「自分の体験談」で文章を紡ぐと言うこと 〜「ヨソ者=『2級市民』」その後〜

 先日、地方都市に住んでヨソ者=「2級市民」として扱われた違和感。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月という記事をエントリーした。その冒頭、

  • ある地方都市に引っ越すことにした
  • アパートの契約段階で、「共益費2000円+町内会費525円(●●ハイツ住民向け)」という文言を見つけた
  • 従来からの住民は月額費不要だが、アパート住まいの周辺住民は払わねばならない、と不動産屋の説明を受けた
  • 「区別」されているのが理不尽と主張すると、「僕がきちんと町内会行事に参加するなら大家さんと交渉してみる」とのこと。ただ、担うべき行事は町内会参加や掃除やなんやらかなりたくさんある
  • 「すみません。わかりました525円、払います」
  • 「オレって『2級市民』扱いかよ」……と釈然としないまま帰途についた

という個人的体験を書き連ねた。
 住んでいる家屋の形態によって町内会費や役務に「区別」があるというのはおかしい。それが僕の不満の種であった。
 ただ、その記事を読んだ知人から、体験談の記述の曖昧さの指摘を受けた。そして事実誤認の可能性も。
 「えっ?」と調べてみると、確かに僕の理解自体に不十分なところがあった。町内会費の「区別」にもそれなりに意味合いがある。というか、まったく逆の解釈もできることも。
 今回は前回の記事自体を検証するエントリーを書いてみたい。

町内会費「会員は一世帯を一会員とする」

 ご承知の方も多いと思うが、町内会を巡って様々な議論が存在している。何十年も戸建て住宅に住んでいる世帯と賃貸アパートやマンションに住む世帯との意識や行動の差。加重負担への不満。町内会に加入しないと選択することでの軋轢。地区毎にかなり差があるとはいえ、いろんな課題をはらんでいる。
 町内会に入るか否かは個人の意志に委ねられている。入らないという選択も尊重されねばならない。それゆえに、町内会費の支払が義務だ(払わないなら入居できない)というルールは望ましくない。
 ただ、毎月の町内会費を口座に振り込んだり現金で手渡ししたりするのが手間になるというのも本音だ。不動産屋で町内会費の説明を受けたときから、今どき妙な話だよなあと考えたが、面倒が嫌なのは僕も同じなのでそれ以上に追求しなかった。

 次に、町内会費の住居形態による「区別」。僕は以下のような表現をした

 昔からいる住人からすると、何者か分からない賃貸アパートの住民を信用していないだろう。でも、ヨソ者たちがムラの仕事もしないでフリーライダーを決め込むのは腹が立つ。だから月額525円の町内会費を徴収し、責務免除を黙認する代わりに、自分たちの共同体から分断しているのだ。

 これはかなり乱暴な書き方だった。
 都市や農村関係なく、地区によって町内会費の形態や考え方も千差万別である。
 僕が理解していたのは、

  • 基本会員 →エリア内の住宅1世帯毎(あるいは1人毎)

というルールだ。
 他にも、エリア内の企業・法人に賛助会員を求めたりもする(会員ではあるが議決権はない)。これは仕事上で支払い手続きすることもあったので知っていた。あるいは高齢者独居世帯や何らかの事情で免除されるケースもある。
 会費を払うなら、いろんな仕事も回ってくる。実際、同じ町の違う地区に移ったとき、ここでは町内会費の区別はなかった。引越2週間目に町内会の班長=アパート内の回覧板&配布係を仰せつかった。あとゴミ捨て場の輪番制の掃除。ゴミ捨て場の管理は共益費に入っていないから、自分たちでやってくれ、ということだった。
 「会員は一世帯を一会員とする」が当たり前だろうと思っていた。町内会の会員=基本会費を払う人であり、払わない人は町内会員になれない。アパートや新規戸建て住宅の住民で払わない人は少なくない。
 この10年間に住んだ5カ所のうち4カ所の住まい、あるいは実家もそうだった。

町内会費の値段に差が付く理由

 今回、ググってみたら、ネットで町内会規則をアップしているところも少数あることもわかった。

  • 基本会員(住民)+賛助会員(企業・法人)

という組み合わせが目立った(名称は異なる)。
 ところが、町内会費のルールは地域によってかなり異なるらしい。アパート・マンション住民に関しては別の会員規定を設けているところが存在することを知った。
 たとえば、東京都港区の本芝町会http://www.honshiba.com/kiyaku/index.htmlの規約には

  • 本会は世帯代表者、集合住宅代表者、法人代表者、事業所代表者を会員とし集合住宅居住者、テナント事業所を準会員とする

という文言がある。世帯代表は会員だけど、集合住宅居住者は準会員。えっ?
 集合住宅全体で一つの会員、となっているところもある。会費や権利の区別の中身までは分からないが、基本会員と何かの違いはあるのだろう。

  • 団体会員 →エリア内のアパートorマンション運営主体が負担
  • 準会員  →エリア内のアパートorマンションの住宅世帯

 会費の徴収の仕方もバラバラだ。月額徴収もあれば数ヶ月単位、年単位、あるいは新築・改築・増築時に徴収。「総会で決めた会費」としか書かれていないケースもある。
 では、基本会費と準会費の料金を「区別」する理由はなんだろうか。
 その目的について、島根県出雲市は、「町内会(自治会)加入促進に関する検討結果について」という文書で
http://www.city.izumo.shimane.jp/www/contents/1335396670708/html/common/other/4f988a16005.pdf

アパート・マンション居住世帯の町内会(自治会)参加への取り組み

  • 準町内会・準会員制度の検討
    • アパート1棟を1戸と考え、定額会費を集めるなど
    • 新規町内会などは期限付きの会費軽減や役負担の免除など
    • 高齢者世帯の会費軽減や役員負担の免除など

としている。会費と負担を軽減することで障壁を取り除く、加入を促進させようということだ。
 実際、町内会の加入率の低下は、町内会だけでなく、自治体にとっても大きな課題となっている(その位置づけや役割分担について今回は述べない)。ゆえに、上の出雲市のように町内会運営や加入促進のマニュアルを配布したりもしている。
 アパートやマンションの住民がなかなか加入してくれない。町内会運営側の長年の課題だ。ここの出雲市では70.7%とあるし、「特に、市中心部ではアパートやマンションの増加、高齢化が進み、町内会(自治会)組織の弱体化や町内会(自治会)加入率が低下するなど、組織の維持ができなくなるのではとの危機感」ともある。
 だから、「準会員」という仕組みで、費用と役務を一部軽減した制度も出てくる。

「525円で町内会行事免除」ってそんなに単純な話だったのか

 自分の場合はどうだったのか。

  • 大家の負担している「団体会員」費が我々に均等割で回された
  • アパートの住民=「準会員」として世帯毎に適用された負担額

という可能性もある。
 あと、記憶が曖昧だったので書かなかったが、「月額負担ゼロ」と聞いた戸建て住民も何かしらの負担をしていた可能性もある。
 記憶の糸をたぐり寄せると、回覧板で年に一度やってくる町内会の会計報告に、よく分からない会費項目があって、●万円とかあった。全戸の会費額としては少なすぎたし、あれ、どういう算出基準なんだろう? と探しても説明はなかった(総会で決めるとか??)。
 地元の人も月額負担でないにしても、新築での入居時、改築や増築のとき、あるいは数年に一度、何かの負担をしていたのかもしれない。
 そもそも、契約書の判子を押す直前に不動産屋から受けた

  • 地元住民 月額負担ゼロ(でも、そのほかのタイミングで負担?)、運営会員選出などの役務
  • アパート住民 月額負担525円 役務免除

という説明はどこまで本当だったのか。
 町内会の仕事は大変だからアパートの人はみんな会費を払っている→さっさと契約の判子押してください……という空気があったし、その前に住んでいた町からわざわざ足を運ぶのは面倒だった。担当者は大家と交渉すると言っていたが、ややこしいことになるなら波風立てない方がいい。
 入居した後、大家さんと雑談していて、町内会費の話をそれとなく話題にしたことがあるが、「えっ、そんなルールあったかなあ」という反応だった。会費負担に不満を言っていると思われるのもなんなんで、話題を変えた。
 「525円で町内会行事免除」ってそんなに単純な話だったんだろうか。そもそもアパート住民が正規会員として加入する制度自体が存在したのだろうか。
 小一時間、検索エンジンでぱらぱら調べているだけで、様々な状況を把握できた。僕の認識がきわめて限定的で、かつ個人的なものだったことに気づかされた。昼休みが終わったんでスマホを鞄に仕舞って、思わず天を仰いだ。


 当時、地域の初対面の人と「アパートに住んでいる」と会話していたら妙に気の毒がられたり、「戸建て住宅を建てないと半人前」とご意見されたりしたことが何度かあった。他府県出身者であることを自覚させられる場面もいくつかあった。あまり気持ちいいものではないし、不満が募った。その根底には、アパート契約時の「オレって『2級市民』扱いかよ」という不可解さがあったのは否めない。
 ただ、そうした空気への不満と、町内会費の「区別」の話は別次元である。
 町内会費のルールに様々な可能性があることを想像しなかったのは僕の不注意だ。
 疑問を感じたのなら、アウェイでの酒席が苦手と言わずに、町内会の例会に出席して確認すれば良かった。無難にやろうとして、ボタン掛け違いで一番最初に色メガネをかけてしまった。そして、僕の状況把握も中途半端だった。
 10年経った後、その曖昧な理解を「体験談」としたがゆえに不十分な記事になってしまった。「2級市民」という自虐的な定義自体がおかしい。

なぜ僕は前回の記事で「失敗」したのか。

 このブログを書き始めて6年半になる。
 自分の意見で他人を啓蒙したいという意欲はあまりないんで論理構成はさほど緻密ではない。論説文というよりエッセイを書いている意識が強い。
 ある程度、構成を決めてから書き始めるが、途中でアイデアが浮かんで突然脱線することもあるし、意味もなくたらたらと長くなったりもする。それがうまく転がるときもあれば、失敗することもあった。結論は特にない。
 前回のような「問題提起型」の記事を書くとき、たいてい僕の執筆スタイルは以下のようになっている。

  • 1.最近話題になったニュースや記事の紹介
  • 2.関連した自分自身の体験談
  • 3.話題を膨らませつつ、その体験を通して自分の考えたことを紹介
  • 4.こういう見方も可能では。こういう考え方ができるのでは、と問題提起
  • 5.「それはまた別の話」 

 5年前に書いた「第二京阪道路と大阪府と芋掘りの想い出。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」という記事もそうだ。高速道路の反対運動をしている人たち、そしてそれを強行に押しつぶす橋下府知事(当時)。両者の言動に対するネットの評価が一方的だったんで、それとは違う視点もあるよ、と提起してみた。
 前回だと、

  • 1.「都会と地方都市」「地方都市の閉塞感」という最近の話題
  • 2.自分が地方都市に住んだときの「違和感」。ヨソ者=「2級市民」的扱いへの不満、戸惑い、諦め
  • 3.以前の街に住んでいたときには閉塞感があった。次に転じた街では全員ヨソ者という大前提があって、対等に扱われて気持ちがラクだった。ただ、「この町とは違うルールで運営される世界が存在することを知っていた」からそれはそれと割り切れた
  • 4.他者のブログの「田舎には選択肢がない」という言葉の紹介。自分が大都市の公立中学に通っていたときも同調圧力が苦手だった。視界が開けたのは「自分の所属する共同体と別な世界が存在する」ことを知ってから
  • 5.「それはまた別の話」

という構成になる。「地方都市と都会の違い」という単純な話ではなく、同質的な空気はどこでも誰でも遭遇する可能性がある。他ならぬ自分も……とまとめたつもりでいた。
 ただ、前回の記事を読んだ方でも「3.」以降の記述はあまりご記憶にないだろう。
 「2.」の「違和感」や不満、戸惑いの記述が必要以上に多く、かつ思いこみが激しかったためバランスが崩れた。「地方都市の閉塞感に困惑する自分」を描くつもりが、「地方都市の閉塞感に愚痴を言う自分」になっていた。
 自分自身の見たもの、考えたことをうまく消化(昇華)できていなかった。それを曖昧な記憶・状況把握で「体験談」としたため、生煮えの感情をうまくコントロールできなかった。

自分の「体験談」を基準として書くときの心配り

 自分の「体験談」をベースに記事を書くなら、できるだけ主観を排し、多様な視点から言葉を紡いでいきたい。そう僕は考えてきた。
 主観的な言葉が強すぎたり、ニュアンスで分かって!ってやったり、あるいはポジショントークで話を進めたりすると、波長の合う人には共感してもらいやすくなる。それはそれで面白いのだろうが、逆に、違うスタンスの読者の入口を狭めることになりかねない。他者の理解を妨げることにもなる。
 どうせなら多くの人に読んでもらいたいと思う。自分に共感や同意してもらえなくても、何か考えてみようと思ってもらえるだけでイイ。
 6年半、ブログの記事を続けて楽しかったのは、書きながら自分とは違う視点を得ることができたからだ。
 ブログを書こうとしなかったら、自分と直接関係ないことを真剣に考える機会なんて、まずない。文章を書きながら考えて調べていくこと。その当たり前の作業が僕には意義深かった。
 物事には多面的な見方ができる。様々な解釈もできる。
 検索エンジンや手元の本を片手に、いろんなことを調べなおし、情報を付け合わし、自分の考えを補強していく。知らなかったこと、改めて理解できたこともたくさんある。調べていて、最初の「体験談」や考えていたことと真逆の話になることもある。訳が分からなくなって放りっぱなしで終わることも。予想外の展開になることも含めて面白かった。自分や世界の別な視点を得られるのが何より楽しかった。


 もちろん、今回のように自分の体験談が一面的であったり、考えたことがズレてしまうことも多々ある。
 だから、文章を書くときは、

  • 題材となっているテーマに対する一般的な捉え方の紹介
  • 自分とは違う立場や視点の紹介
  • 主観的な視点をしている自分自身への問いかけ

といった視点を盛り込むように心がけた。「客観的な文章」とはならないにしても、重層的な話にはできるかもしれない。
 前回の記事だと、

  • 町内会の規則と会費にはどんな種類のものがあるのか
  • 既存の住宅地に住みながら町内会を運営している人の考え
  • 「2級市民」って自虐的に言っているけど本当にそうなのか

というポイントになるんだろう。
 そうした気配りが皆無で、僕自身の思いこみが強すぎた。「地方都市の同調圧力は大変だ」というステロタイプの話題以上になってない。
 前回の記事の後半で、

  • この町とは違うルールで運営される世界が存在すること

について言及したが、それらをスルーしていたのは誰だったのか。
 それゆえに、はてなブックマーク - 地方都市に住んでヨソ者=「2級市民」として扱われた違和感。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月のように、僕の振る舞いと言葉そのものに疑義を持たれた。弁解しようもない。
 なにより、引っ越した時の最初の拒絶感で失ったものがあることに気づかされた。少し視野をずらせばアパートの窓から何が見えたんだろうか。胸が痛い。


 前回の記事、最初の「2級市民」うんぬんという体験談に至るまでの事実誤認と思いこみが明白だと気づいたので、本文を消去することにします*1。その代わりに本日のこのエントリーを書きました。読んでいただいた方には、お見苦しいところが多々あったと思います。すみませんでした。

*1:エントリーそのものを存続するのは、ブックマークでのご意見を自戒の念とするためです