上り臨時寝台急行「きたぐに」最後の旅。2013年1月上旬で「日本海」ともども運転終了っぽい
昨年末(2012年12月)、コミックマーケットで東京有明へ行った、その帰りの夜行列車の話をしてみよう。
京都駅からほど近いところにすんでいる僕が東京に行く場合、「のぞみ」での往復が中心だ。忙しいときは日帰りで往復することもある。片道2時間ちょっと。飛行機の利用も不便なエリアなんで、それ以外の選択肢は考えられない。昨年だけでも十数回、「のぞみ」を利用している。
ただ、そればかりだと芸がない。たまには違う選択肢も考えてみたくなる。今はなき沼津直通「あさぎり」を使った「『ドラえもん』を読んで371系「あさぎり」で関西へ行こう。 - とれいん工房の汽車旅12ヶ月」の旅もその一つ。ちょっとした工夫で出張に色を備えることは可能だ。
今回の東京行き、年内最終日(12月28日)の仕事からの帰りに
を準備し、いったん自宅に帰って身支度をした後、京都駅21時台の「のぞみ」に飛び乗った。
行きは東海道新幹線で京都から東京へ向かった後、上越新幹線で長岡へ向かい、そこから夜行列車で帰ろうという算段だ。目指すは583系臨時寝台急行。
京阪神と東京との往復に北陸夜行を使うというアイデア。
東京から関西にある家へ帰る際、北陸方面への夜行列車「北陸」「能登」「きたぐに」(あるいは「日本海」)を使うアイデアは大昔から実践していて、2009年夏に、「関西〜東京間の出張で安く便利に寝台列車に乗る方法 - とれいん工房の汽車旅12ヶ月」という記事を書いたこともある。夜行列車を使える旅はそうそう実践できない=だからこそ可能ならやっておきたいというのが一つ。あと、移動距離は長くなるが、乗車券の遠距離逓減が効く分、運賃・料金面では「のぞみ」単純往復と比べてもさほど差がないこともあった。特に「銀河」が廃止された後は意識的にそんな大回りルートを選んでいた。なんとなく北陸新幹線開業の際にそれらの夜行列車が淘汰される予感がしたからだ。
ところが、事態は想定より早く進んでしまい、2010年春に「北陸」「能登」、2012年春に「きたぐに」「日本海」が相次いで廃止されてしまった。
機関車&客車、電車の老朽化、夜行運転できる人材の払底、そして経済的な側面。いろいろ事情はあるのだろうけど、残念な話だ。
一応、「きたぐに」「日本海」は多客期限定の臨時として残り、2012年度もGWとお盆、そして年末年始に運転されている。
ただ、先行きは不透明。臨時運転もいつまで続くか分からない。
過去の他夜行列車の実績からすると、臨時格下げの後、1〜2年で運行を終えるのも多い(過去の実例は「夜行特急「まりも」が9月いっぱいで廃止 - とれいん工房の汽車旅12ヶ月」)。2010年3月改正で消えた「能登」も、その後、臨時急行として運転は継続されたが、その2年後の2012年3月改正以後は設定されなくなった。当時の新聞報道によると、1日の乗客数は「2009年度には66人」 。臨時運転になると客の逸走は進むし、難しいんだよね。
「きたぐに」は臨時格下げ後、2012年8月17日に京都→糸魚川間で利用したことがある。
このときも、ある仕事終わりの金曜日、ふと「きたぐに」に乗りたくなり、仕事帰りにグリーン券を予約。自宅で一風呂浴びてから飛び乗ってみた。なかなか仕事以外で出歩くことが難しくなったし、意識して乗っておかないといかんなあ、と思ったからだ。
ただ、お盆時にもかかわらず、帰省のピークから外れていることもあり車内は相当空いていた。帰省客というよりも、趣味の人率はかなり高そう。でも、乗車率は半分程度か。乗って残そう夜行列車!!!
来年(2013年)の改正以降、設定はあるのかな。無理だろなあ。そんなことも頭をよぎっていた
「「きたぐに」及び「日本海」の予定臨廃止」
2012年12月29日、コミックマーケットに参加し、品川駅近くの「つばめグリル」で簡単な打ち上げをした後、上野駅へ向かった。
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18:30に上野駅へ行くと、14番線だけやたらと人混みができていた。20:35発の583系臨時「あけぼの」狙いの人たちが場所取りをしていたのだ。東北を中心に走る583系も1編成。風前の灯火なんで、運行されるたびにマニアのカメラの放列に取り囲まれる。
希少価値はわかるんだけど、2時間以上前から駅構内で三脚やなんやらで場所取りってなんだかなあ。そういや、この夏、甲子園臨で大阪駅にやってきていた原色583系(下の写真です)と偶然遭遇したときはラッキーだなあと思ったけど、マニアさんは20人くらいはいたか。その中で行儀が悪かったのは年上の人だったよなあ
……とかなんとか思い出したりしながら「あかぎ」の出る16番線に向かった。
行程通りに北上し、長岡駅に到着。時間が空いていたんで乗降駅を増やすために北長岡駅へ往復し、その後、改札口の駅員さんオススメの駅近ラーメン屋に入った。道路脇はうっすらと雪は積もっているけど、さほどの量ではない。天気予報を見ても、ダイヤを乱すほどではなさそう。今日は定刻での運転が期待できる。
で、味噌ラーメンを食べながら、手持ちぶさたなんでなにげなしにスマホをいじくっていると
……という趣旨のツイートが流れてくるのに出くわした。
えっ?
さて、情報ソースはなんなんだろう。調べてみると、ジェイアール労働組合新潟地方本部の広報向けサイト。ダイヤ改正のレア情報を集めるのに、労使交渉の情報(えてして。それはプレスリリース前の合理化情報=廃止情報)って正確かつ早いんだよね。
そこの「第63号 2012年12月26日 3月ダイヤ改正について提案を受ける〜提案団体交渉終了」という記事に、JR東日本の会社側から「3月ダイヤ改正について提案」の一環として、次のような文言があった。
直江津運輸区と長岡運輸区の運転士臨時は、「きたぐに」及び「日本海」の予定臨廃止に伴う要素によりそれぞれ△1とする。
http://www.geocities.jp/jrluniigata/5ad/50ad.html
ああ、JR東日本は「きたぐに」と「日本海」の予定臨を廃止するつもりでいるんだなあ、と。組合側もあえてそれに反論するつもりはないようだ。定期列車じゃないんだし、わざわざ12月21日に流したプレスリリースでも紹介していなかったんだよなあ。
ともあれ、この年末年始で共に運転終了、ということなんだろう。たぶん。
なんというか、乗車前にこういうニュースを知ってしまい、なんだか複雑な気分になりながら、駅構内に戻った。
登場から40年、ついに消えていくのか583系「きたぐに」
定刻の1分前、遠い闇の向こうからまばゆいライトが見えてきた。「きたぐに」がやってきたようだ。
23:38定刻、長岡駅4番線に到着。
583系7連。関西口ではおなじみの「きたぐに」色だ。
ボディーもぼろぼろ。鋼板にも錆びやたわみが。登場から40年、よく今まで動いてきた。
ここまで酷使する前になんとか……とは思うのだけど、車両を新調する投資の意味を見いだせなかったからこその現状なんだよなあ。
そして、583おなじみの「特急 きたぐに」表示。
以前も「急行「きたぐに」が特急に昇格。 - とれいん工房の汽車旅12ヶ月」でネタにしましたが、方向幕がズレているんですよね。それを相変わらず修繕する気配すらないJR西日本。せめて見栄えだけでも整えてからサヨナラして欲しかったんですが、その気すらもないんだろうな。
向かいの3番線からフラッシュが。よく見ると三脚持ちも含めて20、30人くらいはいるだろうか。じっくりと撮っている感じからすると、今晩の「ムーンライトえちご」を利用する人たちなんだろう。外から車内を見てもあまりお客さんは乗ってなさそうだ。
最後尾の7号車をぼーっと見ていると、車掌が動き出した。そろそろ出発の時刻だし、車内に入ろう。
6号車に移ると同時にホイッスル。
ガタンという衝撃と共に動き始める。23:48、定刻だ。
よろよろと通路を歩きながら、指定していたベッドに着席する。今日は6号車1番下段。
で、これが中段。
高さは雲泥の違いだし、大きな窓があるかどうかで居住性も圧迫感もかなり違う。ましてや上段だと寝返りを打つのも辛いんですよね。
今宵のベッド、車両端なんで多少の揺れはあるんだろうが、前日夜にマルスを叩いてもらったにもかかわらず、下段がとれたことを幸運に思わないと。
夜空を眺めながらの最後のひととき
逆に言うと、年末なのに前日夜でも下段がゲットできる……というのは、それだけ「きたぐに」が空いているということでもある。
本来の年末帰省需要とは逆向けの上り列車。満席になるのは難しいんだろうけど、車内を歩いてみると、下段でもちらほら空席のベッドがあるみたい。上中段はほとんど埋まっていない。
グリーン車とあわせてみても乗車率は3、4割。僕も含めた二つ星寝台狙いのマニアな連中がいなかったら、もっと低かったんだろう。
前日夜の下り「きたぐに」に乗った大学鉄研の後輩とネット上でやりとりしたところによると、車内放送で寝台もグリーンも満席だと放送が流れたらしいし、年末の下り、年始の上り限定ならそれなりには埋まるんだろう。ただ、すべての列車がそういうわけにもいかない(曜日や日程によって大差が出てくる)、というのが夜行列車の設定の難しいところだ。利用の少ない便を回送として送るだけでは採算が合わなさそう。
希少価値を求めるマニア需要に期待するというやり方もある。
上野駅を今夜発車した(はずの)583系臨時「あけぼの」みたいに、次の年末年始シーズン、「きたぐに」とか「日本海」と称する臨時列車を、下りと上り1本だけ運行とすればいい。マニアは大喜びするし、満員となるのも確実。「廃止間際」「臨時列車限定」という飢餓感があれば、あるいはマニア向けの「ネタ列車」として設定すれば趣味の利用者は殺到するんだろう。傍目には盛況のように見える。
でも、それが「きたぐに」や「日本海」って列車にとって必要なことなのか。意味あることなのか。なにかが違うんだよなあ。
とか思いながらベッドにくるまっていたんだけど、なんだか寒いです。デッキからすきま風が入ってきているのかなあ、と思って確認してみても、そういうわけでもない。車内の暖房が効きがあまりよくないんだよねえ。
検札に来た車掌に設定温度を上げてもらえるようにお願いしてみるが、「なかなか難しいんですよ。昨日のお客さんもおつしゃっていたんですが、ご存じのようになかなか古い車両で……」とのこと。まあ、そういうのは分かって予約したんだし、我慢するしかないか。
浴衣に着替えるのを断念し、薄い掛け布団をまといながら暖を取ることにする。
寒い。本当に寒い。
ふと、窓の外を眺めてみると、暗闇の帳と対照的な白い積雪が広がっているのが見えた。家々の灯火とクルマのヘッドライト、そして駅構内の照明
市街地に入って一瞬、明るくなった、と思うと、やがて町の灯火が途絶える。再び白い雪で包まれた漆黒の世界へと変わっていく。一つ一つの駅を通過するたびに同じシーンが繰り返されていく。
そのまま視線を上げると、夜空には、おなじみの星座が点々とちらばっているのがよく見える。
この淡々とした風景が夜行列車の醍醐味なんだよね。ちょっと、しんみりした気分になった。
けど、なかなか僕のベッドの温度は上がらないようで、0:51着直江津駅6分停車の間にホームへ出て、ホットの缶飲料を2本購入。
「どうです、ちょっとは暖かくなりましたか?」
と先ほどの車掌さん。車掌室も寒いのだろうか。彼もホット缶を2本、買い求めている。ええ、まあ、と曖昧な返事をしながら車内へとそそくさと舞い戻る。
熱い飲み物を口にしてもさほど寝台内は暖まらなかった。ただ、1:23着の糸魚川駅の記憶はないんで、そのまますっと眠れたようだ。
朝起きたのは6時少し前。ほどなくしてチャイムが鳴って朝の放送が流れた。どんよりとした朝の空気が漂う窓辺から琵琶湖が見えた。トンネルをいくつかくぐれば、京都駅である。
それからいくつかの夜を経て、臨時「きたぐに」「日本海」の最後の走りが近づいてきている。
この2012〜2013年の年末年始ダイヤの運転は、
- きたぐに
- 下り 大阪23:27→新潟6:54 12/27〜1/6
- 上り 新潟22:37→大阪6:49 12/28〜1/7
- 日本海
- 下り 大阪20:38→青森12:42 12/28-30、1/4-6
- 上り 青森16:21→大阪10:27 12/27-29、1/3-5
となっている。
この日記を書いているのは1月5日。上り「日本海」は明日の朝、大阪に着くのがラストランになるのか。どうなるのかは関係者のみ知ること。僕のような部外者が分かりようもない。「きたぐに」は僕個人にとっていろいろと思い出深い列車だったし、もう一度くらい見てみたい気がないでもない。ただ、この数日、混乱しているだろう駅や沿線で撮影する気持ちがわいてこなかったので、この日記を書いてみた。とりあえず、今現在、確定していることは、京都梅小路に2016年オープン予定の博物館でクハ581が展示されるっぽいということだけなんですが、それはまた別の話。