わずか17冊で休刊となった月刊「旅と鉄道」の無謀な試み

katamachi2008-12-11

 ある知人からメールが届いていた。

 ◆「旅と鉄道」は1月10日発売の2月号を以て「休刊」となります。 詳しくは1月号最終ページをご覧ください。
旅と鉄道 1月号 12月10日発売 <定価 980円>

 以前は季刊誌だったのに、2007年10月号(9月発売)から、突如、月刊誌へと生まれ変わった「旅と鉄道」(鉄道ジャーナル社)。2009年2月号(1月発売)で休刊になることになったらしい。部数が伸びなかった......というのがその理由。


 そもそも、なんで月刊誌にしたのか。理由がよく分からない。

ということは想像できる。その打開策として、

  • なんだか2003年ぐらいから鉄道趣味のブームが来ている
  • ブームの中心は、鉄道色が濃い人よりも、旅行派の鉄道色が薄い人たちが中心(と言われている)
  • 一般誌や一般出版社の鉄道特集が好調(らしい)
  • 女性のファンも増えている(ということらしい)
  • JTB「旅」誌が亡き後、同誌の鉄道特集を買っていたような層が存在する
  • なら「旅と鉄道」を月刊誌にすれば......

という目算だったのか。
 ただ、

  • 旅行派で鉄道色の薄い人たちだからカネを出してまで情報は欲しくない

という状況を完全に読み誤った。
 彼ら(ブームで持て囃されたライトな鉄道好きの人たち)をターゲットにした本や雑誌は、ここ数年、確かに山ほど刊行されたが、その鉄道要素は「軽薄短小」....ライトな本がほとんど。一方で、部数は落ちたとはいえ、「重厚長大」な鉄道マニアを対象とした「鉄道ピクトリアル」や鉄道研究・調査系の本はそれなりの人気を保ち続けた。一般向け、趣味人向け、どちらにも割り切れなかった「旅と鉄道」に活路はなかった。わざわざ「旅と鉄道」を買わなくても、もっと名の知れた出版社がよく似た内容で編集センスのいい雑誌や増刊号をたくさん出しているんですよ。
 その上、趣味人or一般人の間で名が知られているライターはほとんど揃えないまま、月刊化に突入。慢性的な書き手不足になってしまう。何度か本屋で立ち読みしたが、いつも巻末でライターと原稿を募集していたような感じがする。
 でも、さりとて鉄道趣味誌のような情報はなかなか集まらないし(「ジャーナル」本誌から記事を転載していたが)、一時期の「レールマガジン」のような常連投稿者は育たなかった。そして、文章の鍛錬や、鉄道趣味への知識がなくとも誰でも書けるような、「鉄道を使った旅行」の感想文(鉄道紀行にあらず)がただただ連なっているだけ。ネットがここまで普及している中では、検索エンジンをかければ無料でいくらでも手に入る。いや、僕らは、タダで入る情報の中には、商業誌より優れたモノが少なからず存在しているということをすでに知ってしまった。
 あと、出版業界のカラクリはよく分からないけど、季刊誌から月刊誌になったとたん、郊外型の書店の書棚から「旅と鉄道」を見かけなくなったような気がする。毎月、雑誌を買うのに、それまでの常連さんたちが敬遠してしまったのかもしれない。
 そんな季刊誌時代の内容を軽く、薄く引き延ばしたような紙媒体を、誰がカネを出してくれるのだろうか。


 と、僕なんかは、昨年の春、ある知人から月刊化の報を聞いたときに瞬時に思った。
 彼はここでライターをしようかなあ.....と言っていたんで、止めておけば。原稿料は安そうだし、生活できんよと忠告したような気もする。「絶対、3ヶ月で廃刊になるよ」とも言い切った。別なルートから誘われもしたけど、躊躇もなく断った。商売抜きなら、はてなで日記を書いた方がよっぼど面白いって。
 それから1年と少し。僕の予想を裏切り、月刊で17冊も出したのだから、頑張った方なんだろう。


 ここ数年、「鉄道ブーム」というのがとやかく語られ、特に昨年の春から夏にかけてはいろんな出版物が本屋に並んだ。でも、そのブームの中身は新味に乏しく、80年前後のブームの焼き直しでしかない。とは、不発に終わりそうな「第三次鉄道趣味ブーム」とその課題 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月以下のエントリーで指摘した。そして、2008年になると、もう誰も「鉄道ブーム」なんて言葉を発しなくなった。
 「旅と鉄道」の休刊はそうした情勢とは別次元の話。
 鉄道ジャーナル社が、鉄道趣味業界の潮目を完全に読み誤って、己を知らずに無謀な挑戦をして失敗した。ただ、それだけだ。
 それよりも、僕的には、長らく低空飛行を続けている「ジャーナル」本誌の方にも悪影響を与えないのかが気になる。Wikipediaから丸写しで謝罪文とか、取材の経費節減が目立つとか、ここ2年ほどでかなり劣化が進んでいる。「編集長が交代して2号目となった「鉄道ジャーナル」 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」や「「鉄道ジャーナル」の合理化と閉塞感の話。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」でかなり皮肉っぽく書いたけど、なんだかんだと80年代の元気だった頃を知っているんでね。なんとか立て直して欲しいという願望はあるのですけど、それはまた別の話。

追記

 雑誌の廃刊ネタなんで、鉄道マニア以外の読者もいそうなんで解説を追加。
 この雑誌。季刊で30年以上続いてきて、80年代の「鉄道ブーム」以降、それなりの読者層も獲得していたんですよ。それが月刊化で1年ちょっとで休刊。深夜帯にローカル番組ながら視聴率はそこそこ取っていたのに、ゴールデンタイムに昇格したら数字が振るわず1クールで打ち切り決定。という、テレビ番組みたいな感じなんですね。90年代末頃から兄弟雑誌の「鉄道ジャーナル」誌が行き詰まり始めたのと、両誌の編集長を務めたT社長がいろいろ妄言と迷走を繰り返したこともあって*1、ここ数年、趣味の人たちから距離を置かれていたということもある。
 最近、出版業界がダメだからライトなファン向けの趣味雑誌はいけるかも......というのは、他のジャンルでもある発想だと思います。
 でも、そういう雑誌や本の場合、編集者もライターもあまり濃くない人たちを揃えた方がいい。アマチュア的な趣味人の視点と、プロの書き手としての技術がうまく絡み合う"可能性"はある。もちろん、それは僕のようなマニアたちからは小バカにされるんだろうけど、まあそれはそれ。
 ライトな人たちに徹するなら、専門の趣味誌にするんじゃなくて、「BE-PAL」のようやスタンスで、ときたま鉄道特集をしたりするのが一番イイかも。でも、あまりマニアックな方面に近くなりすぎると、J社からS社に版元が移った月刊「●」みたいにジリ貧になるので要注意。それと、ライトな内容だとあまり変化がなくて毎回同じネタ(ここだと、駅弁・旅情・温泉……)が繰り返されるので、書き手は固定化しない方がいい。
 趣味誌に徹するなら、とことんマニア的な方向に行くしかない。ネットがここまで普及してくると、今度は、「ネットには存在しない情報(or視点)をいかに汗を流してかき集めるか」が評価の対象となる。
 この雑誌は、マニアなジャンルで仕事をしてきた編集者がライトなファン向けに企画したのだけど、どこかマニア臭さが抜けきれなかったんです。でもライトな人たち向けとも割り切れなかった(そもそも版元の知名度が高くない)。昔の常連はみんな思っているんだろうな。季刊のままで良かったのに......と。

*1:70歳を超えたあたりから、鉄道趣味誌の編集後記で「あの戦争は侵略じゃなかった」とかウヨウヨした発言を展開