関西〜東京間の出張で安く便利に寝台列車に乗る方法

katamachi2009-07-10

 この木曜日、東京での会議に参加することになった。
 僕が住んでいるのは関西のとある街。会議の場所は品川なんで、無理すれば東海道新幹線で日帰りも可能な所にある。
 ただ、身柄が解放されるのは木曜日21時頃と予想される。会議の翌日、金曜日の朝には仕事場に戻らねばならない。東京21:20(品川21:27)発の最終「のぞみ」にはギリギリ間に合うかどうか。微妙なところ。
 こういうとき、寝台急行「銀河」があればラクだと思う。
 東京駅23:00発で大阪駅7:18着、B寝台で16070円。新幹線より3000円ちょっと高いんだけど、鉄道マニア的には十二分に許容範囲……だったんだけど、2008年3月15日ダイヤ改正で廃止されたんだよね。ある夜、「銀河」1編成で客が8人という惨状を見たこともあったりするんで、消えてしまうのはやむを得ないというのは分かっている。「ムーンライトながら」という選択肢も、今春に消えてしまった。
 かと言って、東京駅22:00発の寝台特急サンライズ」は京阪神をスルーして姫路まで止まらないんで、ちょっと使いにくい。
 ならば......と、今回、自宅の最寄り駅で「一筆書き切符」を作成してから東京へ出かけることにした。行きはベタに新幹線を使うんだけど、帰りはちょっと工夫して帰ろうと思った。ただ、木曜日の予定は未定なんで、乗車券以外は何も手配していない。

21時過ぎ、品川駅でマルスを叩いてもらって関西へ戻る手段を考える

 前日水曜日は神奈川県下で趣味活動をした後、横浜中華街側のニューグラウンドホテルに宿泊。終戦直後にマッカーサーの執務室が設けられたこともある由緒正しいクラシックホテルの1つだ。当日、電話で申し込んだら一泊11800円で宿泊できた。かなり空室があったからなんだろうが、定価料金の半額以下の値段である。
 さて、問題の木曜日。
 仕事絡みの食事会は21時20分頃に終了。
 まずは、品川駅中央口のみどりの窓口へ向かう。いつも十人以上の行列ができていて発券してもらうのに時間も手間もかかるところなんだけど、この時間にもなると待ち客は誰もいない。これは好都合だ。
 電光表示板には、品川発最終「のぞみ」の空席状況がまだ表示されている。今からならギリギリ間に合うが、今日の所はスルーすることに。
 窓口で待っていた女性駅員に、別の列車の指定を口頭で頼む。
 まずは上野駅23:03発の「北陸」。金沢までB個室寝台。
 JR東のB個室は、「個室」と言うには手狭ではあるが、料金6300円というのは値頃感がある。
 でも、満席。東京〜北陸間の移動に便利な「北陸フリーきっぷ」などでも利用できるから先に寝台が埋まっていくのか。
 とりあえずノーマルのB開放式寝台も聞いてみた。残席23。
「下段は空いているの?」
と聞くのだが、あまりマルスになれていないのか、どうやって下段の残席があるかどうか分からないらしい。B個室と同額と考えるとちょっと損した感じもするB開放寝台には、あまり乗り気にならなかったし、もういいよ、と操作を制する。
 続いて長岡発23:53発の急行「きたぐに」。
「じゃあ、それのB寝台で」
と頼んでみる。
「ながお、か、ですか?」とか言いながら、不慣れな手つきでなんとか「きたぐに」の画面までは到達した。残席があることは確認したが、操作がおぼつかない。
 「きたぐに」のB寝台は開放式の三段タイプしかない。プルマン式なんでスペースの広い下段なら寝心地は悪くないく、たびたび愛用している。ただ、上下の空間に余裕がない中段や下段だと、寝返りを打つのも難しい。下段が全部埋まっているなら「きたぐに」は勘弁被りたいという気持ちもある。
 ただ、目の前の女性駅員。下段があるのかどうかの操作ができないんだよなあ。発券までどれぐらい時間がかかるのか。
「下段、あるかどうか分かる...かな?」
と尋ねてみる。「え〜と、すみません」と申し訳なさそうに言うんだけど、彼女、マルス操作のマニュアル本を捲り始めた。ふと後ろを振り返ると、3人ほど行列ができている。これ以上、接客を長引かせることもできない。
 結局、「北陸」に乗ることにした。A個室寝台車シングルデラックス。料金13,350円と、B個室寝台の倍以上する。金沢までの短区間に相応しい値段と設備かという疑問もあるが、まあそれはそれ。


「北陸」最高級のA個室シングルデラックスの7時間の旅

 上野駅での「北陸」の入線は22:45頃だったと記憶している。尾久客車区から客車を先頭に推進運転で13番線へと入ってくる。上野駅発着のブルトレにだけ見られる珍風景の1つ。
 ただ、ちょっと寄り道していたら、すでにホームへ入線済。これは残念

 今日の牽引機はEF64-1053。国鉄時代最後となった新製の量産型電気機関車上越線用に投入された直流機で、「北陸」を長岡まで引っ張っていってくれる。平日の夜だけど、カメラを構えた人たちもちらほらいる。

 今日の僕の指定は3号車4番。

 これがシングルデラックスの車内。

 一応、A個室なんで、B開放寝台とかに比べると広いし、天井まで空間がゆったりと確保されている。B個室と比べても、寝室は倍ぐらいのスペースがある。
 それに、

と、洗面台が備えられている。
 他に、収納式のテーブル、石鹸やシャンプーなどアメニティセット(持ち帰り可)、コンセントなどがあり、ベッド脇の絨毯にはスーツブラシと靴磨き用ブラシが。
 ただ、この車両が改造でA個室として生まれ変わったのは分割民営化の翌1988年なんだね。それから21年。確実に陳腐化が進んでいる。壁や床の痛みが激しい。
 たとえば、この小型テレビ。

 当時は列車の中でテレビが見れると物珍しかったのだけど、デジタル全盛の今では物足りないんだよなあ。あらゆる意味で。ビデオチャンネルで邦画を放送していた。ヒマだったから見ていたんだけど、その作品が何なのか最後まで分からずじまい。
 と、まあ、最高級の寝台車としては、いろいろ御粗末なんです。3号車には個室が11部屋あるけど、僕ともう1人しか客はいなかった。


 ホームでパチャパチャ写真を撮っていると、発車時刻が近づいてきた。
 定刻、23:03、ゆるりとホームから動き出す。
 赤羽駅通過を見送ると、上野駅構内の構内で23時までやっている食品スーパーで購入した夜食を用意。

 富山の名物駅弁「ますのすし」に半額シールが貼られているのに遭遇。駅弁が割引販売されるのって実際あまりないんだよね。晩飯を食べた後だったんだけど、つい手が出てしまった。
 半時間ほどで23:30、大宮駅に到着。帰路につくサラリーマンたちでこの時間でもまだホームにはたくさんの人たちが電車を待っている。で、こちらは大の字になってベッドの上でゴロリ。鮭のサラミをつまみにしながら、炭酸飲料水で晩酌を愉しむ。

 こういう瞬間、夜行寝台っていいなあと感じるんだよね。
 

 この後、0:32の高崎の到着は覚えている。水上に運転停車したことも。でも、長岡での機関車付け替えは記憶ないんで、それなりには眠れたんだろ。
 次に気がついたのは富山。翌朝5:33着。高岡、津幡と停車し、終点の金沢には6:24着。


 A個室の旅は、わずか7時間で強制終了した。
 さて、この後、隣のホームへ。

 停車しているのは「しらさぎ」。これに乗れば米原へ9時前に着く。続行する「サンダーバード」だと、京都に9:11、大阪へは9:39に到着する。

京都→東京→高崎→宮内→柏崎→金沢→近江今津→京都の運賃は14070円

 と、2泊3日(うち夜行1泊)の東京出張を終え、金沢到着時にはちょっと寝ぼけ眼だったけど、昨晩の浅い眠りを北陸特急で補充しながら職場へ直行。始業時間前にはきちとん出勤し、ややテンション低いながらも仕事を終えて、さっき自宅に帰ってきた→日記を書いているところです。
 まあ、こんな回りくどいことをしなくても、きちんと「のぞみ」の最終に間に合うように宴会を切り上げれば良かったのだし、あるいはビジネスホテルに泊まって朝イチの新幹線に乗っても良かった。夜行バスという選択肢もある。
 ただ、最近、ちょっと生活から鉄道色が薄れてきたんで、久しぶりに趣味活動をしたくなったんです。東海道新幹線で単純に往復するのって、飽きるんだよね。
 実際、「銀河」や「ムーンライトながら」がなくなった今でも、工夫すれば、いろいろ選択肢はある。東京と関西の移動に北陸経由を挟むというのは以前から鉄道マニアにはよく知られていたルートだし、「北陸」A個室はかなり割高であるにしても、「能登」や「きたぐに」だと新幹線単純往復より安く済ませることはできる。
 タイトルは「関西〜東京間の出張で」としたが、もちろん東京から関西方面への移動の時も可能だし、名古屋発着・山陽地区発着なんかでも応用することはできる。要は「一筆書き切符」を作成できるか否かである。


 仮に京都を起点とし、東京との間での夜行時間帯の移動はこんな感じになる。
 

 行きか帰りに夜行を使い、片道は東海道新幹線利用。
 金沢なり長岡なりで一度乗換は必要になるんだけど、「夜行列車」として使うには、意外に時間帯は悪くないんじゃないかと思う。


 そして運賃。

  • 東京〜京都〜東京の運賃&料金(片道「のぞみ」自由利用)
    • きたぐに」29,300円  乗車券14070円、きたぐにB寝台下段6930円(自由席630円)、とき自由席3570円、のぞみ自由席4730円
    • 能登」22,370円  乗車券14070円、サンダーバード自由席2310円、能登自由席1260円、のぞみ自由席4730円
    • 「北陸」30,240円  乗車券14070円、サンダーバード自由席2310円、北陸B寝台下段9130円、のぞみ自由席4730円

 「能登」や「きたぐに」の自由席利用なら23,000円前後。寝台を使っても3万円前後に抑えられる。
 ちなみに、東海道新幹線での往復だと、

    • 「のぞみ」25,420円(東京〜京都を往復)

となる。寝台車利用でも新幹線プラス5千円なら、ビジネスホテルと比較検討してみてもいいかも。
 これだけ安くなるポイントは、冒頭で書いたように「一筆書き」の切符を事前に購入しておいたから。
 京都起点で考えると、

  • 京都→東京→高崎→宮内→柏崎→金沢→近江今津→京都

と一筆書きルートで切符を作成すれば、運賃は14070円で済む。京都〜東京間を往復で買うと、運賃だけでも15960円もする。2千円近くもお得になる。
 JRの運賃というのは、遠距離逓減というのがあって、東京起点だと、

  • 熱海 104.6km地点 1890円
  • 京都 513.6km地点 7980円
  • 小倉 1107.7km地点 12810円

と、遠くに行けば行くほど、1kmあたりの運賃が安くなる仕組みになっている。それを使ったのだ。大阪発着なら、大阪→東京→宮内→京都と買い、後で京都→大阪間を買い足せばOK、ということになる。


 なんで、割高なはずの北陸経由、しかも寝台車利用でも、それなりに安く済ませることができる。もちろん、座席や寝台での夜間の移動をどう考えるかによって、その値段の価値は変わってくるのだろうけど、その値段差や労力を厭わないのが鉄道マニアたるもの。
 ただ、雪のシーズン、あるいは台風や大雨の時期だと、天候が荒れそう→ダイヤが乱れそうになると、この3つの夜行列車、すぐ運休させられてしまうんだよね。関西から北陸経由で東京へ行こうとして、「北陸」or「能登」に乗り込もうとしたら突然運休の掲示が出て、金沢のビジネスホテルに泊まらざるを得なくなったことが2回あります。天気のリスクがあるのはちょっと考え物。
 ただ、「北陸」「能登」「きたぐに」も2014年度とされている北陸新幹線金沢開業後は存続すら危ぶまれるのは確実。まだ5年以上もあるんだし、できれば廃止間際じゃなくて、ちょっとした移動にでもこうした夜行列車を利用して欲しいなあ……と思ったりもするのだけど、それはまた別の話。<参考>
鉄道が好きならば、みんなで乗って残そうブルートレイン。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月