神戸電鉄粟生線の存廃問題に関する三木市役所の方針を調べる。

katamachi2011-05-12

 大阪や名古屋で地域政党の動きが目立った2011年春の統一地方選挙だけど、市町村単位でもいろいろあったみたい。三木市議会選挙でもこんな動きがあったという。

 兵庫県三木市議選は24日、三木勤労者体育センターで即日開票され、新市議18人が決まった。薮本吉秀市長が立ち上げた地域政党「三木新党8人のサムライ」の登場(中略)
議員の定数削減などの議会改革を訴える市長派と二元代表制の崩壊を危惧する反市長派が衝突し、存廃の議論が続く神戸電鉄粟生(あお)線の問題などが争点に浮上
8人のサムライ…6人当選、兵庫・薮本市長「議会を政策集団に」産経新聞、2011.4.25

 「三木新党8人のサムライ」ってすげーネーミングセンスなんだなあと思ったんだけど、こういう首長傘下の素人議員グループに妙な名前を付けるのが今の流行なんだろうか。「8人を擁立し、6人当選」ってのがちょっと格好悪いんだけど。
 僕は三木市民じゃないんで、興味があるのは神戸電鉄粟生線の存廃問題。三木市役所というか、薮本吉秀三木市長が粟生線に非常に冷淡だというのは以前から聞いていましたが、実際はどんな感じなのか調べてみます。

準大手私鉄」という名前を返上した神戸電鉄

 まずは粟生線を巡る動き。

  • 粟生線輸送人員 1999年1052万人、2002年891万人、2006年771万人。07年743万人。08年729万人。09年693万人

 この3年間でも1割減か。メインの利用者である高校生、すなわち18歳人口の減り具合からすると1割ぐらいは仕方ないかなあとも思うが、それは経営的にはかなり大変なことだと思う。

  • 1992年 粟生線の利用者1,420万人
  • 2001年 粟生線の年間赤字10億円超える。2008年度で12.7億円
  • 2004年 鉄道軌道輸送高度化事業で県や沿線市から補助金をもらう。ワンマン運転開始
  • 2008年 粟生線の利用者729万人 16年前の半分
  • 2009年 輸送高度化事業最終年度(三木市だと鉄道輸送高度化事業補助金1,800万円支出)。粟生線の存廃問題がクローズアップされる
  • 2010年 連携計画 3カ年で予算4億円(半額自治体)
  • 2011年 地域公共交通活性化・再生総合事業費補助打ち切り

 民主党事業仕分けで鉄道軌道輸送高度化事業が見直されたんですよね。鉄道建設・運輸施設整備支援機構を経由して鉄道事業者に交付する方式はいかがなものか、と。評価シートはこれ。
http://www.mlit.go.jp/common/000118762.pdf
 で、その次のケアがされていないんで粟生線がさあ大変だ、というのは流れとしてはあるんです。ただ、この事業で軌道強化、信号・変電所設備の改良、車両新造、ICカード対応改札機の整備はされたけど、それだけで客が増えるということでもない。
 あと、基本、地元自治体がそれ相応の負担をする気がない路線については国の補助も打ち切るという流れは自民党政権時代の施策を踏襲している。地元で存続するか否か決められないところは国から補助が出なくなってしまう。

 また、経営が困難な鉄道に関しては「鉄道事業再構築事業」という取り組みを推奨している。

 廃止届出に至る前であっても、継続が困難となり、または困難となるおそれがあると認められる旅客鉄道事業について、地方自治体等、地域の支援の下で効果的な利用促進運動等を行うことにより需要の底上げを図るとともに、「公有民営」方式による上下分離等の事業構造の変更により資産保有に伴う費用負担を軽減する取組みについて、「鉄道事業再構築事業」として法律・予算・税制特例・地方財政措置等を含む総合的なパッケージにより支援する

 おそらく神戸電鉄はこれを粟生線にも適用してもらおうと考えているのだろう。阪急グループ傘下、大証一部上場企業。かつては新京成北大阪急行、泉北、相模鉄道(今は大手)などと一緒に「準大手私鉄」と呼ばれていたけど、今は「中小民鉄」に分類されるようになった(「数字で見る鉄道」だと2005年度以降)。経営実態を考えて自主的に返上したと聞く。ワンマン化や駅無人化などの合理化、賃金カットなども進めているようだけど、なかなか大変なようだ。

粟生線の利用者減の特殊事情

 神戸電鉄粟生線の現状については、神戸電鉄粟生線活性化協議会のホームページが詳しい。

は必見だ。
 2008年度の乗降客数を見ると、1999年度比で33.3%減。この間、沿線にある高校生の数は2割減程度である。減少幅はそれよりも大きい。地域別だと、

  • 神戸市内各駅 18,759人(1999年度比31.3%減)※鈴蘭台のぞく 
  • 三木市内各駅 14,845人(同37.8%減)
  • 小野市内各駅 5,956人(同26.6%減)

 大きな駅だと、木幡・押部谷志染駅あたりの減り幅が大きい。
 いろいろとイベントをやっているようだけど、2010年度上半期も2.7%減。定期客だと4.0%減。おとくなチケットの広告とかイベントをやっても、毎日使う定期客が逸走しているならかなり深刻だ。
 利用減の理由は、

  • 少子・高齢化
  • バスへの転移
  • イカーへの転移と定期外利用の減少

が挙げられている。
 これはよそのローカル線でも同じなのだけど、興味深いのは「バスへの転移」。神姫バスが運行する三木市から三宮直行のバスにかなり通勤定期客をとられてしまった、と。あと、マイカーで神戸市営地下鉄沿線に出かけてしまう、いわゆるパーク&ライドの傾向も神鉄粟生線にはマイナスに働いている。
 粟生線の現状に対する意見で目立つのは、

  • 運賃が割高である
  • 神戸都心へのバスが便利(安い・座れる)
  • 神戸都心までの時間がかかりすぎる
  • 駅周辺に一時的な駐車場がない
  • 新開地駅での乗換が不便(苦痛)

というところ。
 人件費の削減(ワンマン運転・駅無人化等による要員削減、賃金カットの実施)での対応にも限界はある。
 「神戸電鉄の費用および線路構造の特徴」として、
前回会議時にご指摘・ご要望のあったデータ・事項についてhttp://www.shintetsu.co.jp/aosen_kasseika/material/img/21-2/08.pdf
にいろいろ掲げられている。

  • 費用が割高となる理由
    • 急勾配区間、急曲線区間が多いため、電力料やレールの交換費用が嵩む
    • 急勾配区間を走行可能な車両(4両1編成で約8 億円)
    • 神戸電鉄はラッシュ時の輸送が片方向のみ
  • 速度向上ができない理由
    • 60km/h 以上で走行可能な区間は24%のみ
  • 粟生線の輸送密度約9,400 人(押部谷〜粟生だけみれば約5,500人)
  • 車両短編成化の方法
    • 1両編成化・2両化は安全運行に係る重要機器を二重系にするためには無理。改造費もかかる
    • 新車だと別
  • 減少の理由
    • 高齢化・・・・・12.1%(1日平均140 人)
    • 少子化・・・・・14.2%(1日平均163 人)
    • バスへの転移・・21.4%(1日平均246 人)
    • その他・・・・・52.3%(1日平均601 人)周辺道路網の整備、モータリゼーションの進展など
    • 2001年から恵比須〜三宮間で神姫バス運行開始。志染から木幡までの間ではかなりの利用が転移

 報告書の内容を見ると、なにが粟生線固有の減少要因なのか。詳細な分析がされている。過去の人的蓄積があったからこその内容だろう。他のローカル私鉄でこれほどまとめられる会社がいくつあるのか。
 だからこその無力感。つまり神鉄で努力できる範囲というのにも限界が来ているというのもわかる。いくら分析しても存続を可能にするための答えが出ない。利用の多い鈴蘭台押部谷間を残してあとは……という考えがよぎったというのも事情もあるのだろう。
 ライバルの神姫バスが近距離区間で安売りをしかけてきたり、新規開通の有料道路を使った直行バスを走らせたというのも大きい。地下鉄も速くて便利だ。神戸市内だと敬老パスで市バス・民間バスは100円で地下鉄は半額(子供料金)。高齢者が神鉄粟生線を使うメリットはない。都市交通の基盤として維持していこうという施策から粟生線は完全に漏れてしまっている。
 そして、沿線の神戸市・三木市・小野市の各市役所。粟生線の経営維持が困難で、かなり危険水域に達しているという自覚は皆無だったようだ。

上下分離方式は受け入れられない」とする三木市役所

 粟生線に関して地元自治体はどんな態度なんだろうか。
 まずは兵庫県。「平成23年度当初予算及び第2次行財政構造改革推進方策(案)について(2011年2月9日)」より。記者から神戸電鉄の存続のために支援をするのかどうかと聞かれた知事がこのように答えています。http://web.pref.hyogo.lg.jp/governor/g_kaiken110209.html

 粟生線の問題については、神戸電鉄がどうされるかということを検討されないといけないし、単に市町をまたがっているから県が助成をする立場でもありません。公共交通機関としてどの程度、地域が期待するのかということからどういう支援ができるかということをこれから検討していくということではないでしょうか。知らん顔もできませんが、市町をまたがっているから当然だということではないと思います。具体的に粟生線の存続をする場合に地域としてどんなことが要素として支援の根拠になりうるのかを十分分析した上で対応せざるを得ないのではないかと思います。

 とりあえずこれから検討していくということらしい。何を答えているのかさっぱりわからないのは言質を取られないように言葉を選んでいるからだろうが、まあ統一地方選を控えている時期だったしそういうことも仕方ない。
 一方、三木市はどうなんだろうか。
 で、三木市議会の議事録http://www.gijiroku.net/city.miki/を調べると、興味ある答弁が二つほど見つけた。

  • 平成21年第300回12月定例会-12月09日−02号 N議員の質問(サイト内には実名あり)

 1点目に、神戸電鉄粟生線への補助事業である鉄道輸送高度化事業補助金について、その詳しい事業内容をお聞かせください。
 新聞報道でもありましたが、神戸電鉄粟生線は年間10億円以上の赤字が8年続いており、神戸電鉄自体もワンマン運転や賃金の3割カット、駅の無人化等の経費削減を行っていますが、限界に近い状況であります。このままでは減便や運賃を値上げせざるを得なくなり、そうなるとさらに利用者減につながり、悪循環に陥ると思われます。このような状況を受け、年内に地域公共交通活性化再生法に基づく協議会を設置され、沿線市と事業者が今後の対策を検討されようとしています。これからの対策として公有民営による上下分離方式がありますが、三木市としてのお考えをお尋ねいたします。

まちづくり部長の答弁
 次に、上下分離方式についてのお尋ねですが、上下分離方式は、線路敷や踏切、駅舎を市が管理することになり、市にとりまして莫大な財政負担となることから、市としましては、上下分離方式は受け入れられないものと考えております

  • 平成22年第306回12月定例会 12月09日−02号 H議員の質問(サイト内には実名あり)

 そんな中で、近隣自治体ですね、先程の3市の自治体といたしまして、最終的には、もしペイできるほどの乗客が見込めないとするならば、線路部分を自治体が買い取ると、いわゆる上下分離方式であるとか、あるいは赤字を補てんする、あるいは固定資産税の免除、そしてまた、第三セクターによる運営というふうなことも視野に入れながら、今後検討していく必要もあるんじゃなかろうかというふうに懸念をいたすわけなんです

技監の答弁
 上下分離方式、赤字補てん、固定資産税免除、第三セクター方針につきましては、300回の12月定例会でもお答えしてまいりましたとおり、多額の財政負担を伴うことから、現在のところは考えてございません。

と締めくくっている。
 こういうときって、「市民の皆様のお声をお聞きし」とか「さらに検討していきたい」とかどうでも取れる文言で曖昧にしながら、県庁での議論の行方を待つ……という風にするのがパターンかと思っていたけど、上下分離も含めた財政負担は「受け入れられない」「現在のところは考えてございません」か。
 神戸電鉄粟生線活性化協議会をやっています、利用促進の支援をしています、という言葉が並べられている。小野市は小野駅での駐車場整備などのハード事業に取り組んだりしているようだけど、三木市は特に……
 運動をしているというアピール以上じゃないんだよね。七夕列車などのイベント運行や運動だけで客が増えたら誰も苦労しない。アンケートも大事だけど、その後、存続のためにどういうデザインを描いていくのか考えるのが大切。
 考えてみると、今の藪本市長って、初めて当選したときのメインの公約が「三木鉄道の廃止」だったからなあ。「粟生線は存続」って言いづらいのはわかるし、市財政にそこまで余裕がないともわかるけど、議論の最初の段階から財政支出はしませんと言い切るのはなあ……
 ちなみに、三木市役所は神姫バスに委託して「みっきぃバス」ってコミュニティーバスを走らせている。一回150円。これも粟生線と並行する区間を走っている。そんな状況下で神鉄ってどうすればいいんだろうか。

神戸電鉄は大幅な料金値下げという営業努力をさせる」

 で、先の統一地方選における三木市議会選挙で「存廃の議論が続く神戸電鉄粟生(あお)線の問題」が争点だったと新聞記事には書いてあるのだけど、ネットではそこらの市議選に関係する言葉を拾えませんでした。そもそも市長の考えが市議会の記事録を見てもさっぱりわからない。
 唯一、見つけたのが、市議会でトップ当選したI議員のブログ。

神戸電鉄には利用客を取り戻すため、料金引き下げという大転換を行なう必要があると思います。
2010-11-30 22:35:58 神戸電鉄粟生線 廃止の危機

 料金引き下げか。議員になる前なんで別にいいんだけど、事実関係や法制度の紹介などをスルーして簡単に言うんだなあ。
 この後も続く。
2010-12-01 23:39:45 粟生線の代替交通機関の考察
では、神鉄粟生線神姫バス・地下鉄との比較考察をしている。三木市に住んでいる人ならではの視点だろう。
 で、その後、

神戸電鉄の存続には単純な税金投入ではいけないと思います。今後毎年のことですので。
これは完全な私案ですが、神戸電鉄は大幅な料金値下げという営業努力をさせる。
その営業努力の分を税金投入で補填するということをできないかと考えています。
2011-01-03 23:48:02 正月に考えたこと

 「努力をさせる」って言葉の主語は神戸電鉄? あるいは三木市役所? たぶん、大幅な料金値下げができるなら、神鉄ももっと前からやっていますよ。運賃を半分にすれば、利用者が激増とかそんな単純な話でもない。営業努力の補填というのもよくわからない。三木市役所が値下げ原資を負担する方がカネがかかりそうな気がするのですけど。
 というか、この人って、くだんの「三木新党8人のサムライ」のメンバーなんですよね。三木鉄道廃止を公約にして当選した市長のグループ。こんなレベルの話しかされていないのに、本当に先の市議会選挙で粟生線の存廃って争点になっていたのだろうか。ぜひ三木市民の方に教えて欲しいと思うのだけど、それはまた別の話。