食パン顔のゲテモノ419系がだいすき!

katamachi2009-05-16

 鉄道マニアを三十数年やっていると、非鉄の周囲からいろいろ尋ねられる。「鉄道の中でどこか一番好きなの?」とか「オススメの鉄道はなに?」とかなんとか。それを知って何になるの?とか思ったりもするけど、まあ、この手の質問に正確かつ丁寧な説明はいらないんだろう。以前考えた例文をそのままテキトーに答えることにしている。
 そんな1つに「どんな車両が好きなの?」というのもある。これに対しても自分の中で答えを持っている。過去は京阪80系とEH10。現役では419系
 前者2つは自分の鉄道好きになった過去を語ればいいのだけど、419系については説明が長くなってしまう。
 この419系の基礎知識は以下の通り。

  • 北陸本線敦賀直江津間を走る普通用交直流電車
  • もともとは70年代に東海道・山陽筋を走っていた寝台特急電車583系
  • 寝台が大量廃止された後、特急から普通用に改造されて北陸本線に投入
  • 車歴が10年程度なのに余剰となった寝台電車の有効活用になると共に、当時、国鉄が積極的に行っていく地方都市の普通電車の運転本数増施策に寄与する

交流車バージョンの715系(仙台・九州地区に投入)と基本、同じなんだよね。
 そして、この電車が(一部の)鉄道マニアを魅了する屹立したポイントというのが、

  • なにはなくても安普請な改造。使わなくなった上段・下段寝台も収納状態で四半世紀も放置。無意味に屋根が高いのも寝台電車時代を彷彿させる
  • 座席は特急時代のまま。クロスシートに座ればシートピッチは広いんだけど、通勤電車として使うのなら収容人員は少ない。ドアは、改造時に増設されて1両あたり1箇所から2箇所になったのだけど、寝台車時代のまま折りたたみ式。横幅が極端に狭くて乗り降りしづらい
  • とにかく特徴的な顔。クハ419の6両は往年の寝台特急電車クハ583・クハ581のまま。後年の改造でヘッドマーク部分が塗りつぶされたり、微妙に厚化粧が施されている。クモハ419の15両とクハ418の9両は、寝台特急電車の中間車の一部を切断し、それに食パン状の運転台ユニットを取付。のっぺりとした妙な顔つきをしている


 その手抜きぶりと顔の異様さが、僕も含めた一部のマニアを魅了した。登場時のワインレッドカラーというのもインパクトがあった。


 1982年改正で583・581系が大量に余った後、1984年に715系が九州、1985年から715系が九州、そして419系が北陸に投入される。
 ただ、この寝台電車→普通への改造車は、国鉄末期の合理化→輸送改善→分割民営化の過渡期における一時的な物である......というのが関係者の了解であった。事実、715系の改造を報じる「鉄道ジャーナル」(1983年10月号?)で国鉄の担当者は

  • 国鉄再建の間の5年程度の使用である
  • ゆえに改造を簡略化した

旨の発言を行っている。
 なのに……、それから25年。いまだに419系はいまだ現役で活動している。すでに改造後の人生の方が、特急電車として活躍した時代よりも大幅に長くなっている。
 通勤電車として使うには定員が少なく扉が狭くて乗り降りしづらい……とかなり不具合はあるというのは、僕も金沢・富山近郊で朝夕に乗ったとき実感している。
 それでも、419系が長生きしているのは、機能が複雑な交直流電車の製造費(521系で2億円)が、直流電車(223系だとその6・7割で済む)よりもかなり割高になるという事情がある。90年代は北陸新幹線の開業時期がなかなか定まらず、また北陸地区のローカル輸送は需要面で期待できないし、なかなか新車を投入しづらかったというのもあるだろう*1。また新幹線開業後の第三セクター化のための諸々の事情があるというのも想像できる*2
 2006年に北陸・湖西線敦賀直流化がされた際、さすがに現役引退だろ……と思っていたが、その後もしぶとく生き残った。2007年には寝台車顔そのままのクハ419の前面が微妙に改造された。
 これだと2014年度とされる北陸新幹線の金沢開業ギリギリまで数年は残りそうだな
……と思っていたら、2009年度に再び521系が大量投入されるようで、来春以降、はたして何編成生き残るのか……という状況にあるらしい。
 おおお、ついに419系が消えるのか。
 と、予想通り前振りが長くなったんだけど、今日は、マイ・ベスト現役車両である419系について紹介してみよう。なお僕は車両派マニアじゃないんで、細かい話は鉄道趣味誌でも参考にしてください。

419系を歩く。

 まずは寝台特急電車全盛期を彷彿させる顔立ちをしている。クハ419

 前面の白色塗装が剥がれたり、鉄板の経年劣化で凸凹していて痛々しい顔をしているけど、これは僕らが大好きだった583系そのものだよねえ。
 ただ、貫通扉から隙間風が入ってきて運転士さんたちが大変になっているらしく、2006年の敦賀直流化の後、6両あったうち、2両が廃止されて残るは4両。2007年にクハ419-1は改造された。ヘッドマークと扉部が鉄板で埋められて新規に塗装をし直した。


 化粧崩れはちょっと直ったみたい。2008年に改造されたクハ419-2はまたちょっと違う感じでお化粧直しをしている。
 ちなみに、同じ北陸新幹線を走る「きたぐに」は583系を今でも使用中。こちらも外装も内装もかなりボロボロになっている。そろそろ国鉄色に戻してくれないかな……

<参考>「急行「きたぐに」が特急に昇格。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月



 そして愛すべきクモハ419クハ418。論評は省略、以下、ひたすら顔を並べる。





 これが偉大なる国鉄技術陣の造った車両か……。特急車の定番485系と並べるとこんな感じ。

 475系とだと、こんな感じ。

 伝統的な国鉄顔と並べると、その異形さが際だつ。<参考>「とれいん工房の鉄道省私文書館 「リバイバル くずりゅう」を撮ってきました。



 横顔はこんな感じ。


 う〜ん、側板がペコペコだよ。これ。改造から20年以上も経つと鉄板も腐食が進む。
 ボディーラインはこんな感じ。


 折りたたみ式のドア。定員の少ない583系や寝台客車ではこれで十分なんだけど、通勤電車でこれはなあ。冬だと隙間風も入ってくる。デッキがないんで車中も寒いんです。
 そして銘板。

 これは地元の松任工場産ですね。


 
 さて、中に入るとするか。
 寝台特急電車顔のクハ419の先端は扉が増設され、ロングシート化されている。

 運転台へと続く通路。ここらは583系と同じだなあ。ワンマン運転とかは絶対できない構造。まあ仕方ないんだけど。

 一方、食パン顔のクモハ419側の先端。

 運転台後ろの構造は80年前後の新車と同じ感じ。窓が大きく明るい感じになって、すぐ後ろはロングシートになっている。吊革から上部の天井までのスペースがムダに広いというのが寝台特急電車改造であるが由縁。
 座席は583系のまま。


 これが嬉しいんだよねえ。窓が薄汚れたままになっているのがちょっと……とは思うけど、座り心地がいいのは確か。急行型や通勤型の電車とは段違いだよ。18きっぷで長時間移動中に419系と遭遇すると嬉しい。
 その座席の上はこんな感じ。


 昔を知っている人は分かるんだけど、ここの膨らみの部分に583系時代の中段・上段寝台が収納されているんだよね。1984年の改造時にきちんと撤去しておけよ……と思うけど、そのまま21世紀まで昔の姿で生き残っています。
 扉部分は前述のようにロングシート。通勤対応で改造時に増設された。

 583系時代にはトイレは2つ。うち1つは閉鎖されて 、もう片方だけが現役で稼働中。

 こうした中途半端な改造具合が419系のステキなところ。


 最後に、419系のある風景を紹介してみよう。
 虎姫駅あたりの田んぼを走る419系

 ケツ撃ちで光線も変だけど、クハ419、それなりにカッコイイっす。
 そしてクハ418。


 光も何もかもイイ感じなんだけど……。まあ、食パンが一生懸命に走っている姿は素晴らしい。
 長浜駅では3番線が定位置でした。直流化にあわせての改造でホームの隅に追いやられた。

 敦賀駅も頭端ホームの5番線。ここもホームの隅にあったんで乗換が面倒だった。なんか扱い悪いなあ。

 トンネルの中にある秘境駅として有名な筒石駅での姿。

 真っ暗闇に鎮座するクハ419は、嗚呼、昔は寝台特急電車だったんだよなあ…って感じなんだけど、クモハ419は……

 地下ホームで待っているときに食パン顔が来ると、正直、気持ち悪いなあとか感じた。


 と、419系を紹介してみました。北陸新幹線開業まで持つかどうか微妙な雲行きだし、ぜひ乗ったことがない人は体験乗車して欲しい。20数年前まで特急「雷鳥」として使われたボックス席を定期列車で体験できるのはここだけ。いわゆる国鉄型車両の割りには食パン顔と安普請の改造で評価は高くないけど、その斜め19度に歪んだお姿はマニアたちを虜にしてくれる。
 でも、考えてみるとこれらの写真。別に419系を撮りにいこうとして撮影したのではない。SLや475系、福井鉄道など他の用事のついでにたまたま遭遇したとき、カメラに収めただけ。それだけ食パン顔は北陸本線ではフツーの姿だったんだけど、もういまでは敦賀以南には入ってこないんだよなあ......と寂しくも感じるのだけど、それはまた別の話。

*1:JR化後初の普通用交直流電車の新車521系が入ったのは19年目の2006年になってから

*2:信越本線でDD14除雪機関車が残り続けるのと同じ意味?