JR王子駅ホームから見える謎の鉄道「飛鳥山公園モノレール」に乗る。
今年2月くらいから京浜東北線利用者の間で秘かに話題になっていたという謎の輸送物体。6月くらいからゴンドラみたいなものが行き来を始めて……
……と、わざとらしく言うのもなんなんで、率直に言っちゃうと嘉穂製作所のスロープカーが7月17日に開業しました。東京都北区役所まちづくり部の作品で「飛鳥山公園モノレール」。
で、遅ればせながら東京出張の帰りに立ち寄ってみました。7月29日のことです。
さあて、京浜東北線のホームに降り立つと、すぐ側に小高い丘、飛鳥山があって、その脇に、もうお目当てのスロープカーが行き来しているんですね。
なんで急いで中央改札口を降りて左に歩いて1分。もう飛鳥山モノレールの乗り場です。意外に未来的なデザインの駅と車両がそこでは待っています。
夏休みに入ったからか、見物の家族連れが6人ほど。到着したモノレールを待って乗り込みます。
イスは6つ。定員は16名。ただ、ギュウギュウに乗るとかなり狭いんで、10人ぐらいが限界かな。車いすの方でもスムーズに乗降できるというのが最大の売り。まあ、斜めに動くバリアフリー対応エレベータ的な成果もあるんです。
車内はこんな感じ。
狭すぎてうまく撮れてないのはご容赦を。まあ、観覧車のゴンドラを大きくした代わりに、エレベーター的にデザインしたって感じですね。前後左右が窓ガラスで覆われているのは評価が高い。
壁にはエレベーターっぽく押しボタンも。
「公園入口」「山頂」と行き先表示が。これが「駅名」ですかね。北区役所のHPだと、「飛鳥山公園入り口〜飛鳥山山頂」とある。
そばにいた子供が「押したい! 押したい!」とか言っていたけど、操作するのは北区役所から派遣された警備員の人。他の嘉穂製作所製モノレールは自分で操作できるところもあるんだけどなあ。「大きなおともだち」の1人としても残念です。
さてさて、11:04に係員が外部の装置でドアを閉める。発車の準備だ。
まもなくスルスルって、ゴンドラが動き出す。車内からいっせいに歓声が。
少し登っていくと、真後ろに王子駅が。京浜東北線の電車がちょうどやってきた。後ろには東北新幹線200系が。おお、鉄道マニア的には抜群のロケーションです。
そして右手には東京都電荒川線の電車が。イスに座っている子供たちがあわてて携帯を構え始める。
いやあ、イイっす。 さらに湘南新宿ライナーが通過していくのを見送ると、
そろそろ終点です。飛鳥山山頂駅。11:06着。
お出口は左側。みんな楽しそうに降りてきます。
お連れのお母様方のセリフ
「箱根みたい。こんなに近くなのに、なんか旅行をしている気分になれるわね」
その気持ち、よく分かります。わざわざ遠くに行かなくても、夏休みを消費することを切望している子供たちへのサービスになる。なんせ、王子駅前徒歩1分でこんなところがあるのならね。
次は、また別の乗客たちを乗せて動き出します。
片道2分の旅がスタートです。
あとは撮影タイム。
まずは山頂駅付近から。
時刻表はないけど、ひっきりなしに客が来ているんで、概ね8〜10分に1本の割合で動いていました。頻発運転しているから撮影のチャンスは何度もある。
次は下の飛鳥山公園入り口駅。
ちょっとモノレールに近すぎて撮りづらいかな。
オススメは道路の反対側。横断歩道がないんでかなり大回りになるけど、全体的な路線や車両を抑えられるポイント。
下の道路を行き交う都電荒川線の電車との併走シーンも実現しました。
そして、モノレールから少し離れて地下鉄南北線の駅の方にある北区役所系複合ビル「北とぴあ」。その17階の展望台から。
東北新幹線、京浜東北線、東北本線、湘南新宿ライン、都電荒川線、そしてモノレール……。いろんな列車が行き交う風景はいつまで眺めていても楽しいですね。
ちなみに、ここの鉄道モドキ。
モノレールと言っても上野動物園や千葉、湘南、大阪にあるような本格的なモノではなく、どちらかというとエレベーター系の移動物として取り扱われているんです。なんで、国土交通省の鉄道系の部署の指導監督は受けていない。
斜面に棒状の鉄骨(レール)を並べ、そこをゴンドラがラックピニオン方式で歯車を噛み合わせ市ながら登坂していく。最大勾配50度。レールも車体も軽量の素材で造っているんで、かなり簡素化されていて、今までのロープウェイやケーブルカーほどの建設費はかからない。
この簡易モノレール。福岡の事業者である嘉穂製作所http://www.kaho-monorail.com/index.htmlによって、1990年頃から九州など西日本地区を中心に敷設されました。商品名は「スロープカー」。斜行モノレール、あるいは単にモノレールという呼び方がされることもあります。
最近は関東地区や関西地区での進出も著しく、横浜市南区や箱根、京都、三田などにも登場しています。
僕の最近のエントリーだと、「横浜市南区の霊園「南の丘メモリアルパーク」で鉄道趣味活動をしてきた。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」がそう。
あと、先々週は「姫路のパラダイス」こと太陽公園白鳥城でも乗ってきました。
デザインは、帯の色以外、飛鳥山のとほぼ同じでしょう。
首都東京の駅前で認知度も高くなりそうな飛鳥山公園モノレール。ここへの進出をきっかけにかなり知名度が上がっていくかも……
なお、この7月の利用者は土日で1200〜1300人、平日でも数百人。時間帯によっては順番待ちもあるんだとか。飛鳥山公園は桜の名所として江戸時代から名高いところだったようで、今では北区飛鳥山博物館、紙の博物館、渋沢資料館(渋沢栄一の旧邸)、D51、都電6000系など、市民に注目される施設もいくつかある。
王子駅側から公園へは階段なりスロープなりを使わねばならず、高齢者向けのバリアフリー対策としてその意義は小さいモノではない。事実、高齢者や障害者がこの施設を利用されているのを何度かみかけた。
面白いのは買い物袋を持った高齢者もいたこと。係の人に聞いてみると、勾配のキツイ道路(路面電車の通る明治通り→本郷通り)を登るのがしんどいんで、駅周辺で買い物をした人たちがスロープカーを使って、公園の中を抜けていくという利用もあるんだとか。
そして小さな子供たち。町に突然できた妙な乗り物への関心は高い。ぜひ大切に利用してあげて欲しい。
一方、大量輸送には向かない、何十年も長持ちしない、とにかく遅い、とかデメリットもあるけど、費用は低廉だし(飛鳥山モノレールだと、2億円程度)、地域おこしとかを睨んでいる自治体や自治体系観光施設なんかではこれからもっと注目されるかも。もっとも、なんかナウなものに「バリアフリー」とか「地域活性化」とかお題目を付けて、先行きも考えずに飛びつくのはマズいんだけどなあ……とは思うけど、それはまた別の話。
追記
飛鳥山公園モノレール資料集。
桜の名所として知られる東京・王子の飛鳥山に、東京都北区がレールの上を走るゴンドラを設置することになった。駅周辺のバリアフリー化の一環といい、来春の花見シーズンまでの完成を目指し、新年度予算案に工事費約二億円を計上した。
北区によると、JR京浜東北線王子駅の公園口に近い飛鳥山公園の明治通り沿いと山頂付近に小屋を造り、その間を長さ約五十メートルのレールで結ぶ。
ゴンドラは十六人乗りで、エレベーターのようにボタンで上り下りの操作をする。標高差は約二十メートル。レール上を走るゴンドラのある公園は都内でも珍しいという。
<北区>飛鳥山にゴンドラ設置 花見や散歩しやすく東京新聞2008年2月23日
2008年段階で予算は計上されていたんだね。約2億円。目的は階段のない王子駅→公園の間のバリアフリー化。
この後、飛鳥山公園の王子駅寄りの壁面が削り取られ、モノレールの線路が敷かれていく。鉄道工事が始まったのは2009年内に入ってかららしい。
北区の資料はこちら。
飛鳥山公園モノレール
- 飛鳥山の標高は25.4mで都内で一番低い山
- 王子駅周辺地区の都市整備計画の一環で企画
- 飛鳥山公園昇降施設設置に1億8800万円(その他公園整備に3億1200万円)。
- 国土交通省の「まちづくり交付金」を利用(事業費の40%交付)
と言うことが分かる。
大まかなデータはこちら。
http://www.city.kita.tokyo.jp/docs/inform/437/043733.htm