「新成人女性の3人に1人は、恋人選びで"車"もチェック」とミスリードする自動車業界

katamachi2011-01-16

 「若者のクルマ離れ」が深刻だ
と、自動車関係の業界団体はアピールするのに懸命だ。「今、若者に●●が大人気」と「若者の○○離れ」を大げさに語ることが大好きなマスコミ(でも「若者の新聞離れ」と「若者のテレビ離れ」は黙殺している)がやたらと煽るから、今はそれが既定の事実のようになっている。
 たとえば、産経新聞は「脱“クルマ離れ”へ ホンダが学生のお知恵拝借」(2009年4月10日)という記事で、

運転免許保有者に占める若者(18〜24歳)の割合が平成19年に8.7%となり、30年前の約半分に減った

としている。それは確かに事実なんだろう。

18歳人口が17年間で4割減という現実

 ただ、言わずもがな。この30年間で「若者」→18歳人口は大幅に減っている。
 18歳人口は1992年に205万人を記録した後、毎年3〜5%減で推移し、2009年には121万人にまて落ち込んだ。ピーク時の6割だ。

  • 18歳人口が17年間で84万人減った
  • 20〜29歳の20歳代だと600万人ぐらい?

と若年人口減で、「若者のクルマ離れ」の原因はそれで大方説明できるはずだ。
 若者はクルマを運転する意志がないのか。クルマを運転するために必須となる運転免許の取得率を見てみよう。
 「警察白書」を見ると、

  • 20〜24歳の免許取得率
男性 女性
1992年 90.7 77.6
1997年 87.7 76.5
2002年 87.4 77.3
2007年 84.9 76.5
2008年 83.6 75.1
2009年 82.5 73.7

※単位は%
となる。男性の免許取得率が8.2ポイント低下しているのは注目すべき事だが、世間で言われるほど大激変があったかというとやや事情は違う。
 結局、「若者のクルマ離れ」を主張する関係者たちは

  • 18歳人口の減少
  • 社会構造の変化と景気低迷と所得問題
  • いわゆる「若者」の気質の変化

の3つを無理に一緒くたに語ろうとするから、話がややこしくなる。
 そうした「若者のクルマ離れ」に関心があるのは自動車メーカーや販売店だけではない。保険会社も同じらしい。

「若者のクルマ離れ」のせいで自動車保険が上がることになる

 2011年春、損保保険大手各社は任意自動車保険、そして自賠責保険のいっせい値上げに踏み切ると発表している。
 保険会社としては、

  • 高齢者 運転頻度が低い→保険料安く
  • 若年層 運転経験が浅く事故率が高い→保険料高く

という発想を前提とした料金体系を長く続けてきた。
 だが、

 近年、若者の自動車離れが進み、高い保険料を稼げる若者層からの収入が減っている。加えて、高齢ドライバーの事故率上昇で保険金支払いが増加し、損保各社は収入減と支出増という“ダブルパンチ”にあえいでいた。
損保 高齢者頼み 自賠責も値上げ公算東京新聞2011年1月8日

という状況のため、任意保険の内容を細分化する過程で、30〜40歳代の値上げ幅を抑える一方、70歳以上だと標準的な契約でも8%ほどアップすることになったようだ。
 ここでも「若者のクルマ離れ」(自動車離れ)という言葉が出てくる。

  • 若者が自動車から離れたのではなく、単に若者の数が減ったからで……

という当たり前の理屈は損保もマスコミも無視するみたい。若者の責任にしておいた方が全て締まりがイイとでも思っているのか。


 そんな自動車保険大手のソニー損保が面白い意識調査を2011年1月に出している。「新成人のカーライフ意識調査2011」。1990年度生まれの新成人1000人にインターネットリサーチしたものである。
http://from.sonysonpo.co.jp/topics/pr/2011/01/20110114_1.html
 メーカーの調査とは違う視点が興味深い。

成人たちの自分用の車の保有率は都市部で8.8%

 まず、「自動車免許を持っている」は全体の51.8%で、男性は54.8%(都市39.5%、地方59.3%)、女性は48.8%(都市32.7%、地方53.2%)。都市部の保有率が36.2%なのに対して、地方は56.2%。想像以上に明確な差が出ている。
 自分用の車の保有率は全体で25.3%で、都市部では8.8%、地方で28.3%。免許の有無以上に都市部と地方で大きな違いが出ている(男女差はほとんどなし)。
 また、車の価値を問う設問に対しては、「単なる移動手段としての道具」との回答が60.3%を占め、楽しみや運転、ステータスと答えた層より抜きんでて多くなっている。
 クルマ選びに関しては、「新車」「中古車」との回答が3割ずつとほぼ同じ(他は「わからない」「購入する予定はない」)。クルマ選びのポイントは「価格」(72.6%)「デザイン」(62.5%)「燃費」(49.8%)の順。予算は100万円以下が62.0%としている。価格重視で中古車の比率が高いことが如実に出ている。
 車に興味がある、という問いには、「とてもあてはまる」が18.4%、「ややあてはまる」が33.8%と回答。男性で「とてもあてはまる」24.4%(女性12.4%)というのが特徴的。ただ、「車を所有する経済的余裕がない」という問いには、「とてもあてはまる」が43.4%、「ややあてはまる」が26.6%と、7割を占めている。

  • 都市部での免許取得率の低さ
  • 車の保有率の低さ
  • 車に対して、楽しみやデザインを見出さない
  • 経済的余裕がないし
  • 価格重視で中古車も厭わず

……そうした車への興味の淡泊さはなんとなく理解できる。
 むしろ、車に興味があるとの回答が5割あることに驚いた。
 面白いのは、「"若者の車離れ"とは自分自身のことだ」という質問。かなり抽象的な質問ではあるが、

  • あてはまる(「とてもあてはまる」と「ややあてはまる」計)31.9%
  • あてはまらない(「全くあてはまらない」と「あまりあてはまらない」計)39.3%
  • 「どちらとも言えない」28.8%

と3つに分かれた。都市部で『あてはまる』が40.3%、地方で『あてはまる』が29.5%と差がついた。これは車への関心の有無と関係してくるのだろう。


「新成人女性の68%は恋人選びに"車"の有無を気にしない」

 そして

  • 「恋人選びにおいて、下記の項目が気になるか」

という問い。「気になる」という回答は

  • 容姿 84.5%
  • 趣味 80.5%
  • 身長 52.6%
  • 学歴勤務先 39.1%
  • 貯金額 32.8%

という容赦のない恋人選びの基準が並べられた後、

  • 車を所有しているかどうか/乗っている車 22.4%

とある。恋人選びで気になる項目6つの中で最下位となる。
 ここが自動車保険会社としては重要どころだ。
 女性でも32.0%(男性12.8%)しか「気になる」と回答していない。都市部の女性で29.9%、地方の女性で32.6%。地方でも特に多いというわけでもない。
 これをソニー損保は

  • 「新成人女性の3人に1人は、恋人選びで"車"もチェック」

と評価しているが、僕はむしろ逆だと思う。

  • 「女性でも68.0%が『気にならない』と回答している」

ことの方を注目すべきであろう。
 かつて、クルマを所有するということ、そしてクルマの車種を選択するということは、男性的な何かを象徴する行為だった。同世代の女性たちも異性に対してクルマという空間を求めていた。それが当たり前だという感覚にとらわれていた。

若い男たちはクルマを持ってないからオンナにもてない、のか。

 クルマに関心の無かった僕が20歳となったのは1992年のことだ。バブル経済って雰囲気が日本を覆っていた。大学生なら自分のクルマを持たないといけない……という風潮にやたらと違和感を覚えていた。

  • 週に1、2度しか車に乗らないのになんで自分のクルマが欲しいの???

という僕的には当たり前の疑問は、「だってクルマが欲しいから」という問答無用の説明で掻き消されていた。
 当時の学生もさほどカネを持っていなかった。だから、親にクルマの購入費をねだったり(ここは今と大きく違う)、アルバイトに精を出したりしていた。
 僕も一応免許は取ったが、クルマを動かしたかったのではなく、資格として必要だと思った(思わされた)から。それから10年間、ペーパードライバー時代が続いた。大阪住まいで学生で独身ならば、さほど自家用車の必要性に迫られることもない。


 僕が二十歳を迎えてから20年近くが経った。
 今、男女のコミュニケートの中で、クルマが占める割合は相対的に低くなっている。
 だからこそ、クルマ関係の業界は「若者のクルマ離れ」をマスコミにアピールし、広告代理店と共にセールスをかけようとしている。80年代あるいは90年代前半に大学生だった30代後半と40歳代の世代が、二十年後の今、マーケティングの責任者の立場となって、だからこそ「クルマは異性と付き合うための必須アイテム」という固定観念から脱することが出来ない
 話はクルマ業界に限らない。レコード業界からパチンコ業界まで、あらゆる業界団体が「若者の●●離れ」をマスコミ経由でアピールしているのが、この十年の状況である。どこの業界関係者も現実を認めたくないのか、その原因を社会や若者の気質の変化に求めてしまう。
 でも、現在の若者たちは昔ほど簡単にマーケティングに反応してくれないから実を結ぶことはない。「若者の宣伝広告離れ」というのもあるとは以前に指摘した。
 「若者のクルマ離れ」を考えるなら、「新成人女性の多くは恋人選びに"車"の有無を気にしない」という当たり前の現実を認識するところから始まるのかもしれない。でも、「クルマ選びのポイントは「価格」(72.6%)」「(クルマは)単なる移動手段としての道具」と回答している「若者」の気持ちは販売戦略的には反映されない。新車を値下げするとか、中古車でもイイとか、そうした選択肢は自動車メーカー的には御法度だからだ。
 ソニー損保は相も変わらず「新成人女性の3人に1人は、恋人選びで"車"もチェック」とまとめてしまった。

  • 若い女性は異性選びにクルマを重視する
  • 若い男たちはクルマを持ってないとオンナにもてないゾ

とでも言いたいのか。80年代的なモテ幻想から脱しない限り、いつまでもクルマは若い層に売れてこないと思うのだけど、それはまた別の話。<参考>
「若者のクルマ離れ」がなんで問題なのかよく分からない  とれいん工房の汽車旅12ヵ月