小浜線電化と三松駅と電源立地地域対策交付金

katamachi2011-05-11

 先月からパソコンのハードディスクの調子が悪くなって、ついに命運つきました。データをなんとか復活させて、いろいろと資料を再整理しているところです。
 で、週末に6年ほど前に撮った画像を分類していたのですか、ふと時事ネタでの話題と通じる風景をいろいろ見つけました。シリアとか島原鉄道とかもあるんですけど、個人的に興味深かったのが小浜線。最近、なにか文章を書く時間的余裕がないので、とりあえず久しぶりの更新のための素材として引っ張り出しました。

小浜線三松駅 2005年4月

 青春18きっぷが余ったんで、桜を求めて山陰本線から舞鶴線と転戦していきました。

 その後は東舞鶴から小浜線に。2003年に電化して半年後に雑誌の取材で来たから二度目になるのかな。
 125系1連。それまでキハ58が2連で走っていたのと比べると、寂しい走りです。で、クラブ活動帰りの高校生で激混みってのも前回と同様。

 車内は1+2列の転換クロスシートだったけど、座席数が少なすぎるというので2+2列に変更されていました。新車の投入も電化の費用101億円も地元自治体負担。シートの改装費も地元負担。さすが福井県、太っ腹です。
 で、高浜町にある三松駅

 ここも利用の少ない無人駅なんだけど、駅舎というかホーム備え付けの公共施設はかなり立派なものが建てられていました。
 で、それはなんでかというと、

というカラクリがあるんですね。さすが原発銀座。

電源立地地域対策交付金小浜線電化

 資源エネルギー庁のHPを見ると、「電源立地地域対策交付金を活用した事業概要の公表について」ってのがありました。
http://www.enecho.meti.go.jp/info/dengenkoufukin.htm
 これで各都道府県にどんな交付金が回っていたのかが一目瞭然。あなたの住んでいる自治体ってなにか交付金、出ていますか。都市部では火力があるところをのぞけばほとんど皆無じゃないでしょうか。たとえば奈良県だと年間1億円くらい。水力があるくらいですからね。
 そして、原発のある県が飛び抜けて手厚いのがよくわかります。「発電用施設の立地地域・周辺地域で行われる公共用施設整備や、住民福祉の向上に資する事業に対して交付金を交付することで、発電用施設の設置に係る地元の理解促進等を図ることを目的」とした交付金で、浜岡原発を抱える御前崎市だと231億円も投じられているんですね。
 平成16年(2004年)に福井県小浜線関係に投じられた交付金はこんな感じ。
http://www.enecho.meti.go.jp/info/dengenkoufukin/16fy/18fukui16fy.pdf

  • 小浜線沿線活性化支援事業(三方駅周辺整備) 地下歩道・駅西広場整備 3.3億円
  • 小浜線沿線活性化支援事業(上中駅併設施設整備)展示コーナー、交流サロン、トイレ、レンタサイクル庫等整備 4.5億円
  • 小浜線沿線活性化支援事業(若狭和田駅併設観光振興施設整備)観光案内所、展示コーナー、レンタサイクル庫、スロープ等整備 0.6億円
  • 小浜線沿線活性化支援事業(三松駅併設観光振興施設整備) 展示コーナー、トイレ、スロープ等整備 0.6億円

ってのがありました。翌2005年だと、

  • 若狭高浜駅併設施設整備事業 老朽化駅舎の再建及び地域住民の交流の場を創出 0.4億円

という感じです。三松駅もきちんとある。小浜線電化にあわせて交付金が出たんでしょうね。
 で、上に「新車の投入も電化の費用101億円も地元自治体負担」ってするっと書いたんですけど、それは当時も公表されています。

 県によると、認可された工事概要は、電化区間敦賀―東舞鶴間の84・3キロで、総事業費は車両費も含めて約101億円。負担額の内訳は、県が27億5700万円、嶺南の沿線8市町村で13億7800万円、京都府舞鶴市が1億8000万円。残りの約57億円を民間から拠出する。
小浜線電化の手続き完了、来月着手福井新聞、2000年6月23日(2010年6月23日再掲載)

 福井県福井県自治体で41億円負担って凄いなあ、なんですけど、これって負担相当額の匿名の寄付金があってのことなんですよね。
 そして、「約57億円を民間から拠出」。ほかの自治体が夏祭りの経費を集めようにも、このご時世、57万円を集めるのすら難しい。それが57億円ですよ。誰が寄付できるんです。
 「7月早々にも本県と京都府、地元商工会議所などでつくる嶺南地域振興推進協議会を正式に発足させて、電力事業者を含め民間企業、住民から広く寄付を募っていく」。ポイントは「電力事業者を含め」という点。
 まあ、この後、誰が寄付をしたのかというのは丸わかりです。
 で、100億円かけて、電化はしたものの運転本数は非電化時代そのまま。運転時分も変わらず。車両は古い気動車から電車に変わったけど、2両から1両に。立ち席となる利用者続出……と、ありがたいんだかただの迷惑だかよくわかりませんでした。

 あれから6年。小浜線三松駅はどうなっているのでしょうか。利用者は増えたのかな。
 福井県が作成している「福井県統計年鑑」の資料があります。http://www.pref.fukui.jp/doc/toukei/nenkan/nenkan.html

  • 小浜線 1日あたりの乗車人員数(福井県内各駅)
    • 2003年度 4994人
    • 2004年度 4728人
    • 2005年度 4613人
    • 2006年度 4830人
    • 2007年度 4846人
    • 2008年度 4839人 
    • 2009年度 4681人

 電化した後の6年間で7%減。ローカル線の乗客数の減少率としてはまた低い方なんですよね。2006年から2008年まで4800人というボーダーラインをなんとか死守していた。乗車人員数横ばいがキープできたのも電化のおかげなのかもしれません。
 電化したのに乗客数が伸びないと地元で問題になって、「鉄道快速化による観光地周遊バス試行運行支援事業」など利用促進のための策をいろいろ講じた結果が出たのでしょうか。それも資金源は電源立地地域対策交付金だったり、某民間企業からの寄付金だったりするわけですが。
 ちなみに、当該電力会社にいる知人によると、大阪の本社から原発銀座に出張する際、大阪から敦賀まで「サンダーバード」を利用するけど、その後は敦賀駅からタクシーで移動するらしい。「小浜線は使わないんですか」「本数が少ないからねえ。たまに帰るときで時間があうときは乗ることもあるよ」だそうです。100億円がいったい……
 ちなみに、豪華な駅舎というか公共施設が併設された三松駅はどうなったかというと、

  • 三松駅の 1日あたりの乗車人員数
    • 2003年度 73人
    • 2006年度 64人
    • 2009年度 75人

 おお、2人増加か。という話でもないんですよね。

福井県自治体に投じられる電源立地地域対策交付金の行方

 正直、福井県嶺南地方といわれる若狭とか敦賀とかにお金が落ちるというのは、それにいろんな事情があるというのはまだ理解できます。大阪・京都・兵庫・奈良・和歌山・滋賀の各府県の家庭や企業が成り立っているのは若狭・敦賀原発のおかげという側面もある。関西ではどこも原発を引き受けていないんですよね。関西の人間としては、そこらが発言する立場としては微妙なところになってしまう。
 一方、電源立地地域対策交付金だけでなく、いろんな手段で若狭の自治体と関係者にカネが落ちる仕組みになっている。小浜線の電化も含めてかなり費用対効果が疑わしい事業も散見される。えーっと、正直思う。たとえば直近の平成21年度(2009年度)のリストを見てみると、
http://www.enecho.meti.go.jp/info/data/21dengenkohukingaiyou/18-21fy%20fukui.pdf
と、まあ、電源立地地域対策交付金に限っても壮観な金額がずらーっと並んでいるんですね。
 原発立地している、高浜町おおい町美浜町敦賀市への資金投下が大きいですね。で、その隣接する非原発立地自治体、小浜市とか若狭町とかは比較すれば冷遇されている。ほかの府県だとそもそも電源立地地域対策交付金自体がこないんですよね。高浜原発が隣接している京都府舞鶴町に電源立地地域対策交付金が2.5億円(2009年度)突っ込まれているのが目立つくらい。
 それよりも気になるのが、原発が立地していない嶺南地方(若狭・敦賀)以外の自治体も交付金の対象にされていることです。
 「福井のめがねショップ支援事業」(実質的には鯖江かな)とか「福井県ジョブカフェ事業」(福井市内)とか「福井子ども歴史文化館整備事業)」(福井市内)とか「大野市図書館維持運営事業」(大野市)とか保育所維持事業とか側溝整備事業とか、「原発となんの関係があるねん」って以前に、原子力発電所から30km以上遠く離れた自治体の施策も少なくない。というか、目立つ。
 つまり、「原発立地に無理言ってゴメンね」って日本のエネルギー需給の最大の矛盾をスルーするための言い訳として地元自治体に突っ込まれるはずの資金。その少なくない部分が、無関係な自治体での事業に流用されているんですよね。
 いや、高浜町役場とか敦賀市役所とかだけでなく、福井県庁も地元自治体ですから……と言われるとそうなんだけど、なんか不可解なものを感じる。
 原発立地を了承するための「原発マネー」が現地以外にも流用されている。県庁が中間搾取して、県独自の事業に転用したり、県下にばらまいたりしているという構図がある。本当に、県庁は若狭嶺南を向いた施策をしているのだろうか。現場と県庁との間に微妙な温度差を感じてしまう。たとえば福島県の場合とかはどうなんだろうか。ちょっと気になります。
 それが露骨に出ているのが北陸新幹線の福井延伸。

 平成22年10月4日(月)、県議会は本会議において、「北陸新幹線の早期認可を求める意見書」を全会一致で可決しました。意見書では、北陸と関西・中京圏を結ぶ交通結節点である「敦賀まで」の整備が合理的である点や、本県が国のエネルギー政策に多大な協力、貢献を果たしている点を挙げ、敦賀までの認可・着工を決定するよう強く求めています
http://www.pref.fukui.jp/doc/shinkansen/h22-10-4.html

 来賓として招かれた森自民党北陸新幹線建設促進議員連盟会長は(中略)「26年度(金沢開業)まで待ってもいいんじゃないかという意見もあるが、福井は関西のエネルギー供給地として原発をはじめ多くの国の施策に協力いただいてる地域であり、ここはしっかりと頑張って敦賀までの認可を得たい。」とあいさつしました。
http://www.pref.fukui.jp/doc/shinkansen/torikumi/200612.html

 原子力発電所を立地させてやっているのだから新幹線を福井県まで持ってくるべき、と主張するのは、それはそれで福井県の視点としてはかまわないんだろう。でも、今の活動の実態はそれが金沢駅から福井駅までの誘致運動であり、敦賀駅は新駅建設工事費の話のみ。敦賀から小浜方面への延伸に関しては、「敦賀以西については、国が明確なビジョンを示した上で、国と関係府県等の間で議論を進める必要があります」http://info.pref.fukui.jp/sokou/s-hinkansen/qa/q03.htmlと突き放した態度を示している。肝心の原発銀座まで新幹線を誘致する運動をするつもりがあるのかないのか県庁ですらも言及できていない状況だ。
 と、やり出すと話が止まらなくなるんで、ここらでおしまい。北陸新幹線を福井まで延伸するのは必要だ(あるいは無駄だ)とか敦賀から先は小浜ルートがいい(あるいは米原ルートがいい)とか原子力発電所は必要だ(あるいは不要だ)とかいう話題は今回保留。政府と現場の市町村との間で補助金やらなんやらを差配している都道府県庁の役割ってなんなのかなあ。地方分権して中央から財源委譲すれば片付く問題じゃない。中央から地方に流れるカネの行方が不透明だなあという側面を指摘するに留まりました。そういうと道州制論者みたいに聞こえるのだけど、それはまた別の話。<参考>
なし崩しにされてきた整備新幹線と並行在来線を巡る政治決着(後編) - とれいん工房の汽車旅12ヵ月