大健闘つづく土佐くろしお鉄道「ごめん・なはり線」と言うJanJanニュースの記事と市民メディア

 2002(平成14)年7月1日に「最後の鉄建公団AB線」(※)として、土佐くろしお鉄道の「ごめん・なはり線」(阿佐西線)が開業した。開業前は、閑古鳥が鳴くのでないかと心配されていたが、開業6周年、予想以上の成果を収め堅調に推移している。
大健闘つづく土佐くろしお鉄道「ごめん・なはり線」市民の市民による市民のためのメディア「JanJanニュース」野本靖2008/07/16

 なんか色々気になるんですね。この記事。鉄道好きの1人として、そしてブログの書き手の1人として疑問点がいくつかある。まあ、JanJanニュースだし、スルーしようかと思ったんですが、今朝、早起きしたんで書いてみます。
 ごめん・なはり線とは、高知県南国市後免と安芸郡奈半利町を結ぶ42.7kmの鉄道線で、第三セクター土佐くろしお鉄道が経営している。着工は1965年。旧鉄建公団の手で建設されたローカル線で、旧国鉄系の工事線としては最後の開業となった。

大健闘つづく土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線」という記事に関する素朴な疑問

 まず、気になる点は「大健闘つづく」としたタイトルと「開業6周年、予想以上の成果を収め堅調に推移している」というリードの部分。
 で、その論拠は、エクセルで作ったっぽいグラフ。

通学定期の利用に関しては、平成14(2002)年度には約17万人であったものが、平成18(2006)年度には54万人にまで増加している。

と語り、これで「大健闘」ということなのか。このデータを基本とすると、ごめん・なはり線は平成14年度(2002)から平成18年度(2006)で3.2倍増になったということだ。

 ほほーと読んだ。でも、明らかに変。数字を見たら、いろんな角度から疑問が浮かび上がってくる。以下にその指摘を3つ。

  • 統計の元データはなに?

 記事の冒頭に、「ごめん・なはり線 輸送人員の推移」とある。これって何? 輸送人員って、1日あたりの数なのか、1ヶ月あたりなのか、1年間なのか。乗降客数なのか、乗客数なのか(これで倍ほど数字が異なる)。そもそも元データの出典はどこなのか。なにも書いていない。そもそも輸送人員の単位は「人」なのかどうかの基本も書いていない。ちょっと、それは記事としてどうかと思う。

  • 統計の読み方が杜撰。

 ごめん・なはり線が開業したのは2002年7月1日。営業していたのは02年度12ヶ月のうち9ヶ月のみ。初年度の利用者数、通学定期客数が、次年度以降より極端に少ないのは当たり前。夏休みや春休みが間にはいることを考えると、高校生が定期券を使ったのって実質的には半年ほどじゃないの。それを「平成14(2002)年度には約17万人であったものが、平成18(2006)年度には54万人にまで増加」と他年度と比較すること自体が変。あと、ごめん・なはり線の「輸送人員」と、土佐電鉄安芸線の「年間輸送人員」とを比較しているけど、これは同じ原典をベースにした数字じゃないよね(片方は趣味人向けの本のデータを使っているようだが)。なのに、それで増えた、減ったと単純に語っていいんだろうか。

  • なぜ通学定期利用者が増えたのか考えた形跡がない

 ただ、2003年度と2006年度と比べると、通学定期客数は1.4倍も増えている。これは異常事態だ。ご承知のように、ローカル鉄道の担い手である高校生は、年々、確実に減っている。地域によって異なってくると思うが、毎年2〜3%ぐらいは高校入学者は減っている。なのに、なぜ。高知県の東部だけ激増しているの。この統計数字を見れば、(好奇心がある人なら)誰でも疑問に思うだろう。
 高知新聞の記事は、初年度の状況として、「通勤、通学など定期利用者は24万6360人(同37・9%)と伸びておらず、今後の課題だ。」と伝えている。
 もともと初年度2002年度、続く2003年度のごめん・なはり線の利用者は目標を大幅に下回っていたのだ。それが2004年度くらいから回復してきた。でも、当初見込みほどにまでは増えていない。なのに、「予想以上の成果を収め堅調に推移している」とまで言い切る自信は僕にはない。

  • 1億円近い赤字(経常損益)が出ているのに……

>ただし残念ながら、ごめん・なはり線の経常損益はマイナスである(単位:千円)。
>平成14年度 +012,884
>平成15年度 −102,019
>平成16年度 −086,741
>平成17年度 −075,921
>平成18年度 −100,698
 ここらの分析は皆無。というか、なんで利用者が激増したのに、赤字が出るのか? これも記事を書いていたらかなり気になるはず。償却とかの絡みがあるんだし、それも取材してくれなきゃ

JanJanニュースの記事と市民メディアはなにを目指すの?

 ごめん・なはり線の利用者が増えた理由は想像できる。端的に言うと、鉄道(ごめん・なはり線)が、バス(土佐電気鉄道)の客を奪ったからだ。
 鉄道開業以前、ここには土佐電気鉄道のバスが1日25往復と頻発運転している上に、高知市内まで乗り入れていて、それなりに利便性が高かった。 
 バス側は新線開業に備えて、バスは値下げに踏み切り、メイン利用者の高校生客の引き留めに努めた。高知新聞によると開業年の秋には定期客の減少を1割減に抑えたとか。それが支えきれなくなって、高校生が鉄道に移行したと言うことか。
 現在、バスの運行本数は12往復/日。鉄道開業前より半減だ。もちろんバスも地元にとって大切な公共交通機関。廃止してもいいとは言いづらい。そこらを踏まえないで、ごめん・なはり線だけ語るのは、やっぱり気になる。鉄道利用者が増えたからと言って、すべてが目出度しと言うわけでもない。
 後の、「土佐電鉄との直通運転も考慮すべき」とか「鍵は通勤客に、いかにマイカー通勤から切り替えてもらうかであろう」とか「定期外の旅客についても同様で、マイカーから転移を促すようにすればよい」とか「地域全体の自動車依存度を大幅に軽減する上で、ごめん・なはり線は重要な使命を背負っている」は若書きで書いちゃったんだろうし、まあそれはそれでいい。できることは、たぶん高知県も各自治体もやっているって。実際、どういう施策がとられているのか。きちんと自治体や会社に聞きに行った上で、それでも足りない部分(しかもカネをかけずに実現可能そうなことを)を自分の言葉で語ればいい。

 というのが、個人的感想。
 この記事、統計の数字の基本的な扱い方すら危ういし、著者個人の思いつきレベルの見解ばかり。正直、読者としてどう反応すればいいのか分からない。書き手の方、地元出身だけど、今は別の都市に住まわれているみたい。だから、地元民ならではの足で稼いだ情報が少ないのかな。まだ若い学生の方らしいし、次に投稿するときはいい記事を読んでみたいです。


 で、鉄道の話はおしまい。
 本当に気になったのがインターネット新聞というか、市民メディアの在り方。
 大手では見られない分野、語れない分野について、地元に密着した、あるいはその分野に精通した市井の人たちが、何かを語り、それをメディアとして伝えていく。非常に大切なことだと思う。そうしたものが充実して欲しいとは僕も思います。
 たとえば、この高知県の鉄道の話。僕は高知県より鉄道で6時間ほど離れたところに住んでいるので細かい事情は知らない。だからこそ、市民メディアには、この鉄道に関する、地元民だからこそ知っている事情を知らせて欲しいと期待する。プロじゃないんだし、精密な取材や情報はいらない。ただ、あまり拾い上げられていないエピソードを地元民ならではの角度で拾い上げて欲しい。
 ただ、現実には、JanJanニュースには玉石混淆の記事が入り交じっている。そもそもJanJanニュースにツッこむのがヤボなのかもしれない。もう少し、書き手と編集担当の練度が上がらないかな……とは思うが、あまり注目されていない、記事が少ない、利益が出ていないと、それもなかなか難しいのか。そこらは僕の関与できる話ではない。

 いや、一番、気になったのは、この記事。別のブログで全く同じ記事があるんですね。
高知から持続可能な交通を実現する(53) 「大変健闘しているごめん・なはり線」今日も自転車は走る。
書き出しから本文の言葉・主旨もほぼ同じ。投稿日は「2008年7月12日 (土)」とあるから、「JanJanニュース」の4日前。
 書き手は、たぶん同一人物なんでしょう(JanJanの記事からリンクを辿っていける)。ということは、ご自身のブログの記事を「JanJanニュース」に転載されたんですね。その旨の但し書きはどこにもないですけど。
 「JanJanニュース」のQ&Aを見ると、

Q.他媒体に投稿したものと同じ内容を投稿しても良いですか
A.すでに他の媒体で発表された記事は、投稿時にその旨をお書きください。編集局で掲載を判断します。記事の二重投稿は、原則としてお控え下さい。

とある。JanJanの編集局が掲載OK出したということか。あるいは著者自身のブログからの転載は問題なしとされているのか。
 「自分の書いた文章や意見をもっと多くの人に知ってもらいたい。」という気持ちは彼だけでなく、ブログ・日記・ホームページを更新している多くの人間が思っていることだ。より大きな、よりアクセス数の多いメディアへ露出したいというのも気持ちとしては分かる。でも、この著者。文面はほぼそのままで、どちらにも注釈を付けずにJanJanニュースに投稿してしまっている。ちょっと不誠実だ。
 そこらの決まりがJanJanでどう扱われているのか、ネット界のマナーとしてどうなのか。僕は知らない。ただ、自分の記事をそのままメジャーなサイトへ転載するのっていかがなものか……と1人のブログの書き手として思ったりもしたのですが、それはまた別の話。