともあってマニアの注目も集まっていたようです(軌間506mmというのも珍しい)。
 峯尾潤『鉱山トロッコ紀行 日鉄鉱業尻屋鉱業所 日本粘土鉱業岩手鉱業所』(岩崎電子出版 自費出版)という写真集も出ていますし、現役時代の写真を公開されているホームページもいくつか見つけました。

鉱山トロッコ紀行 (1)

鉱山トロッコ紀行 (1)

 さて、とりあえず事務所を訪ね、職員さんに、廃鉱跡を探訪したい旨を伝えたところ、私の風体を一通り吟味しつつ、「事前の申請なしでは入れる人はできないですよ.....」と丁重に断られました。まあ、仕方ないですよね。
 でも、事務所の目の前にはトロッコ線で使っていた鉱車が転がっている。ついつい視線はそちらの方に行ってしまう。そんな私を見かねた職員さんからの一言。
「ところで、鉱山じゃなくて、トロッコの方には関心があるの?」
鉱山マニアは多いけど、トロッコ軌道に関心がある人ってそんなに多いのかな。もちろん私は鉄道マニア。どちらかというと興味の対象はそっちの方にあるんです。
 意外な問いかけに戸惑いましたが、事情を聞いてみると、なんか面白い話が転がっているようです。なんでも、工場跡の裏山に今でもトロッコ軌道が残っているらしいのですが、1996年の閉山以来11年ぶりに、ディーゼル機関車を動かしたというのです。しかも、なんと2日前(2007年4月25日)に。
「で、それを見てみたい?」
と悪魔の誘いが。もちろんですとも。

11年ぶりに動いた(ただし300m)ディーゼル機関車

 さっそくレンタカーに戻ってデジカメを引っ張り出し(一応、許可を得られるまでカメラは持ち込まないようにしたんです)、職員さんの車にお邪魔します。一度、敷地から国道に出て、そこから北側に分岐する道の途中にトロッコ軌道がありました。全部で20両ぐらいは鉱車の残骸が転がっていました。レールもそのままです。
 あたりは雑草に覆われているのですが、トロッコ軌道の周辺だけはきれいに刈り取られています。そこを200mほど歩くと......確かにレールの先にディーゼル機関車が鎮座していました。

 一見すると、ただの廃車体にしか見えません。えっ、それが動いたの??? 確か運行を止めてから11年も経ったはずなのに……
 不思議そうな顔をしていると、職員さんが手招きをします。キャブの中を見てみると、、、運転席の隣に小さなバッテリーが置いてあります。カーショップで売っているような民生用のヤツです。そこから伸びる線を辿っていくと、運転席脇の機器に繋がっている。これで何度もバッテリーをかけながら、茂みの向こうにあった車庫から平地にある現在地まで動かしたそうです。その距離300m。
 幸いなことに、昔使っていたガソリンの残りがタンクの底にあったのですが、さすがに11年以上も前のオイルでかなり水が混じっていたのでなかなかスムーズには動いてくれなかったとのこと。でも、そんな悪条件の中でよーくディーゼル機関車は動いたんだなあ.....ちょっと感激してしまいました。


北陸重機工業製の機関車は遠く新潟県に運ばれました。

 ただ、最大の疑問が残ります。なんで、廃止から10年以上も経ってわざわざ今頃になって動かしたの??? よく分かりません。
 最近、中国で屑鉄の値段が上がったとかで、全国各地で金属製品のドロボウ騒ぎが起きています。上山田線廃線跡に残されたレールが盗まれたなんて事件も以前にありました。鉄道車両も例外ではなく、年度替わりとなったこの3月、全国の車庫や公園に置かれた保存車両(放置車両とも言う)のうち、すくなからずの車両が解体されてしまったようです。せっかく屑鉄の値段が上がっているなら、不要なものは売却しておきたい。年度を超えると税金もかかってくるし......
 ところが、事情を聞いてみると、ここのディーゼル機関車は運が良かったようです。なんでも、新潟県の某観光事業者が目を付けて引き取ることになったとか。ただ、どこの企業が引き取り手になるのか、覚えておられなかったようなので、詳細は不明です*1
 で、この2007年5月9日にお迎えのトラックがやってくるらしく、そのためクレーンの機材が入れる現在地までわざわざ引っ張り出したとのことです。そして、何を隠そう、この職員さん、ほんの10年前までトロッコの運転士を務めていた人で、先の運転の時にも立ち会っていたそうです。
「いやあ、それが嬉しくてねえ。ちょうど君が現れて、興味を示したんで、ここまで連れてきたんだよ」
とのお言葉。ホント、有り難い話です。
 もう今日は15日になっているんで、今頃は、新潟県のどっかの工場に運ばれて修繕でも受けているのでしょうか。せっかく300mとはいえ自走したわけだし、動態保存なんかしてくれたりしたら有り難いけど......どうなんだろうか。近所には廃線跡も現役線もあるし、公開が実現したときには、ぜひ訪問してみたいですね。
 ちなみに、この会社が、遠く離れた岩手鉱山のトロッコ機関車を選んだ理由。それは、ここの4tディーゼル機関車が、新潟市に本社のある北陸重機工業(http://www.hokuju.com/)が納入した車両で最古参の機関車(と言っても1975年製)だったからとのことです。それを求めてはるばる岩手県葛巻町までやってきたのか......その心意気が嬉しく感じちゃいます。
 でも、なぜに新潟の企業がわざわざ機関車を展示しようとしたのか。しかも、新潟で一番メジャーな鉄道系工場の新潟鉄工所(現、新潟トランシス)のディーゼル気動車ではなく、どちらかと言うと鉄道マニアの間でもマイナーな北陸重機工業*2の鉱山トロッコの小型ロコを選択した理由ってなんだろう。そこらの経緯もやたらと気になるのですが、それはまた別の話。
(続きは、2007-05-16 岩手鉱山を目指して力尽きた東北鉄道鉱業と北岩手鉄道。そして岩泉線)

追記<2007.6.19>

ナローなどの鉄道ファンの間で最近特に話題になっている日本粘土鉱業の北陸重機4トン機関車を岩手県名目入から連れてきました。
(中略)
現在は写真のような状態でメンテナンスを行っていますが、いずれは昭和の雰囲気のあるような場所、もしくは景色の良いような場所での動態保存をと考えております。

弥彦フェリー株式会社「越後七浦周遊航路」トロッコ機関車保存会(http://www.yahiko-ferry.com/18page.htm)

 以前、日本粘土鉱業岩手鉱業所のDLが11年ぶりに稼働。で書いた日本粘土鉱業岩手鉱業所(岩手県岩泉町小川地区門)の北陸重機工業のディーゼル機関車。お嫁入りした新潟県長岡市寺泊の観光会社の手でレストアが進んでいるようです。スタッフも募集されているようなので興味のある方は是非、同社のホームページへ……

*1:その時、職員さんがおっしゃったキーワードで検索エンジンをかけると、どこの会社か目星は付くのですが、正式発表はないようなので……差し控えておきます。

*2:この北陸重機って会社、遊覧鉄道とかトロッコとかに興味がある人間には知られていますが、そもそも普通鉄道に車籍のある車両を納入した実績って、南阿蘇鉄道が2007年3月24日から運転を始めた16t機関車2両ぐらいしか記憶がないんです。ほかにもあるのかな......