消える旧国鉄バス熊野線「栗栖川駅」の自動車駅を見物する。

katamachi2009-09-15

 先日の「パンダを見に、南紀白浜アドベンチャーワールドへ行く - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」の後、紀伊半島最深部にある龍神温泉の由緒ある木造旅館「上御殿」に宿泊。その翌日は熊野古道の周辺をレンタカーで移動していた。
 で、その道中、見つけたのが、これ。

 ただのコンクリートの建物なんだけど、これって西日本JRバス熊野線(紀伊田辺〜栗栖川)の「栗栖川駅」なんですよ。紀勢本線から熊野古道方面へと続く国道を行くJR系のバス路線の終着駅。
 バスの駅? というと不思議がるかもしれない。
 フツーのバス停は路端にバス停のポールが一本立っている程度だし、建物や駅前に乗り場がいくつもある大きな施設は「バスターミナル」と呼ぶ。バスで「駅舎」というのは不思議な話。でも、30年ぐらい前、いや20年くらい前でも、そうした国鉄バス→JRバスの「駅舎」はあちこちに残っていたんだよね。
 今日は僕の守備範囲外だけど、バスの話。

国鉄バス熊野線栗栖川駅は2009年9月いっぱいで廃止

 さて、栗栖川駅。和歌山県田辺市中辺路町の栗栖川集落に位置し、いわゆる「熊野古道」観光の拠点となる中辺路町の中心ポイント。現在、西日本JRバスは紀伊田辺駅との間を往復している。
 看板には「栗栖川駅」と大書きされている。

 時刻表を見ると、紀伊田辺駅まで1日12往復。旧国鉄以来のバス線としてはかなり多い方。かつてはここから熊野古道ウォークの拠点である近露、そして熊野本宮まで行くバスが3往復ほど運行されていたが全廃。今は龍神バスが本数を増やしながら代行して路線を走らせている。

 かなりくたびれた感じの待合室の中には窓口の痕跡もあるんですよ。かつてはここに職員さんが常駐して、バス券や国鉄線直通の切符も売られていたんだろうな。

 でも、ここでも合理化の波が。

 帰ってから調べると、こういうことになつていました。

 西日本ジェイアールバス(本社・大阪市)は6日、和歌山県田辺市湊のJR紀伊田辺駅田辺市中辺路町栗栖川で運行していた路線バス「熊野線」を9月末で廃止すると発表した。利用者の減少が理由。10月からは明光バス白浜町)が同路線を引き継ぐ。
 熊野線(24.6キロ)は2002年4月、それまで終点だった田辺市本宮町の熊野本宮大社前を栗栖川に短縮、1日12往復運行していた。03年度は1日平均344人の利用があったが減少を続け、08年度は210人とピーク時の3分の2を割った。ジェイアールバスによると、明光バスの運行になる10月以降も、運行回数や料金に変更はないという。
「田辺―栗栖川」廃止 ジェイアールバス紀伊民報2009年08月07日
路線バス廃止のお知らせ 西日本JRバス

 でも、小さなローカル線の有人駅格下げの無人駅程度の施設がきちんと整備されていて、ベンチとかも備えられている。自販機もあるし、バスの車庫も完備。2階にはバススタッフの駐泊室があって、現在でも使用している模様。朝の便への乗務のときとか休憩で使うのかな。
 ただ、西日本JRバスが和歌山で営業している路線は、この熊野線だけ。
 以前は、紀伊田辺〜来栖川〜熊野本宮と熊野線バスは繋がっていたし、そこで五条〜城戸〜十津川〜熊野本宮〜新宮間の五新線バスとも連絡。海岸沿いを走る紀勢本線に対し、内陸部を網羅するバス路線として一定の戦力を保っていたのだけど、人が少ない地域だし、国鉄→JR系へと移管されていく中で合理化、ローカル線の廃止が進み、ついに和歌山県下のJRバスの路線バスは全滅してしまうことになる。


消えていく国鉄バス。そしてバスの拠点となった「自動車駅」

 戦前から運行されてきた国鉄バスは、1987年の分割民営化の際、各JRの子会社・直営として引き継がれていく。
 ただ、このバス路線。国鉄末期から経営の重荷になっていた。
 1975年頃までは、国鉄の駅を拠点として地方に路線を展開していた。計画されながら実現していない国鉄予定線(未成線)に先行する形で、国鉄が直営でバス路線として営業をしていたケースが多かった。当初はあまり民間資本は地方過疎部のローカル線の営業に積極的でなかったし、公的機関である国鉄の経営するバスをおらが集落にも運転してもらおうと様々なところで政治運動が展開されたりした。
 国鉄バスは値段が安かったというのはもちろんあったが、何よりにも国鉄という全国ネットワークの鉄道網と連携しているという安心と信頼も大きなポイントとなった。
 ただ、鉄道線のフィーダー路線(培養路線)という意味合いが濃かったため、営業所が全国に何百と分散していて、なおかつ抱える路線も少なく(民業圧迫にならないよう配慮がなされ、黒字路線への参入機会がほとんどなかった)、非効率極まりない存在になっていた。おまけに、なかなか民間バスも手を出さない過疎路線が多かった上に、しかも採算が取れないと、親方日の丸的どんぶり勘定の世界がいつまでも続いていた。
 国鉄末期の合理化で80年代に大幅に路線が廃止され、それを引き継いだJRと子会社も続けて整理に取り組む。


 で、そうした国鉄バスの幹線区間には、拠点となるバス停にはバスの駐車場や転回場が確保されていた。さらにコンクリ造りの「駅舎」には待合室と共に切符販売の窓口やスタッフの休憩所も設けられた。ここではスタッフが常駐し、国鉄線直通の切符が販売されていた。「栗栖川駅」でも紀伊田辺駅経由和歌山駅行きとか天王寺駅行きとかの硬券切符も販売していたんだろうな。
 そうした施設は「自動車駅」と呼ばれた。鉄道駅に準じる存在であった。


 有名なのは、国鉄バス志賀草津高原線の「草津温泉駅」(群馬)。吾妻線と共に草津温泉の玄関口となる国鉄バス拠点で、かなり大きな「駅舎」を持ちつつ、みどりの窓口が設けられ(国鉄バスの自動車駅で唯一)指定券の発券をするなど特別的な存在だった。
 そんな大きな施設でなくても、ちょっとしたローカル鉄道の小さな有人駅レベルの自動車駅は随所で設けられている。

「城戸駅」、「嬉野温泉駅」、「葛巻駅」、「野津駅」、「十和田湖駅」、「村所駅」……

  • 城戸駅

 この近在だと、旧国鉄バス阪本線(奈良県五條市)「城戸駅」。国鉄線として建設されながら完成が見送られた路盤を国鉄バス専用道として運行していたのだ(拙著「鉄道未成線を歩く (国鉄編) JTBキャンブックス」参考)。

 鉄道駅予定地に「城戸駅」が設けられていたのだけど、2002年の廃止→奈良交通バスへ移管後もまだ待合室の機能は生きている。駅前に商店があるというのも時代を感じる。

 「城戸駅」の駅名標は変えられたけど、代わりに奈良交通のものがはめられている。

 あと、最近行ったのは、佐賀県の「嬉野温泉駅」。ジェイアール九州バス嬉野線として武雄温泉駅〜「嬉野温泉駅」〜彼杵駅の路線の拠点で、バスターミナルを他社と共有している。今でもバス乗車券を扱っているらしいんだけど、僕が行ったときは閉鎖されていた。


 ちなみに、現在、九州新幹線長崎(西九州)ルートの中間駅として嬉野温泉駅(仮称)が近在で設置を予定されている。

 ジェイアールバス東北の小鳥谷線(葛巻駅〜小鳥谷駅〜一戸駅〜二戸駅)や沼宮内線(葛巻駅〜沼宮内。現在は路線縮小)といった東北本線岩手県北部の各駅と内陸部を結ぶ路線の拠点。JRの子会社になった後、駅舎が建て替えられて旧「葛巻駅」の面影は隅っこの車庫ぐらいしかない。今では切符も販売を取りやめたらしい


 他でも何度か見かけたけど、基本、バスには興味がなかったんで、あまり写真や資料は残していない。
 記憶にあるのは、1992年に乗ったJR九州バス(当時は直営)の臼三線日豊本線臼杵駅豊肥本線三重町駅をショートカットするバス路線だったのだけど、途中、「野津駅」で長時間停車したんで切符を記念に買った。
 あとは「十和田湖駅」十和田北線と十和田南線を乗り継いで、青森駅十和田湖駅〜陸中花輪駅と縦断したことを思いだす。この路線は指定席があったし、今でも自動車駅は建て替えながらも健在らしい。
 あと、国鉄妻線(宮崎)と湯前線(熊本)を結んでいた国鉄バス日肥線。妻駅〜越野尾〜村所駅〜湯前駅と結ぶ路線だったけど、村所駅(西米良村)にも自動車駅があった。ここで乗換で長時間待たされたなあ。2001年に行ったときはまだ「村所駅」跡の建物は売店として生き残っていたけど、今はどうなるんだろう。
 北海道や東北では自動車側が鉄道駅の運営を任されるケースもあったなあ。岩泉駅とか。自動車駅の方で切符を買ったなあ。「岩泉駅前駅」という印字があったのが印象深い。
 そうした旅行の自動車駅でゲットした硬券を以下に。



 ただ、そうした国鉄バス→JRバスの遺産も次々と消えていっている。
 JRもある程度は路線は引き継いだのだが、管内にバラバラに営業所を抱えているという非効率な状態が解消されない限り、経営が好転する見込みが立つはずもない。90年代にも次々と廃止が進み、バスの自由化が図られた後、2002年頃までにあらかたの路線は消えた。

 残るJR系の路線バスは、ジェイアールバス東北ジェイアールバス関東中国ジェイアールバスはまだそれなりに路線を抱えているけど、後は北海道の札幌都市圏が目立つ程度。
 残りの地区の路線は

って感じになっている。国鉄時代の時刻表の路線図のページと見比べると、かなり寂しい状況だ。

 バスに思い入れのあまりない僕でも、やっぱり国鉄の遺産の一側面だからねえ。気にならないというわけでもない。特に、鉄道駅の雰囲気を持っている自動車駅。プレハブの安物や、他の施設との合同施設に建て替えられたものも多いんだけど、昔の雰囲気が残っているものは訪ねて歩いてみたいなあ……とか言い出したらキリがないんだけど、それはまた別の話。