無期限休止となる明治村の京都市電に乗る(前編)

katamachi2010-12-11

 先の週末、愛知県の明治村に行ってきた。
 クラシックホテルの魅力に目覚めた同行者が当館の看板施設「帝国ホテル中央玄関」(フランク・ロイド・ライト建築・戦前最高峰の近代建築ホテル。玄関部のみ)を見たがっていたのだ。彼女の実家の近くに明治村があるんで思い入れがあるみたい。僕も近代建築好きなんで願ったり叶ったり。
 あと、もう一つ、最近こんなニュースが流れていたというのも個人的な動機となった。

 犬山市博物館明治村で動態展示されている電車と蒸気機関車の計4両が、12月20日から点検のため運行休止される。
蒸気機関車、電車4両運休 明治村 12月20日から点検

 愛知県犬山市博物館明治村を走る古典蒸気機関車京都市電が運転を休止することになったようだ。
 ここで動態保存されていた鉄道車両は以下の4両。

 これにハフ11(旧青梅鉄道1908年製)、そしてハフ13・14(旧新宮鉄道1912年製)の客車3両。
 市電は1967年3月、蒸気機関車は1974年3月から運行を始めている。大井川でのSLの運転より2年、山口線よりは5年早い。ホンモノの機関車を動態保存するという考えがまだ一般的でなかった時代からの先駆的存在だ。
 明治村の名前に相応しい明治製の古典車両ばかりだ。明治期の車両(動力車)で動態保存されているのは、日本工業大学でイベント時に走る2109号を除けば、ここの4両だけだ。
 明治村のホームページhttp://www.meijimura.com/news/new155-sl.aspでも

  • 老朽化による経年劣化の進行状況の調査のため詳細な点検が必要と判断し、運休を決定
  • 今後の運行再開につきましては、調査結果を待ってのお知らせとなるため、現段階では未定

とある。
 共に動態保存を始めて40年前後になる。
 営業線を走っているのではないので、JR東日本D51JR西日本のC57のような正式な鉄道車両ではない。公園内の運搬施設、遊園地の園具と同じような扱いとなる。
 ただ、運営主体は名古屋鉄道(の関連団体)。本社の経営が思わしくなくて合理化を迫られているのであろうが、鉄道会社の関連博物館である。旧運輸省の鉄道免許事業とは無縁の存在になっているとは言え、ぞんざいな扱いができるはずもない。鉄道車両に準じた「全検」をやってきたとも聞く(実際、車内に検査記録が貼られていた)。
 100年近く、あるいはそれ以上走り続けた鉄道車両を維持することの困難は想像できる。たとえ園具と同程度の扱いであっても観覧車を輸送しているのだ。
 休止したSLのボイラーは再び使える状態になるのか。もしかしたら億単位の資金を投じて新製しないといけないのか。部品や電気系統、補充品があるわけでもなく、全て手作りなのだろう。足回りは大丈夫なんだろうか。
 心配な点はたくさんある。
 でも、また、帰ってきて欲しい。

京都市電 市電京都七條駅から市電品川燈台駅へ向かう

 で、入村後、真っ先に京都市電乗り場に行ってみた。
 明治村の正門から程近いところにある「市電京都七條駅」が実質的な中心駅となっている。
 灯台や偉人の旧宅が並ぶ"3丁目"にある「市電品川燈台駅」、そして鉄道寮新橋工場など大型施設とSLとの乗換スポットである"4丁目"の「市電名古屋駅」とを結ぶ。
 土日は20分毎、平日は30分毎。2両の京都市電が交互に動いている。休日で1日18往復という計算である。広大な敷地内を移動するには有用な移動手段だと思う。


 とりあえず、昨年末まで蒸気動車が置かれていた「市電京都七條駅」を目指す。
 ちょうど市電がホームに到着したところだった。

 本日は1号の稼働日みたい。

 京都七條駅に停車した市電に乗り込む。車内には十数人の先客がいる。明治期の面影を復元した内装。現役の市電より一回り小さいサイズゆえに車内は狭く感じる。
 12:51に発車。公園内の道路を横切ると雑木林の中をすすんでいく。

 2分ほどで入鹿池がちらりと見える。農業用の巨大貯水池である。ここの建設にあわせて人造池の側に明治村は整備された。

 まもなく市電品川燈台駅。12:54、終点だ。

 近くの灯台施設、裏手の山にある和風住宅群に乗客は分かれていく。
 ここの見所は、トロリーポールの付け替え。
 今日の鉄道車両パンタグラフに相当する集電装置なんだが、それがトロリーポール式の場合、ポール状の1本の金属棒で実施している。終点に着いて方向転換をする場合、このポールの向きを変えることになる。
 天井に着いているトロリーポール。

 これがスタッフの操作で旋回しながら向きを逆にする。


 ポールを架線に繋げて、おしまい。
 さっそく発車の順番だ。今回は僕らは発車を見送ることにする。

 定時12:55より遅れて12:57発。入鹿池沿いに線路をギシギシいわせながらカーブを曲がっていく。

 次の便まで近くの西園寺公望邸宅や幸田露伴邸宅などの施設を見に行きます。
 駅に戻ってくると本日お休みの2号。

 製造年が違うだけで基本、同じタイプなのかな。由来の説明板あたりが欲しいところ。
 13:13頃。さっきの1号市電が戻ってきた。

京都市電の終点は市電名古屋駅。SL名古屋駅への乗換駅

 到着して客を降ろした後、またスタッフによるトロリーポールの回転の儀式が執り行われる。

 発車準備の整った車中に戻り、時間を待つ。
 かわいらしいマスコンがいいなあ。同じようなヤツをイスタンブールに走っている路面電車でも見たよ。


 13:15、まもなく発車。
 ごおおおーと音を立てながらカーブを曲がっていく。

 3分ほどで市電京都七條駅。ここで2分停車。待機中に何人か乗り込んでくる。
 真後ろからは明治村村営バスとすれ違っていきます。ボンネットバス風の車両が園内を行き来しています。これに市電も置き換えられる感じになってしまうのか。

 ここから園内の山手を大きく迂回して走り抜けていく。

 3分ほどで終点は市電名古屋駅名古屋駅から東京駅へ続くSLとの乗換地点でもある。

 乗客が降りた後の室内。落ち着いた雰囲気と木製の側壁が往時を偲ばせてくれる。これ、足回りも含めて維持管理し続けてきたのって大変だっただろうなあ。明治村で走り始めて43年間も経つんだから。

 ここでもトロリーポールの回転を行い、しばらくして今来た道を戻っていきます。

 この後、園内も見てきました。
 帰りは乗るチャンスがなかったのですが、閉園間際に市電京都七條駅を通ると最終便の後の始末をしていました。
 併用軌道上にある市電京都七條駅から名古屋寄りにもう一度電車を押し込み、植え込みのある専用軌道内に停車。
 冬の4時前になるとライトを付けての運転ですね。

 ここでトロリーポールの回転を行います。

 そして電気系統を消して本日の運行は終了。明日は何号が動くのかな。
 次は、蒸気機関車の運転の話をするつもりなんだけど時間切れになったんで、それはまた別の話。<続き>無期限休止となる明治村の古典蒸気機関車に乗る(後編) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月