無期限休止となる明治村の古典蒸気機関車に乗る(後編)

katamachi2010-12-12

 愛知県人の遠足の行き先で定番だった明治村。明治期の建物が並んでいる"だけ"の園内は小さなおともだちにはさほど面白いものではなかったかもしれない。
 でも、そんな彼ら彼女らに印象深い存在であったのが村内を走る京都市電と古典蒸気機関車だった。その煙と響きを原体験としているこどもたちは少なくないという。
 それが、2010年12月19日限りで運休となる。再開時期は不明。復旧するかどうかも不明。できればもう一度乗りたい……という元名古屋市民の連れ合いと久しぶりに犬山へと向かった。
 前回「無期限休止となる明治村の京都市電に乗る(前編) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」の続き。

本日の担当機関車は元名鉄12号機(元鉄道院165号機)

 さて、市電品川燈台方面に向かう京都市電1号が市電名古屋駅を13:25に発車した後、SL名古屋駅へ向かうことにする。
 市電とSL、両方の駅は100mほどしか離れておらず、相互に5分接続で連絡が取られている。次のSLの発車は13:30だ。
 坂を登った丘の中腹にSL名古屋駅はある。小さな建物の中に1面1線のホーム+折り返し線付き。

 ホーム端に向かうと、ちょうど12:25到着の列車の連結器から蒸気機関車が離れるところだった。

 本日稼働機は蒸気機関車12号。1874年に輸入され新橋〜横浜間の省線を走っていた23号タンク機(後の改番で150形165号)である。イギリスのシャープ・スチュワート社製の18形タンク機。
 私鉄の国有化が一段落した後、1911年に尾西鉄道(名鉄尾西線)に譲渡されて12号の番号が付けられた。同社を合併した名古屋鉄道に籍が移った後は1957年まで現役で使用されている。しばしの休止の後、明治村では1974年3月から運行を始めた。あらゆる意味で名鉄とも縁のある小型ロコなんだ。
 考えと見ると、世界遺産に登録しているインドのヒマラヤ・ダージリン鉄道の蒸気機関車なんかよりも古い型なんだよね。それが明治、大正、昭和、平成と、136年後の今でも走っているという点だけでも凄い話。
 遊園地内で走っているというだけで鉄道趣味的には低く見られるけど、もっと話題が集まってもイイくらい。でも、拍子抜けするほど同業者のカメラ組は少なかった。そんなものなのかなあ。

ターンテーブルくるりと回って12号機は発車準備OK!

 興味深いのは、SL名古屋駅、そして施設の北端にあるSL東京駅で行われるターンテーブルによる方向転換だろう。
 さっそく12号機はホームの先にあるターンテーブルへ向かう。
 キャブに乗り込んだ機関士がするすると12号機を回転台の線路に載せ、そこに両脇のスタッフがレバーを操作する。

 すると、ごーこごーと回転台が自力で動きだす。

 90度回って、180度回ると、煙突の付いている前面が先頭になりました。
 方向転換、完了!
 早くも煙を噴き上げる。

 出発進行! 客車の脇を通って東京寄りの先頭部へ走っていく。
 ホームの先のポイントが切り替わると、ゆっくりとバック運転して向かってきます。

 ホームの係員が見守る中、するりするりと客車と連結。
 到着→ターンテーブル→東京駅方へのSL12号機連結まで、わずか4分間。明治期のロコにしてはあまりにも素早い神業です。
 さて、まずは最後尾の客車に乗ろう。

  • ←名古屋 ハフ13(旧新宮鉄道1912年製)・ハフ11(旧青梅鉄道1908年製)、14(旧新宮鉄道1912年製) 東京→

の客車3両編成で、僕は最後尾のハフ13に乗り込む。

 木製の壁面と床面、そして天井はダブルルーフになるのか。大井川鉄道で活躍している旧省線の旧型客車群よりさらに20年ほど古いんだから、車長は短いながらも貫禄が違う。
 前後には連結器で繋がれているのだけど、オープンデッキがあるのも時代物の客車らしい。走行中は出入り禁止というのは残念

 もう発車の時刻は過ぎている。
 笛が鳴って、スタッフがホームから列車に乗るように、と指示を出し、まもなくスタートが近づく。
 13:32、定刻より2分遅れで発車。汽笛の音が軽く村内に響くと、コトリと客車は揺れ始める。

 ここから園内西側の雑木林の中を走り抜ける。木々で視界が遮られてしまうのが残念だが、その隙間から巨大な木造建築呉服座を見下ろしていく。
 やがてレンガ積み風のアーチ橋を渡って、旧帝国ホテルを車窓で確認すると、終点のSL東京駅である。13:36、まだ定刻より遅れている。

SL東京駅でもくるりと方向転換をして再びSL名古屋駅に戻る。

 ここでさっそく蒸気機関車は切り離され、奥にあるターンテーブルに向かう。ここでも転車台での方向転換作業が見れる。


 そして、向きを変えた12号機は再び発車。青空と木々をバックに白煙を上げて再起動。

 客車の止まる本線ホームの脇にある引上線で反対方向へとまた移動する。

 連結を確認した後、利用者の乗車が始まる。各車10人程度だし、あわせれば30人程か。さっきもそれぐらいの乗りだった。フリーパスもあるし1回あたりの収入はどれぐらいか分からないけど、採算があうあわない以前の段階なんだと思う。
 13:40、今度は定刻発。また同じ道を戻りながらSL名古屋駅へと走っていく。
 また最後尾。今度はハフ14に乗り込む。お客さんは僕たち2人も含めて5人ほど。

 車内から走行シーンをデジカメやビデオで撮っているマニアを見たが、その数5人程度。日曜なのにちょっと少ない。趣味的にあまり盛り上がっていないんだろうか。
 5分ほどでまたSL名古屋駅に到着する。
 ここで機関車は再びターンテーブルに。

 くるりと転車台で向きを変えて、引上線で反対側に。ポイントの先でいったん停車。ポイントが切り替わったのを確認し、するするとバック運転で再びホームへ。

 そして連結。
 再びスチームを上げながら発車の準備をしている。

 フリー切符があるけど、今回の乗車はパス。
 さすがに明治村に来て市電とSLばかり乗り回していたら同行者に申し訳ない。

ラストランはSL名古屋駅京都市電にすぐの連絡

 あとは、園内を素直に散策する。
 鉄道寮新橋工場の建物、尾西鉄道1号蒸気機関車、鉄道院線六郷川橋梁(蒲田-川崎間)などを見た後、聖ザビエル天主堂でステンドグラスごしに礼拝堂を照らす七色の光を見たり、帝国ホテルのロビーでお茶をしながらライトの造ったメインロビーの壮麗さを堪能したりした。
 その合間、帝国ホテルの脇にレンガ風アーチ橋があって、そこを通過するSL列車を撮影。


 角度的にちょっと車両が見づらいアングルだなあ。
 さらに園内を回っていたのだけど、時間は15時を回っている。
 明治村は冬タイムに入っていて、16時閉園というスケジュールになっている。
 SL東京駅発の最終は15:40。それにあわせて北口近くにある駅舎に行ってみる。

 建物はクラシカルな感じだけど、どこかから移築したものではないみたい。
 ここの裏側にターンテーブルがあって、その奥に車庫がある。僚機の9号機はそこで眠っている。

 HPの「SL運行車輌について」を見ると、

  • 11月26日まで SL9号 (11月26日日中に入れ替えの予定です)
  • 12月19日まで SL12号

とある。スケジュール通りだと、9号機はもう動くことはない、ということなんだろうか。
 やがて、SLの煙が見え、汽笛がなると、15:35、列車の到着だ。

 20人ぐらいの客がここで下車。そのまま北口から退出する。メインの駐車場に近いのはこちらだから帰り客が集中しているのだろう。
 また、ターンテーブルくるり、と回る。


 そして、SL名古屋行き最終列車の準備が完了。
 乗客は10人ほど。まばらに3両の客車に散らばる。
 最後尾のハフ14(旧新宮鉄道1912年製)は2組4人。晩秋の夕刻。かなり陽が落ちた後なので、マニアさんたちは一足早く退散したみたい。
 「SL名古屋駅、市電京都七條駅連絡最終便です」
との案内放送が流れた後、びゅーっと笛の音が鳴る。やがて煙が車窓を流れて出発だ。

 明治村の西手にある尾根沿いにSLは進む。今日3度目の道だからどこになにがあるのかはだいたい覚えている。
 レンガ積みのアーチ橋を渡ると、林の中に入っていく。線路脇に立つ酒蔵があって、その向こうに教会が鎮座している。
 30年以上前から、愛知県の小さなおともだちたちは、この小さなSLに乗って園内を行き来し、この窓から明治村の全景を眺めながらその姿を記憶に留めてきた。何百万人という子供たちがここを通ってきたのだろう。
 それが12月19日限りでいったん運行を休止する。再開時期は不明。機関車も電車も100年以上経っていて全体の検査をするのに巨額の費用と時間を要するのはなんとなく想像できる。
 でも、やっぱり復活して欲しいね。
 15:25、SL名古屋駅に到着。
 また機関車は客車から離れて、ターンテーブルくるりと回転。
 本日最終のSL東京行きとして準備を始める。

 その作業を見ながらぼーっとしていると、京都市電のちんちんという音が。
 あっ、しまった。
 SL名古屋駅と市電京都七條駅の連絡時間は、午後以降、0分と設定されていて、乗換客を確認したらすぐに市電は出るんだった!
 市電乗り場に行くと、時すでに遅し。電車の姿はなくなっていた。
 仕方ないんで、歩いて明治村の正門に向かうことにした。ここの園内、近代建築好きとして鉄道ネタ以外にもいろいろ語りたいのだけど、それはまた別の話。


 最後に、市電とSLの基礎情報。平成22年10月1日改定

  • 京都市電 市電品川燈台駅〜市電京都七條駅〜市電名古屋駅
    • 運行開始 1967年3月
    • 所要時間 片道10分(実質7分くらい)
    • 運転本数 3月〜10月休日21往復・平日19往復 11〜2月18往復(各時期、始発と終着1本ずつは京都→名古屋間のみ)
    • 乗車料金(共に1乗車) 大人 300円 小学生 150円
    • 動態車 元京都市電8号 1910年製
    • 動態車 元京都市電15号 1911年製


※16年前の明治村12号機@SL名古屋駅。当時はここにも給炭施設があったんだね