東北新幹線新青森開業が青森で盛り上がらない理由。(その2)

katamachi2011-01-11

 前回、「東北新幹線新青森開業が青森で盛り上がらない理由。(その1)」でいろいろ書いた話の続き。
 青森駅近くの繁華街の飲み屋で晩飯を食べていたら、いろんな地元の人から声をかけられたんだけど、青森県内が東北新幹線新青森開業で盛り上がっていない……という話を散々聞かされた。
新聞報道だと、

  • 特急時代と新幹線時代を比べて18%、900人/日しか増えなかった
  • 八戸開業時には55%、3500人/日も増えたのに……

というのが新幹線利用の実際の数字。
 新幹線利用者数の伸び悩みの理由を3点ほど紹介してみます。

青森駅→東京駅の所要時間。実は17分しか変わらない

 まず、青森駅を朝一番に出て東京都内に午前中に到着する時間をシミュレートしてみよう。

 ▽青森5:24〜はつかり2号〜7:38盛岡7:46〜やまびこ10号〜10:36東京

 ▽青森5:52〜特急つがる2号〜6:48八戸6:55〜はやて6号〜9:51東京

 ▽青森6:09〜普通〜6:14新青森6:31〜はやて12号〜9:51東京

 ▽青森6:50〜7:25青森空港8:25〜日本航空1200便〜9:45羽田空港10:01〜浜松町〜10:32東京
 と、ここ十数年の新幹線の時刻&直近の飛行機利用の時刻を書き並べてみた。

 それぞれの所要時間だけを比べると

となる。
 ポイントは、

  • 2002年八戸開業 東京〜青森間の所要時間が1時間13分短縮
  • 2010年新青森開業 東京〜青森間の所要時間は17分短縮

の2点。
 2002年の八戸開業時点での「東京〜青森間4時間前後」というのは青森県的にはかなりインパクトがあった。到達時間が1時間以上縮まったお陰で、飛行機利用との時間差は20〜30分程度になった。
 ところが、今回の2010年12月改正では、東京駅と青森駅の間の所要時間は17分の短縮に留まっている。
 「あれ、JR東日本の宣伝は30分以上短縮するという話なのでは?」と疑問をお持ちの方もいるだろう。
 たとえば、「2010年12月ダイヤ改正について」http://www.jreast.co.jp/press/2010/20100916.pdfという資料を見ると、「最速達の「はやて」は、上り列車で新青森〜東京間を3 時間20 分(39 分短縮*)」と書かれてある。
 ただ、その下の記述を注意して欲しい。

  • *現行、東京〜青森間の最短到達時間(八戸乗継時間を含む)との比較です

と但し書きがある。
 新青森駅青森駅の一つ隣り。青森駅からの比較となると、両駅間の移動時間+新青森での乗換時間も必要になる。改正前と改正後とを比較するならば、同じ青森駅発で比較しないと意味がない。官公庁も企業の支社もホテルも飲み屋も青森駅周辺に集中しているのだから。
 で、青森駅始発という基準で比べ直したら、到達時間は17分しか変わらないのだ。
 僕みたいな朝が苦手な人間には貴重である。在来線のままで17分短縮するのは難しい。ただ、もう少し設計段階で何かできなかったのか……とは思う。

 ちなみに、2011年3月から新型E5系「はやぶさ」の運転が予定されている。3月5日改正以後のダイヤは以下のようになる。

http://www.jreast.co.jp/press/2010/20101107.pdf時刻表より

 青森〜新青森間は現ダイヤそのままという仮定だが、所要時間は4分しか短縮しない。新幹線区間に限っても「はやて」3時間21分→「はやぶさ」3時間14分と7分短縮するだけだ。八戸通過の「はやぶさ6号」(夕方上り)にしても3時間10分。
 将来的にはさらに高速化するようだが、現時点ではスピード的にさほどインパクトはない。
 もちろん「新車が入る!」というのは大きなウリではあるが青森発着便は2往復だけだからなあ……。せめて2010年12月の新青森開業に間に合っていれば良かったのだが。

ライバルの日本航空羽田青森便の体力はすでに落ちている

 東京〜新青森間に開業した東北新幹線。これが飛躍的に利用者数を伸ばしていくなら、他の交通機関から利用者を奪うのが一番容易い。
 ライバルの航空機。今はどうなっているのか。ちょっと比較してみよう。

  • 1998年10月 羽田青森便 
    • JAS 5往復 A300-600・A300(定員292〜298名)
    • ANA 3往復 B767(定員288名)
  • 2010年12月 羽田青森便
  • JAL 6往復 A300-600(2便 定員290席)、MD90(4便 定員150席)

 この12年間でJASJAL1社となってダブルトラックは解消。本数は8往復から6往復に減っている。これは東北新幹線八戸開業の影響が少なからずあったのだろう。
 注目すべきなのは、2010年夏と2010年冬の使用機材の違い。運行本数は6往復で不変だけど、夏はA300-600が5便あったのが、冬ダイヤでは2便に減らされている。東北新幹線新青森開業に備えた利用減、そしてJALの経営難の影響もあるのだろう。
 すなわち1998年の羽田青森間の座席数を100とすると、2010年夏で70、2010年冬には50程度に減らされている。
 東京駅と青森駅との所要時間は上で書いたように、

と、八戸開業時点でもほとんど差がなくなっていた。実際、青森空港利用者の多くは自家用車や送迎車、レンタカーなどでの移動なんで新幹線利用よりもっと早く動けるとは思うが、新幹線が盛岡止めだったときほどの時間差はない。


 で、その青森空港。小型化の影響も禍して「12月の利用客が小型化などもあり4万2700人と16パーセント減」と報道されている(NNN24ニュースよりキャッシュ)。
 日経の「瀬戸際の東北9空港、視界開けず 利用減で赤字補填膨らむ 2010/12/15」と言う記事だと、

  • 青森羽田線の旅客数は約67万人(2009年度)。
  • 青森県羽田線の旅客の約1割が新幹線に流れると試算

ともある。
 鉄道的にはこれは有り難い話……となればいいのだけど、

  • JR東日本八戸―新青森間の乗客数
    • 特急 1日平均5900人
    • 新幹線 1日平均6500人(ただし開業1週間)
  • 日本航空羽田青森の旅客数
    • 2009年度 1日平均1363人 
    • 予測 1日平均1200人ぐらい?

とというところ。八戸開業で利用者数が減った→運行本数を減らしていたのだから、日航からの乗り換え組は1日100〜200人程度に留まるのではないか。日本航空羽田青森便の定員が少ないのだから乗り換え組を期待しても限界がある。
 盛岡〜弘前間の高速バス「ヨーデル号」、あるいは自家用車から乗り換え組はあるのかもしれない。でも、あまり大きくは期待出来なさそう。
 だから、東京から青森へ訪れる観光客をたくさん増やしたい!!!!!
というのは分かる。でも、全国の自治体が同じように観光キャンペーンをしているのに、はたしてどれだけ青森に来てくれるのか。そしてリピーターになるのか。
 JR東系の「びゅう」や関東・東北の各旅行社が青森キャンペーンを同時に展開し、青森にツアーを送り込んできたにもかかわらず、1日600人利用者が増えたのみ。しかも開業直後の盛り上がりがある時期にもかかわらず、だ。

伸び幅が期待できない中で頑張ったとも言うべきなのだろうが……

 というように、

  • 1.思ったほど所要時間が短縮していない(八戸開業時よりインパクトが薄い)
  • 2.競合相手である飛行機(羽田青森線)も八戸開業後の減便・小型化で利用者減→さらなるシェアアップは難しい

と、伸び幅があまりない中で、

  • 今回の新青森開業は2002年の八戸開業ほど盛り上がらなかった!

と言うより、条件が悪い中でそれなりに頑張ったと言うべきなのかもしれない。
 もう一つ、これは今から言っても仕方ない話なんだけど、八戸〜七戸十和田新青森......という今回のルートは、青森県的にはあまり望ましい姿ではなかったのかもしれない。
 考えてみると、2010年12月の新幹線開業前、在来線特急「白鳥」「つがる」などは八戸以北で、

の4駅に停車していた。だが、その4駅とも、新幹線にはスルーされている。

 七戸十和田七戸町の市街地に程近いところに立地する。ただ、広大な町域に人口は1.7万人のみ。パーク&ライド対応で600台対応の駐車場を駅前に備えているが、人口6.5万人の十和田市、合計で3.3万人を抱える東北町と野辺地町、6万人のむつ市、それに十和田や下北への観光客......それらをどれだけ獲得できるのかにかかっている。ただ、期待しているエリアは広大でかつ人口疎ら。公共交通機関である路線バスではなく、自家用車や観光バスに依存する駅になるのだろう。
 そして新青森駅
 青森駅の隣接地に新幹線駅を......という運動が地元ではあったものの、最終的には青森駅の南西4kmの現在地に新駅が設けられることになった。1980年のことだ。将来的に北海道新幹線として函館、札幌方面に延ばしていくという前提だと、今の位置でも仕方なかったのかもしれない。青森駅に併設するのがベターだったが、用地買収や貨物ヤードとの絡みで市街地に建設するのを避けたかったという国鉄の事情もあったみたい。
 国鉄末期の1986年に在来線の駅が開設。ここに1991年に降りたことはあるが、ただ空き地が広がるだけの無人駅。青森市区画整理すると共に、周辺で戸建ての住宅開発が進んだこともあり、地方都市郊外によくある住宅地へと変貌した。ようやく新幹線の駅が完成したのは、駅位置決定から30年後のことである。
 興味深いのは、青森市が、新青森駅に対して実施してきた開発方針。新幹線で乗り降りする利用者が自家用車で目的地へ向かうことを前提にした都市計画を実施しているのだ。パーク&ライド(駅前まで自動車でやってきて駐車場に停めて鉄道を利用する)前提のまちづくり。新青森駅付近で市民や観光客が滞留することはあまり考えていないし、中心市街地である青森駅への到達時間、あるいは公共交通機関の乗り換えなども中途半端。
 一応、青森という町は「都市の中心部にコンパクトに集めることで、自動車に頼らず、歩いて生活することのできるまち」、すなわちコンパクトシティを目指しているのに妙な話だなあ、と思った。
 と、新たな疑問が出てきたことで、今回はおしまい。次は、3つ目の課題。コンパクトシティ宣言をしている青森市新青森駅をどう位置づけているのかという話なんだけど、それはまた別の話。