交通ネタを語る地方新聞の社説を要約する

 むかしから現代文の受験勉強をするには、新聞の社説を要約するのがいいよとよく言われたものだ。当代一流の書き手によって練られた各新聞の社説欄。そこを切り抜き、最初は400字、続いて200字ぐらいで論者の言いたかったことを要約していく作業を繰り返していくと、説明文や論説文の読解力が身についてくる。時事の話題や言葉にも次第に関心を持ち始めてくる。こちらのサイトにあるように大学受験対策としてはもちろん、高校受験、中学受験にも役に立つと思う。実際、私もそうしてきたし、バイトで講師をしていたときは子供に課題として与えたりもしていた。

 広島バスセンター広島市中区)が、開業から五十周年の節目の夏を迎えた。昔も今も、都市のにぎわいを支えるターミナル機能の重みに変わりはあるまい。新時代にふさわしい広島ならではの拠点整備を続けたい。
(以下略)
広島バスセンター 拠点の重み担い半世紀 中国新聞、07/8/19

 久しぶりに興味深い社説を読んだ。広島バスセンターが50周年を迎えたという、それ以上でもそれ以下でもない記事である。私が広島市の中学三年生でセンセーから社説要約の宿題を与えられたら、喜んでこの記事を選ぶであろう。興味のある交通ネタだから。
 でも、こういう文章は要約に困る。正直、なんともしようがない。最近は赤字で大変だけど、道州制(^_^;)を睨んで第二バスセンターの新設があるとかなんとか。先人たちの奮闘を称えつつ、オチの言葉は「幅広い論議が欠かせない」という当たり障りのない言葉である。これは、イザヤ・ペンダサンが唱えた「新聞社説の類型」(「A Type and Motif Index of Seven Peace Editorial Literature」)の第七類型である。「書き手としてネタがないので無理矢理こしらえてみました(どーなろうがオレの知ったことではない)」というパターンになっている。こんな難題を入試問題に出されたら受験生としてもたまったものではない。
 次の宿題はこれ。

 「第二バスセンター」案など道州制をにらんだ広島都市圏の交通体系の提言を、広島商工会議所がまとめた。広島市は「公共交通の環状線ルート」調査費を盛り込んだ補正予算案を市議会定例会に提出した。遅れている都市圏の交通問題の解決は待ったなしだ。市民の理解を得ながら、できるところから急いで実行に移したい。
(中略)
今では百万都市の中で交通体系が一番遅れているとされる。
(以下略)
広島圏の交通体系 遅れ もう放置できない中国新聞、07/6/17

 これは「新聞社説の類型」の第四類型である。いろんな話をただただ羅列しつつ、「おらが街(=国でも地域でも代替可能)はヨソより遅れている。早く近代化しなければ」というパターンか。他地域と比べて遅れている日本の近代化を憂えるという論調は福沢諭吉から進歩派文化人に至るまで何度も多用された方式だ。ポイントは、いつまで経っても「脱亜入欧」。
 この社説の場合、第一段落をそのまま抜き出せば要約は完了。もっと短くまとめたければ、「広島圏の交通体系 遅れ もう放置できない」と18文字にまとめることができる。なんと効率の良い、そして受験生に優しい(易しい)問題なんだろう。中学受験塾に通う生徒さんへの課題とするならば、道州制とは何か、補正予算案とは何か、いろいろ注釈がいるかもしれない。「百万都市の中で交通体系が一番遅れている」とあるが、どういった面で他都市より遅れているのか。その論拠は示されていない。著者の思いこみの可能性もあるので、そういつた箇所は要約文からは外すべきだ。

(前略)
 規制緩和で、鉄道の廃止が許可制から届け出制になったこともあり、長期にわたる全面不通が「廃線」につながる不安が住民には募る。「最後は数(利用者)の論理で切り捨てでは」との不信感をJRは酌み取らねばなるまい。
(中略)
 本当に過疎地を大事にするのなら、調査段階からJR西日本の総力を挙げるべきだ。復旧を待つ地元の願いは悲痛である。
三江線全面不通 いつまで続く住民不便中国新聞、06/9/18

 この文だと、筆者の主張というのが分かりやすい。「本当に過疎地を大事にするのなら、調査段階からJR西日本の総力を挙げるべきだ。」という所が重要だ。住民が一方的な被害者であるのに対し、その対立項にある「大会社」「都会」「地方軽視」「前科持ち」のJR西日本の動きの重さ、やる気のなさを指摘している。やっぱり「べき」論だと文章は分かりやすくてイイ。

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 広島の第二バスセンターについて何かまとめようと、Yahoo!JAPANニュース→地域→地方交通→社説の欄を読んでいたのだけど、途中でその試みは砕け散った。
 いやあ、中国新聞の社説。いい味出しています。 
 まず、ここの社のトップページへ行くと、右上に「国土交通省中国地方整備局」の広告があるから、道路政策とか交通全般についてはあまり露骨な批判は加えにくい。また、社説担当氏は広島の路面電車にも一定の評価をしているようだけど、一部で話題になった「広電白島線廃止問題」には触れないし、「路面電車の新路線」の推進主体となるのが「誰か」についても言及しない。「白島新駅の建設」についても同様。なんで川島みたいに「広島電鉄広島市民のためにも新線を造るべきだ」と言い切ってくれないのかなあと思うと、トップページの左下に「ひろでん中国新聞旅行」というページへのリンクがあったんですね。でも、相手が「JR西日本」とか「コムスン」とか「中華航空機」とか、日常から離れた大企業でしかも本社がヨソにあるところには舌鋒が鋭くなる
 今晩、ヒマだったんで他社の社説を含めて30本ほど読み比べたのですが、その文面を読んでいると、ああ、この人たちにもいろいろ「オトナの事情」があるんだなあというのがよく分かりました。
 地方新聞は、その性格上、地元ネタについてもたまには言及しないといけないけど、近くにいる「あの人」や「この人」、あるいは「自社の商売や仕事」がいくつも頭に浮かんでくる。批判をした後の反応について考えてしまうから、差し障りのない一般論を書くか、あるいはシャカイが悪いということにしておかねばならない。大手紙だと、やっぱり全体の論調からの逸脱は許されない。先日の高校野球の決勝戦の後、朝日新聞広陵高校の監督の審判批判についてなにか言及しないかなと思ったけど、そこらは本文記事も含めてさらーりとかわされていた。まあ、期待もしていませんでしたが。
 毎日文章を書いているという点では、社説の人も、ブロガーも同じです。ただ、「日記」や「ブログ」では書き手の感性や視点が一つの「芸」として評価されうるのに対して、社説にはやんごとなき事情も関わってくる。こちらも毎日ネタ出しには苦労していますが、あの人たちはボク(ら?)には計り知れない苦労を抱えているのだろう。毎日届けられる社説なんて刺身のつま程度で読み飛ばしていましたが、そんな裏事情を想像しながら斜め42度から超訳してみると意外に面白所がたくさんあるのかもしれない。
 と、無理矢理、社説風に結論に漕ぎ着けたということでおしまい。なんか天声人語によくあるオチになってしまいました。
 ここ数年で話題になった社説で思い出すのは、

の2つ。これを書いた記者さんにそこらの心情を聞いてみたいと思ったのですが、それはまた別の話。