ルーマニアの辺境を走るモカニツァ森林鉄道へ行ってみた(その2)

 さて、諸事情により続きが遅れていたルーマニアの森林鉄道の話。「ルーマニアの辺境を走るモカニツァ森林鉄道へ行ってみた(前編) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」の続編です。
 定刻より1時間以上遅れて、9:38にヴィシェウ・デ・スス(Viseu de Sus)駅を出発した蒸気機関車。その編成は、

  • Mariuta号+客車(半室は木炭の積み場)+客車+オープン式客車+客車

の4両編成。機関車は1910年Orenstein&Koppel社製のロートル。客車の方は、台車は古そうだけど、ボディーは比較的新しい。数年前から観光客用に運転を始めたときに新調したのか。もう一両、展望車もあったけど、それは連結されなかった。
 僕はその次位の1両目に乗り込んだ。ブカレストからクルマで来たという老夫婦+その子供夫婦二組+こどもたち......という十人連れの中に、一人、僕がお邪魔する形になる。若夫婦2人は英語を喋れるようで、僕が日本から来たこと、わざわざ蒸気機関車に乗りに来たことを聞き取ると、他の家族に通訳してくれる。年配のおじいさまが「ウエルカム」とかなりなまりの入った言葉で握手を求めてくれる。なんとか今日一日、楽しく過ごせそうだ。
 機関車はとろとろと未舗装道路沿いの住宅街を抜けていく。町外れの民宿の宿泊客が手を振っているのが見える。イースター休みで観光に来ているのだろう。
 ボイラーの動力源となっているのは石炭でも木炭でもなくて、ただの木材の切れ端。山で切ってきた丸太の余り物を使っているみたい。だから、日本で見る蒸気機関車とかとは違って、あまりススの匂いとかはしない。蒸気は黒と言うよりも白っぽい。撮影する立場からすると、あまり煙の加減が良くないというのは事実だけど、まあそこらは仕方ないか。
 さて、そのまま行くのか……と思っていたら、9:57、突然、スピードを緩める。屋根の付いた小屋のそばで停車する。
 ホームはないし、人家もないし……なんでだろう。運転士や機関助士、その他のスタッフたちが先頭の機関車に集まってくる。デッキから降りて見に行くと、右前のシリンダーに油をあてている。そしてトンカチでこんこんと叩きながら、具合を確認している。ああ、朝、車庫でやっていたのと同じ点検だ。
 10:04にようやく発車。
 そのまま行くのかな……と思ったら、10:10。再び停車。えっ、そんなに具合が悪いんだろうか。はたしてそのまま終点まで辿り着けるんだろうか。いえいえ、この線路と並行する道路沿いに小さな商店があって、この先、店は一軒もないんでここで飲み物や食べ物を買っていけ、という心配りのようです。店に行くと、蒸気機関車のポスターが一枚。ここのおやじと職員はなにかタイアップしているのかな。観光列車が来ないと商売あがったりなような気もするし……

 やがて、線路は道路と離れ、人家稀な川沿いを縫って狭隘な谷間を進んでいく。

  • 10:27〜10:34 郵便業務

 またなにもない場所で運転停車。今度は何事か……と思っていたら、吊り橋を渡った対岸にある人家宛の郵便物を運びに行くということらしい。この鉄道、そんなことまで引き受けているのか。

  • 10:48〜10:58 給水タイム

 今度は小さな池の側で停車。また先頭の機関車を見に行くと、炭水室からホースを伸ばして先っちょを水の中に……ああ、水を使い果たしたんでここで補給するというわけね。沿線に水資源が豊富な森林鉄道だからこその裏技。その間、退屈にしている他の乗客も外に出てきて、僕と同じに記念撮影タイム。みんな楽しそう。何人かから声をかけられる。どこから来たんだ、と。確かに亜細亜人はめずらしいんだろう。気さくな人たちばかりで、その後も何度も話しかけられた。

  • 11:26 モーターカー

 発車して10分ほどで支線との分岐点を通過。その先でモーターカーとすれ違う。先に山へ入っていったディーゼル機関車に牽引されていた車両で、スタッフもそこで手を振っている。

  • 11:36〜11:57 "Cozia駅"

 側線もある少し広い構内に到着。ここでもシリンダーの点検&休憩のため長時間停車。駅名標は"Cozia駅"とある。かつてはそれなりに賑わったのだろうが、今では小さな駅舎が一つあるだけ。

  • 12:13〜12:35 給水タイム

 今度は川の支流を跨ぐ小さな橋のたもとで停車。ああ、また炭水室への水分補給なのね。また客車から降りて、みんなで休憩&撮影タイム。森に囲まれたなかなか雰囲気のいい川辺で、僕とか若い連中は靴を脱いで水の中へ入っていく。でも……さすがに4月末の東欧の山の中だしかなり冷たかったです。

  • 12:48〜12:54 "Botizu駅"

 次は"Botizu駅"に停車。朽ち果てた半分廃墟みたいな駅舎がわびしい。他のスタッフはみんなテキトーに休憩しているのに、機関士だけはここでもトンカチ片手に黙々と点検している。これぞ鉄道マン魂(後で買ったドイツ人撮影の写真集に大判で顔写真が。かなり有名な人らしい。)

  • 13:18 "Faina駅"

 小さなトンネルをいくつか抜けて、ちょっと山あいに入って10分ほど。短いトンネルを抜けると、ようやく終点の"Faina駅"に到着したみたい。出発から3時間40分(うち1時間10分は休憩)の旅がようやく終わった。
 お隣には先行していたディーゼル機関車が停まっている。地元住民と関係者用の客車が一両。その後ろには木材運搬用に使われている"貨車"がいくつも連なっている。駅の先に木材の切り出し場があり、フォークリフトで丸太が運ばれている。未舗装な上に、地面がぬかるんでいるのでその作業は極めてスローモー。日本人的感覚からするとイライラしてくる。
 ちなみに、これが非常にシンプルな構造で興味深い。長さ2mほどの2軸の台車が前後二組あって(1つ目の写真)、その上に丸太を載せることになる。でも、木を支える荷台はなく、頭の部分と尻の部分をちょこんと台車に乗っけるだけ(2つ目の写真)。それを機関車に引っ張らせてヴィシェウ・デ・スス駅の木材所まで持っていく。これで脱線とかしないのかなと不思議に思う。



 そんな風景を見ていると、他の乗客たちはみんな駅から遠くへ行ってしまった。飲み物とパンを持って近くのハイキングスポットに行ったらしい。僕は持ち込んだパンとサラミで軽い昼食。
 機関車を見ていると、機関助手がスコップ片手になにか炭火室をいじっている。休憩中なのにエライよなあ……と思っていると、その上にはソーセージが。みなさんの昼飯用に焼いているとか。ニコニコ笑って車座になっている機関士たちに招かれて、僕も一本、お呼ばれすることになった。スーパーで売っている安物のサラミと違って、かなりジューシーだった。

(続きは、「ルーマニアの辺境を走るモカニツァ森林鉄道へ行ってみた(その3) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」へ)