鉄道会社に怒られずに写真を撮るための7つのマナー

katamachi2010-07-18

 「撮り鉄」という言葉、この数ヶ月で、新聞などマスコミにてやたらと使われるようになりましたね。
 7,8年前にどこかのライターが使い始め、その後、ネットの一部で使われていた造語なんだけど、いつしか「鉄道写真を撮る人」を意味する別称として使われるようになりました。勝手に自分らの名前を付けないでくれよ……という旧来からのマニアや鉄道趣味誌のボヤきもなんのその。2月の「あすか」某重大事件の後、大手マスコミによって公認された感じになっています。
 でも、改めて考えると、「撮り鉄」ってどういう人たちを指すんですかね。
 「鉄道写真を撮る人」となると、一眼カメラを構えて有名撮影地でレアな列車がやってくるのを狙う人……というイメージが先行します。例の「あすか」某重大事件なんかもそうですよね。
 でも、特急「●●」の廃止とか、●●系の引退とかに集まってくる人たちって、ちょっと違うんですよね。

「鉄道写真を撮る人」=「撮り鉄」と簡単に分類することはできないんです

 今年3月、「能登」「北陸」の廃止にあわせて最終日に上野駅に2000人が集まった。鉄道ブームだ!凄いぜ!……なんて、一般マスコミがおもいっきり煽っていました。
 けど、あのときの映像や画像をよく確認してください。ホームで集まっている人たちって、手にしているのは携帯電話だったり、コンパクトデジカメだつたりするんです。そりゃあ、でっかい一眼デジカメを持っている人もいるんだろうけど、ニュースを見ている限り、それは少数。イイ鉄道写真を撮りたいというコアな鉄道写真好きというより、廃止間際の「お祭り」となった現場を記録しておきたいという層が圧倒的に多いんですよね。
 一方、列車や路線の廃止間際の現地へ行くと、主に鉄道旅行を楽しんでいる層、いわゆる「乗り鉄」たちがホームに発着する列車の前に群がったりする。ホームや車内でのスナップ写真をカメラに収めたいという気持ちがあるんでしょうね。
 「鉄道写真を撮る人」=「撮り鉄」という単純な図式で捉える人たちが多いと思います。鉄道趣味の事情に疎いマスコミだけでなく、鉄道マニア・鉄道ファンでもしかり。
 でも、「鉄道写真を撮る人」にもいろんな趣向があるんですよね。それをみんなあまり自覚していない。
 「鉄道写真を撮る」という行為そのものにしても、いろんな狙いがあるんですよね。

  • 1.定番的な走行写真

→有名な撮影地などにて定番の走行写真を撮りたい人たち

  • 2.テーマ性のある鉄道写真

→プロ・セミプロが目指すような"芸術的"な写真を目指す人たち

  • 3.鉄道旅行のスナップ写真

→自分たちの目の前にある鉄道に関する"風景"を撮りたい人たち

  • 4.鉄道趣味的な"現場"の記録写真

→廃止直前とか時期限定とかレアな事象を「記録」することを目的とする人たち
 と、大雑把に4分類してみました。それぞれが別々な層というより、いろんな趣向が入り交じっているのが現状だと思います。
 旧来だと"1"や"2"をメインターゲットにする層が多かったと思うんです。多くの人の「撮り鉄」イメージはここらにあると思う。
 それが、ここ7、8年で、"3"や"4"を目指す人たちが増えてきている。鉄道旅行好きやお祭り好きな人たちがカメラを使うケースが増えてきた


 そのきっかけとなったのはデジタルカメラの出現だと思うんです。この革命的な機材が一般層に普及してきたのは2003年から2005年にかけてのこと。これにより、さほど鉄道写真に関心がなかった層も鉄道趣味の現場にカメラを持ち込む回数が増えていったんです。特に鉄道旅行好きの「乗り鉄」や、ライトなファン層、それに経済的に余裕がない若い層。鉄道趣味への思い入れの薄い人たち、鉄道にはあまり興味がないけどお祭りの現場には関心があるような人たちも記念撮影的にデジカメを持ち歩くようになります。
 僕なんかはアナログカメラを持ち歩いた90年代、1日でシャツターを押すのは5回とか10回程度。貧乏なときは1日に1度と決めていたこともあります。基本、鉄道旅行好きで、さほどカメラには関心なかったんです。それが、デジカメを持つことによって、鉄道旅行の現場で撮影する回数は激増しました。1日40枚、50枚というのはザラです。鉄道旅行好きがデジカメを持って趣味へのアプローチが変わった……というのはあちこちで聞く話です。

 デジカメだと、現像しなかったら、ランニングコスト"ゼロ"というのが大きいですよね。撮影できる枚数も(カードに余裕がある限り)無限大。
 かくして、本来的な「撮り鉄」に限らず、カメラを持ち歩く人たちがやたらと増えて、それぞれの撮影枚数もやたらと増えてしまい、かくして鉄道趣味的な「お祭り」の現場では、貴重な風景を「記録」する人たちでひしめき合うようになった。インターネットの記録で鉄道趣味的イベントがいつどこで開催されるのか簡単に入手できるようになったというのもあります。
 「鉄道ブーム」というか、「撮り鉄」の激増という現象が出てきた背景には、そうした鉄道趣味の方法論の変容が根底にあるんです。列車や路線の廃止案件、それに団臨やSLなど「非日常的な鉄道のある風景」にばかり関心が集まっているのも、「写真を撮る」=「記録」することの比重が高くなったからなんでしょう。

鉄道写真を撮るときの「暗黙の了解」が失われていく

 こうして、デジカメを使う人たちの意識や趣向が変わってくる中で、鉄道写真を撮るときの「暗黙の了解」というのが失われてきている。

  • 鉄道写真を撮るときには、なにをやってはいけないのか

 その最低限のマナーが周知していないと思うんです。
 興味深いのは、京浜急行電鉄がホームページに出した「1000系ありがとう運転の実施について」というリリース文。「1000系ありがとう運転の注意事項について」との項目で、

  • 駅構内、電車内では走ったりせず、ご乗降の際などには譲り合っていただきますようお願いします
  • 駅係員、警備員などから指示があった場合には、必ずそれに従って下さい
  • 走行中の列車に対するフラッシュ撮影はご遠慮下さい
  • 三脚、脚立等を使っての撮影はご遠慮下さい
  • 撮影のための事前の場所取りはご遠慮下さい

と、まるで遠足の注意事項みたいにいろいろ書かれているんですね。最近、長野電鉄とか糸魚川鉄道部(大糸線)とかのホームページでもこういう表記があったと記憶していますが、ここまで細かなお願いは初めてです。209系のラストランでのいろいろが念頭にあったのかな。
 こうした「マナー」とかは当然の常識と思っていました。


 ところが、それって鉄道写真を撮る人の間で共有されていることなのかな……というとちょっと疑問に思ったりする。
 たとえば三脚。
 混雑するホームで使っていると人の行き来の邪魔になりますよね。カメラのファインダーに集中していると、"混雑している"とか"人の邪魔になっている"とかいう現状把握すら難しくなってくる。三脚や脚立を使って棒立ちになっている人がいかに邪魔なのか、御本人はまったく気付いていないというのが寂しいところ。
 夕方17時頃の大阪駅って、「日本海」「雷鳥」「はまかぜ」と、国鉄型車両がたくさん発着するんで、最近、関西の鉄道マニアの注目を集めています。特に中高生ぐらいを含めたライト系の鉄道ファンが多いんです。
 でも、夕方ラッシュへと移行する時間帯、ただでさえ乗降客が多いのに、カメラを持つ連中が行き来すると邪魔なことこの上ない。しかも、三脚を使っている子の割合が高いんですよ。
 そんな彼らに、"ホームで三脚使ったらアカンで"と指摘したことが何度かあります。新快速や環状線の発着するホームでは乗降客がかなり増えて危ないです。通勤客は三脚を避けてホームを移動しないといけない。明らかに邪魔になっていたんです。
 指摘すると渋々片付け始めましたが、明らかに不満顔でした。なんで、オマエに言われなきゃダメなんだって感じ。三脚使うのって自分だけでない。他の年上の連中も使っているじゃないの。ということなのかな。
 ブルトレブームの時、大阪駅には、ホームでフラッシュと三脚使うな、という掲示がありましたし、それは誰もが認識している「常識」なのかと思っていたけど、最近、そうでもないんだろうか。

 フラッシュに関してもどうなんだろう。
 フラッシュが焚かれた瞬間、運転士がまぶしさのため一瞬見えなくなります。幻惑された目が正常な視力に戻るのには数秒かかるし、その間、目を閉じて運転する形になります。夜間にクルマを走行しているとそういう状況って理解できますよね。でも、ホーム侵入時、フラッシュが焚かれるといかに危険なのか……というのは、意外にも知られていない。特にデジカメはオートでフラッシュモードになったりするんで危険度倍増。ライトな人たちが無意識にフラッシュを使っているのをよく見かけます。
 そういえば、「あすか」某重大事件や「北陸」・「能登」の廃止時、「撮り鉄」の行動を批判するマスコミの報道をたくさん見ました。一部にルールすら守れない連中がいて迷惑をかけている、と。最終列車が発車する上野駅には記録写真・記念写真を撮る人たちと共に、メディアから派遣されたカメラマンたちが大量に集まっていたようです。
 でも、彼らって、混雑するホームに三脚や脚立を持ち込むことに何の疑問も持っていなかったようです(取材申請をした会社には脚立・三脚を使わないように指導があった模様ですが)。
 鉄道写真を撮るときのマナーというのが、趣味層にすら共有されていない。そんな状況下では、ライト層や若年層、マスコミすらマナーを知る機会がないというのも当然の話なのかもしれない。

「鉄道写真を撮るときのマナー」と「ルール」

 「撮影のための事前の場所取り」問題もややこしいです。
 基本、

  • 先にカメラを構えている人の前に割り込むのは止めよう

というのは鉄道に限らず、カメラで何かを撮るときの「礼儀」ですよね。先にカメラを構えた人と対象物との間に割り込むと、他人のシャッターチャンスを妨げる形になってしまう。
 でも、焦点距離が短い携帯電話やコンパクトデジカメだと、かなり列車と接近しないとうまく撮れなくなる。気がついていないのか意図的なのか割り込みをする人がやたらと増えたという印象があります。

 上は岡山駅で撮った500系。僕がカメラを構えてシャッターを押そうとすると、中学生くらいの子が僕と500系との間に入ってきたんです。まあ、駅撮りだし多少こういう事があっても仕方ないわなァというくらいのこだわりしかないんで僕はスルーしましたが、こういう瞬間にキレてしまう人も少なくないんだろうな。
 有名撮影地でも駅ホームでもそうなんですが、いいアングルで車両を収められるポイントってそんなにないと思うんです。いい写真を撮れるポイントは決して広くないんだし、お互いが融通しながらちょっとでもスペースを空けてあげればいい。
 でも、そうはならない。
 1970年代後半のブルートレインブームのときに牽引役となった南正時。彼は近著「「撮り鉄」入門 中高年・初心者のための撮影術」の中で、"「撮り鉄」が守るべきルール"についていろいろ指摘しています。フラッシュや三脚の問題と共に、この「先着権」の尊重を指摘し、そうしたルールがベテラン中堅から若い層・ライト層に伝わっていないことを憂えている。
 でも、先着権を主張すべく場所取りを主張するのも問題です。貴重な列車のイイ写真を撮るべく、通過時間の何時間も前から場所取りを始める。そうなると、後から来た人が写真を撮るスペースがなくなってしまうんですよね。
 三脚の上にカメラ+ビデオを2台も3台も並べたりするからさらにややこしくなる。それはベテラン層だけではない。若い連中も同じようなことをやっているみたい。先着権を主張するベテランから"学習"したんでしょうか。
 こうした「先着権」と「場所取り」の問題が複雑に絡むがゆえに、「オマエ、邪魔だ、そこどけ」といったトラブルが頻発するようになる。そこらの問題に触れず、ただトラブルの現場を映した動画がyoutubeなんかでアップされることで、「撮り鉄」非難が加速していく。
 それは若い人だから、不勉強だから、という簡単な話ではない。ある程度鉄道写真に慣れ親しんだ人でも、そうした「マナー」について意識をせずやっている人は少なからずいる。


 なかなか難しい問題があります。
 こうした写真撮影に絡んだ問題って、鉄道写真の世界に限らない。最近だと、ビデオカメラが普及した90年代くらいからあちこちで話題になっていましたよね。幼稚園や小学校の運動会や学芸会が特にヒドいとマスコミで話題になってきましたし、友人たちからも散々愚痴られました。
 そうした学校のイベント、そしてイベント系の鉄道案件もそうですが、ターゲットとなる子供や鉄道の魅力的な姿を撮れるのは、イベントが行われる当日のみ。そう思いこんだ人たちが同じ日の同じ場所に集中してしまうから、場所取り合戦が加速してしてしまう。だから自分の後ろに並んでいる人たちに考えが及ばなくなる。そして、我慢しきれない人たちが先着者たちの前に割り込んでしまうため、怒号が飛び交うことになる。ファインダーを見つめると回りを見られなくなるんですよね。
 個人的には、そうしたイベントのとき以外でも、子供さんや鉄道風景が魅力的に見える瞬間があると思うんです。想い出や記録以外にも写欲を満たしてくれる瞬間というのはたくさんあるし、日常的な風景の中でそれらを見つけ出すのも撮影者の才能だと思います。
 でも、非日常的な瞬間にばかりカメラのファインダーは向いてしまう。それはなんとかならないのかな.....
 とにかく、本エントリーのタイトル「鉄道会社に怒られずに写真を撮る7つのマナー」とは何かというと、

  • 1.走行中の列車にフラッシュを焚くのはやめよう
  • 2.ホームなど鉄道駅構内で三脚や脚立を使うのはやめよう
  • 3.先にカメラを構えている人の前に割り込むのはやめよう
  • 4.先着権を主張するための過度な場所取りはやめよう
  • 5.写真を撮るときには譲り合いの気持ちを大切にしよう
  • 6.撮影ポイントへ向かうのに線路などを歩くのはやめよう
  • 7.駅係員、警備員などからの指示には絶対従おう

ということ。

 これらは一言で言うと「マナー」の問題なはず。でも、守らなくなる人が多くなると、先の京浜急行のプレスリリースのように、会社側から指示される「ルール」とされてしまう。それってあまりにも寂しいことですよね。
 これらの暗黙の了解を「マナー」として押しとどめておけばいいのか。きちんと「ルール」化した方がいいのか。なかなか難しい問題です。
 「三脚がホームで使えない」ということがルールとされてしまうと影響を受けてしまう人たちも存在する。バルブ撮影とかビデオカメラでの撮影とかがかなり難しくなってしまいます。
 「鉄道会社に迷惑をかけるだけでウザい」と「撮り鉄」を批判する人たちにとっては、どうでもいいことなのかもしれません。ただ、鉄道旅行好きの少なからずの割合がデジタルカメラを構えるようになった現在、ちょっとしたきっかけであなたが「撮り鉄」となるときが来るかもしれない。「彼らは自分と違う」と切断して解決できる問題ではないということは認識しておかないといけない。
 僕自身は、

などで非日常的な風景にばかり対象を絞るのではなく、もっと日常的なモノに関心を向けよう!と主張しているんだけど、それもどこか精神論的なものがあるのは否めない。でも、他者への配慮ができないなら、誰から「ルール」を定めてもらうしかない。それは非常にむなしいことだよなあと思ったりもするのだけど、それはまた別の話。