なにわ筋線について語ってみるぞ。

 なにわ筋は、大阪市の市街地を迂回する南北道として70年代に建設が進んだ幹線道路で、大淀から福島、波座、西難波を経由して芦原橋に抜けるルートを通っている。この地下に五本目の南北縦貫地下鉄を敷設しよう、というのが、なにわ筋線構想である。新大阪〜湊町・汐見橋間が候補に挙がっている。
とれいん工房「鉄道未成線を歩く4 大阪市交通局篇」(2007.08.19 同人誌)

 大阪外環状線改め「おおさか東線」が来春部分開業すると、次は「なにわ筋線」ですかねえ。梅田貨物駅用地を使っての再開発「梅田北ヤード開発」もようやく起動し始めたし。でも、沿線の大阪市議も今里筋線とかみたいに「おらが街にも鉄道を」なんて言ってくれないし(そもそもあんまり沿線に人が住んでいないから)、建設費が4000億円もする割には効果があるんだかないんだか分からない。当事者となるのは大阪市だけどやる気があるんだかないんだか分からない。大阪市議会での答弁を見ていると「市営地下鉄」として建設することはまずなさそう。でも、そろそろ建設のデッサンを描いておかないと北ヤードでの開発計画との調整が間に合わない。そこら辺の事情はどうなっているのかな。

関西空港新大阪駅の直結を目指して計画が浮上

 なにわ筋を行く地下鉄が初めて検討されたのは意外に古く、1962年のことである。当時、都市交通審議会大阪部会が開催されていて、都市交通審議会答申7号の策定に向けて議論を重ねていたのだが、メンバーの一人である富永祐治委員(大阪市立大教授)が、なにわ筋高速鉄道を敷設して十三で阪急に接続しては如何かと提案している。これに対し、大阪市は、十三の繁栄ぶりからその意義をを認めるものの、南北線(四つ橋線)・五号線(千日前線)完成後、「その輸送状況を見て将来考慮することとしたい」と消極的な回答をするに留まっている。1970年の大阪市公営企業審議会でも、本町を起点とし、なにわ筋から十三方面に延伸する構想が示唆された。本町で第二京阪線との接続を考えていたのだが、1971年の都市交通審議会答申13号では取り上げられなかった。

 なにわ筋線が公的な計画として示されるのは、1982年の鉄道網整備調査委員会の構想路線として、新大阪〜なにわ筋〜湊町(現、JR難波)・岸ノ里間12kmが策定されたのが始まりである。「関西空港が設置された場合には、同空港と都心とを結ぶとともに、都心部の鉄道網の充実をはかる」とコメントされている。この時期、新たに関西で設置される新空港の候補地として泉佐野市沖合の泉州沖がクローズアップされていて、大阪府はその誘致に懸命になっていた。
 2年後の1984年、関西国際空港を現在地に設けることが最終決定する。その後、府は国鉄大阪鉄道管理局・天王寺鉄道管理局と関空への輸送方針について打ち合わせを行い、新大阪〜梅田貨物駅〜西九条間の梅田貨物線の旅客化が決定する。あわせて天王寺駅関西本線ホームと阪和線を結ぶ短絡線も敷設することになった。JR西日本が1987年7月に認可申請を行い、翌年3月から新大阪〜奈良間に臨時快速電車の運転が始まり、1989年7月から「くろしお」が京都・新大阪から和歌山、紀勢本線方面へと乗り入れを始める。
 ただ、このルートにも問題があった。単線部分が梅田貨物駅〜西九条間と天王寺駅構内の短絡線にある上、既存線とポイントで平面交差をする箇所が西九条駅天王寺駅など数カ所であったのだ。そのため、ダイヤを設定する上で、制約となる地点がいくつも出てきた。列車の遅れが発生すると行き違いが発生してダイヤを回復するのが難しくなる。他列車への影響も大きく、JRの担当の頭を悩ますことになる。

(中津側から梅田貨物駅を眺める)

20年経って実現できていない唯一のAランク線

 そんなこともあって、運輸政策審議会は1989年の答申10号において、「2005年までに整備することが適当な路線」と最高ランクの評価で、新大阪〜梅田北〜なにわ筋〜湊町(JR難波)・汐見橋間を取り上げている。建設の目的として、
▽新大阪・京都方面と関西空港を直結する路線
御堂筋線や梅田駅の混雑緩和
▽大阪北部と南部を結ぶ新たな都心貫通型ルート
▽梅田(梅田貨物駅跡北ヤード)・中之島・湊町など都心部再開発地の建設促進
の四点が掲げられている。
 阪急も、十三〜梅田北間の新線を希望していて、なにわ筋連絡線としてBランクで採択されている。十三〜新大阪〜淡路間の新大阪連絡線とセットで梅田北ヤードの開発地に乗り込もうとしたのだ。ただ十三駅高架化事業の伸展と新淀川橋梁の架け替えの進捗状況にあわせて、と条件が付けられている。
 だが、なにわ筋線の建設はいっこうに進まなかった。この1989年の答申10号で最高のAランクを取っていた路線は十九路線あったが、2008年春段階で、全線未開業の路線は、なにわ筋線のみである。国土交通省の事業許可どころか、そもそも誰が造るのかも決まっていない。1995年8月23日の日本経済新聞は、大阪市JR西日本なにわ筋線を推進したがっているのに対し、大阪府大阪外環状線に執着しているため足並みが乱れていると報じている。
 運輸省は1999年5月に、なにわ筋線を都市鉄道計画の調査対象十路線の中に組み込んでいる。翌年3月、都市鉄道調査委員会は事業費を3700〜3800億円と試算し、第三セクター方式による建設・運営で採算が取れるとしている。やる気が全くないというわけではなさそうだが、いまだに当事者たちが何の動きも見せていないのもまた事実である。
 一番問題となっているのは、事業主体として積極的に手を挙げる組織がいまだに現れていないことだ。なにわ筋線の建設距離12km程度だから、建設費は4000億円はかかるだろう。それを誰が負担するのか。はたして採算が取れるのか。大阪市大阪府いずれも肝心なところで口をつぐんでいる。事業化と採算性、そして資金の捻出に難ありと考えているのだろうか。
 それはJRも同様である。梅田貨物線でとりあえずは関空天王寺新大阪駅が直結されているし、運営会社に出資をしてまで新線に乗り入れなければならないという緊急性もない。JR難波駅(旧湊町駅)が1996年に地下駅化された際、地下ホームから先、北側に延伸することが可能なような深さと設計にされたというのが唯一の動きと言える。
 南海もあまり積極的な姿勢を示さない。横堀線(南海梅田〜本町〜今宮戎)、堺筋線(南海梅田〜動物園前〜天下茶屋)と長年に渡って梅田方面への乗り入れを待ち望んできたが、今回はさして真剣に取り組んでいる訳ではない。1990年8月、汐見橋〜木津川間1.5kmの地下化を発表している。工費は200億円。道路の渋滞緩和と、なにわ筋線に備えての対応で、汐見橋駅芦原町駅は地下化され、汐見橋駅敷地での再開発も考えていた。この地下化と共に汐見橋線の改良工事に取り組むはずであったが、いまだにその気配もない。いつしか同線の運転本数は終日30分間隔運転にまで減らされた。将来性の見えない事業に資金を投じるだけの余裕はないのだろう。
(汐見橋線大浪通の交差地点。ここには、戦前、市電大浪橋線の計画があった)
 あと、新線が通る予定となっている、なにわ筋沿線の開発が思ったほど進捗していなかったことも大きい。2007年現在、北梅田ヤード開発はまだ工事に着手したところで、中之島の再開発も予定よりかなり遅れている。湊町駅跡の開発はほぼ完成しているが、核となる大阪シティエアターミナル(OCAT)も含めて、当初の予定とは違った街並になっている。三地点とも商業集積機能がまだまだ不十分である。一方、なにわ筋とその周辺地域は、御堂筋と1kmしか離れていない幹線道路であるにも関わらず、ビジネス街としても商業空間としても中途半端なエリアである。近年、高層マンションの建設が進んでいるが、さほど集客効果は期待できない。
 もし、なにわ筋線が実現するならば、JR東西線の建設主体となった関西高速鉄道のように、大阪府大阪市JR西日本、南海などが出資する第三セクター会社が受け皿となり、国土交通省補助金を使って鉄道建設・運輸施設整備支援機構が建設し、そこに線路使用料を払ってJRと南海が乗り入れることになるのだろう。問題は、巨額の借入金と、何十年も続く借金返済に出資者と事業主体が耐えうるかどうかである。

貨物線地下線のJR梅田駅となにわ筋線構想

 2004年の近畿地方交通審議会答申8号では、中長期的に望まれる鉄道として、なにわ筋線新大阪〜JR難波汐見橋間10.2kmが採択される。将来30年の費用対効果は2.58と答申路線の中で3位の評価を得ている。前回とは異なり、

事業規模が大きく受益が広範囲に及び、関係者が多岐にわたることから、大阪市等が中心となり整備手法等につき調整する必要がある。
(別紙1) 京阪神圏において、既存施設の改良に関し検討すべき主な事業近畿地方交通審議会(2004)

というコメントが付いたのが大きな違いである。梅田北ヤード中之島の開発主体である大阪市がその調整役として明記された。ただ、受益者となる他の自治体、進出企業にどれだけ資金を出させるのか。調整は大変だろうと思う。
 一方、答申では、「東海道支線地下化構想との関係に留意する必要がある」ともされている。2004年の近畿地方交通審議会答申八号では、「京阪神圏において、既存施設の改良に関し検討すべき主な事業」の一つとして、梅田貨物線の新大阪〜梅田貨物駅〜西九条間の地下化が検討課題に入っている。この話も90年代から話題になっていた。産経新聞の2007年3月8日の報道によると、総建設費は500億円(駅部分100億円)、利用者は1日1万人と見込んでいるらしい。「はるか」運転以来、「開かずの踏切」として評判が悪い浄正橋踏切と梅田一番踏切(福島駅付近)での混雑解消が期待されている。一方、、JRは、2002年ころに単線区間を解消すべく福島〜西九条間の地下新線(大阪環状線の側にある市道を想定)を造りたいという構想も示すが、続報は見かけない。

(梅田貨物駅を力走する「はるか」)
 また、北ヤード第二期開発(貨物駅の東側)が2011年春にオープンするのにあわせ、なにわ筋線・貨物地下線の上にJR梅田駅(仮称)を整備する方針も決まった。設置場所は九条梅田線及び四ツ橋筋の道路地下、すなわち大阪駅の真北、ヨドバシカメラの西300mにある信号の付近を指している。

開発に伴い鉄道地下化を行うことが必要であり、なにわ筋線の整備と切り離して整備する場合も、将来、なにわ筋線が共同利用することにより、全体事業費の低減にもつながるよう、貨物・旅客列車が共用できる地下構造で検討します。大阪市ホームページ「4.東海道線支線地下化について」

と駅の整備に関する方針も大阪市HPに掲載されている。地下駅開業の時点では1面2線とするが、将来、なにわ筋線が整備された時点で二面四線に拡張できる可能性を考慮した構造にするようだ。だが、なにわ筋線分の拡張工事を後々で実施するとしても、最初の段階で、スペースの確保とか乗換施設やコンコースの整備とか、それなりの準備をやっておかねばならない。初期投資にかかる費用は決して安くないだろう。
 さて、なにわ筋線が梅田までやってくるのはいつなのか。貨物線の地下化を梅田から西九条まで実施することで、なにわ筋線の使命の7割ぐらいは代替できるはず。JR梅田駅で準備工事をするのはいいけれど、なんとなく、昭和初期の段階で2面4線分のホームを準備しておきながら一面分がムダになってしまったという地下鉄梅田駅の故事を思い出すのですが、それはまた別の話。

(下は大阪市地下鉄なにわ筋線内を走る「はるか」。よく見ればパンタと架線を付けるのを忘れた(^_^;))

 てことで、先日、発行した自分の同人誌から文章や写真、路線図を再録しました。本自体は、近日、販売の予定です。もうちょっと待ってください。

参考
2009-04-14 なにわ筋線構想に過剰な期待を寄せられても困るんだけど。

関係日記
2007-08-29なにわ筋線について語ってみるぞ。
2007-07-17大阪港トランスポートシステム・北港テクノポート線を歩く その1
2007-06-28大阪圏における新線鉄道構想50年の歩み 1大阪公営系
2007-05-18大阪市民の力を結集して2008年大阪オリンピックを成功させよう!
2007-02-26梅田北ヤード開発計画にまつわる梅田貨物線と阪急新大阪線のプロジェクト5題
2007-02-22堺市東西鉄軌道事業ってホントに推進するの?
2006-12-09今里筋線建設までのウンチク。

(なにわ筋線と梅田貨物線旅客化線が共有する「JR梅田駅」(仮)は、梅田貨物駅の中央南端ら辺に予定)