JR西日本社長発言でクローズアップされる並行在来線問題とローカル線廃止問題

katamachi2010-12-02

 政治と鉄道の関係がクローズアップされる年末の予算策定時期が到来した。
 共同通信の報道が波紋を広げている。

 JR西日本佐々木隆之社長は1日、東京都内で記者会見し、大糸線南小谷(長野県)―糸魚川新潟県)間など北陸方面の赤字路線が「それほど豊富な輸送量はなく経営的に苦しい。地域交通のあり方を地元と議論したい」と述べ、廃止してのバス転換や本数削減などの可能性を含めて地元自治体と協議したい考えを明らかにした。
北陸の赤字路線で対策協議 JR西の佐々木社長2010/12/01共同通信

 具体名が挙がったのは、

である。
 後追いした信濃毎日新聞の「大糸線 赤字拡大なら扱い地元と議論 JR西日本」という記事だと、

 七尾線の名前も加わっているが、佐々木社長が具体名を出したかどうかは不明。ただ、北陸新幹線並行在来線問題について言及したのは間違いないのだろう。

北陸新幹線並行在来線問題は政治スキームと密着してきた

 北陸新幹線並行在来線。それが何を指すのか常に話題となってきた。
 北陸新幹線で最初に開業したのは、1997年、高崎〜長野間であるが、その際、新幹線と並行する在来線区間

というように分類された。
 分割民営化後、整備新幹線の建設スキームが議論された1988年当初、軽井沢〜上田〜長野間についてはミニ新幹線形式で新幹線が在来線に乗り入れるという政治決着が図られたのだが、その後、長野オリンピックのどさくさに紛れて軽井沢〜佐久〜長野間でフル規格の新幹線を敷設することになり、その妥協策として、軽井沢〜篠ノ井間は長野県が主体となる第3セクター鉄道に経営が委ねられることになった。
 その後、自民党の森政権下だった2000年12月、2001年度予算策定の段階で、北陸新幹線の建設スキームが大幅に変更されている。従前、

とされていたのだが、

  • フル規格(通常の新幹線規格) 長野〜上越糸魚川〜富山

と変更されている。さらに2004年度には富山〜金沢間も追加されている。
 当初、終点が富山とされたのは、森首相(当時)の地元である石川県内まで伸ばすのはあまりにも露骨だということで留められただけで、後の小泉政権下で金沢まで認可されている。正確に言うと、建設区間は富山〜金沢〜白山総合車両基地間まで、とされた。車両基地のある白山市は森の選挙区である。

北陸新幹線並行在来線の対象はどこの区間

 さて、こうした議論の中で、

という問題が浮上してくる。

が既定の路線とされたからだ。
 北陸新幹線がフル規格で建設される大前提として、

JR西日本からの経営分離が条件とされる。それについては地元自治体も渋々ながらも納得せざるを得なかった。
 問題は、北陸本線の支線である

の扱いである。


 JR西日本的には分離したいというのが本音であろう。実際、JR西日本が廃止について言及した形跡もある(北陸新幹線建設と並行在来線関連略年表)。
 富山港線については北陸新幹線絡みの高架化にあわせてLRT化を果たしている。高山本線富山市JR西日本が協力して社会実験として新駅設置、増発を行っている。
 だが、氷見線城端線大糸線など他の路線に関しては、観光客の誘致キャンペーンなどを展開する、あるいは地元住民向けに学習会などを開催する程度で、北陸新幹線後、実際どうするのかどうなるのか具体的に検討している気配はない。ただ、地元の理屈を語るだけだ。
 ある時期から、JR西日本はこのことに触れないようにしている。政治家も政府も各県庁そうだ。負担を求められる自治体にしては経営計画から資金負担まで早く決めないといけないことばかりなんだけど、そこで揉めていたら新幹線の建設が進まなくなる可能性がある。
 で、みんな分かっていながらも知らないふりをしてきたんだけど、北陸新幹線の開業予定である「2014年度」が近づいてきたこともあって、そろそろ関係者が生臭い発言を行うようになった。

突然、北陸新幹線並行在来線が政治問題化してきた

 1つは、新潟県知事の「上越駅に全列車を停めないなら建設費の新潟県負担分を払わないゾ」発言。これは政府からも自民党からも他県からもスルーされてしまった。
 もう一つは、並行在来線の引き受け条件の変更について地元自治体が予防線を張りだしたこと。
 富山県庁の整備新幹線問題調整会議に出したhttp://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1003/00009315/00326667.pdf
という文書が顕著だが、

  • 当面、例えば新幹線の敦賀開業まで、現行のままJRが運営という考え方
  • JR貸付料は、並行在来線への支援に活用されるべき
  • JRからの鉄道資産の譲渡については、無償譲渡などにより、初期投資を軽減
  • 貨物線路使用料(貨物調整金)の大幅な見直し、増額
  • 並行在来線運営会社(三セク)へのJRの様々な関与

と、80年代後半から自民党政権時代に決まってきた約束事を全てひっくり返すようなことを言い出したのだ。ここ数年の財政状況を考えると各県庁の主張も理解はできるが、十年前に政治決着して整備新幹線を無理矢理フル規格にさせているのに、直前になって約束変更→ごね得を狙うのはいかがなものか。ならば、新幹線なんか造らなければいいのに。石川県民でも富山県民でもないので、やはり違和感は残る。
 そして、今回のJR西日本社長発言。

  • 「新幹線開業をきっかけに、枝線も経営分離するという考え方は持っていない」
  • 「(現状でも)それほど豊富な輸送量はなく、経営的に苦しい」
  • 「赤字が大変大きくなれば、ほかの線区からの利益を回すのも限度がある」
  • 「すぐに(運行を)やめるということにならないが、われわれの立場も話し、地元や利用者の事情も聞き、合意を求めていくことになる」
  • 「地域交通のあり方を地元と議論したい」

 これまで曖昧にしていたことを明確、すなわち、

という文脈で発言したわけだ。政府、国交省、地元自治体、政治家、そしてJRがオブラートにしてきたことがこれで突然政治課題となった。

JR東海JR東日本、そしてJR西日本赤字ローカル線問題の行方

 これ、別に突然浮上してきたのではないんだよね。
 すでに今年春、「JR西日本の社長が記者会見で赤字ローカル線の廃止を言及 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で紹介したが、JR西日本の佐々木社長が記者会見で「赤字ローカル線の一部を廃止し、バスに転換する方向で検討に入った」と発言していた。
 今年、10月には、「JR西日本グループ中期経営計画2008-2012見直し」を発表し、

  • また、ご利用状況にあった最適な輸送モードへの転換に対する理解も深めていただくよう、地域との対話に努めてまいります。

としている。
 山陰地方の三江線木次線あたりから話を進めると思ったけど、先に具体名が出てきたのは北陸地方か……
 他のJRも同じような事情を抱えている。
 たとえばJR東日本JR西日本より体力があるからこそ、氷見線大糸線と同じような境遇にあった大湊線八戸線を自社線として残したが、「JR東日本「グループ経営ビジョン2020−挑む−」を要約してみる。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で紹介したように、

  • 地方交通線」は、ご利用の増加と徹底した事業運営の効率化を推進する。その上で鉄道として維持することが極めて困難な路線・区間については、当社グループを事業主体とする鉄道以外の輸送モードの導入も含め、全体としてのサービス水準の維持・向上をめざす。

と長期計画では示唆している。
 さらに条件が厳しいJR北海道。90年代に廃止の候補として留萌本線や宗谷本線など具体名を出したこともあるが、最近はDMVの開発に懸命なようだ。ただ、それで安泰なのかというと微妙なところがある。
 誰が最初に地雷を踏むのか。JR東海名松線廃止に言及したのが最初だった*1が、次にJR西日本が追随した。
 「県民の足や声を無視して営利目的でローカル線と地方を切り捨てるJR西日本は許せない!」的にJRを悪者にして一刀両断するのは簡単だ。現に、名松線の不通区間を休止→廃止しようとしたJR東海はマスコミや自治体から糾弾され続けた。でも、JRですら廃止線を選択しないといけない、という状況にあるのに、それを自分たちの問題と受け止めていなかったのは誰か。
 今年になってJR西日本が明らかにローカル線廃止について一段と踏み込んだ発言をしているのにそれをほとんど伝えようとなかったマスコミや自治体の危機感の薄さ(当事者意識の欠如)。そこに鉄道の存在感が薄れている状況が現れているような気もするのだけど、それはまた別の話。<参考>
北陸新幹線を巡る新潟県のドタバタと森喜朗の無力 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
2008年末、政治に翻弄される整備新幹線を取り巻く状況をまとめてみる(前編) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
なし崩しにされてきた整備新幹線と並行在来線を巡る政治決着(後編) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
水害で不通になる前から悲惨な状況だった三江線で考えてみる。その1 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
JR東日本「グループ経営ビジョン2020−挑む−」を要約してみる。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
JR西日本の社長が記者会見で赤字ローカル線の廃止を言及 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

*1:地元自治体の負担を条件として再開に含みをもった発言をJR東海側が今月している