今月末でまた一つ特殊鉄道(ロープウェイ)が消えていく。

katamachi2007-11-17

弊社にて運営しております三峰ロープウェイにつきまして諸般の事情により下記のとおり廃止いたします。永年の三峰ロープウェイ運営に際し、ご支援、ご利用をいただきましてありがとうございました。
1.廃止施設  三峰ロープウェイ
2.廃止期日  平成19年12月1日(土)
※なお、代替輸送として運行している「秩父湖〜三峰山駐車場」の無料バスについても11月30日をもって終了いたします。
三峰ロープウェイの廃止について秩父鉄道HP、2007年10月05日


 この月末でまた一つ鉄道、いや特殊鉄道が消えていく。
 特殊鉄道といってもご存じない方も多いと思うが、「鉄道にあらず鉄道」、「レールを使わない鉄道」とでも言うべきか。運輸省令の「特殊鉄道構造規則」によると、モノレールや新交通システムトロリーバス、ケーブルカー、リニアーモーターカーのことを指す*1。また国土地理院地図記号の解説によると、「工場など特定地区内の鉄道」や他線と接続していない貨物鉄道などが挙げられている。
 特殊鉄道とは、そうした鉄道事業法軌道法で定められていない「鉄道モドキ」のことを指すわけだが、それにもファン多い。昨年冬には私も「遊覧鉄道に乗ってみたい!」と同人誌を出したし、この手の研究をしている同好の士も多くはないがいないというわけでもない。
 ただ、そうした鉄道にも三峰ロープウェイと同様、利用者減→経営悪化による廃止が相次いでいる。

三峰ロープウェイの利用者数は7割以上の落ち込みか……

 三峰ロープウェイ(埼玉県)に関しては、

  • 1939年に大輪〜三峰山頂間が開業。ロープウェイでは最古の部類。1964年から71人乗りの新システムに置き換え
  • 1966年は年間34.8万人輸送→翌年観光道路が完成→最近は10万人以下
  • 2006年の施設点検で施設の金属疲労が分かって安全運転に支障が出ると判断されて、4月より突然運休→秩父鉄道のバス代行が平日運行

と言う流れになっていた。運転再開には施設のリニューアルが前提となる。ただ、10億円の設備投資をして年間利用者が5割増でも採算に合わないとの報告があり、秩父鉄道も地元も存続を断念する。並行区間で平日のみ6〜8往復走らせていた代行バス(大輪〜三峰山頂)の運転も取りやめられ、土日5往復運行の西武秩父バス(西武秩父〜三峰口〜大輪〜秩父湖三峰神社)のみになる。最近、電気機関車重連で運転する、101系をカナリア色など国電色に塗り替える……などマニアのツボをついた施策を打ち出している同社だが採算の取れない投資をするのは難しい。これで秩父鉄道の象徴とも言える三峰山観光ルートは事実上解体されてしまうことになった。
 国土交通省HP内の「鉄道輸送統計調査」が先ほどから何度アクセスしてもハジかれるので詳細を語りにくいのだが、ここ4年ほどの間、比較的情報の入りやすいケーブルカーの動きを拾い上げると、

と寂しいニュースが続いている。


特殊鉄道が消えてしまう訳

 その背景には、

  • 自動車道路の整備とモータリゼーションが進んだことで、割高な特殊鉄道を使う意味がなくなった
  • 特殊鉄道が敷設されているような見晴らしのいいスポット、寺社仏閣の門前町、レジャー客重視の娯楽施設は、陳腐化したことで90年代以降、急激に集客力を失っている
  • 今日の個人客やツアー客のニーズからも外れた。特に日本のリフトの大多数を占めるスキー場の人気低迷。合理化→施設閉鎖も相次いでいる
  • 観光系の特殊鉄道は60年代に登場したものが多い。山あいの急斜面を行く鉄道であるし、事故を防ぐためには保安施設のリニューアルも必要だが、その資金を捻出できない
  • 新規敷設の場合、最近は環境面、景観面からも反対の声がある。特にロープウェイ

の5点があると思う。なかなか解決するのは難しい。一言で言うと、「時代の波に乗り遅れた」というしかないのだろう。
 一方で、過去の記事で書いた奥祖谷周遊観光モノレールのように「モノライダー」や「スロープカー」とも言われる、鉄道事業とは無縁な新しい輸送形態も生まれている。先に挙げた帆柱ケーブルの新聞記事で伝えられているように、皿倉山の観光リフトを廃止した代わりにスロープカーを設けるという流れもある。工費が安い、国土交通省との面倒な手続きがいらない、輸送力が小さい、施設の耐久性は鉄道より劣る、そうした長所や短所を比較考慮しながらの導入検討と言うことになるのだろう。鉄道マニアとしては、なにはともあれ「特殊鉄道」、「鉄道モドキ」、「遊覧鉄道」……そうしたものがたくさん見られるのは嬉しい。そして往年のケーブルカーやロープウェイなどもなんとかリニューアルしながら生き延びて欲しい……そう願ってやまない。
 ちなみに、三峰ロープウェイだが、現在、地元では

 地元側も廃止を了承したが、今後も代替輸送機関の検討を要請。鉄道側はJR北海道が試験営業をしている、線路と車道を走るDMV(デュアルモードビークル)導入などを研究していくという。
三峰ロープウェイ 68年の歴史に幕東京新聞、2007年10月6日

という状況にあるらしい。「経営に困ったら、とにかくDMV。今日からあなたもDMV」という発想に驚くことしきりなんですがそれはまた別の話。

特殊鉄道とロープウェイ (交通ブックス)

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知られざる鉄道 リニアモーターカーからトロッコまで200選 (JTBキャンブックス)

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知られざる鉄道(2) 鉄道はこんなにも怪しく愉しい!! (JTBキャンブックス)

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*1:昭和六十二年三月二十日運輸省令第十九号。正確には「懸垂式鉄道及び跨座式鉄道、案内軌条式鉄道、無軌条電車鋼索鉄道並びに浮上式鉄道」とある