元祖ねこ駅長と戦前製流線形気動車を見に片上鉄道吉ヶ原駅跡に行く。

katamachi2011-01-05

 B級グルメとかで最近話題となった「ホルモンうどん」を食べに津山へ行った帰りに、岡山県柵原(美咲町)の同和鉱業片上鉄道の廃線跡を回ってきました。
 片上鉄道とは、備前市にあった片上駅を起点とし、山陽本線和気駅を経由して吉井川沿いに柵原駅・柵原鉱山まで結んでいた鉱山鉄道である。
 廃止となったのは1991年。それまでに二度ほど乗りに行ったが、最後まで戦前製の旧型客車や流線型旧型気動車が走っているなど前時代的な雰囲気を残している鉄道だった。廃線になってからも当時の香りを求めてたびたび現地を訪問していた。
 今回、訪れたのは吉ヶ原駅跡。
 ここで整備された柵原ふれあい鉱山公園内にある片上鉄道の列車が目的だった。300mほど続く当時の線路がボランティアの手で整備され、レストアされた当時の気動車が走っている。これに乗車したかったのだ。
 運行を始めたのは1998年。12年も前である。
 それから何度かここを訪れようと日帰り行の企画はするものの、車両の展示運転は毎月第1日曜日のみ。なかなかタイミングがあわなかった。
 いや、実際、11年前の5月には中国道経由で現地に行こうとクルマを動かしたものの、中国吹田インターで大渋滞に引っかかって三田を過ぎる頃に日が暮れて断念。ある年の冬には中国道がチェーン規制がかかっていて断念。ある年の夏は向こうさんの都合でスケジュールが変わっていたのを津山市内で電話問い合わせをして初めて知った……
と、3度、空振りに終わってきた。
 4度目の正直の今回、11月7日(2010年)が運転日、と片上鉄道保存会のサイトhttp://www.ne.jp/asahi/katatetsu/hozonkai/
で日程を再確認した上で、津山市内で前泊というスケジュールを事前に決定。天候や渋滞に巻き込まれないように万難を排しました。

本日、吉ヶ原駅付近を走るのは片上オリジナルのキハ312

 津山市最深部の倉見温泉http://keikokusou.com/に泊まった翌11月7日、市内中心部でホルモンうどんを食べ、途中、東津山駅に立ち寄る。この日運転されていたキハ58の臨時列車を見物したかったのだ。

 この後、吉井川沿いに南下して棚原へと向かう。
 旧柵原町にある吉ヶ原駅跡。津山市からバスで30分弱ほど、と程近いところにある。
 何年ぶりかで訪れた棚原の街は、国道が立派に整備された分、それなりに様変わりしていた。終点であった旧柵原駅付近に鉱山住宅は残ってはいるが鉱山街としての面影は薄らいでいた。
 その1つ南側にあったのが吉ヶ原駅跡だ。赤い三角屋根が特徴的な当時の駅舎は今も健在だ。

 建物の中の切符売り場で、本日の展示運転の利用券を販売している。「片上鉄道保存会の1日会員」という名目になっている。1人200円。これで本日9往復(10〜15時)運転される列車に乗り放題という優れものだ。

 1番線ホームには14時発の列車が発車の準備をしていた。
 ころころころ......というエンジン音の古さがまた心地よい。

 戦前製の旧型気動車国鉄から払い下げを受けたキハ702……と思ったら、キハ312でした。
 戦後製ですがそれでも50年以上前の車両。片上鉄道オリジナルの気動車です。
 車中はこんな感じ。

 2人掛けにしては狭いシートが特徴的です。20年前の現役時代に乗ったときの想い出が湧き出てきます。
 スタッフに聞くと、ずーっと調子が悪くかったんで運転会で走るのは2年ぶりのことになるのだ、とか。戦前製のキハ702狙いだったのが正直なところでしたが、これはこれでよいタイミングにやってこれました。

300mの区間を2往復する旅

 やがてホイッスルが鳴り、動き出し始めます。
 定刻2分遅れ、14:02発。

 駅構内を抜けて踏切を渡って力走を始めます。
 車窓の左手は田んぼ。稲は刈り取られた後。中国地方の田舎っぽい風景の中を加速して……
 というほどスピードは上がらず、やがて軽くブレーキがかかります。線路を遮断する踏切の手前で停車。

 その先には「吉ヶ原7踏切」という名前が。動態保存運転の常として、公道とクロスする踏切を跨いだ運転ができないんですよね。以前は棚原駅跡まで走っていたらしいのですが……
 ここで運転士さんは反対側の運転室に移動していきます。
 そして再び、稼働。今来た道を戻っていきます。

 今度は、2番線ホームに到着。ここで3分ほど休憩。
 またエンドを変えて、先ほどと同じ道を力走。再び吉ヶ原7踏切前まで行って、1番線ホームへと戻ります。
 14:16、到着。
 2往復で1.5kmほど。走った時間は短かったけど、一時代前のエンジンサウンドが心地よかったです。

 次の14:30発の運転は外で撮影することにしました。
 公園の端で近づいてくるのを待っています。


 いいねえ。

 白煙をあげて通り過ぎていきます。
 2往復目は踏切の近くで。

 さらに田んぼの側、昔の里道と交差していた非公認踏切跡を通過していきます。

 このランも15分ほどで終了。

吉ヶ原駅ホームのベンチで眠る"元祖"駅長猫コトラ

 ちょっと時間があったんで、吉ヶ原駅跡に戻ってきました。
 ここのもう一つの目玉。ベンチの上で眠っています。

 もうちょっとアップ。

 "元祖"ねこ駅長コトラです。
 この駅跡の近くに住み着いていた野良猫がスタッフに可愛がられて、ここの鉄道の看板娘(♂らしいですが)となったみたい。和歌山県の例の猫より古いみたいです。
 「駅長猫 発祥の地」という表札もありました。

 ちなみに、

  • "本家" 和歌山電鉄貴志駅のネコは「ねこ駅長たま」。
  • "元祖" 片上鉄道吉ヶ原駅跡のネコは「駅長猫コトラ」。

 微妙に呼び方は違うみたい。
 "本家"「ねこ駅長たま」の誕生は公式には和歌山電鐵が発足した2006年4月。"元祖"「駅長猫コトラ」は2005年4月に関係者のブログが開設されたときに名付けられたのだとか。

  • 2005-04-12 17:32:22  昔の俺と仕事中の俺「駅長猫コトラの独り言〜旧 片上鉄道 吉ヶ原駅勤務〜」

http://ameblo.jp/kotora-ekicho/entry-10001638920.html
 元祖の方が1年古いんだけど、本家の方がメジャーになってしまいました。
 でも、別に、味噌煮込みうどんとか各地の名産品みたいに"元祖"と"本家"でなんだ、とかは特にないみたい。
 しかも、"元祖"駅長猫コトラも、ここ2、3年で、岡山の方ではローカルニュースなんかで取り上げられているらしく、それなりに人気があるみたい。
 この日、キハ58の臨時便行き帰りのマニアさんが多かったみたいだけど、岡山県内からの訪問客が実際には多いみたい。ガイドブックで紹介されているからか、鉄道にはさほど関心なさそうなマイカーでの家族連れの客をよく見かけました。
 そうした非鉄系の観光客、特に小さな子供たちや女性たちがコトラにカメラを向けます。
 かくいう私も非鉄系の連れ合いと一緒に来ています。彼女は無類のネコ好き。コンデジでなんとか視線を撮ろうと懸命です。僕的には無愛想なネコにしか見えないのだれど、ネコ好き的には「その悠然とした姿がイイ!」ということらしい。微妙な反応をして、そっと数センチ動くと、やたらと嬉しそう。

 彼女曰く、昨春に和歌山で見た"本家"ねこ駅長はイメージとだいぶん違っていたのだとか。いろんな意味で近寄りがたい雰囲気があったという。
 こちらの"元祖"駅長猫は、ホームのベンチの上でゴロゴロしている。ただそれだけだ。でも、自然な鉄道風景の中にネコという存在が絶妙に溶け込んでいる。観客と駅ネコの間を遮るものは何もない。これこそ、理想のねこ駅長、いや駅長猫だよ!と妙に興奮している。そういうものなんですかねえ。
 ただ、観客にもいろんな人がいる。もうちょっとリアクションが欲しいのか、一眼の大きなカメラを持った若い女性がネコを引っ張って顔をカメラに向けようとします。
 おいおい、それヤリすぎ
と思ったけど、コトラさんは完全無視。再びカゴの中で丸くなってしまいます。

  • 女子供には媚びないぜ!

という唯我独尊って雰囲気が、なんとなく孤高の鉄道マニア的な臭いを漂わせています。片上鉄道跡にお住まいとなる守り神に相応しい。

最後にキハ312とコトラの視線が欲しい!

 本日の定期運転ラストは15時発。今度はカメラをカバンの中にしまい、五感でキハ312を味わうことにします。
 連れあいも誘いますが、電車よりはネコの方がイイ、らしい。
 仕方ないので、マニアは独り寂しく電車、じゃなくて気動車に乗ってきます。
 15時定刻に発車して、先ほどと同じ線路を2往復し、15分後に再びホーム。連れ合いはコトラくんが気に入ったらしく、まだカゴが置いてあるベンチに座ってネコを見つめています。
 そろそろ帰ろうか、と声をかけようとしたのだけど、スタッフは次の便の準備をしている。なんでも団体客がいるんで今日は15:25発の臨時便が出る、らしい。「またちょっと出かけてくるよ」と声をかけたのですが、どうぞー……と軽くスルーされました。ネコに負けた、みたい。
 孤高のマニアは田んぼの中で撮影です。



 そして秋の夕陽で側面を照らされながらラストラン。

 ホームに帰ってくると、観光客のほとんどは退散した後でしたが、連れ合いはまだネコの側にいました。
 11月に出たばかりというコトラの写真集(半分は鉄道マニア向けの内容でしたが)を買ってきたらしく、本とコトラくんとの記念撮影です。

駅長猫コトラの独り言 旧片上鉄道 吉ヶ原駅勤務

駅長猫コトラの独り言 旧片上鉄道 吉ヶ原駅勤務

 この後、お隣の博物館を見てから、ホームに戻ると、キハ702が車庫から引っ張り出されて、キハ312とお見合いをしていました。


 コトラくんはまだカゴの中。
 ちょうど、そのとき、カマキリがベンチの方まで歩いてきました。
 取っ手のあたりを悠然と歩いていく。
 それを見上げるコトラ。

 おお、今日、初めてコトラの視線とカメラのレンズが合ったよ!
 と、連れ合いと喜び合う私。なんとなくネコ好きの熱い気持ちもなんとなく学習できました。まあ、ネコ好きも鉄道マニアもやっていることは似たり寄ったりと思わないわけもないのですが、それはまた別の話。<参考>

(コトラと気動車の写真が満載。スケジュールの確認にも便利です)