ところで、余部鉄橋っていつから運行を取りやめるんだろう

katamachi2007-08-07

闇夜に列車が駆け抜けるさまが「銀河鉄道」にも例えられるJR山陰線余部鉄橋兵庫県香美町香住区)が17、18の両日夜、ライトアップされる(中略)
余部鉄橋は高さ41メートル、長さ309メートル。強風対策などでコンクリート橋への架け替え工事が始まっており、2010年秋ごろに鉄道橋としての役目を終える予定。今後、大型重機による工事も始まることなどから、ライトアップも見納めになりそうだ。
「余部鉄橋、試験点灯 17、18日にライトアップ」神戸新聞、2007/08/06

 今の橋を使わなくなるのは2010年秋か……初めて知りました。ある程度、工期のスケジュールが確定されてきたんですね。
 最近、あちこちで取り上げられ手垢が付きすぎていて、いまさら……という気がしないわけでもないんですが、余部橋梁。やっぱり魅力的です。
 香住駅から気動車に乗ってしばらくしてトンネルを抜けると、突然、目の前に、鮮やかな朱色で彩られた鉄橋が待っているわけです。餘部駅で下車し、山道を登って近くの丘から見下ろすと、眼下には、あの独特な構造で組み立てられた鉄橋と日本海の風景が一望できる。それがまたいいんですね。
 僕が最後に行ったのは昨年の1月、特急「出雲」が消えると聞いたんで、鳥取のビジホに泊まって翌朝一番の列車で餘部駅に向かい、例のお立ち台へ行ってみました。まだ青春18きっぷのシーズンでしたが、来ていたのは10人程度。穏やかな雰囲気で薄暮の余部橋梁を走り抜ける「はまかぜ2号」と下り「出雲」を撮ってきました。
 で、その作品というのが……以下です。

鉄道趣味と別次元のところで発生した「さよならブーム」


 いやあ、お恥ずかしい出来です。まあ、お立ち台から見物するのが目的であって、写真撮影なんてのはあくまでも"ついで"だから……と自分には言い訳したのですが、もちろん心の中ではかなり悔しかったりします。
 あの頃の余部鉄橋というのは、鉄道に少しでも関心がある連中なら誰にでも知られていました。でも、普通の旅行好きとかの方の間では知る人ぞ知るって感じです。「るるぶ」とか旅行ガイドでも紹介されていましたが大きい扱いではなかった。2004年夏ぐらいから「さよなら余部橋梁」キャンペーンが始まって臨時列車も運行されていましたが、さほど注目を集めていたわけではない。
 でも、2006年2月ぐらいから特急「出雲」が廃止される、それを狙って早朝の餘部にマニアたちが……というのが関西ローカルのニュースで流れ始めると状況が変わってきました。日頃、鉄道に関心のないような人たちも現地に集まりだしたんですよね。「もうすぐ消える」、「廃止される」というニュースを聞くと居ても立ってもいられなくなるのは鉄道マニアも普通の人でも同じです。デパートの閉店の日とか、博覧会の最終日とか、学校が閉校になるときとか、みんなその時だけは急に興味を示してお名残訪問をするじゃないですか。
 いつしか「さよなら余部橋梁」という情緒を求めて関西のみならず全国各地から見物客が訪れるようになりました。今では鉄系よりもフツーの人の方が多いらしいです。多くはクルマや観光バスでやってきているらしいのですが、山陰本線気動車の利用もそれなりには増えたようです。毎日運転の臨時列車も運行されていました。あの橋梁の維持費を考えると、JR西日本でも有数の不採算区間だと思うのですが、そこにあれだけ人が集まるってのも凄いことです。おそるべき「さよなら」キャンペーン。

"鉄道旅行"というエッセンスが浸透するのはマニアとして喜ぶべきなんですね。

 「さよなら余部橋梁」キャンペーンは今年も引き続いて実施されています。この夏も、余部橋梁を行く臨時列車は運転されているみたいです。今日も18きっぷのお客さんで賑わっているのでしょうか。2007年5月から余部橋梁の工事が始まりましたがまだまだ準備段階なわけで、たぶんこの夏に行っても今までと同じ風景が待っています。でも、この一連のキャンペーンって2004年から始まってもう3年も経っています。いったい、いつまでこのブームを引っ張るんですかね。
 落ち着いて考えて見ると、JRは「余部橋梁を建て替える」、「2011年に完成させる」とは言っていますが、現在の橋の使用停止時期については一度も言及していません。たぶん何ヶ月かはバス代行になる時期もあるのでしょうが、今の橋に列車が走らなくなるのは3年以上先のことです。
 それでも「もうすぐあの余部橋梁が見れなくなります」と飢餓感を煽ったような報道が繰り返され、それに希少価値を見出した市井の人々が現地に繰り出すことで、さらなる観光客の誘致に繋がっていく。施設の廃止を活かした絶妙の「さよなら」商法です。限定グッズに群がるようなオタクたちに対するビジネスと考え方は同じなんですかね。上で引用した神戸新聞の記事を見ても、「ライトアップも見納めになりそうだ。」と締め括られていますが、その手のイベントは、3年後の秋まで何度も何度も繰り返されていくのでしょう。そのたびに人が集まってくる。そうやって余部橋梁と地元が活性化していくのは目出度いことなんでしょうね。たぶん。
 でも、正直なところ、世間に漂っている余部橋梁に対するムードに対して、何か微妙な感情があることを僕は否定しません。
 消えゆくものに希少価値を見出して、そこに自分なりの悦びを感じる。普通の人には分からないだろうけど、オレはそこに漂う情緒を嗅ぎ取る能力を持っている。その価値を知っているのは、自分とごく少数のマニアたちだけ。そうした仲間うちの特権意識がマニアたちの趣味活動のモチベーションとなってきました。
 でも、内輪だけで共有されていた感性がマス媒体を通じて広く一般にも知られてしまう。自分たちの愛していたものが広く薄く拡散していく。そんな「鉄道趣味の浸透と拡散」とも言える状況は、昔から継続して活動してきた連中にしては、自分の庭が荒らされたような複雑な感情を突きつけてくるのです。そんな隔離された特権意識って、やっぱりオタク特有の発想だよなあと思ったりもしたのですが、それはまた別の話。