高千穂鉄道の橋脚の撤去が始まった

katamachi2008-02-06

 今週、銚子電気鉄道大阪外環状鉄道と政治の絡みについてつらつらと書いていたら、高千穂鉄道に関する新聞記事を見つけました。

高千穂鉄道高千穂町延岡市)の曽木川(延岡市北方町下曽木)に架かる鉄橋「曽木川橋梁(きょうりょう)」(長さ69メートル)が撤去されている。(中略)川水流〜曽木間に架かる曽木川橋梁は、昨年9月に廃止が確定した槙峰〜延岡間の橋。昨年8月の台風5号で流木が橋脚などに引っ掛かり、川の水がせき止められ、川の水があふれて被害を受けた付近住民らが市に撤去を求めていた。
廃線が確定、高千穂鉄道曽木川橋梁の撤去進む読売新聞、2008年1月30日

 レールの撤去はすでに始まっているとは聞いていましたが、橋梁にも手を付け始めましたか。鉄道橋梁としての用途がなくなればただちに障害物を撤去する……というのは河川管理の基本。宮崎県や延岡市が鉄道として残すと明言していない以上、まあ撤去するのも仕方ないのでしょう。これで全線復旧の目は絶たれました。

自治体が参画しない→熱意が高まらない→観光鉄道としてもダメ

 高千穂鉄道の廃止の動きを時系列的に言うと、

→うまく関係者間の協議、資金集めができない。国交省からは旧来の施設への復旧だけでは安全面に問題と指摘。全線復旧工事に約26億円と試算

 高千穂鉄道(TR)の全線運休から2年余り。事業引き継ぎを目指した新会社・神話高千穂トロッコ鉄道高千穂町)は今月、「運行再開」を果たせぬまま、9割近くの出資者が資金を引き揚げる事態に陥った。この1年の「迷走」は一体、何だったのか。(二宮俊彦)
 12月10日、新会社の臨時株主総会。「会社清算」という事前の見通しを覆し、会社を存続させ、残った株主による新体制で再スタートする、ことが決まった。一方で、事実上、鉄道事業の経営断念も表明した。
「迷走」高千穂鉄道朝日新聞、2007年12月24日

 資本金5220万円のうち、2000万円以上が人件費や広告費で消えていった。鉄道運営の見込みが立たないのに、残りの浄財まで使い込む勇気はないと言うことでしょうか。
 最初は高千穂や日之影の商工関係者が参画していたものの、初代社長をやっていた有力企業の親玉が昨年6月に退任。それを継いだ2代目社長の高千穂商工会会長も断念せざるを得なかった。"まちづくり"の運動論としてトロッコ計画について語るのは問題ないでしょうが、現実味のある話ではなくなった。

「新会社は何をやっているのか分からない」。地元住民を取材すると、そんな反応が返ってきた。それは公募した支援金にも象徴的に現れた。集まった約4千万円のうち高千穂町内はわずか8%。地元の熱意が高まることはなかった。(中略)新会社のある役員は漏らした。「情報公開や資金調達の面など反省すべき点が多かった」

 この言葉は重い。先に取り上げた銚子電鉄なんかもそうなんですが、この手のローカル鉄道の再建問題が起きても、意外に地元が無関心なところが多いんです。ヨソ者に頼っていても、実際には地元の人間が動かないと、まちづくりは何も始まらない。
 最大の敗因は、とにかく高千穂町日之影町延岡市、宮崎県が、神話高千穂トロッコ鉄道の経営に人もカネも全く投入しなかったから。全線復旧にかかる費用が60億円。これはとうてい地元で負担できるカネではない。かといって、被害のまだ少なかった槙峰以北で観光鉄道に特化してやっていくのはリスクが大きい。第一、県外からのヨソ者の観光客のために税金を投じることはできない。 
 ただ、現実的な判断をした各自治体の対応は一概に否定できないとは思う。僕が首長でも、あるいは町民だったとしても、廃止やむなしとの判断を下したに違いない。鉄道マニアとしての心情はともあれ、彼らの決断を重く受け止めねばならない。

東国原宮崎県知事は高千穂鉄道への支援を見送った

 さて、気になるのは、全国的に有名になった東国原知事の動き。確か、昨年、宮崎県知事に当選した際、そのマニュフェストには、「5.社会基盤整備 重要な観光資源である高千穂地域の交通基盤整備の支援(DMV等を視野)」と書いてあったのは一部の鉄道マニアの間では有名な話。
 で、あれから1年経って、どうなったのかなあと思うと、

マニフェストには「高千穂地域の交通基盤整備」も記していたが、台風被害で運行停止に追い込まれていた高千穂鉄道への支援は「財政難」を理由に見送った。
知事就任1年、公約実現へ真価これから読売新聞、08.01.20

ということらしい。
 ああ、やっぱり「見送り」か。高千穂鉄道の被害は甚大でしたし、復旧には日之影〜高千穂間の部分的な改修だけでも十億円とかもっととか言われている。住民福祉に繋がらない観光路線に巨額の資金を注ぎ込む財政的な余裕はどこにもない。
 宮崎県議会の議事録を見ても、平成19年 9月定例会で、

その復旧や維持補修に数十億に上る多額の経費を要すること、また道路整備の進恕Pや少子化の進行による利用者の減少など、将来予測も踏まえた経営の見通しに立って、県と沿線市町で十分検討した結果、やむなく経営を断念したものであります。このような経緯からして、再び鉄道経営に財政支援を行うことは困難ではないかと考えております。なお、現在、民間の力で鉄道再開を目指しておられる神話高千穂トロッコ鉄道の熱心な取り組みとその支援の動きに対しましては、敬意を表する次第であり、残された期間、全力で取り組まれるものと考えております。私といたしましても、引き続きメディア等を通じて、高千穂のPR等に全力で取り組んでいきたいと考えております。

と、宮崎県としての全面撤退→民間の力でどうぞという答弁になっている。
 また、宮崎県地域生活部長も、廃止届を出した高千穂鉄道は「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」の対象とならないとした上で、観光に特化した特定目的鉄道としても安全面でも採算面でも実現が難しそうである観測を述べている。
 その直後、首相官邸地域再生本部と内閣府地域再生事業推進室が、2007年11月、「平成19年度地方再生モデルプロジェクト」を決定し、その中に「西臼杵観光振興プロジェクト(宮崎県高千市穂町・日之影町五ヶ瀬町)を盛り込んでいる。

宮崎県の中でも最も雇用情勢が厳しく、交通不便地域でもある西臼杵地域において、観光・交通の拠点である熊本・阿蘇地域との連携強化のための路線バスの導入、及び、西臼杵3町間のデマンド型乗合タクシー等の導入により、地域の足を確保するとともに、地域資源を活かした新たな観光ルートの開発、感動案内人によるガイド等により、広域的な観光振興を図る

とあり、熊本空港〜阿蘇〜西臼杵(高千穂)地域を結ぶ観光路線バスの運行とか3町内を回るデマンド型乗合タクシーの運行とかを取り上げているが、高千穂鉄道の存在は完全に無視されている。あえて邪推するなら、鉄道存続を断念する代償として、このプロジェクトの認定を受けようと宮崎県庁は動いていたのではなかろうか(この再生本部も安倍首相不在の今完全に形骸化しているらしいが)。
 とりあえず、実際、知事さんご本人も、2007年7月に北海道網走市に向かい、JR北海道が試験運転しているDMVに乗車したとか。当時は地元紙などに大々的に取り上げられ、DMVの観光ガイドにも話の枕ネタにされていました。でも、困ったときの自治体の「DMV頼み」。高千穂鉄道の実情にはそぐいませんね。そーいや、記者会見か何かで高千穂鉄道DMVを走らせて阿蘇まで走らせるとか何とか言っていて、「なにトンチンカンなことを言っているんだ」とも思ったのですが、それはどうも上の首相官邸の動きを睨んでの発言だったのかもしれない。
 まあ、マニュフェストで主張した言葉が今でも閲覧できる以上、公約違反と言われ続けるのかもしれないです。でも、なんとなく彼を責めるのも気の毒に思えてきました。とりあえず、この件についてはここまで。

神話高千穂トロッコ鉄道のその後

 ちなみに、神話高千穂トロッコ鉄道の3代目社長には、高千穂出身の作家、高山文彦が就きました。

 神話高千穂トロッコ鉄道社(高山文彦社長)は4日、沿線の地域住民との対話集会を始めた。初日は日之影町七折の日之影温泉駅であり、高山社長の構想に住民らが耳を傾けた。9日まで。
 高山社長は「国の認可が不要な鉄道公園化で高千穂線再生を目ざす」と説明。さらに「支援金の資本への切り替えを支援者にお願いしているが、8割近くが支援続行を申し出てくれている」と支援を訴えた。
公園化に理解訴え トロッコ鉄道が対話集会始める宮崎日々新聞、2008/02/05

というような活動をしているようです。
 「国の認可が不要な鉄道公園化」とは何のことか分かりにくいですが、要は、軌道モノレールとかスロープカーとか遊園地の機関車とか「「遊覧鉄道に乗りたい(仮題)」 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で書いたような遊具もどきの遊覧鉄道のことです。実物の鉄道車両でも、鉄道事業法による"鉄道"とは別物と見なしてもらえれば、明治村や片上鉄道、横川の鉄道村のような"公園内"で動かしている限りでは問題ないとされている。でも、距離が長いだとか、道交法とも絡んでくる踏切が存在するとか、公園とはみなしにくい条件が付加されると、話は別。例の高千穂橋梁の付近だけでもトロッコ列車を走らせられれば楽しいのだけど、なかなかそう簡単にはいかない。
 でも、やっぱり気になるんです。2002年に高千穂町役場へ取材に行ったとき、担当者から「今度、トロッコを走らせるんですけど」と突然尋ねられて一生懸命説明した日のこと。そして2005年8月に「彗星」の名残乗車のついでに高千穂鉄道に行ったら、トロッコ列車気動車5両編成が団体客などで満員になっていて、なんだか他人事ながら凄く嬉しかったこと。その翌月、アフリカのケニア・ナイロビでネットカフェに入ったとき、Yahoo!ジャパンのニュースサイトで高千穂鉄道全面運休の記事を読んで非常にびっくりしたこと。その3つの想い出が、ここ数年、ずーっと頭に引っかかっているんです。なんか妙にこの鉄道に関しては感傷的になってしまうのですが、それはまた別の話。