2008年頃から顕著になった「日本社会のクルマ離れ」
「若者のクルマ離れ」といった言葉が交わされるようになって5、6年は経っただろうか。
最近の若者は昔と違って……とか、クルマに魅力がないからだ、とか、経済的要因ででクルマを買うことができないからだ、とか様々な文脈で語られことが多いが、実は、そのほとんどが印象論に過ぎない。国交省や警察庁、業界団体の統計データで、たとえば「年齢別のクルマ所有率」なんて統計は存在しない。もちろん、メーカーやディーラーは彼らの内部でのデータはあるのだろう。購入者の中で10・20歳代の若者が占める割合が減っているというのはなんとなく想像できるが、それらがオープンにされることはない*1。きちんとした数字も出さずに「若者のクルマ離れ」ばかり強調しても他の関係者に共感を持ってもらえるはずがないのに……
と、冒頭から話が横道にそれた。
ここに面白い資料がある。「数字でみる自動車」(日本自動車会議所)という、毎年、どこからか私の手元に舞い込んでくる小さなデータ集なのだが、いろいろとこの国の何かを考える上で重要な数字が盛り込まれている。
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2008年から国内の自動車保有台数は減少に転じた
たとえば、国内の「自動車保有台数」(毎年3月末現在)。
年 | 保有台数 |
---|---|
1981年 | 3899万台 |
1991年 | 6050万台 |
2001年 | 7552万台 |
2005年 | 7828万台 |
2007年 | 7924万台 |
2008年 | 7908万台 |
2009年 | 7880万台 |
2010年 | 7869万台 |
と、2007年をピークとして翌年以降3年連続減少する。車種別だと、
- 2000年 乗用車5122万台 トラック1829万台 二輪車1397万台
- 2007年 乗用車5751万台 トラック1634万台 二輪車1298万台
- 2010年 乗用車5790万台 トラック1538万台 二輪車1248万台
と、トラックや二輪車の減少幅が大きいことがわかる*2。
乗用車にしても、廉価な軽自動車が増えた影響(2000年917万台→2007年1528万台→2010年1748万台)が目立つ。価格と燃費を気にする層が増えたこと、そして1998年に衝突安全基準が厳しくなったことで、軽自動車の車体が頑丈になり、かつ大型化が進んだことが大きい。この間、小型車の保有台数は減り続けているし(2000年2882万台→2007年2552万台→2010年2372万台)、2000cc超の普通車も2005年から横ばいが続く。
二輪だと125cc以上のバイク*3の保有台数は2000年以降も微増ないし横ばいで推移しているが、原動機付自転車の保有台数は10年間で10.7%の大幅減(2000年1098万台→896万台)となっている*4。
新車の登録台数の数字はもっと悲惨な結果になっている。
年度 | 登録台数 |
---|---|
1990年度 | 810万台 |
1995年度 | 715万台 |
2000年度 | 616万台 |
2005年度 | 607万台 |
2007年度 | 550万台 |
2008年度 | 487万台 |
2009年度 | 500万台 |
と、2009年度は1990年比62%(2000年比81%)にまで落ち込んでいる。前年比で1割以上の落ち込み幅があったのは1997年度、そして2008年度だ。
(追記)書くの忘れていましたが、2009年度に新車登録台数が3%ほど増加に転じたのは、2009年6月から2010年9月まで行われたエコカー補助金の影響が大きかったのでしょうね。僕も車齢21年の小型車を捨てて新車を買いましたよ。
海外からの輸入車の新車販売も横ばいから微減になった。2000年(暦年)の27.5万台が2005年に26.8万台、2007年に26.5万台、2009年17.9万台、2010年22.5万台。2010年に反転して台数が増えたのは、日産がタイから人気小型車マーチの逆輸入を始めたことが大きいと聞く。
一方、中古車の販売台数はどうだろう。
暦年 | 中古販売台数 |
---|---|
1990年 | 711万台 |
1995年 | 795万台 |
2000年 | 821万台 |
2005年 | 811万台 |
2007年 | 753万台 |
2010年 | 654万台 |
平成になってかなり市場は拡大していたが2000年をピークにこれも減少に転じている。2007年以降の落ち込み幅は大きい。
さて、国内の「自動車保有台数」が2007年までは微増していたのと比べると、なぜ新車の登録台数や中古車の販売数がここまで落ち込んだのか。
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乗用車の「平均車齢」(利用者がクルマを購入してから手放すまでの期間)は、1975年に3.3年だったのが、1983年に4.5年、1989年に4.8年と上昇する。1991年や1992年が4.5年と再び下がるのはバブル期ゆえに買い換え需要が早まったのだろう。
その後、再び車齢は高くなる。1995年3.9年、2000年5.8年、2005年6.7年、2010年7.5年。35年前の2.3倍に長くなっている。
では、乗用車の「平均使用年数」(1台のクルマが登録されてから廃車になるまでの期間)はどうだろうか。1975年は6.7年と今からすればかなり短かったが、1984年に9.0年を超え、以降は9.2〜9.4年ぐらいで推移した後、1995年に9.5年、2000年に10.0年、2005年に11.0年、2009年11.7年、2010年に12.7年と寿命が伸びたことが分かる。特に2010年が2009年より1.0年も使用年数が増えたことは販売台数の不振にも少なからず影響を与えたのではないか。乗用車も小型車も軽自動車も衝突安全基準が厳しくなったことで車体はそれなりに頑丈になった。エンジンや足回りも相当良くなってきているのかもしれない。
大きく変わったのは、乗合車で2010年の平均使用年数は16.5年(1995年12.5年、2005年15.3年)だ。また、乗合車や貨物車の平均車齢は10年前後になっている。トラックの新車生産は、1990年度を100とすると、2009年度は21と5分の1。後述するように自動車貨物の輸送トン数はかなり減っているし、頑丈になった、多少古くても使いつぶすようになった現状が想像できる。
それでも販売台数を増やそうというのなら、新車から廃車までの乗用車の「平均使用年数」が短くなればいい。すなわち、バブル期みたいに4、5年ですぐ新車を購入したい……というような消費意欲が高まることを期待したいのだが、ファミリー層も高齢者も若者もみんな財布のヒモが堅い。なら、これからも寿命は長くなっていくのだろうな。
やはり2008年以降、乗用車等の輸送人員数は減少に転じている
最後に、自動車と他の交通機関の輸送量の推移を見ていこう。
まずは、旅客の輸送機関別輸送量の推移。
- 旅客の輸送機関別輸送量の推移(輸送人員)
年度 | バス | 乗用等自動車 | JR | 私鉄 | 計 |
---|---|---|---|---|---|
1995 | 76 | 537 | 90 | 137 | 841 |
2000 | 66 | 562 | 87 | 130 | 847 |
2005 | 59 | 601 | 87 | 133 | 881 |
2007 | 59 | 609 | 90 | 139 | 900 |
2008 | 59 | 608 | 90 | 140 | 900 |
2009 | 57 | 609 | 88 | 139 | 895 |
<単位:億人><参考>交通関連統計資料集(PDF形式)http://www.mlit.go.jp/k-toukei/search/pdfhtml/23/23000000x00012.htmlなど
となっている。乗用車等自動車の輸送人員数は1975年度に177億人、1985年度に259億人、1995年度に537億人となり、2005年度に初めて600億人を突破したが、その後、伸びは鈍化し、2007年度の609.45億人をピークに、翌2008年度は608.44億人と減少に転じた(減少数は1.01億人)。
この2008年。自動車保有台数が減少に転じたタイミングと同じ年である。鉄道やバスも含めた総旅客輸送人員数も減少している。モータリゼーションの進展で自動車輸送が際限なく伸びると思われていた状況が一転、輸送量そのものが微減となったことは注目に値する。
2009年度の自動車の乗用等旅客輸送人員数は608.67億人。わずかながらも微増に転じた。高速道路の1000円化・無料化などの影響で自家用車での人の移動は増えたのかもしれないが、バスの輸送人員数が3%落ちたので、自動車輸送の合計輸送人員数では減少。この年は、JR、民鉄、航空の輸送人員数、それに総旅客輸送人員数も減少している。自動車の貨物輸送トン数もやはり減。交通機関の相対的なパイが増えたわけではなかった。
もう一つ、旅客輸送人キロという数字もある。輸送人員数にそれぞれの乗車した距離(キロ)を掛けたものだが、乗用等自動車は90年代後半から8600億人キロ台で横ばいに推移している。2000年度だと8639億人キロ。それが2005年度から減少に転じ、2009年度は8113億人キロと、2000年度比で93.9%に留まっている。鉄道(JR+民鉄)やバスの旅客輸送人キロが、2000年と2009年を比べるとほぼ横ばいで推移しているのと比べると、乗用等自動車の落ち込みが目立っている。
貨物の輸送トン数も1990年代は自動車だけで年間60億トン以上輸送していたのが、1998年度や2000年度に58億トンとなり、以降、2005年度50億トン、2009年度45億トンとなっている。11年間で23%の減だ。旅客より貨物の輸送量の落ち込みが顕著だ*5。トラックの保有台数が、2000年に1829万台だったのが、2007年1634万台、2010年1538万台と減ったことは自動車貨物の輸送トン数の減と関係するのだろうか。
ちなみに、高速自動車国道の利用台数は、1990年度に10億台、1996年度に14億台を突破した後に伸びは鈍化する。値下げなどの始まった2005年度以降、15、16億台を超えるが、2008年度から減少。土日1000円の始まった2009年度はまた増加に転じたが、それらのサービスは2011年に終了したが、その後はどうなるのだろうか。
意外なのがJRや民鉄の旅客輸送人員。90年代後半に落ち込んだ後、2000年頃から横ばい・微増に転じていることである。旅客輸送人キロも同様だ(2009年度は共に減少)。旅客輸送人キロにおける輸送分担比を見ると、2005年以降、JR・民鉄共に増えている(「鉄道輸送統計年報」の数字の推移とは異なる)。
また、航空機関の輸送人員数は1995年度が7800万人、2000年度が9300万人と順調に増えていたのが、2002年度9700万人をピークに、9400万人程度に落ち込む。2006年度は9700万人に回復するものの、2007年度9500万人、2008年度9100万人、2009年度8400万人。3年間で13,5%の減少だ。新規参入と大手2社の競合で華やかな話ばかりだったが、実際は輸送機関別では一番落ち込み幅が激しかったことに気づかされる。
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自動車の旅客輸送人員が減少する時代と「日本社会のクルマ離れ」
と、まあ、これらの数字から、
- 自動車保有台数 2008年から微減に転じた
- 軽自動車が増える一方で、小型車・トラック・二輪車などの落ち込みが激しい
- 新車の登録台数 1990年比で62%(2000年比で81%)
- 中古車の販売台数 2000年比で80%
- 平均車齢と平均使用年数は90年代半ばから急速に高くなっている
- 乗用車等の輸送人員数も2008年度に減少
- 貨物の輸送トン数は90年代後半から減少し続けている
と言ったことが分かる。
日本の人口は2005年に1億2777万人に達した後、横ばい、そして減少に転じ、2009年で1億2751万人(「人口推計年報」)。18歳人口は1990年前後に200万人いたのが、現在は120万人前後。都合、4割減った計算になる。また実質GDPも2007年度563兆円をピークに、2008年度以降は526〜540兆円に留まる。
自動車保有台数や輸送人員数といった基礎資料の数字が2008年度から変わったのもそうした変化と関係あるのかもしれない。
- 人口が減少に転じたから自動車の保有台数も微減となった
- 経済状況が思わしくないから新車を買わなくなった
- 経済状況が思わしくないから平均車齢や平均使用年数が長くなった
- 平均車齢や平均使用年数が長くなったから新車が売れなくなった
といった要因が複雑に絡んでいるのだろう。
もしかしたら、「若者のクルマ離れ」もその要因なのかもしれないが、その兆候を示すデータが存在しない。唯一、あるとしたら、以前、「「若者のクルマ離れ」がなんで問題なのかよく分からない - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で書いた運転免許の保有率。2005年と2009年のデータを比べると、
- 世代・性別ごとの免許保有率
年代・性別 | 2000年 | 2005年 | 2009年 |
---|---|---|---|
16〜19男 | 36.8 | 31.4 | 27.3 |
16〜19女 | 21.8 | 21.2 | 18.8 |
20〜24男 | 87.3 | 88.2 | 82.5 |
20〜24女 | 76.7 | 78.7 | 73.7 |
25〜29男 | 95.0 | 96.9 | 94.9 |
25〜29女 | 87.3 | 88.9 | 88.6 |
<単位>%
というようになる。30・40歳代は男女ともほとんど変わらないか保有率がアップしていることを考えると、やはり2005年以降、若者である16〜24歳ぐらいの年代の保有率の落ち込みは顕著なものがある。ただ、この数字、いわゆる「若者のクルマ離れ」と直結している現象なのか、クルマの購買意欲うんぬんを説明する材料と考えられるのか。もう少しいろいろと説明が必要なのかもしれない。
「嫌消費」世代の研究――経済を揺るがす「欲しがらない」若者たち
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一方で、景気が持ち直せば数字は回復するかもしれない。誰もがそれを願望する。自動車関係の諸税の引き下げ、高速料金の1000円化や無料化は、自動車需要の低迷を挽回→経済波及効果を期待するがゆえの施策だった。これからも短期的に利用が回復する側面があるかもしれない。でもガソリン代はこの2、3年ほど高止まりしている。リーマンショックや新型インフルエンザ、震災という特殊要因もあったが、じゃあ2012年度になったらゼロ年代半ばのレベルまで回復するのだろうか。ちょっと難しそう。
かといって、鉄道の輸送人員数がこれからも増えていくような状況ではない。公共交通機関が便利になったから自動車の利用が減った……という実感はほとんどない。大阪圏や地方では90年代半ばからすでに減少の一途を辿っている。旅客数では近年まで増加していた東京圏の鉄道も、やがて高齢化社会に突入するとどうなっていくのか。
中長期的なトレンドとしては、自動車の輸送人員や輸送トン数、自動車の購入や利用が横ばい、微減になっていくのは想像できる。景気と連動すると言われてきた貨物の輸送トン数はすでに1996年以降右肩下がりだ。この国において、今後、自動車に関する需要そのものが落ち込んでいくことが予想できる。タイトルで書いてみた「日本社会のクルマ離れ」が現実なものとなる時期が来るかもしれない。だって、人口が増えないんだから。
でも、自動車に関してニュースとなるのは、○○社が月に何万台売ったとか、年間では何十万台減ったとか国内メーカーの販売台数の話題ばかり。国内における旅客や貨物の総輸送量が増加するどころか現状維持すら怪しくなっている現状、それでも道路やら何やらに投資し続けるのですかね。鉄道のローカル線みたいに現在ある区間の補修や整備の費用すら捻出できなくなる日が到来しそうな気がするのですが、それはまた別の話。<参考>
「若者のクルマ離れ」がなんで問題なのかよく分からない - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
「新成人女性の3人に1人は、恋人選びで"車"もチェック」とミスリードする自動車業界 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
*1:仮にもし、ス●キの購買層の15%を10・20歳代の若者が占めているが、ト●タだと9%に過ぎない……なんて数字が出たときには、関係業界各社で相当マズいことになるからだろう
*2:道路運送車両法と道路交通法では車種や区分方法がいろいろと異なることに注意
*3:道路運送車両法では小型二輪車・軽二輪車に区分される。道路交通法でいうところの小型限定以上
*4:道路運送車両方法による分類だと125cc以下のバイクが該当。排ガス規制が強化された影響でゼロ年代半ば以降、50ccバイクの値段が高騰。新車市場が縮小してしまった
*5:なお、貨物輸送トンキロで見ると、2000年度3131億トンキロ→2009年度3346億トンキロと増加している。他の交通機関の推移を見ると、内航海運から荷物を奪っていったことになる。すなわち、ゼロ年代に貨物の輸送トン数は減ったが、その一方、以前は船で運んでいたような長距離便がトラックに代替されるケースが増えたのだろう