対馬比田勝〜釜山間の国際航路は一度は乗っておきたい。

 2年ほど前の春、ちょうど廃止直前の元仮乗降場を巡る旅を北海道宗谷本線でしていたときである。
 吹雪の中、幌延駅の近くで特急「サロベツ」がやってくるのを、三脚立てて待ち受けていると、急に携帯電話が鳴った。
「オレ、今、伏木にいるんだぞ。伏木」
との声が聞こえてきた。高校鉄研の同期だった男だ。
 伏木港で船に乗って、いまパスポートチェックを終えたところ。周囲はロシア人だらけで異様な雰囲気だとか、税関のチェックはやっぱり厳しいとか、スタッフは意外と愛想がいいんだとか、いろいろと実況中継をしてくれる。
 彼はその時、極東船舶会社のルーシー号の船上の人となっていた。富山の伏木港からロシアのウラジオストックへ行く国際航路で、週に一度、この二つの港を行き来している。
 彼はビジネスでこのルートを使うのではない。福岡からわざわざ富山までやってきたのは、もちろんこの航路を使うためだけである。そして、その隣には彼の新妻が座っている。実は、これは彼らの新婚旅行でもあったのだ。パートナーの方はトルコかフランスに行きたがっていたのに、強引にシベリア行きを決定したのは、もちろん旦那の方。電話の向こうから嫁さんらしき女性のボヤキ声が聞こえてくる。
 とりあえず、自慢話とノロケ話を聞くのもなんなんで、「『サロベツ』が来るから。じゃあ」と電話を切った。そして、遠く北の地で、2人の旅路がうまく行くことを祈った。
 と同時に、伏木とウラジオストックという旅行マニアなら誰もが憧れる超マイナー外国航路に乗れることが羨ましくもあった。
 近年、時刻表の後ろの方のページに国際航路の時刻も掲載されるようになり、新航路が登場するたびに一度ぐらいは乗ってみたいなあ……と思う。昔の東京〜下関〜釜山〜ハルピン……という「欧亜連絡ルート」ではないけど、「国際航路」という言葉には旅人を異国の世界へと掻き立ててくれる響きが込められている。

ここ数年でバタバタと廃止された国際航路

 「船のウェブサイト」というホームページの「国際定期航路」のページを見ていると、近年、以下のような15ルートが運航されていたらしい。

 ○は現在運行中の航路。
 ●は最近運休した航路。

 意外に多いような気もする。「国際化」という響きに思い入れがある地方自治体が、自分のところの港と海外を結ぶ路線の誘致に躍起となり、補助金を出したりターミナルの整備に努めたりしたからだ。
 博多港釜山港を結ぶJR系のJR九州高速船のように急成長していった路線もあった。韓国系の会社なども参入して今では一日4〜5往復の運転を行っている。並行する日本航空の国際線を廃止に追い込むぐらいのパワーのある路線だ*1。ただ、成功と言えるのはこのルートぐらい。運行してはみたものの客がぜんぜん乗ってくれず1年程度で早じまいしてしまった航路もいくつかある。
 こうした国際航路が、興味深いのは、2国間で運転されているにもかかわらず、運行の休止→廃止される日が突然やってくること。
 たとえば、台湾高雄港と沖縄を結ぶ有村産業のフェリー。これは名古屋・大阪から那覇宮古、石垣を経由してロングランする歴史の古い航路であった。でも、2008年5月、運営会社が事実上の破産状態になってしまい、その一週間後に運行を停止している。
 中韓と日本を結ぶ航路も1、2年で運休したり、突然再開したり、港を変更したり、運営会社が名前を変えたり、なんだかややこしい変遷を辿っている。釜山〜門司航路なんて、隣の下関からの航路があるにもかかわらず、北九州市が巨額の資金を投じて門司に国際船ターミナルを整備して旅客航路を誘致し、今年6月から再開したと思ったら、8月には船のトラブルで早くも運休。はたしていつ再開するのやら。
 一方、先日、青森〜函館間の高速フェリー「ナッチャンRera・World」を就航からわずか1年で運休すると発表した東日本フェリー。道内経済を揺るがしかねない暴挙として北海道や青森で話題となっているが、ここが、突然、今年6月から金沢港〜釜山港の航路を週一で運航し始めたりもしている。その動きを逐一フォローするのも大変だ。

時刻表に掲載のない二つの国際航路

 しかも、国際航路の中には、日本の時刻表に掲載されていないような航路もある。

 韓国に一番近い島である対馬への国際便。高速艇シーフラワー号。週に3便、片道6900円。
http://www.pref.nagasaki.jp/naisnet/access/timetable/ship/27.htm


 大亜高速海運のホームページは韓国語サイトだけで日本語には対応していない。1999年に運航が始まってもう十年ほど経つが、今でも日本人向けの広報はほとんど皆無。対馬国際ラインという旅行会社が日本側の代理店らしいが、http://websho.shokokai-nagasaki.or.jp/42/4244610062/index.htmでは電話番号と住所しか分からない。一部の趣味の人がわざわざ時刻を調べてくれていて自身のページに掲載してくれているが、もちろんその情報は公式のものではない。
 ちょっと不便だよなあ……と思いつつも、日本側からの利用はほとんどないからなんだろう。となると、わざわざ時刻表のために運行データを送るのは面倒な作業である*2。あるいは運航が不定期で日にちを特定できないという理由もあるのか。
 実際、この航路。利用者は釜山からやってくる韓国人客がほとんどらしい。彼らが対馬に経済的な利益をもたらす一方で、様々なトラブルも起きているとの日本の週刊誌報道なども過去にあった(【社会】 「対馬、韓国人に侵食されてる」 韓国、長崎・対馬の領有権主張&韓国資本が土地を確保…住民の9割が危機感★7)。
 いろいろ曰く付きの船だからこそ、一度はぜひ利用してみたい。
 でも、釜山港。個人的にはイヤな思い出がある。実は人生初の海外旅行は下関からフェリーに乗って釜山から特急でソウルへ向かった。その帰り、釜山港でトラブルに巻き込まれ、日本への帰国が一日遅れてしまったのだ。それが人生の大きな分岐点になってしまったのだけど、それはまた別の話。

*1:ちなみに、廃止当時、日本航空の路線で、国内線・国際線問わずに飛行距離が短かったのはこのルートだった

*2:以前、広島県スカイレールサービスという新交通システムのダイヤは時刻表に掲載されていなかった。開業直後、偶然、現地で出会った責任者の方にその疑問をぶつけたところ、「言われてみれば時刻表に掲載してもらっていないけど、頼めば載せてくれるの?」と逆に尋ねられた。掲載してもらう必要性を感じなかったらしい。後日、JTBの関係者に聞くと、「毎月時刻表のデータをもらえないところはさすがに載せにくい」という主旨のことを言われた。ちなみに、現在、同社のダイヤはJTB時刻表に掲載されている。