20年ぶりに浮上してきた「若者のトラック運転手離れ」問題と貨物鉄道輸送へのモーダルシフト構想
今日、国土交通省から「「貨物鉄道輸送の将来ビジョンに関する懇談会」(第2回)の開催結果について」という資料が出ています。
- 海上コンテナのような大型コンテナで利便性の向上
- 他輸送モードに対抗しうる価格競争力の実現
- 輸送障害時のリスク対応、適切な情報提供
といった問題意識の指摘から「現状よりもコストが上がらないことが前提」「社内でも在庫は可能な限り圧縮を進めており、鉄道へのモーダルシフトを行うためにリードタイムを延ばすことは困難」という意見が交わされた後、最後の
現在、トラックドライバーは若手になり手がいなくなり年々大幅に減少している。将来は長距離ドライバーが確実に不足すると考えられ、500kmといわず200〜300kmについても鉄道での輸送へのシフトを考えていくのが有意義。
という文言に興味を持ちました。ああ、またそこに戻ってモーダルシフトに関する議論が始まるのか、と。
あるトラックドライバーの話
僕自身、長らくペーパードライバーだった時期があるんで、トラックの運転とはご縁がなかった。周囲の知り合いで運転手をしている人もいない。
ただ、旅先では別である。海外・国内問わず、いろんな職業や立場の人たちに会ってきた。
5年前、「日本海」のA寝台車に乗ったことを、以前、「特急「日本海2号」プルマン型開放式A寝台の乗客たち。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」で書いたことがあるが、そこの喫煙席でトラック運転手の方と話し込んだことがあった。
ブルトレ好きでドライバー……という、ちょっと変わった経歴の方だったが、自分の努力した分だけ稼げるし、地方だから他に仕事もないし、他人にあまり干渉されることがないし……まあ、それなりに楽しいよ、とおっしゃっていたのが印象的だった。なによりお話は面白かったし、ディープな話もたくさんできた。
で、その人、30歳代でまだ「若手」の部類にはいるし、てっきり長距離を運転しているんだと思いこんでいたが、どうも違うみたい。主に日帰りか1泊程度の短中距離を専門にしているという。長距離より割は良くないが、
- 自分のペースで仕事ができる
- 長距離だと荷下ろしも込みの仕事になる
- 家族といる時間を大切にしたい
からだ、という。実際、他のドライバーを見ていても、20・30歳代は中短距離、逆に50・60歳代の年配層が長距離を担当することが多いという話だった。
実際、聞いてみると、違うものだ。人が足りない、いつでも募集中。というのは当時から聞いていた。
- 作者: 鈴木則文
- 出版社/メーカー: 国書刊行会
- 発売日: 2010/05/24
- メディア: 単行本
- 購入: 6人 クリック: 86回
- この商品を含むブログ (14件) を見る
- 夜12時に東京の某所へ集荷へ行き、翌朝5時までに大阪の工場まで物を運んでくれ
とか。
東京ICから吹田ICまで500キロ(東名・名神経由)、6時間。前後の時間や休憩も込みだともっとかかるだろう。でも、140キロ/hでがんがんに飛ばしながら4時間半で走ったこともあるという。そこまでやると、ハイテンションになってなんか気分が高揚してくる→後の反動でキツくなる……ようだ。速度超過で捕まるリスク、そして悲惨な事故を招く可能性も少なくないのだけど、そこまでやらないといけないのか。いろいろ考えさせられた記憶がある。
- 作者: 交通法科学研究会
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2005/11/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 32回
- この商品を含むブログ (7件) を見る
平成の20年間、鉄道・船舶から自動車貨物への「逆モーダルシフト」が進む
平成のはじめの頃にさんざん語られた「モーダルシフト」という言葉を覚えているだろうか。
当時、トラック貨物輸送から環境に優しい鉄道貨物や船舶へ……という一連の流れがあったわけです。CO2排出量や交通事故などのリスクのある自動車貨物をなんとかしよう。運輸省や研究者、そして鉄道マニアもそうなることを期待していたんですよね。景気が良すぎて、将来、貨物輸送量がもっともっと増えていく、運転手の確保が困難になってしまう……という懸念もあった。
ただ、それから20年、さほどモーダルシフトの進展はなかった、というのが現状です。
- 景気低迷による貨物輸送量の伸び悩み(1995年66億トン→50億トン弱)
- トラックドライバーの人手不足の解消(2003年度を底に増加)
- 規制緩和で事業者増 1990年4.0万社→2007年6.3万社
- 供給過多によるダンピングとトラック輸送費の低下(輸送量2割増で売り上げ減とか)
- 物流コストと在庫管理の圧縮を求める企業方針
- モーダルシフトにかける経費の補助にあまり力を入れなかった国や自治体
とか様々な事情があるのでしょう。
鉄道貨物の2009年の輸送トンキロ数は、1990年と比べると75%。内航海運だと76%。
逆に、自動車貨物は122%。シェアだと1990年の50.2%が2009年に63.9%。
鉄道・船舶から自動車貨物への「逆モーダルシフト」が見事に進んでしまったんですね。
- 作者: 物流研究会
- 出版社/メーカー: 大成出版社
- 発売日: 1995/02/10
- メディア: 単行本
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (1件) を見る
ただ、
- 荷主である企業がカネのかかるモーダルシフトに取り組む「動機」が弱かった
というのは否めません。90年代後半、ISO14000に向けた環境管理目標が話題となったことで環境負荷を低減する鉄道貨物への転換がもっと進むのかな……とも思いましたが、それも限定的な動きにとどまりました。
上の国交省資料にある「現状よりもコストが上がらないことが前提」との意見がすべてを指し示しています。
そうした動きが一巡して、「トラックドライバーは若手になり手がいなくなり年々大幅に減少している」という、バブル経済の余韻が冷めやらぬ平成の初めのあたりの状況に戻ってきたみたいです。
トラックドライバーの高齢化とモーダルシフトの可能性
当時と事情はちょっと違うみたい。
物流関係者向けのサイトの記事「ドライバーなぜ不人気 人材不足、中型免許も影響」によると、
「「トラックドライバーになりたいという相談は少ない」というのは、若年者コーナーなどを設置して就業支援を行っている京都ジョブパーク(総合就業支援拠点)」
「今年1月の一般新規求人情報では、自動車運送の有効求人は8万3685人。対して有効求職は6万2412人。明らかに人材不足の状況にある。」
とある。
全日本トラック協会の資料によると、ドライバーの高齢化は着実に進んでいるという。
http://www.jta.or.jp/coho/kigyobutsuryu/img11/kigyobutsuryu11.pdf
- 20 歳代以下 1993年37.8%→2010年11.8%(大型だと15.1%→3.8%)
- 40 歳以上 1993年37%→2010年55%(大型だと71.4%)
これは、「若者のトラック運転手離れ」とでもいうのだろうか。
確かに、「トラックドライバー 高齢者」「トラックドライバー 人手不足」と検索してみると、免許制度の改正や賃金の問題などいろいろと複雑な要因があるみたい。「東名高速飲酒運転事故 - Wikipedia」をきっかけとして規制の強化が行われたこともあるのだろう。多くの「若者の●●離れ」同様、なにかを変えれば若者の動向が大きく変わる……という単純な図式で語るのはできない。
- だからこそ、モーダルシフトが必要だ!!!!
というのが冒頭の発言に繋がる。国交省の意向に沿った学識経験者の誰かの言葉なんだろう。
でも、
- 現状よりもコストが上がらないことが前提
という企業側の立場と折り合いをつけるのは難しい。だからこそ、この20年間で「逆モーダルシフト」が進んだわけです。
この懇談会の第1回目の概要「「貨物鉄道輸送の将来ビジョンに関する懇談会」(第1回)の開催結果について」で指摘されているように、
大量・長距離輸送が可能、環境に優しいといった貨物鉄道輸送の特性は関係者間でも十分に認識されているにもかかわらず、収支が赤字となるのは価格設定等に問題があるのではないか
というところにすべてが集約されてしまう。かといって、鉄道輸送が割安となるように事業者やJR貨物に補助を出す……という話にはなかなかならない。できたら20年前にモーダルシフトできていますよ。そもそも荷主側はそれを求めていない。若手運転手不足を訴えるトラック業界もそう。かけ声だけで具体的な成功例に乏しいモーダルシフト推進の動きに振り回されてきたJR貨物もはたしてどう思っているのか。貨物列車の運転士もかなりの重労働とはよく聞きます。
だからこそ、2012年の今、国道交通省は「貨物鉄道輸送の将来ビジョン」で何を議論しようとしているのだろうか。よくわかりません。なかなか落としどころもないし。鉄道貨物輸送のメリットをPRする広告費に2億円予算をつけます……って表層的なことしかできないような気もしますが、それはまた別の話。