北条鉄道と加西市役所と小野市役所が大変だ。

 なんか北条鉄道が大変だ。
 経営が大変だったのは前からだったんだけど、ちょっときな臭くなっている。たとえばこれ。

 加西、小野両市を結ぶ第三セクター北条鉄道(社長・中川暢三加西市長)は19日、次期の社長と鉄道部長を一般公募すると発表した。観光振興のアイデアを持ち、乗客増に貢献できる人物を求人。
3セク鉄道が社長公募 兵庫の北条鉄道神戸新聞、2009/10/19

 鉄道会社の社長を公募するというのは、いすみ鉄道山形鉄道ひたちなか海浜鉄道がやっている。報酬年700万円程度というのも同じくらい。民間活力を使って経営改善したいというほど甘い世界ではないと思うが、関連する県庁なり自治体が、失敗すれば廃止ということも視野に入れた上での模索の過程だと言うことは想像できる。加西市役所もマネしたのか。

  • 民間人材の導入は、取締役と鉄道部長の退職を受けて決めた。
  • 12月下旬に着任し、半年間副社長を務めた後に昇格。中川社長は会長に就任する

ということらしい。中川社長というのは加西市長。長らく兼任を続けていた。

  • 経営改善に力を入れ、年間平均3千万円あった赤字は、2008年度には約1500万円に減少

とは頑張っていたんだなあ。
 でも、あれ、2ヵ月後に着任か。気の早いところだ。北条鉄道って所帯が小さいところなのに、取締役と鉄道部長が同時に退任するのか、なんでだろと不思議に思っていると、2日後に続報が来た。
 「給料水増し150万円着服 北条鉄道元取締役」
 トホホ。

北条鉄道での不正を黙っていた北条鉄道社長&加西市

 加西市の第3セクター北条鉄道(社長=中川暢三加西市長)で、経理担当だった元取締役の男性(70)が、自分の給料を水増して約150万円を着服していたことが20日、分かった。元取締役は全額返金したうえ退職しており、同鉄道は刑事告訴しないという。
 北条鉄道によると、常勤の取締役の報酬は月額5万円だが、赤字経営のため元取締役らは返上している。元取締役は、経理の仕事で時給800円の給料を得ていたが、実務を1人で行っていたため、2007年3月〜09年8月、時給を草刈りのアルバイトと同じ1040円で請求し、受け取っていた。
給料水増し150万円着服 北条鉄道元取締役神戸新聞、2009/10/21

 いろんな事情があるのだろうけど悲しい話である。
 ここでおかしいのは、

  • 1995年に正社員→06年2月にアルバイトで再雇用(経理担当? 時給制)→06年9月に取締役(時給制)
  • 9人いる取締役のうち、報酬があるのは常勤の元取締役と専務取締役だけ

というところ。これもいろんな事情があるというのは分かるけど、時給制のアルバイトで経理を雇うというやり方自体がおかしい。
 そもそも鉄道業界ってのは日銭で食っている世界なんだし、駅員さんが盗ろうと思えば、カウンターに置いてある金銭を頂戴することも不可能ではない。しっかりしている大手でも売上をちょろまかしたトラブルは散見している。先月も西武鉄道本川越駅の駅員2人が拾得物である現金2万円を盗んだ疑いで逮捕されたりしている。自治体が委託を受けている駅でのトラブルもあったなあ。
 役所内というのは金銭管理はしっかりしているのだけど、こと外郭団体や第3セクターになると、杜撰なところも散見される。その面でもコスト感覚は薄い。
 だからこそ、きちんとした管理体制が必要なのに、問題となった人物が、常勤取締役兼経理担当(ただしバイト)というのは何かが違っている。彼が不正をやろうと言えばなんでもできる状態にあったと言うことなのだ。
 そういう事件があって、それゆえに取締役が退職したにもかかわらず、北条鉄道社長、というか加西市長は、内部のトラブルを秘匿しながら、社長公募というパフォーマンスをやってしまった。"取締役の退職"の理由を気にしたマスコミが突っ込んだゆえに、この不正が発覚したのだろう。

中川社長は「内部管理もできる常勤の社長を公募し、法令順守を徹底したい」としている

というコメントとか、ヨソ事過ぎるよ。中川暢三北条鉄道社長=加西市


トラブル続きの加西市役所とその周辺

 一方、小野市役所の市長の記事にこんなのがあった。

 加西市長の交代に伴い、役員交代が予定されていた10月24日の北条鉄道の取締役会及び株主総会が現加西市長側から急遽キャンセルされました。代表取締役であった前加西市長が辞表を提出されていたものの、以後、交代を決める取締役会も開かれないため事実上社長が決まっていないという異常な状態であります。
北条鉄道の社長不在放置に対する抗議こんにちは市長です2005年11月30日

 小野市の市長も「無報酬の取締役」、すなわち名誉職だったんだね。

  • 小野市民の北条鉄道は少ないが、お付き合いで出資(5%)&経費の一部を負担してきた
  • 営業開始以降、毎年約3000万円の赤字が続いた
  • 加西市役所が地域住民の足として北条鉄道を守っていくという決意→歴代の加西市長が自ら代表取締役に就任されてきたものと理解
  • 2005年5月、加西市長に就いた中川暢三氏は北条鉄道社長に就かず→11月まで社長不在
  • 同年10月、中川加西市長は「経営改革のために自らは取締役に就任せず、民間人を社長に起用しようと考えている」
  • 小野市役所に不信感。「小野市長としても取締役を辞任する旨をはっきりと申し上げました」
  • 同年11月21日、小野市長が北条鉄道の取締役を辞任。「抗議の意味で辞しています」

結果的には、小野市長の取締役辞任という抗議がキッカケに・・・・市長就任後5ヶ月も経て、ようやく加西市長自ら北条鉄道の社長に就任することを表明され、「北条鉄道の再生のために」という声明文が出されました。
言い訳に終始する 北条鉄道 新社長 2005年12月15日

北条鉄道 小野市長が取締役辞任神戸新聞ニュース:北播/2005.11.25/
 小野市長と加西市長との関係は四年前からややこしかったんだなあ。もうコドモのケンカだよ。
「小野市長は前々から北条鉄道の役員を辞めたかった・・・ちょうど良い機会だから辞任した」
というのは、小野市役所や市長、市民の本音なんでしょう。たぶん。
 確かに、小野市内にある北条鉄道の駅って、起点の粟生駅のみ。市民が支線である北条線を利用することはほとんどない。メリットも少ないとは想像できる。お付き合い程度の出資というのも分かる。
 ただ、隣の加西市のトップとして語ってイイ言葉なのかどうかは別ですよね。分別のあるオトナなら言わないでしょう。
 この中川暢三北条鉄道社長=加西市長。彼トラブルメーカーだというのは、関西の間ではそれなりに知られているんですよね。
 松下政経塾に在籍したことをウリに鹿島建設在籍中から参院選(東京)や長野県知事選などに出馬する「選挙マニア」(泡沫候補インディーズ候補)として知られた後、加西市長選で現職を破って初当選。
 でも、その型破りというか、個性的というか、強引な政策手法が地元政界の分離列を招いた。2007年にリコール騒ぎが起きたあげく、失職。同年6月の出直し市長選で再選するものの、市役所での採用問題とかトラブル続き……
 まあ、いろんな人がいろんな立場でネットに書いています。真偽ともかく、彼の名前で検索してみてください。
 そうした低レベルな政争が北条鉄道に飛び火しないかと、マニアな人たちは気にしていたんだよね。
 で、サイアクの形で問題が暴露してしまった。

ローカル鉄道の存廃は、関係する自治体が税金を突っ込むことに耐えられるか否か。なのだが……

 中川暢三北条鉄道社長=加西市長は、以前、こんなことを書いている。本人のブログから。

 三セクという寄り合い所帯の中で、歴代市長がお飾りの社長を務め、いわば無責任経営が続けられてきた訳です。 昨年末、私が北条鉄道の社長に就任した当時、小さい会社ですのに、本社組織と現場の人間関係が最悪で、あろうことか旧国鉄日勤教育も実施されていました。会議もせず、職場の士気も低く、お客様に挨拶もろくにできないという状況でした。社長決裁を経ずに、代表者印を一取締役が勝手に押すことすら放置されていました。
北条鉄道 市長の想い

 2009年4月4日とあるから、この中川市長が北条鉄道社長に就いたのは2008年12月になってからか。あれ、それまでの社長って誰だっけ? 中川加西市長が兼任してきたのではないか。
 いろいろ調べると、中川市長は2005年時点で社長に就いたみたい。
 その後、北条鉄道の活性化のため、

  • ステーションマスターと称してボランティアを各駅の「駅長」に任じて地域おこし
  • イベント列車やグッズの販売
  • フラワ1985-1でバイオディーゼル燃料での試験走行

とか、それなりに努力はしてくれていた。
 鉄道マニア的には評価できる面もあるんだけど、老朽化したフラワ1985を無理矢理走らせたあげく、2009年1月車両故障→修理もせずに3月で廃車、という訳の分からないことをしている。その後、夏に紀州鉄道に譲渡されてはいるのだから、全く使えない状態ではなかったのは確かなんだけど。修理代がもったいなかったのか。
 一生懸命やっているとは理解できるんだけど、加西市役所というか、中川市長の思いつきと場当たりでやっているんだなあとは想像できた。
 加西・北条鉄道に熱い視線 ファン拡大で収入増にあるように、高い評価もされている。
 ただ、

  • 「乗客輸送以外による収入は、05年度の119万円から、08年度は483万円に伸びた」

→収入増をアピールするのはいいけど、グッズなどの経費にどれぐらいかかったの?

  • 「2006年に「鉄道活性化計画」をまとめて経営改革を進め、06年度2200万円あった赤字は08年度は約1500万円に減っている」

→これは単純に凄い。でも理由は?
というのは感じた。


 ほとんど実態は「加西市営鉄道」みたいなもんだし、加西市役所や市長が懸命にやらないといけないのは当たり前。
 でも、ローカル鉄道をどうするかどうかという議論以外のところでトラブっていたら仕方がない。
 小野市役所は

 加西市などが出資する第三セクター北条鉄道」(社長、中川暢三・加西市長)の給料水増し問題などを受け、小野市の蓬莱務市長は22日、市が持つ北条鉄道株(100株、額面500万円)の買い取り請求書を同社に送付したことを明らかにした。蓬莱市長は「不祥事などについて株主の我々に説明がないため」と語った。
 小野市は06年に北条鉄道からの資金引き上げを表明し、過去3度株の買い取りを求めた。鉄道側は「鉄道経営は加西・小野両市と県で支えるのが設立からの趣旨」として毎回拒否しており、今回も断る方針。
北条鉄道:給料水増し 小野市長、株の買い取り請求 「我々株主に説明ない」

とやってしまった。調整役の兵庫県庁は、以前から腰は引けている。市役所同士の対立には不介入という方針か。
 第3セクター鉄道の存続問題がここ10年ほどあちこちでクローズアップされているけど、こうした自治体間の利害対立というのはあちこちで聞かれる。出資者である市町村間で、鉄道に対する温度差が様々なのだ。域内を通る鉄道区間が短い自治体、あるいは全く通っていない自治体は冷淡にならざるを得ない。自分のところの住民にはあまり関係ないんだし。
 さらに、平成の市町村合併で市域が拡大して、第3セクター鉄道の存続問題が、市政の課題として拡散してしまった(つまり、「市民」で第3セクター鉄道と無縁なひとが増えた)ところも少なくない。
 いろんなところでいろんな模索が続けられているんだけど、ローカル鉄道が残るか消えるかの決め所は、

  • 関係する自治体が税金を突っ込むことに財政的・政治的に耐えられるか否か

とい点に集約される。富山ライトレールなり若桜鉄道なり、責任を持つ人がいれば存続も可能になる。
 その根性(と税金を突っ込む勇気がない)ところは「3カ年経営改善策」とか経営判断先送りという結論しか出せていない。以前、話題にしていた三陸鉄道会津鉄道秋田内陸縦貫鉄道なんかもそう。あれなんかも政争の具にしたくないという役所的な発想が根底にある。
 加西市役所&北条鉄道の場合、現市長が市政をコントロールできていないからこそ、残念ながらこのような事態になったという側面は否めない。役所的な根回しが足りなかったという以前のレベルの話だ。政治とローカル鉄道というのは不可分な存在なんだと、改めて再認識させられたのだけど、それはまた別の話。