本屋のない波照間島で唯一売っていた小説が「ニライカナイをさがして」。

 昨春、知人に「おすすめの小説を教えてください」とメールを送ったところ、そのご友人の方々からも含めて多数のライトノベルの紹介を受けました(その節はありがとうございます)。ラノベといっても定義がなんなのか私も説明できないが、表紙と挿絵にアニメ系のイラストが付いているヤング向け小説のことをいうらしい。
 その推薦図書の一冊が「ニライカナイをさがして」という本。「ニライカナイ」とは島人たちが来世に求めていた理想郷、沖縄版のシャングリラみたいなものです。
 これをかいつまんで語ると、

ニライカナイをさがして (富士見ミステリー文庫)

ニライカナイをさがして (富士見ミステリー文庫)

  • 主人公が羽田空港で沖縄キャンペーンのポスターを見ていると、
  • そこに出ているホンモノのアイドル歌手と突然遭遇し、
  • なぜか那覇、石垣経由で波照間へ行くことになって、
  • 波照間島はステキな島で、いろいろラブロマンスが深まっていく。

……という「ボーイミーツガール」的な話、「ローマの休日」のラノベ版みたいな印象を持ちました*1。せっかく波照間とニライカナイを題材にしたのなら、波照間の遙か南にかつてあったと伝承されている"南波照間島"(パイパティローマ)を物語のベースとして効果的に使えば重層的な話になったのに……と醒めた感想もあるのですが、それだと読者や著者、ラノベジャンルの方向性とは異なってくるのかもしれない。
 さて、先日、この日本最南端の有人島である波照間島へ行ったということは「定期便廃止間近の波照間空港へ行ってみた。」にも書いたのですが、飛行機で波照間へ着いて宿に荷物を置いた後、小学校を中心にして広がる島の集落へ行ってみました。「集落」と言っても、しょせん人口600人ほどの島ですから10分も歩けばたいていの街並みを見て回れます。午後はミニバイクをレンタルして島の道路をガンガンに走っていましたが、一周してもたかがしれている距離です。サトウキビ畑の片隅にバイクを止めて、波照間空港15:30発の飛行機が雲の彼方に消えていくのを見送れば他にすることはない。
 街の中心部に戻ってなにか飲み物でも……と、民宿に併設された仲底商店という店に行くことにしました。村はずれの食堂で昼飯を一緒に食べた女の子が「この店のアイスが美味しいんです。食べなきゃダメです(^^)/」と三十路には見えないテンションで激賞していたんで、なんか観光客の1人として食べなきゃマズい雰囲気になっていた。
 まあ、そこで食べた、黒糖*2&マンゴーのアイスはそれなりに旨かったのですが、その店のカウンターの横で平積みにして並べられていた本、それが「ニライカナイをさがして (富士見ミステリー文庫)」だったんですよ。
 「ああ、この本、そーいえば波照間が舞台だったよな」とその因果関係はすぐ気付きました(というか、それまで忘れていました)。ポップの紹介文を読むと、著者の葉山透が、仲底商店と経営者が同じ星空荘という民宿に泊まったのが縁で、この本を取り扱っていると言うことらしい*3
 ただ、波照間の島の雰囲気とアニメ絵の表紙。なんか違和感があるんですよね。小洒落たグッズが並ぶ店内でひときわ異彩を放っていました。この店、アイス&土産物を求めた個人旅行客が何人かウロウロしていたのですが、そうした観光客層ともまた違う。
 そもそもこの波照間島、島内に一軒も本屋さんがないんです。雑誌なんかも含めて書籍類を扱っている雑貨屋さんもない。小中学校にある学校文庫*4をのぞけば、波照間島で唯一、一般人が手にできる新刊書の小説がこの本であるということになるわけです。個人的には、島に住んでいてライトノベルの読者層にあたる人たち、すなわち波照間小学校や波照間中学校の生徒さんたちがこの本を読んでどんな感想を持つのだろう。そっちの方がいろんな意味で興味深かったのですが、それはまた別の話。

続き

 この本を手に取ったは昨年のことですが、富士見ミステリー文庫の一冊らしいので、さーてどこでミステリ的な仕掛けが出てくるんだろう……と読み進めていたら最後まで何も出てこず、「あれ、伏線を読み飛ばしていたのかな」「40分ほどで読破できたけど、そもそも作中に何か事件や犯罪やナゾがあったのだろうか」と不安にさせられた記憶があります。当時はそこらの詳しい事情は分かりかねたのですが、

富士ミス文庫はどこで間違ってしまったのかという話。ちなみに私としては、なんだか変な方向性に行ってしまった原因となったのは、ここ↓じゃねぇかと思うわけですよ。
(中略)
そんな文庫全体が不安定だった2005年12月、「ニライカナイをさがして」という純愛モノが2ch大賞TOP10にランクイン。そうしてここから「ミステリの文庫でも、ラブコメがあってもいいんじゃないか」というような肯定的意見も出始め、富士見ミステリ文庫が、"L・O・V・E文庫"としてのレールを珍走し始める。
ラノベ365日富士見ミステリー文庫の敗北

言及されている4作品のうち、『ニライカナイをさがして』と『ネコのおと リレーノベル・ラブバージョン』は未読なのでミステリかどうかは知らないが、『ROOM NO.1301 おとなりさんはアーティスティック!?』と『描きかけのラブレター』は絶対にミステリではない*3と断言できる。富士見ミステリー文庫をあくまでミステリー専門の文庫とみなすなら、これらの作品は富士ミスから刊行すべきではなかったのだろう。
もっとも、では富士見ファンタジア文庫から出せばよかったのか、といえば、ちょっと考え込んでしまう。というのは、ファンタジー専門の文庫としての富士見ファンタジア文庫のカラーにもそぐわないからだ。
一本足の蛸富士ミスは死なず

ということらしい。ああ、そもそもこのレーベル。当時からミステリーとは無縁の方向へ走っていたんですね。1年半ぶりにようやくナゾが解けて安心しました。

*1:正直なところ、私の年齢&力量では感情移入したり思い入れを込めて読むのは難しかった

*2:波照間島最大の名産サトウキビからつくられている

*3:作中の宿は「やどかり」って別な宿のことだと思うが

*4:何年か前に石垣島にある沖縄県立図書館八重山分館が移動図書館として島へやってきたこともあるけどその分館自体が2009年に廃止されるらしい