利用者に喜ばれないJR西日本の2009年3月ダイヤ"改正"。
2008年12月、JR西日本は2009.3.14ダイヤ改正のリリース文を発表している。新幹線増発とか目出度い話が並んでいる片隅に、
3.その他
ご利用の少ない深夜帯の列車を見直します。これに伴い、一部の最終列車の時刻が変更となるほか、列車の行き先・編成両数等が変更となる場合があります。
JR西日本 ☆平成21年3月14日(土)改正
と書かれていた。「大阪駅を0 時頃に発車している快速(上下各2 本ずつ)を、0 時00 分発と0 時25 分発の「新快速」として運転します。これにより、深夜のご帰宅がより便利になります」と深夜時間帯の充実に力を入れているとあったんで、「見直し」の対象となるのは一部の路線だけだと思っていた。
でも、こんな全面的な変更になるとは……
JR西日本は3月14日、京阪神の主要路線の一部で終電時刻を最大約20分早めるダイヤ改定をする。05年4月の宝塚線(福知山線)脱線事故を受け、外部有識者から運転士の体調管理への配慮を提言されたのに伴う措置。
JR西、終電早めます 最大20分 運転士の体調に配慮朝日新聞、2009年1月25日
これはダイヤ"改正"じゃなくて、"改悪"だよ。情報を1ヶ月ズラして伝えてきたのは、利用者の反発なんかも意識してのことか。
ダイヤ"改悪"するなら「深夜のご帰宅がより便利になります」なんてリリース文を出すなよ
終電時間については読売新聞の「JR西 終電早めます…脱線事故教訓 異例の“決断”」が詳しい。
他紙も含めてフォローしていくと以下の通り。
- 大阪駅
- 高槻行き 0:41→0:28(普通)
- 三ノ宮方面行き 0:28→0:25(新快速)
- 三ノ宮駅
- 姫路行き 0:30→0:23(新快速)
- 天王寺駅
- 大阪行き 0:34→0:19
- 日根野行き 0:33→0:20
- 京橋駅
- 天王寺行き 0:37→0:16
- 奈良駅
- 京都行き 23:23→23:09
大阪環状線外回りの終電が21分も早くなると言うのは衝撃。JRの各線との接続もさることながら、京阪線や近鉄線の終電の時間にも影響してくる。阪和線なんかも、日根野行き最終が13分も変わると、最終の新幹線との連絡がうまくいかなくなるんだろうか……
駅近くに立地している飲食店街やコンビニなど他の産業にも当然のように波及してくる。逆に、タクシー業界はメリットを享受するんだろうか。
さて、JR西日本が終電を早くする理由として、2点、指摘されている。
まず、朝日は「宝塚線(福知山線)脱線事故を受け、外部有識者から運転士の体調管理への配慮を提言されたのに伴う措置」と伝えている。他紙も同じ主旨の言葉を並べているので、これはJR西日本側からそう主旨の事前レクチャーがあったんだろう。
というのがその考え方。要は、「出勤→深夜の最終電車の運転→どこかの施設で仮眠→早朝・朝ラッシュの運転→退勤」とかいうシフトを止め、運転士の睡眠時間に余裕を持たせる、ということなのか。
僕なんかもあまり寝付きは良くない方だし、自分が運転士だったら睡眠時間が1時間でも長い方が有り難い。というか、睡眠が4時間を切った翌日に電車の運転なんて怖くてできない。それはそれでイイことなのかもしれない。
あと、産経新聞は、
利用客の少ない路線のダイヤを繰り上げて経費削減を図る(中略)JR西は「経営的な観点から、深夜時間帯に利用客が少ない路線の終電時間を早めるべきという議論は以前からあった」と前置きした
点も指摘している。コスト削減という側面も大きいんだろう。
80年代から90年代にかけて終電の時間は徐々に遅くなってきた。通勤電車の24時間運転をすることなんかが求められた時代もあった。鉄道各社も終電を遅くまで運転することで、利用者視点でのダイヤであることをアピールし、他社との違いを誇示しようとしてきた。利用者はJRに経営主体ことが変わったことで「便利」になったと実感した。僕自身、確実にその利便性を享受してきた。
ただ、景気の低迷、関西経済の停滞なんかもあって、一時期と比べると利用者の動きは変わってきているとも聞く。尼崎の事故以来、各列車のダイヤ編成に余裕時間を持たせたことで、必要とする車両数や社員が不足気味。コスト増の要因にもなっている。大阪都市圏のJR利用者が伸び悩んでいる中、人件費を抑えていく必要に迫られている。余裕を持ったシフトを組んでいくと、どうしても運転士が足りなくなってくる。他に合理化するところがないなら、費用対効果が微妙な深夜の列車を……という発想になったのはは分からないでもない。
とは言え、この「見直し」。みんながみんな、納得しているわけではなかろう。
とりあえず、「尼崎の事故への対策」・「労働環境の緩和」という言葉を出されてしまうと、マスコミも含めて、誰も表だっては批判できなくなる*1のだが、終電が早くなることに不満を持つ人も当然存在する。
【鉄道】JR西日本が終電時刻繰り上げへ…脱線事故教訓に決断[09/01/24]
はてなブックマーク - asahi.com(朝日新聞社):JR西、終電早めます 最大20分 運転士の体調に配慮 - 社会
とネットで検索してみたが、そこで語られる言葉は様々だ。
面白かったのは「少しずつ縮んでいく - 一本足の蛸」。「これは単なる口実に過ぎないと思われる。要するにコスト削減したいのだろう」と皮肉っているが、僕も同感だ。以前、三江線での落石事故について「水害で不通になる前から悲惨な状況だった三江線で考えてみる。その2 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」でも紹介したが、この会社、「安全」に対する考え方が、他の鉄道会社とズレている。正直、「本当に福知山線での脱線事故に対して反省しているのか??」と疑問に感じた人は少なくなかったと思う。
事故から4年。その後、JR西日本のアーバンネットワーク(京阪神地区の路線)では列車の遅延が頻発に起きている。一部区間では運転本数は間引かれたし、スピードダウンと停車時間の増大で所要時間も延びた。確実に不便になっていったJR西日本に対して、沿線住民の視線はかなり厳しくなっている。
終電が早くなるのは困るけど、ホントは始発が遅くなる方が……
さて、各紙の報道を見ると、利用客が少ない路線を中心に深夜のダイヤを見直した......という書き方になっている。宝塚線、東西線、学研都市線、関西線は今回の見直しには含めないという。
でも、実際、関西線を除いた3路線は、すでに3年前の2006年3月改正で終電の見直しが行われている。JRは明言していなかったが、これは前年2005年4月に起きた尼崎の事故を受けての処置だというのは一目瞭然。
3路線の拠点となる北新地駅の発着時間を見ると、
という感じ。特にヒドかったのは片町線(学研都市線)。松井山手行き、京田辺行き、木津行き、それぞれの終電が約20分早められている。
うちの実家はこの沿線にあるんで、3年前のこのダイヤ改正、いや"改定"というか、"改悪"だな...の影響をモロに受けている。あと、東海道本線や新幹線との接続。新大阪駅23:48着の最終「のぞみ」に乗っていると、うちの最寄り駅まで辿り着けなくなった。
利用者も、用事を20分ほど早く切り上げて帰ればいいだけ。それは分かっている。でも、改正後、終電に間に合わず、タクシーに乗る機会が確実に増えた。
いや、本当に困ったのは始発電車の方だ。
このダイヤ"改悪"で、うちの実家の最寄り駅である片町線某駅の大阪方面行き始発は11分ほど遅くなった。そのため、始発電車では新大阪駅6時発の新幹線、大阪5:59発の快速に乗ることができなくなった。朝の4時や5時に郊外の街でタクシーを捕まえるのは難しい。早朝時間帯の移動にかなり制約ができたのは確かだ。
この春の改正について、始発電車に関しては何も報道がないんでここらは推測するだけだが、「運転士の体調管理に配慮」するのなら、始発電車についても見直される可能性はある。大阪駅や新大阪駅に6時前に着くことが困難になるエリアが増えるかも……。今回、そんな悲惨なダイヤが他路線で組まれないことを祈るばかりだ。
あと、「終電時間が早まる」という"マイナス要素"を利用者に知らせる方法もヒドかった。
僕らマニアはホームページや時刻表をチェックしていたから、早くからダイヤ"改悪"の概要を知りうることができた。でも、肝心の利用者向けポスターやパンフレットには"マイナス要素"についてほとんど触れられなかったのだ。
そして、改正まであと10日ほど前となったある日、京橋駅のホームの柱に「終電の時間が変更します」と書いたコピー紙がぺたっと貼られた。
その日、私は松井山手行き最終電車となる京橋駅0:17に乗るためホームで待っていたのだが、掲示の周りにはたくさんの利用者が取り囲んでいた。「おい、なに、これ。最終の時間が変わるんか……」とボヤキと溜息がホームを支配していた。多くの人は、数日後の改正から終電が早まることを、この紙切れで初めて知ったようだ。そんな重大なことを突然告知されても、みんな迷惑するだけ。なにも利用者は酔客だけではない。
利用者へ自分の言葉で"お詫び"をしておけばいいのに
もちろん、この「見直し」に評価できる側面があるのは否定できない。
安部誠治・関西大教授は、読売新聞で、
利益追求より安全を優先する会社に転換する一歩ととらえたい。夜型の生活様式にも影響を与え、環境面の効果も期待できる
とコメントをしている。尼崎事故以来、JR西日本の企業文化に対する批判を各マスコミで繰り返してきた研究者から「安全を優先する会社に転換する一歩」とまで言ってもらえたんだから、その点では最大の目的は達成できたのかもしれない。遅まきながら一歩前進、なのかもしれない。
永年の労使慣行、深夜早朝勤務の面倒くささ、そして朝ラッシュ時に最大限の運転士を配置しておきたいというダイヤ編成上の事情……を考えるとシフトの変更や調整はかなり大変だったんだろうとは思う。
ただ、「終電を早くする」というのは利用者の反発が大きい施策でもある。ダイヤに余裕が必要なら、その説明をおざなりにしてはいけない。
まず、利用者にご迷惑をかけると"お詫び"の意を伝えた上で、終電を切り上げなければいけない理由を丁寧に説明していく。利用実態がどうなのか、どれだけ社会にマイナスの影響があるのか、内部で分析した数値を伝える。そして、代わりにどのような"前向きなサービス"を提供しようと考えているのか。"マイナス要素"をリカバリーするだけの言葉が必要だった。"お詫び"をしながらも、自分たちはもっと前向きにいろいろと考えているんだ.....ということをきちんとアピールしないと。
この報道が各紙でなされた*2のは1月25日なのだが、その3日前に「1月定例社長会見」が行われている。でも、そこでは何も触れられていない。せっかく、JR西日本の社長が各マスコミの前で話す機会があったのなら、きちんと自らの口で言葉を尽くせば良かったのに。
不祥事やトラブルなどのマイナス面もオープンにしながらも、それを前向きなスタンスへと切り替えていく。企業広報の基本じゃないんだろうか。四年前の春、あらゆる方面からバッシングされ続けたJR西日本。ちょっと気の毒と思わないでもなかったけど、マスコミ対策というか、利用者への説明をおざなりにしてきたことに原因があったんじゃないのかなと感じた。そこらは今も変わらないなあと思うのだけど、それはまた別の話。