2010年 覚えておきたい鉄道ニュース10本

katamachi2010-12-29

 2010年、今年もあと2日。みなさまいかがお過ごしでしょうか。
 鉄道系のネタを題材にした日記を書き続けた1年。2010年もいろいろありました。鉄道にまつわるエピソードを拾い上げながら、この1年を思いだしてみましょう。
 題して、「2010年 覚えておきたい鉄道ニュース10本」。
 まず第10位から。

【10位】岩泉線・美祢土砂災害で運転休止(7月)と大糸線廃止論議(11月)

 まず、7月半ばの大雨で美祢線呉線が不通。呉線は運転再開できたが、美祢線は引き続き不通のまま。2011年秋頃復旧と報道されているが実現するかどうかは不透明。
 7月31日には岩泉線を走るキハ110が雪覆いから線路内に流出した土砂に乗り上げて脱線し、乗客2人がケガする事故が起きた。2010年末になっても復旧の見込みなし。8月には大井川鉄道井川線で崖崩れのために千頭〜奥泉間が不通。個人的には、その直後、同区間を行く団臨を企画していたため対応に大わらわとなったのが印象深い。
 前年2009年10月に運休となった名松線家城〜伊勢奥津間については、JR東海がバスへの転換を示唆。今年10月になってJR東海社長は自治体と協同で不通区間の再開に取り組む姿勢を示唆。津市と三重県が復旧費と治山関係費用の負担を予算計上し、ようやく列車運転再開への目処がたった。ただ、復旧まで5年以上かかる見込み。
 一方で、JR西日本社長は11月に北陸新幹線関係の質問に答える形で「それほど豊富な輸送量はなく経営的に苦しい。地域交通のあり方を地元と議論したい」と発言。大糸線を抱える糸魚川市などが反対の声を挙げている。それとは別に和田岬線の廃止論議も浮上している模様。
JR西日本社長発言でクローズアップされる並行在来線問題とローカル線廃止問題 - とれいん工房
JR西日本の社長が記者会見で赤字ローカル線の廃止を言及 - とれいん工房
 

【9位】JR東海が新幹線タイプの高速鉄道の海外輸出を表明(1月)

 中国へのE2系タイプ新幹線、台湾への700系タイプ新幹線、と海外への日本スタイルの高速鉄道の輸出が相次ぐ中、ついにJR東海も新幹線の海外輸出に乗り出すことを正式に表明した。ターゲットはカリフォルニア州などアメリカ合衆国高速鉄道の車両やシステムの受注へ積極的になっている。
 国土交通省も5月に前原国交省(当時)がベトナムを訪問。官民合同での鉄道セールスを強化している。
 ただ、新興国への輸出には様々なリスクも孕む。ブラジルの高速鉄道網の受注合戦から日本チームは撤退を表明。また、日仏独の新幹線技術を吸収した中国が定期列車の350km/h運転を始め、高速鉄道市場の担い手として名乗り上げている。それを危惧する日欧の企業。4月に葛西JR東海会長が中国の高速鉄道の安全性を危惧する発言をして話題を呼んだ。
 イギリス市場に参入した日立グループも注目が高い。12月になって英国運輸省が発注した高速鉄道新型導入プログラム1兆円事業(30年間)を受注すると報道されている。
イギリスで走行する「かもめ」モドキの日立製電車 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月

【8位】中央本線201系引退(3月)、京浜東北線209系引退(1月)

 すでに103系を全廃させ、113系も首都圏から淘汰しつつあるJR東日本が比較的年式の新しい通勤電車の置き換えを進めている。
 まず209系。電気機器や内装、車体にかかる費用を抑制することで製造コスト削減を徹底まで追求した車両で、1993年から京浜東北線を中心に投入された。ただ、制作費を抑えたがゆえに初期車が登場してから10年経ったあたりから故障が相次ぐようになった。E233系への置き換えが進んで1月に定期運用から離脱する。
 201系は"省エネ電車"として80年代の国電区間を象徴する車両であった。特に前面のブラックマスクは中央線快速の象徴的存在だったが、こちらも製造から20年を越えて廃車が進み、201系初投入区間である中央本線の定期運用から3月に離脱し、さよならイベント用の臨時としての運用も10月に終えている。
 なお、201系は青色編成が京葉線に残っており、また209系も南武線武蔵野線八高線などでは活躍している。京浜東北線から外れた0番台車も一部は改造されて千葉県内の各線で2000番台・2100番台として運用に入っている。
 もう一つ前の世代は、キハ52が3月、キハ181系が10月に定期運用から離脱している。キハ58もJR九州・西日本・東日本の臨時用が運用から外れ、定期運用は高山本線の4両のみ(2011年運用離脱予定)。485系雷鳥」は3月に大幅に削減された。残る「雷鳥」定期1往復、日豊本線「にちりん」「きりしま」なども2011年3月改正で引退と発表済。113系も千葉地区や京阪神から2011年までに相当数が撤退する見込み。
 新車ではJR西日本225系(12月運用開始)、キハ189系(11月)、JR東日本の観光列車HB-E300系(10月)というところが話題になったところ。

【7位】東海道新幹線500系引退(2月)・山形新幹線400系引退(4月)

 平成になってから登場した新幹線車両でも引退が進められている。
 その独特のデザインで大きなおともだちから小さなおともだちまで幅広い人気を集めていた500系(1996年〜)が東海道新幹線区間から引退。まだ「のぞみ」運用で活躍できる程度の車歴ではあったが、N700系の大量導入があった上に、室内アコモや定員の差異がJR東海のお気に召さなかったのだろうか。グリーン車などは廃車されたが一部は8両に縮められて「こだま」として新大阪以西で活躍中。
 ミニ新幹線対応の初の量産新幹線となった400系(1992年〜)の引退も行われた。山形新幹線開業から十数年活躍したが、E3系2000番台によって置き換えられていった。
 東海道新幹線300系(1992〜)も初期車から廃車が進んでおり、2010年春に東海道区間から引退と報道されている。JR西日本100系の2011年度内の廃止を発表。JR東日本が運行している200系の存廃が注目されるところである。
 なお、2月には秋田新幹線E3系を代替するE6系の登場が発表されている。東北新幹線用のE5系と併結されて2012年度に運用開始予定である。
近所のスーパーで500系と蒸気機関車を撮る。 - とれいん工房

【6位】京浜急行1000系(6月)など高度成長期来の大手私鉄車両の淘汰

 ここ2,3年で、東急8000系名鉄7000系京阪1900系など大手民鉄を代表していた名車の引退が相次いでいたが、今年も40年前後の車歴を持つ老体車が本線上から消えていった。
 関東の人気車両で引退が惜しまれたのは京浜急行電鉄の1000系(1960年〜)だろうか。全長18m片開き3扉で京急の主力となってきたが、1960年運用開始から50年目にしての引退となった。6月のさよならイベントが最後となる。
 関西だと阪急6300系(1975年〜)が2月に京都線特急運用から引退したのが注目された。嵐山線での普通運用には引き続き使用されているが一時代が終わったのは確かだ。マイナーなところでは阪神5311形も10月に消えた。
 九州だと西鉄2000形(1973年〜)。大牟田線特急運用で活躍し、平成になってからは急行やローカル運用に入っていた。ベージュ色に赤帯というスタイルが新鮮だったが、これも3月に運用から外れて10月のイベント列車で生涯を終えた。
 風変わりなのは西武鉄道でセメント列車を牽引してきたE31形電気機関車も3月に運用から外れた。後に大井川鉄道に運び込まれ、同社での運転が予定されている。
 なお、京王本線を走る6000系(1972年〜)・3000系(1962年〜)も2010年度内の廃止が予定されている。小田急5000形も風前の灯火だ。
 新車では東京メトロ東西線の混雑緩和のため幅広扉を備えた東京地下鉄15000系が興味深かった。

【5位】鉄道趣味人による「あすか」走行妨害(2月)

 団体臨時列車として関西本線を走っていた「あすか」を撮ろうとした鉄道趣味者が線路内に立ち入っている現場を他電車の運転士が発見。警告のため電車を止めた影響で複数の電車が遅延、運休する事態が発生した。
 その直後、草津線でもやはり同じ「あすか」を巡って電車の運転停止が発生。また、1月に京浜東北線の運用から離脱した209系(8位上述)の最終列車に乗ったり撮ったりした人たちの中で運行を妨げる行為をした人たちが現れて、同列車などに最大20分程度の遅延が発生した。
 翌月の廃止が決まっていた「北陸」「能登」がマスコミで大きく取り上げられるのあわせて、そうした鉄道ファンの行為にマスコミから批判が集まり、両列車の運行最終日には2千人の見物客と共に新聞やテレビ各社が上野駅に集まった。
鉄道会社に怒られずに写真を撮るための7つのマナー - とれいん工房

【4位】特急「北陸」・急行「能登」の廃止(3月)

 2008年「銀河」「なは」「あかつき」、2009年「富士」「はやぶさ」「ムーンライトながら」など夜行列車が次々と廃止されるのに続き、2010年は上野〜金沢間の特急「北陸」・急行「能登」が廃止されている。これで東京〜北陸方面への定期夜行列車の運行は終了した。廃止報道後、大手マスコミでとりわけ報道されて注目を浴びた。
 2011年頭で毎日運転のブルートレインは「北斗星」「日本海」「あけぼの」の3本。夜行寝台急行は「はまなす」&「きたぐに」2本のみ。唯一の座席オンリー夜行列車「ドリームにちりん」は2011年3月改正での廃止が発表されている。
 マイナスの話題ばかり数年続いてきたが、JR東日本EF510-500が6月から「北斗星」「カシオペア」の牽引機に充当されたのは久しぶりの朗報。
関西〜東京間の出張で安く便利に寝台列車に乗る方法 - とれいん工房

【3位】高速道路無料化(6月)と平日2000円高速の決定(12月)

 2099年の高速土休日1000円から1年半、フェリー路線の廃止が相次いでいるのに対して、鉄道会社は、高速道路値下げを直接の理由とした改廃は実施していない。ただ、今後の競争激化を見込んでのコストカット策をいろいろと実施している。
 1つは、本四架橋3ルートの大幅値下げによる影響が大きいJR四国。普通列車の本数・編成両数の削減を進めると共に、9月に20駅での窓口営業を廃止→無人化している。特急の運転区間短縮も同時に実施。
 旭川・帯広など主要路線で競合する高速道路無料化区間を持つJR北海道も辛い立場だ。12月改正で札幌〜旭川間の「スーパーカムイ」4往復を廃止したのもその一つ。
 JR東日本も首都圏での短距離特急の廃止を進めている。12月改正で内房線「さざなみ」を毎日運転の定期2往復に削減(土日祝のみ、あるいは平日のみの通勤特急は存置)。特急「水上」も週末臨に格下げされている。他にも通勤系特急の削減が相次いでいる。
 JR各社の陳情の効果があったのか12月の次年度予算策定の段階で鉄道建設・運輸施設整備支援機構によるJR北海道やJR四国などへの支援策が発表されている。

【2位】東北新幹線新青森開業(12月)

 東北新幹線で未完になっていた八戸〜新青森間が12月に開業する。開業区間には17往復が運転されると共に、新青森〜函館「スーパー白鳥」、奥羽本線「つがる」の運転、新車のハイブリッド気動車3編成を使った観光列車の運行も始まる。
 ただ、新幹線の開業というプロジェクトが完成にしては地元青森県でもインパクトが薄かったようで、開業当日、直後の輸送量は伸び悩む。新青森駅七戸十和田の立地、観光ビジネス需要の低迷する閑散期の開業、八戸開業から8年経って期待が薄れたことなどが原因か。
 グランクラス(ファーストクラス的シート)を備えた待望のE5系「はやぶさ」は2011年3月より運行予定。
 また、2011年3月開業の九州新幹線にあわせての「さくら」「みずほ」N700系7000番台も大量増備を行っている。

【1位】成田スカイアクセス開業(7月)とAE形スカイライナーの運用開始

 羽田空港の国際空港としての再整備が決定した際、成田空港の地盤沈下を危惧した千葉県への配慮もあって、2000年に印旛日本医大前〜成田間の成田新線が建設されることが決定した。10年後の2010年10月、羽田空港発着の定期国際線の運行が開始。それにあわせて様々なプロジェクトが完成している。
 まず、5月、京浜急行電鉄が品川・羽田間ノンストップの「エアポート急行」などを新設するなど大規模なダイヤ改正を実施している。蒲田駅通過が同駅の高架化に巨額の負担を行った大田区役所などの批判を受けるが羽田へのアクセスが向上している。
 JR東日本は6月いっぱいで253系の運行を終了し、新型E259系への置き換えを完了している。
 そして7月に京成がスカイライナー運行開始。京成3000形7次車も走り始めた。10月の国際化直前に東京モノレール羽田空港国際線ビル駅京浜急行羽田空港国際線ターミナル駅を開業している。

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 と、2010年の出来事のあれこれをまとめてみた。
 趣味的にインパクトがあったのは【4位】「北陸」「能登」の廃止なんだろう。新聞やテレビでも大きく扱われた。ただ、ブルトレのリストラという傾向はここ6、7年続いてきたことなんで、特筆すべき事かというとやや疑問。大手私鉄ロートル【6位】、JRの国鉄型車両の廃止もここ数年の淘汰の波がただ続いていたというべきなのかもしれない。
 むしろ、【3位】高速1000円化・無料化によるJRへのマイナスの影響が施策面で徐々に出てき始めたこと、そして【10位】災害によるローカル線の運休と相前後するように廃止論議が浮上してきたことも注目したいところだ。
 【5位】「あすか」事件と【4位】特急「北陸」・急行「能登」廃止は、表裏一体の関係。廃止ネタとか限定ネタとかに過剰に反応する昨今の趣味業界の一側面なんだろう。テレビや新聞からステロタイプの廃止報道が大量に溢れだしてきたのには正直、辟易とされた。
 【2位】東北新幹線新青森開業については、正直、趣味的にはあまりインパクトがある出来事ではなかった。12月半ばに現地を訪れてみたが、なぜ新幹線開業の効果があまりでないのか……という話題が地元で交わされていたのが印象深い。
 なんで、【1位】は成田スカイアクセス開業とした。めでたい話がトップの方がいいじゃないですか。
 今年7月〜2011年3月の利用者数は約234万人の見込み。当初予想より28万人下回っているというけど、まあそれはそれ。実は、明日、東京に出かけて成田新線に乗ってくる予定なんです。それが楽しみ。
 来年は、九州新幹線開業。これはインパクトがある改正ですね。そして485系北陸・九州からの引退、787系の転出、113系のさらなる淘汰。私鉄業界だと京王6000・3000系の動向。新線開業が新幹線を除けば名古屋市地下鉄桜通線延長だけというのは少し寂しい。
 実は、2011年度って、新線開業が皆無の年なんだよね。これを逃すと、2012年度の東急東横線副都心線の直通運転、2013年度東北縦貫線開業、2014年度の北陸新幹線金沢開業ぐらいしか大規模プロジェクトはないからなあ。


 あと、特筆すべきなのは、今年2010年、ローカル線の廃止が1路線もなかったこと。貨物線の廃止などはあったものの、旅客線に関しては、現状維持で推移した(JR→青い森鉄道ぐらい)。
 2000年に鉄道事業法が改正されて事業からの退出が容易になってから11年。廃止線ゼロとなったのは今年が初めてだ。
 実は2009年も北陸鉄道が部分廃止した2kmのみだった。現在、廃線論議が具体化している路線はなく、このまま行くと、2011年も旅客線廃止ゼロとなる可能性が大きい。
 ただ、ローカル線の存在価値が再評価されたから……というような甘い事態ではない。むしろ廃止にするかどうか判断が先送りされているだけだとも言える。
 「全国のローカル鉄道89社のワースト偏差値ランキング - とれいん工房」「次年度の国土交通省鉄道局の目玉は「がんばる地域・事業者を支援」 - とれいん工房」で紹介したように2007年に「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」が施行され、ローカル線を抱える沿線自治体がその鉄道を存続のために努力するか、あるいは諦めて何もしないか判断を求められるようになった。断念すれば、廃止、ということになる。
 存廃の判断をするのは鉄道会社でなく自治体に委ねられている。その猶予期間(問題先送り)がここ2、3年続いているというのが現状だ。
 樽見鉄道などヤバそうな三セク鉄道も少なくない。長野電鉄屋代線神戸電鉄粟生線など中規模私鉄でも廃止が具体化する可能性がある。
 そこで出てきた高速道路の値下げ&無料化話。自民党民主党の思いつきによる交通政策に鉄道各社が振り回される事態は来年も続くかなあ、とは思うのだけど、それはまた別の話。