今回の日本人学者へのイグ・ノーベル賞授与で「交通生物学」という新しいジャンルが開拓された。
物理とか化学とか理科系科目は苦手だったんでノーベル賞を受賞された方たちの偉大さは皆目検討つかなかったのだけど、
ユーモアにあふれた科学研究などに贈られる「イグ・ノーベル賞」の授賞式が2日、米マサチューセッツ州ケンブリッジのハーバード大で開かれ、アメーバのような動きをする単細胞生物「真正粘菌」が迷路の最短距離を導き出すことを発見した研究で、北海道大の中垣俊之准教授ら6人が認識科学賞を共同受賞した。(中略)
受賞あいさつで、中垣氏が「日本の辞書で単細胞は頭が悪いと書かれているが、単細胞はわれわれが考えてきたよりずっと賢い」と話すと、数百人の観客から拍手と歓声を浴びた。
「単細胞が迷路解く」受賞 イグ・ノーベルで中垣氏ら共同通信2008/10/03
のニュースには感銘を受けた。「日本の辞書で単細胞は頭が悪いと書かれているが、単細胞はわれわれが考えてきたよりずっと賢い」との言葉はナポレオンを彷彿させてくれた。
CNNの報道や北海道新聞などによると、
- 賞は「認知科学賞」
- 脳を持たない単細胞生物の真正粘菌が、迷路の最短経路を見つけることを発見した
- 「脳も神経もない原始的生物でも、高度な情報処理機能をもつ」として8年前、英科学誌ネイチャーに発表
- 半年前となる今春に電子メールで「賞をあげようと思いますがいりますか」と問い合わせが来た
- 共同受賞した六人の中には「うれしくない」という仲間もいた
ということらしい。化学賞「『コカ・コーラの避妊効果』についての研究」には負けたような気もするし、考古学賞と生物学賞もなかなか強敵だけど、それでもなんだか嬉しい。
しかも、中垣俊之先生ただの南方熊楠マニアな学者ということでもないらしい*1。
粘菌は、最短距離という経済性・効率性と、安全性・対故障性という相反する原理を妥協させ、双方を適度に満たす経路を作れるのです
栄えある?「イグ・ノーベル賞」受賞 「迷路を解く粘菌」って?! 中垣俊之・北大准教授ら研究北海道新聞2008/10/10現代かわら版
と語り、さらに、
すでに中垣さんは北大の学生と、粘菌に北海道の交通網を設計させる実験も行った。
北海道の形をした寒天の培地を用意し、札幌や旭川、函館といった主要都市の位置に餌を置き、粘菌の動きを見る。
とかなんとか。
北海道新聞はその写真を載せている。粘菌が寒天と共に考えた北海道の交通網の最適マップはこれ。
おお、現在の北海道の鉄道&国道のルートとかなり似通っているじゃないですか。
細かく言うと、札幌と稚内を結ぶルートは北見滝ノ上のあたりを通っていて国道231号・国道232号のオロロンラインや国道40号(宗谷本線)とは大分違うとか、函館本線山線ルートにあたる長万部〜倶知安〜小樽のルートが存在しないのは後志支庁の皆さんがカワイソウとか、北見と十勝・釧路を結ぶルートってそんなに重要かとか、名寄・浦河・留萌・富良野は無視ですかそうですかとか、いろいろ考えさせられる*2。
けど、
中垣さんは、この過程を方程式を用いて数理モデル化することを試みている。モデル化により、いちいち粘菌と寒天を使わずとも、最適なネットワークを設計できるようになる。
と語っているらしい。
新聞は「中垣さんらの研究は極めて学術的なものだ」と持ち上げるけど、今後、学会なんかで他の研究者から、やっかみ半分、失笑半分で声をかけられたりするんだろうな。でも、そうしたカネにはならない研究が山ほど現れて人知れず消えていく。文系理系などの学問も、漫画や映画、芸能などの大衆文化と同様、膨大なB級・C級作品が出現する土壌があってからこそ、いろんな成果が出てくるんだろう。
ああ、素敵だなあ。この寒天モデルだと、第四次全国総合開発計画で定められた高規格幹線道路14,000kmはどのような最適ルートとして設定されるのか。ぜひやってみて欲しい。
とりあえず、これで生物学の分野から交通や都市に対してアプローチするという方法論が確立された。イグ・ノーベル賞というお墨付きもあるし、来年度以降は、この「交通生物学」(?)というジャンルに膨大な国家予算の一部が割かれるのかもしれない*3。粘菌の次は、ゾウリムシを使ってさらなる飛躍を遂げて欲しいと思うのだけど、それはまた別の話。