大井川鉄道の課題を考えてみる

→今日の楽しい大井川鉄道へのマニア的関心 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月からの続き。
 ただ、大井川鉄道。目出度い話ばかりじゃありません。
 鈴木文彦の「鉄道ジャーナル 2006年 07月号 [雑誌]」のレポート及び共同通信の「http://www.47news.jp/CN/200309/CN2003092501000236.html」という記事によると、

  • 2004年度の鉄道利用者はピーク時である1967年度の27.5%に落ち込む
  • 2004年度のSL利用者は22.5万人と全体の27%を占める。ここ十年ほどは20万人強で安定
  • 収入面で見ると鉄道営業収入の4割を占める

という状況にあるそうです。また鈴木は、「実質的な沿線人口は1万4〜5千人に過ぎない。鉄道1路線あたりの沿線人口の少なさではトップクラスである」と沿線の状況について解説しています。以前、全国のローカル鉄道89社のワースト偏差値ランキング - とれいん工房の汽車旅12ヵ月でも書いたように、2006年7月の鉄道・運輸機構鉄道助成部「地方鉄道の活性化に向けて〜 地域の議論のために〜 」によると、 大井川鉄道の「財務諸表偏差値」は42.6と全国私鉄ワースト16位。銚子電気鉄道よりも悪い数字が出ています。
 実際、観光客誘致という側面では、収入の4割がSL運転のお陰であるということからも、その効果は絶大であるわけです。経営難に苦しむ各私鉄の理想的なモデルとも言えるでしょう。ただ、一方で、"地元客からの収入はわずか6割に過ぎない"という言い方もできます。
 また、車両や設備の劣化は着実に進んでいます。
 実は、千頭駅で接続する井川線は昨年から千頭〜奥泉間でバス代行をしています川根両国〜沢間間で線路脇の崖が崩落したと言うことで、その修復工事に取りかかっているのです。通学客に対応すべく朝上り1本、夕1往復のみは列車を運行しているようですが、それ以外の時間帯はバス代行になっています。でも……春から秋にかけての行楽シーズンとは違い、SL接続のスジでもバス1台分ぐらいしか人が乗っていないんですね。ちなみに、同区間を鉄道は30分(表定速度15km/h???!!)もかかっているのに対し、バス代行だとわずか10分。通学客も地元利用者も正直かなり少ないと聞いていますし、なかなか難しい側面がたくさんありそう。
 そういえば10年前にも井川線で半年ほど長期運休が続いたこともあるし、2003年夏からは水害で大井川本線でも半年ほど不通区間が発生。SLの集客減→経営への大きなダメージへと繋がってしまいました。先に紹介した記事だと、40日間の運休後で約1億1500万円の減収になったとか。その前の年には軽微ではありますが脱線事故もありました。
 今回乗った在阪私鉄の中古車のボディーはペコペコで赤サビが浮いていました。国鉄中古の旧型客車も同様です。それを"レトロ"とか"趣のある"とか形容することも可能でしょうが、正直、外装・内装共に十分なケアがされていないという印象がありました。特に客車は全て戦前製の旧型客車を使っている。このこと自体、SLを走らせる上では"過去の復元"という観点からは非常に歓迎したいわけで、マニアもツアー客もある意味では喜んでいるわけです。その点、JRが動態保存でほとんど旧客を走らせていないのと対照的です。でも、毎日運転してくれているのはいいのだけど、台車とかはボディーは問題ないのだろうか。

 それと売り物の蒸気機関車の方は大丈夫なんだろうか。C12がATSを付けていないから走れないというのはともあれ、他のタンク機とかは機能的に問題ないんだろうか。復活したばかりのC56-45にしても、運転中も、機関士が千頭駅新金谷駅でやたらと点検をしていたようだし、足回りはどうなんだろう*1。そうした"ケア"が大変だとはよく聞きますが、内実はどうなんだろうか。ちょっと気になります。
 また、SLの動態保存運転はJR北海道や西日本、東日本、真岡鉄道秩父鉄道など他社でもやっています。大都市とのアプローチ、他の観光地との回遊性などを考えると、大井川鉄道の立地はあまりいいとは言えない。永年やってきたからこその知名度はあるとはいえ、企画の行き詰まりは否めない。また、ツアーでの利用も、以前は新金谷〜千頭間を利用していたのに、今では家山や下泉で降りてしまう。千頭まで行っても客は退屈するし他の観光地へのアクセスが悪い。また、ツアーのコストを下げるため乗車区間を短くしたのでしょう。となると、旅行会社から入る収入も3分の2とか半分とかに減ってしまう。昨夏、黒部峡谷鉄道に行ったとき、社員さんが「ツアーさんは終点まで乗ってくれなくてねえ」とボヤいていたのを思い出します。
 だからこそ、C56-45をタイ時代のデザインや塗色にしたのでしょう。鉄道マニア的には"色物"にしか見えないのだけど、「戦争、そしてタイから帰ってきた」という"物語性"を全面に押し出すことで、他鉄道との差別化を図りたかったのでしょう。そしてなんとかSL利用者の増加に繋げたいと。
 もちろん、そうした悩みは地方ローカル私鉄全てが抱える課題でもあり、当事者ですらなかなかいい解決法が見いだせていません。今日、阪堺電気軌道について朝日新聞が「http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200801230026.html」と報じていますが、そうした抜本的な処方箋が必要なのかもしれない。でも、当事者である自治体が財政難で苦しんでいて、地元利用者が減っているとなると、なかなか補助する立場としても苦しくなる。
 大井川鉄道も、先で引用した「鉄道ジャーナル」での鈴木の指摘のように、人口の極端な少なさは否めないのでしょう。でも、ここらをなんとかしないと持続可能な鉄道経営は難しい。 じゃあ、どうすればいいのか……正直、答は見つかりません。それが見つけられるのなら、いすみ鉄道株式会社社長公募に申し込んで年収700万円を獲得できるのでしょうが、それはまた別の話。

*1:「調子が悪くて」とか「今日は残業かな」とかセリフが聞こえてきました……