「コクリコ坂から」と横浜のホテルニューグランドとマッカーサー元帥

katamachi2011-07-10

 スタジオジブリ最新作『コクリコ坂から』の完成披露会見が、物語の舞台となった劇中に登場する横浜市ホテルニューグランドにて行われ、声優を務めた長澤まさみ岡田准一(V6)、宮崎吾朗監督、鈴木敏夫プロデューサーが揃って出席した。
ジブリ最新作を携えて宮崎駿、鈴木P、庵野秀明が被災地を訪問していたシネマトゥデイ

 宮崎ジュニアの作品が公開されるみたい。
コクリコ坂から」って、宮崎駿好きにとってはおなじみの作品。80年代後半、映画企画のブレーンストーミングで提案されたこともあると聞いて古本屋で探したこともあるが、表紙見て、手に取るのを躊躇した。この絵柄は正直キツい。昨年、角川書店で再刊されたみたいだけど、とりあえず映画を見るまでは読まないつもり。

コクリコ坂から (単行本コミックス)

コクリコ坂から (単行本コミックス)

 さて、宮崎作品を見るときの楽しみの一つとして、美術背景に描かれる建物の楽しさというのがあると思う。
 「ラピュタ」の炭坑町、「トトロ」の和洋折衷の家、「魔女宅」のヨーロッパ風建築……緻密なロケハンを元にした町並が作品の魅力になっているのは間違いない。
 今度は、横浜。クラシックな雰囲気がある建物というと欠かせない逸品があります。ホテルニューグランド。今度の作品でも登場するみたい。

 横浜の中華街と山下公園を挟むエリアにあるクラシックホテルで、創立は1927年だから昭和恐慌下に建てられたことになる。港町という立地からして外国人旅行者・ビジネス客を意識した造りになっています。海外から豪華客船でやってきた人たちが横浜港に着いた後、最初の日に泊まるのがここのホテル。「コクリカ坂から」の時代背景とされている昭和30年代頃でも宿泊客の8割を外人客が占めたという。

ホテル・ニューグランド50年史 (1977年)

ホテル・ニューグランド50年史 (1977年)

 ここのホテルが以前から気になっていたんで、3年前、東京出張のついでに初めて泊まってきました。
 横浜高速鉄道元町・中華街駅から徒歩4分。高層の新館の一階にフロントがあります。
 その海側にお目当ての本館があります。築80年以上の建物が横浜の一等地に残っているというのが嬉しい。

 部屋はシングル。ネット予約で9000円くらいでしたから意外に安い。クラシカルにまとめられた調度品やベッドがいい感じです(下の写真は別のとき撮影)。


 二階は宴会スペース。光が弱いけど、戦前センスでヨーロッパ調を表現したらこうなりました……という仰々しいリレーフがいいですね。某大学のOB会がまだやっているみたいで中には入れませんでした。

 目の前が山下公園。ご存じ氷川丸です。これも戦前製の元豪華客船。それなりに船好きなら経歴はいらんですね。ウォーターラインのプラモデルも作ったなあ(実は日本海軍の軍艦好きだった過去もあるんです)。

 翌朝、会議まで時間があったんでホテル内を散策です。アールデコ風のエンブレムがかっこいいですね。


 まずは本館の本来のエントランスから建物内に。西洋建築なんだけど、どこか外装も内装も地味なところがありますね。

 昨晩と違ってエントランスにも外の光が入ってきます。イメージがちょっと違う。

 ラウンジとしてはかなり大きいフロアーがあります。フェニックス・ルームといって、創業時のメインダイニングだったところとか。結婚式の披露宴会場として使っているようですが、平日の昼間はさすがに誰もいませんね。ヨーロッパとも印度系アジアとも言えない、微妙に和風のニュアンスがミックスされている空間。

 で、階段を歩こうとすると、おおおおお……。こんな謎の物体を発見。

 結婚式勧誘イベント用のマネキンさんみたいですが、なにも生首なし、ウエディングドレス付きで放置しておく必要はないじゃないですか……



 と、ぶらぷらしながら、約束していた8:45に新館フロントへ行きます。
 実は、このホテル。門外不出の特別室が一つあるんですね。その名は「マッカーサーズスイート」

 マッカーサーっていうと、あの敗戦直後に日本に乗り込んできたマッカーサー元帥。

 1945年8月30日、例のパイプをくわえながら厚木飛行場に降り立った彼が最初の任地と決めたのが横浜。飛行場からそのままやってきて戦災から免れたホテルニューグランドに到着。一番大きい部屋を執務室として3日間使ったんです。
 ちなみに、戦前、マッカーサーはここで二度宿泊したことがあるそうです。1度目は父親に連れられて来た少年時代、2度目は自分自身の新婚旅行。で、3度目が65歳、日本占領初日ということになる。人生いろいろだなあ。

建築探偵の冒険〈東京篇〉 (ちくま文庫)

建築探偵の冒険〈東京篇〉 (ちくま文庫)

 その特別室、今でもたまに宿泊客がいるようですが、不在の時はスタッフの案内で見物できるようになっているんです。


 おお、さっそく立派な部屋だよ。リビングだけで大きめのツインよりも広い感じ。部屋はリビングと寝室に分かれたスイートタイプで76平米。最近はもっと豪華な部屋も他所にはたくさんあるらしいけど、このクラシカル感かたまらない。
 調度品も当時のモノを修繕しながら使い続けているという。占領初日にやってきたとき、マッカーサーはここでハンバーガーを食べながら、奥様への手紙を書いたんだとか。

 寝室は天蓋付き……これは、恥ずかしい。これ、マッカーサーが使っていたらしい。サイズは昔の日本人サイズ。僕でも小さいと思うんだけど、どうだったのかなあ。
 結婚式の披露宴会場として人気の同ホテル、ここにはハネムーナーが泊まるのかなあ、と思ったんだけど、1泊料金138,600円……。う〜ん、おらは無理です。

 と、20分ほどの見物は終了。ありがとうございます。
 その後も、ここがどうも気になったようで、2度泊まりました。一度は自分の新婚旅行。スイートをとるカネはなかつたんでフツーのツインでしたが、ホテルニューグランドのクラシカルさに魅了されたみたいです。時代の年輪が刻み込まれたホテルならではの空気というのは確実に漂っていますね。

 東京でそういう感じのホテルってあまり聞かないんで……いや九段会館がありましたね。あそこは会議で何度か行きましたが宿泊する機会がなくて。あとは東京ステーションホテル、2012年の再オープンが待ち遠しい。

東京ステーションホテル物語 (集英社文庫)

東京ステーションホテル物語 (集英社文庫)


 で、前振りに出しただけですっかり忘れていた「コクリコ坂から」。
 前作「ゲド戦記」は監督としての評価うんぬん以前に、画面をコントロールすることに失敗しているがありありと見えて、ちょっと辛かった記憶があります。
 今回はどうなんだろう。
 この山下公園あたりの町並、しかも半世紀も前を舞台とした物語世界を通して、2011年という現実の世界をどのように射ようとするのか。震災の後、作品になにかを盛り込めるだけの時間と余裕はあったのだろうか。ニューグランドホテルに日本を統治する神様=マッカーサー元帥がいたという歴史事実を物語の中で料理できければ面白くなる。そういうエッセンスをうまく作品に盛り込んでいけるのが宮崎オヤジの巧さなんですよね。まあ、ホテルニューグランド抜きにしても、とりあえず映画館で見てこようとは思いますが、それはまた別の話。

コクリコ坂から(ロマンアルバム)

コクリコ坂から(ロマンアルバム)