寝台夜行列車「カレドニアンスリーパー」でスコットランド北部の保存蒸気機関車「ジャコバイト号」を目指す(前編)
ということで、1年ぶりに海外に渡航していました。
目的地はイギリス。実は、今回、初訪問でした。
超メジャーな国であり、鉄道発祥の地であり、機会があれば行きたいと思っていたのですが、なかなかタイミングに恵まれませんでした。ここ十数年、アジアや中近東アフリカにばかり足を踏みいれていたことも一因です。
あと、ゼロ年代半ばはポンドのレートがあまり良くなかった点。
今回、取引レートは、1ポンド = 121 円くらい。3年ほど前は230円とか240円だったのと比べると、だいぶんマシになりました。一時期有名だったロンドン地下鉄の初乗り運賃も4ポンド=1000円近くだったけど、レート換算で500円弱くらいになりました。ホテルとか遺跡などの観光施設の入場料、そして地下鉄と出入国関係経費がバカ高いことを除けば、日本での旅行と比べてもあまり割高感はありませんでした。
てなわけで、関西空港からルフトハンザ航空フランクフルト経由でロンドンへ向かいました。2011年10月8日のことです。
10月8日(土) ヒースローエクスプレスは15分で到着
→はるか3号→07:47関西空港9:50→15:00フランクフルト17:15→17:50ロンドンヒースロー19:06→19:18ロンドン
(宿泊)ロンドン Premier Inn London Euston
関西空港からフランクフルトへの飛行です。12時間のフライト。シートテレビ着用タイプですが少し古めの機体。機内食も、まあなんとも微妙な日本食でした。フランクフルトから先のフライトの機体は、ビジネスクラス割愛のボロボロ機体でした。格安航空会社との競合で全体的に入れ換えが遅くなっているのかな……
ヒースロー空港から都心には、特急格のヒースローエクスプレス(都心まで15分)、急行格のヒースローコネクト(30分)、地下鉄(55分)の三つの鉄道が走っています。
今回のイギリスでの移動は、イギリスの鉄道乗り放題のフリー切符「ブリットレイルパス」を使用することになっていて、今日から有効開始。とりあえず、一番運賃の高いヒースローエクスプレスでロンドン中心部へ。確かに、「はるか」と比べればかなり早いですが、車内設備が多少ゆったりとしていることを除けばなんともかんとも。200系新幹線初期みたいに固定クロスシートばかりで、しかもリクライニングもないというのは、イギリス鉄道の標準なんですね……
タクシーで、ロンドンユーストン駅近くのビジネスホテルに移動。レストランを探しに町歩きをしてみましたが、計14時間のフライトはさすがにこたえます。ロンドン時間21時って、日本時間で翌朝7時ですからね。
10月9日(日) ストーンヘンジ方面行き列車は本日迂回運転
ロンドンユーストン→地下鉄→ロンドンウオータールー9:45(9:15)→11:52(10:45)ソールズベリー12:00→12:33ストーンヘンジ12:40→13:10市内部→ソールズベリー16:35→18:40ロンドンウオータールー→地下鉄→ロンドンユーストン駅20:55→カレドニアンスリーパー→
(宿泊)夜行 カレドニアンスリーパー
ロンドンの100kmほど南西にあるストーンヘンジを見に行く日です。
国会議事堂ビッグベンと程近いところにあるウォータールー(英仏戦争のワーテルロー)駅に向かいます。ゴシック形式の内外装はいつ見ても驚かされますね。頭橋式ホームに次々と発着する気動車たち。日曜日朝なんでさほど乗客はいないんですが、駅構内は通勤客から所用のある人、買い物客、日帰り観光客……と活気にあふれています。若い人たちが、いい意味で元気なことが印象深い光景です。
ただ、電光掲示板の行き先案内を見ても、トーマスクックの時刻表で目処を付けていた列車の表示がない。ストーンヘンジ最寄りのソールズベリー方面に行く列車は平日と土曜に1時間2本ありますが、日曜日は1時間に1本に減便される。だから時刻をきちんと確認してきたのだけど……
と、思ったら、改札近くに時刻変更の案内が。本日に限り、一部区間が集中工事で閉鎖されているため経由地が変更になる。所要時間も1時間半から2時間と長くなる……
突然、駅で言われても困るのですが、客の少ない日に工事をするというのも、まあ選択肢としてはありなんでしょう。
結局、予定より30分後の9:45発。6両編成の気動車はそれなりにお客さんがいます。
由緒ある大聖堂が町の誇りとなっている町、ソールズベリーまでは2時間とちょっと。駅前にはストーンヘンジ周遊のバスが連絡しています。それで町から十数キロ離れた遺跡まで見に行きます。
帰りは町中で下車し、ソールズベリー大聖堂と旧市街を散策。宗教施設が町の中にとけ込んでいる。すなわち住民と一体化しているという光景はいいものですね。日本ではなかなか見られない姿なんでちょっと羨ましいのかも。
帰りは事前にダイヤを確認していたので特に問題はなく、ウォータールー駅に。地下鉄でユーストン駅まで戻り、近くのパブで食事をし、ホテルから荷物を回収して、再びホテルへ。
これから本日の最大の目玉。寝台夜行列車「カレドニアンスリーパー」への乗車です。
現在、イギリス国内で3往復しか現存していない寝台夜行のうちの一つで、ここロンドンとスコットランドを結ぶのが目的の列車。「カレドニア」とはスコットランド地域を指す、古の言葉なんですね。
行き先は、3カ所、すなわち「3階建て列車」となっています。先頭は僕たちが乗り込むフォートウイリアム行きで寝台2両。続いてアバディーン、インヴァネス行きとあって計16両の長大編成です。ただし、あまり客が埋まっていないのは寂しい限り。
予約していた2人用のB個室寝台に入りました。室内はそれなりに広くて洗面台もありますが、いかんせん窓が40cm四方程度とかなり小さくてあまり夜汽車の雰囲気を楽しめる感じじゃなかったなあ
10月10日(月) 曇天と小雨の中で白煙をあげる蒸気機関車「ジャコバイト」号
→9:54フォートウイリアム10:18→SL12:22→マレイグ14:11→SL→16:03フォートウイリアム17:40→バス→18:43フォートオーガスタス(Fort Augustus ネス湖)
(宿泊)フォートオーガスタス Caledonian House
朝、起きたら、スコットランド北端の荒れ野を夜行列車は走っていました。朝靄が山中を覆っています。駅を通過するときには小さな集落を見かけますが、まだ町は眠っている感じ。
「カレドニアンスリーパー」は4両編成でした。夜中、カリスル、エジンバラで他の客車14両を切り離し、エジンバラでロンドンからの寝台2両に、座席車+ビュフェ車を連結したみたいです。
30分に一度くらいずつ、小さな駅に停車しながら、終着駅へ向かいます。
定刻より13分遅れて、10:07、夜行列車はフォートウイリアム駅に到着。
その余韻を楽しむ間もなく、僕の目線は隣のホームで待機している列車へと行きます。旧ウエストハイランド鉄道を行く「ジャコバイト」号マレイグ行き。
戦時中に製造された大型テンダ蒸気機関車が保存目的で運転されているんです。スコットランド最北部の保存列車。なんでも、映画「ハリーポッター」シリーズのロケでも使用した路線と機関車なんだとか。人気の列車だと言うんで、ネット経由で予約を済ませておきました。
イギリスらしい小雨がぱらぱらとした、どんよりとした曇り空。定刻に「ジャコバイト」号は発車します。
町中を抜けた後、山越え区間へと向かいます。なかなかイイ感じで煙が出ています。
ここで最大のポイントは、発車30分後に差し掛かるグレンフィナンのコンクリート橋。全長381mのカープしたコンクリ橋を蒸気機関車が行くシーンは「ハリーポッター」で印象的なシーンとして使われたんだとか。
ポイントが近づくと、みんな左側でカメラを構えて待ち受けます。で、ちょっとスピードを落としながら、最大限の煙を吐き出します。ああ、確かにいい風景です。
橋を過ぎれば、グレンフィナン駅に到着。ここで25分間の小休止。石造りの駅舎に整備された小さな美術館、廃車になった食堂車を改装したカフェを見回りながら時間つぶしをします。
11:27に発車。今度は湖や入り江を車窓で伺いながら、淡々と蒸機は走っていきます。
左窓に海を見ながらしばらく走ると、12:28、終着のマレイグ駅。機関車入換シーンを見た後、港町を見下ろせるレストランで昼食を済ませました。
帰りは、マレイグ14:10発。バック運転ですんで、マニアな僕だけでなく他の乗客もちょっとテンションが下がり気味。途中での列車行き違いもないんでダイヤより早めに運転を行い、フォートウイリアムには予定より20分以上早い、15:50に到着。
この後、石畳の古い町並みが残る旧市街を散策した後、駅隣のバス停に向かいます。鉄道廃線跡を転用したサイクリングロードを眺めながら北上し、フォートオーガスタスで下車。ネス湖南端。人口600人程度の町です。19世紀から20世紀初頭まで、フォートウイリアムとインヴァネスの間は、ネス湖や運河などを使った海運で結ばれており、この町も水位調整のための閘門6ヵ所を稼働させる拠点として栄えたんですね。
ちょうど、ネス湖の観光船がやってきたところで、運河を跨ぐ橋は赤信号となり、橋が回転し始め、水しぶきが閘門付近に飛び散っていました。
10月11日(火) ネス湖と運河と閘門とネッシー
フォートオーガスタス11:08→11:46アーカート城13:11→14:01インヴァネス14:51→16:55パース17:00→18:25エジンバラWaverley(インヴァネス16:53→エジンバラ20:29)
(宿泊)エジンバラ Frederick House Hotel
ネス湖をクルーズ船でぐるりと周遊しようかと画策し、1便の出る10時前に船着き場に行ったけど、乗客は僕と連れ合いの2人のみ。最小催行人数10人ということなんで、仕方なく次の11時の便を待つことにした。
ネス湖南端ということでなければ絶対泊まらなかった町なんだけど、改めて歩き回ると、運河と閘門の周りに小さな集落が広がっている感じのいいところです。また、観光船が閘門に向かってやってきたので、それを半時間ほど見物し、あとは運河と町の歩みをまとめた博物館を訪問。1900年に運行停止したというフォートオーガスタスとフォートウイリアムを結ぶ鉄道の廃線跡に関する話も聞けました。
で、案の定、11時の観光船も、客が6人しか集まらずウヤ。仕方ないんで、11:08発のバスで北上。ネス湖畔にある古城、アーカート城を見物。やたらと観光地っぽく整備されているのに驚きました。オフシーズンなのに観光客も多いし。ここもネッシーなるUMAというか観光資源がなければここまではいかなかったのだろうけど、それは別にして、城から見える湖の風景は穏やかで魅力的な物でした。
この後、再びバスに乗り込み、スコットランド北部最大の町インヴァネス(でも人口4万人ほど)から鉄道に乗車。途中乗り換えて、スコットランドの首都エジンバラへ。
ここも世界遺産に登録されている旧市街が見所です。で、駅と町との間で、ただいまLRTが整備中。2011年内に完成予定という割りにはかなり工事が遅れているような……
夜はオイスターバーでカキ、そしてムール貝。シーフードの美味しい町は印象深いですね。
というわけで、イギリスの旅行前半の話はおしまい。
鉄道趣味濃度の高い旅は4年ぶりぐらいでした。鉄道の走っていない国とかが最近多かったからなあ。と、共に、鉄道趣味に充実した国だと改め実感しました。鉄道趣味雑誌が駅のキオスクに十数冊あり、しかも日本円で400円くらい。保存鉄道の蒸気機関車の利用され具合も半端じゃない。あと、マニアのガッついたところとこもあまり感じない。「鉄道」という存在がうまく社会に染み通っているんですよね。正直、羨ましい国だなあと、つくづく感じたのですが、それはまた別の話。