特急「つやま」で誕生日に誕生寺駅へ行く。

katamachi2009-02-19

 ここの読者は誰1人として関心ないことだと思いますが、2月15日は僕の誕生日でした。
 さしてバースデーに思い入れがあるわけでもないのだけど、今年に限って、公私ともに何も用事がない。せっかくの週末だし、どっか近場の温泉でも行って、1人わびしく自分で自分を祝おうかと思っていた。その矢先、大学鉄研の後輩A君から

この週末、「つやま」に行きませんか

とメールが。
 「つやま」、か……
 これは岡山〜津山の津山線を走るディーゼル急行の愛称。
 昨秋、朝日新聞の報道で、2009年(3月14日)改正で廃止される、と報じられ、マニアの間でにわかに注目を浴びているが、基本、岡山県内を走るだけの地味なローカル列車に過ぎない
つやま (列車) - Wikipedia
 ただ、この「つやま」。2つの特徴を持っている。

  • JR線で現存する唯一の昼行急行という希少さ
  • 普通用のキハ48使用にも関わらず急行料金必要という中途半端さ

 鉄道省国鉄→JRの伝統を引き継いできた昼行急行の最後を飾るのが「つやま」というのは、正直、かなり違和感はある。あまり気乗りしなかったんで廃止の日までスルーするつもりだった。
 でも……、廃止オタとしての興味はある。A君の強い希望もある。イレギュラーでキッチュな列車への関心はもちろんある。とりあえず、行ってみるか。
 日程調整の結果、2月15日となった。僕のバースデー。大阪から津山まで「つやま」で往復するだけという鉄道オンリーのスケジュール。三十路半ば独身の鉄道マニア2人旅が決まった。

津山線高速化に絡むJRと地元とのボタンの掛け違いで生まれた急行「つやま」

 80年代になってから国鉄→JRの昼間に走る急行のほとんどは特急格上げor普通格下げとなり、現存するJR急行は夜行の「はまなす」・「能登」・「きたぐに」、そして昼行の「つやま」1往復のみ。鉄道運輸史的には「JR最後の昼行急行」となるわけで、その点ではメモリアル的な存在となるのは確かである。
 ただ、同じ区間には、2009年2月現在、快速「ことぶき」が6.5往復している。所要時間も停車駅もほとんど変わらない。もちろん急行料金は不要。しかも、使用車両は普通や快速と同じキハ40系。本来なら普通列車向けの施設しか持ち合わせない車両を急行列車として使用するというのは、もちろん禁じ手である。僕たちは、そんなキワモノ的列車を"遜色急行"と呼んでいる。
 そんな津山線にも、かつて岡山〜津山〜鳥取を結ぶ急行「砂丘」が運転されていた。使用車両はキハ58系。80年代に各地でローカル急行は淘汰されていくが、「砂丘」に関しては高速バスなど強敵となるライバルが少なく、JRになった後もアコモ改善や塗色変更されながらも、それなりに頑張ってはいた。
 ただ、1996年に津山線が高速化されて95km/h運転が可能になったのをきっかけに、同線の運行形態は大きく変更されることになる。

  • 改正前は岡山〜津山〜鳥取に急行「砂丘」が5往復
  • 急行用のキハ58系の最高時速は85km/h。高速運転に対応できないので撤退→料金不要の快速に置き換え
  • 岡山から智頭急行線を経由して鳥取へ向かう特急「スーパーいなば」を設定して時間短縮を図る

がその方針。1997年をもって切り替えることになった。
 これに猛反対したのが、岡山県北部の中核都市である津山市の関係者。

 1997年、利用者減などからJR岡山支社が市側に急行「砂丘」の廃止を打診すると、商工会を中心に反対運動が盛り上がる。津山市など沿線の自治体、経済団体などは「津山地域JR急行砂丘号廃止反対協議会」を発足。「路線のさらなる縮小、地域のイメージダウンは避けられない」などと訴えた。
JR最後の昼間急行「つやま」で行く小旅行朝日新聞2008年11月23日

 特別な料金不要で同じスピードで走る快速が運転されることになっていたのだから、それはそれでいいと誰でも思うのだが、この時の津山市などは、急行が走らない町となって"格が落ちる"ことへの危惧があったみたい。鳥取行きの直通が智頭急行経由となつて津山をスルーすることへの不安。岡山県津山市津山線高速化工事への資金負担をしたにもかかわらず、ロングシート入りの一般車しか入れてくれないJR西日本に対する不信。そうした背景もあったんだろう。
 その結果、1997年11月改正から、

  • 快速「ことぶき」岡山〜津山 6往復
  • 急行「つやま」岡山〜津山 1往復

の運行が始まる。
 「ことぶき」には指定席が設けられるが、その座席は一般車と同じ車両のボックスシート。別料金をとるほどの価値もないと判断されたようで、2001年に指定券の販売は中止されている。
 「つやま」にしても、地元のご要望で存続したにしても、1往復だけでは何とも出来ない。キハ58にしても0系のお古のシートを使ってはいたものの老朽化は否めない。急行にもかかわらず津山線の最高時速である95km/hが出せないというのはいかんともしがたい。峠越えの区間ではさらにスピードは落ちる。
 結局、2003年にキハ40系のキハ48(2扉デッキ付き)に置き換えられている。
 ただ、やっぱり、この車両って急行用じゃないんだよね。実際、"急行"であることに気付かず急行券を持たずに誤乗する人も多く、いろいろトラブル、批判もあったんだとか。地元紙でもたひたび話題になっていたとも聞く。一方、「鉄道ジャーナル」2006年2月号のルポは、急行の方が快速よりちょっと早いところを評価する人、マナーの良くない学生が乗ってこないので落ち着ける点を評価する人の意見も紹介している。
 で、「能登路」や「みよし」、「陸中」など他線の昼行急行が消えていく中で、最後まで残ったのが「つやま」。それが2009年3月13日限りで運行を終える。

急行「つやま」と接続するのは500系「のぞみ9号」

 新大阪駅で10時に集合。
 10時9発の「のぞみ9号」の1号車自由席に乗るべくホームの先端に行くと、ちょうど東京からの列車が入線してくるところでした。

 う〜ん、500系。格好いいなあ。
 鉄道マニアから小さな子供、庵野秀明(by安野モヨコ監督不行届 (Feelコミックス)」)まで、みんな大好き。500系
 たとえ室内が狭くても、JR東海から嫌われても、扉が2つ少なくても、男なら黙って500系
 でも駅撮りは少ないなあ。2010年春の東海道「のぞみ」からの撤退は報道されているし、この3月改正で9号の運用から外れるはずなのに、あまり注目されていないのかな。
 1号車はかなり特徴的な点がある。
 先頭部が長細すぎて客室部分が狭くて扉が1つしかないってのはお馴染み。このデッドスペースも新大阪より東では嫌われる原因

 席は700系などと同様、3+2の5列だけど、幅員がやや狭くなる先頭の2列は2+2の4列。通路側に荷物台が置かれているのが特徴。

 天井のデザインもちょっと違う。画面左の乗客の上にある荷棚が曲がっているのは気付きましたか?

 鉄男2人。岡山までの40分ちょっと。なんやかんや挙動不審的なマニア活動を続ける。
 岡山駅10:57着。ここは3人ほど先頭部を撮りに来たんだけど、中学生くらいの子供が1人、柵から乗りこえながら車体に接近して携帯電話で撮り続けている。危ないよ。そして後ろの人にも配慮してくれなきゃ。

 デジカメ・携帯の写真機能が普及したここ7年ほど。老若問わず、鉄経験の少ない人たちが駅ホームに集まるようになったけど、現場でのあうんの呼吸が伝わってないのかな。写真派でない僕なんかでも心配になる。

乗換の岡山駅で衝撃のミスを発見! そしてキハ48使用の遜色急行「つやま」へ

 僕も後輩A君も切符のコレクター。
 「○○●駅発券の券面はどんな感じですか」と後輩が聞いてくるんで、さあて、急行券はどこかいなあ...と財布から取り出してみる。
 あれ、なんか違う。オレの方が料金が高い。
 岡山〜津山間の急行料金は"730円"。新幹線と乗り継ぎ割引が効くので"360円"で済む、はず。
 でも、オレのは"570"円....???? あああ!!!!!!

 「自由席特急券」とあるよ。大阪府内の某駅で、まだ経験が浅そうな駅員に、「急行券ですよ」と何度も伝えたのに。平成の御代に「急行」なる前時代的列車が存在するとは想像だにしなかったんだろうな。
 キハ48で特急券……。特急「つやま」。ロングシート付きの特急車かよ*1
 と、ちょっと失笑しつつ、「津山線特急券」というエラー券をゲットできる機会に恵まれたのに感謝する。コレクターとしては、万々歳。過去に一度たりとも特急が走ったことのない路線である。JRの窓口で頼み込んでも特急券なんか発売してくれない。せっかくの機会である。払い戻しせず、きちんと確保しておかねば。 
 そのまま、急行「つやま」に乗ろうとも思った。だが、検札の時に、車掌が僕の切符を見つけたら、どうなるんだろう。急行券を発券し直して差額の210円を返金→自由席特急券はそのまま回収......となってしまうんだろうな。
 なんで、岡山駅の窓口で正調の急行券を730円で購入。「新幹線に乗る前に買っていただければ、半額になったのに……」と駅員さんからアドバイスを受ける。いやあ、○○●駅で...と言いたくもなったけど、黙っておいた。


 9番線津山線ホーム。われらが急行「つやま」はここから11:13に発車する。
 すでにキハ48の2連は入線している。津山鉄道部色の体質改善改造車。キハ48-5+キハ48-1003の急行用?車両。

 色合いは比較的好感持てるんだけど、快速や普通と同じ塗色というのがなんとも。そうした見てくれでも一般車と差別化されていないんだよね。
 この列車が「急行」であることを自己主張するサボ。これも国鉄時代の定番のデザインなら……

 車内は、今は懐かしボックスシート
 キハ40系だから、車端部はロングシートになっている。「つやま」の遜色急行たる所以。

 でも、使用されているのはデッキ付きのキハ48。
 デッキ(扉スペース)と室内とを区分する仕切りが付いているという点では、国鉄時代の急行型車両に求められていた条件をクリアーしている。津山線の普通や快速に使われるキハ40系は、基本、デッキなしの一般車だし、その点では最低限の"差別化"はされている。JR西日本としても、そこらを考慮して、わざわざ寒地用のキハ48を急行用として岡山に持ってきたのだろう。ほとんどの客にとっては、あまり違いは分かってくれないと思うけど。
 設備のグレードは普通列車と同格だから有り難みは皆無だし、かといって旅行派の鉄道マニアが好むような"旅情"や"郷愁"も欠ける。なんにしても中途半端なんです。

急行「つやま」。淡々と津山線を走る

 発車間際に乗客を数えてみると、2両編成の車内にお客さんは50人ぐらい。意外にも多い。廃止間際というので、鉄道マニアさんが15人ぐらい。マジメな乗客がその残りという感じか。日曜なんで、ビジネス客よりも地元の方の線内利用がほとんど。
 この時間帯、岡山発津山行きの列車は、普通10:25発、急行11:13発、普通12:13発、となっている。「つやま」をスルーすると、あと1時間待たねばならない。待つのがイヤなら急行券730円が必要……微妙な値段である。やっぱ快速で十分だよなあ。


 11:13、定刻に発車。
 同行のA君が指摘して初めて気付いたのだけど、チャイムもないんだね。寂しい。
 駅を出ればすぐ左側が車両基地国鉄急行色に塗り替えられたキハ58+キハ28の2連が休憩しているのが見える。せめて、あれが急行に入っていれば、もう少し楽しいんだけど……
 本来ならルポっぽくいろいろ書けばいいのだけど、津山線自体、かなり地味な路線だし、金川から先の山間部の車窓も悪くはないのだけど、かといって褒め称えるほどでもない。
 小さな駅にいくつか停車し、古風な木造駅舎をいくつか見送り、福渡あたりで車掌の検札があり(もちろん、急行券を提示)、2,3人のマニアが駅撮りしているのを見て、A君との共通の知人からの誕生日おめでとうメール(ただし40歳男性)を受信して、12:18、定刻に津山駅到着。1時間5分後の旅はあまりにも呆気なかった。
 到着後、マニアさんたちみんなキハ48「つやま」を取り囲んで、写真撮影タイム。


 やっぱ津山駅はいいねえ。ホームの屋根、行き先案内板、裏側に広がる車庫と扇形庫。郷愁を誘うような魅力的なアイテムが目白押し。昨年、JR西日本は、「TRAIN+(プラス)」http://www.jr-odekake.net/navi/train_plus/などのキャンペーンで津山駅因美線などを取り上げ、車庫の公開や「みまさかスローライフ列車」の運転などを行っている。
 この冬から春にかけては特にイベント的なことはしないようだけど、3月になったら、さよなら「つやま」キャンペーンとかを展開するんだろうか。でも、キハ48だからなあ……

津山線でプラプラしながら、弓削駅から再度「つやま」乗車

 この後、津山線内で未乗降の駅が四つあるんで、津山→小原→津山口→神目→誕生寺→弓削と順次訪問してみる。

  • 小原駅は小さな屋根1つの何もない無人
  • 津山口駅もホーム一面に屋根とベンチがあるだけ。ただ広い駅前広場を見ていると往年はそれなりの乗降があった感じ。駅前に古い街並も残る。通過する「ことぶき」の撮影をしようとしたが、タイミング悪くて失敗
  • 津山口14:26発の955Dはキハ40系が4連。気動車特急でも2連、3連が当たり前の時代なんで、とにかく長大編成のような気がしてしまう。お客さんは特に多くはなかったけど

  • 神目駅は新築の木造駅舎。近くの川縁まで歩いてみる。駅近くに商店があるけど昔は簡易委託でもしていたのかな。
  • 誕生寺駅。JRの駅では3085番目の下車駅。「誕生日に誕生寺駅。これはめでたい」とオレ。ただ、ここも木造駅舎なんだけど、神目駅と同様、築年数はかなり新しいみたい。

  • 「乗車券は駅前の河村氏宅でお求め下さい」との掲示。駅横の河村商店に「誕生寺駅きっぷうりば」の看板発見! 下調べをしてこなかつたけど、ここには軟券の常備券(マルスや券売機などの機械発券ではなく、印刷済の切符です)があるのかなという予感でいっぱい。でも……、お店自体が閉まっている。日曜日の昼間。仕方ないのか。無念。せっかくの誕生日なのに……運が悪い話。

  • POS発券の急行券が欲しいから福渡駅へ行くというA君と別れ、弓削駅で下車。これで津山線全駅完全訪問。ここは昔ながらの木造駅舎。日が沈んでいるんで画像は眠い感じになっていますが、かなりイイ雰囲気です。もう1人、別なマニアさんも下車してきた。どこかで見た人のような気もしますが、まあそれはそれ。また駅周辺の散策に出かける。

  • 駅窓口で岡山までの急行券を購入。ここは委託の人が窓口に詰めているんだけど、切符は車掌端末での発券。ちょっとわびしい。集札した切符を見ると、ピンク色の常備券が……やはり誕生寺駅からの切符なんだとか。ううむ、無念。また機会があればチャレンジするか。
  • 16:05に津山行き「ことぶき」が到着。続いて岡山行き急行「つやま」も。ここで両列車が列車交換

  • 16:06に弓削駅定刻発。次の福渡でA君も合流。眠いんで互いにウトウトしている。岡山駅16:49着。これで「つやま」往復の旅が終了。

  • せっかく岡山に来たんで、岡山電気軌道の「おかでんMOMO」に乗りたい。新潟鐵工所製のLRV。県庁通停留所で捕獲し、東山線を往復する。木製のシートがかなりくたびれた感じになっている。岡電、もう新車はしばらく投入しないのかな?

  • 「のぞみ」を姫路駅で降り、ここから特急「はまかぜ」に。昨年末に高架化されたホームから乗車してみたかったんです。かにシーズンということもあってか、6両編成。自由席も指定席もそれなりの混み具合だったけど姫路駅で3割は降りたんで座席は確保。夜なんで景色は楽しめず。今日は珍しくダイヤの乱れはなく、定刻に大阪駅到着。

  • 追記

新型「はまかぜ」導入へ整備 ホームなど改良日本海新聞2009年02月18日と記事が出ていますね。寺前〜居組間で地上施設整備事業(高速化工事じゃない?)で10分短縮、「新型車両はカーブや傾斜の多い但馬の地形に適したタイプ。製作費用の負担額と導入時期は調整中だが、一〇年秋に予定されている余部橋の架け替え工事完了後の運行を目指す方針」


 と、途中からは、ここの文章のように淡々と趣味活動をこなすいつものモードに切り替わりました。
 「3月1日に一畑電鉄のイベントで松江に行くんで、その時『つやま』にまた乗りたい」と朝の段階では意気込んでいたA君。でも、帰りは「もう、いいです。十二分です。お腹いっぱいです」。同感です。お互い、「つやま」にはあまり思い入れはないもんなあ。とりあえず「はやぶさ」・「富士」・「ムーンライトながら」はスルーするつもりなんで、3月ダイヤ改正に関してのこだわりはもうなくなったかな。
 というか、この日、4月並みの気温になったとかなんとかで、鼻はムズムズするし、目は痒くなる。なんか例年より早く花粉症モードに突入してしまいました。これが始まると鉄道趣味活動のテンションがなかなか上がらないんだよなあ……とボヤきたくもなるのですが、それはまた別の話。

*1:ちなみに、九州の肥薩線にキハ40系使用の「はやとの風」という"遜色特急"が存在する