「ご利用状況に応じた持続可能な地域交通の実現」を訴えるJR西日本の中期経営計画

katamachi2013-03-13

 数日前から関西の大手新聞でちらほら報道されていたJR西日本の中期計画。本日、発表されたようです。

http://www.westjr.co.jp/company/info/plan/2017.html
 前回の「JR西日本グループ中期経営計画2008-2012見直し」の期間が終わったんで、その続きの計画にあたるようです。
 「私たちの使命」「地域共生企業」というキーワードで語る将来像。交通需要の減退、そして福知山線の事故。そこからどうやって次を見据えていくのか、という課題も含めて、いろいろと興味深いところもあります。株主じゃないんだけど、2030年度で連結売上高1兆4千億円ってまた大きな目標を掲げるよなあ、とも思ったり。
 こういう計画書には、趣味的に興味深いポイントもあるんですよね。いくつか拾い上げてみたいと思います。

気になったのは「新たな豪華列車導入」と「広島での新車新製」

  • 「踏切障害事故4割減」・「部内原因による輸送障害5割減」

 これ、JR西日本を毎日通勤で使っているユーザーとしては一番望むところですよね。安全輸送対策にももちろん繋がるし。
 東海道山陽本線阪和線大阪環状線あたりは頻繁に輸送障害が起きています。駅で掲げている情報表示板に遅延情報がなかったりすると、「おお、今日は大丈夫なのかあ」と別な意味で驚いたりするくらい。
 今回の中期計画、前回の計画を検証する項目がどこにもないのが残念なんですよね。最近開発されているホームドアや踏切の保安度向上などで本当に減少できるのか。2017年にはそのあたりの検証をぜひして欲しいです。

 フリーゲージートレインに関して、JR西日本側が積極的な発言をしたのが注目点。FGTを使うタイミングになるだろう北陸新幹線敦賀延伸って何年後だっけ?????(2025年度)と思いつつも、コスト面でもスピード面でも保守面でも疑問符が付けられている中で、「試験車の設計・製作」まで踏み込みましたか。

  • 「こだま」の活用

 これは意味がよく分かりませんでした。N700Aを入れて大改善するとかいう話なんだろうか

 ここらは既報の通りですね。新駅についてはもう少し他の検討場所についても話題になるかと期待したんですが、今回、特になし。あとは高槻・甲子園口・膳所で駅ビル開発ですか

  • 「新たな豪華列車」導入

 ポスト「トワイライトエクスプレス」か。あるいはJR九州の「ななつ星」みたいな団体用列車か。もうJR西日本には期待できないと思っていたんで、興味津々です。

  • 広島での新車新製、可部線延伸など

 いやあ、今回、最大の驚きです。広島圏に新車投入か。国鉄末期に113系3000番台が入って、今年で31年。どれだけの年月が経ったんだろうか……。可部線も既報ではありますが、なんとか実現しそうですね

要は、ローカル線を廃止したい、ということなんでしょうが。

 気になるのは、「地域と向き合い、ご利用状況に応じた持続可能な地域交通の実現を目指します」という項目ですよね。

  • 「鉄道の利用促進・活性化」

はとりあえず、問題となるのは、その次の
-「地域と課題を共有し最適な輸送モード等の検討を通じ、持続可能な地域交通のあるべき姿を追求」
というところ。

 はたして、JR西日本は株主に何を伝えたいのか。
 「ご利用状況に応じた」って、JRのダイヤ改正のプレスリリースでよくある枕詞なんですよね。たいてい、その後、優等列車の運転廃止とか、運転本数の削減とか、あまりめでたくない話が続きに来るんです。
 この文章、早い話が「JR西日本が抱えるローカル線の存廃問題について地元と話をしたい」。
 もう少し踏み込むなら「ローカル線の廃止をしたい」ということですよね。
 不採算路線の鉄道としての運営を取りやめれば、経営体質は多少なりとも良くなっていく。株主の方にも説明しやすい。
 「最適な輸送モード」ってのは、この十数年、横文字で語られることの増えた以下のような輸送システムのことを言うのだろう。

  • BRT

 バス高速輸送システム。実態は鉄道廃線跡を一部バス専用道にしたシステム (例)気仙沼線大船渡線

 デュアル・モード・ビークルってレールの上と道路の両方を走れる「鉄道車両」。そういや、JR北海道の実験話は最近聞かなくなったなあ

 日本語で何と説明すればいいのか分からなくなりましたが「新世代路面電車」とでも言えばいいのかなあ。富山の次はどこで実現するのだろうか。JR西が10年ほど前に話題にした吉備線はどうなったんだろうか。 (例)富山ライトレール

  • BUS 

 いわゆる「バス」です (例)多数

分割民営化から26年、JRのローカル線廃止問題はいまだ話題にならず

 おお、JR西日本、そんなことを言っているのか
と驚かれる方もいるかもしれませんが、実際、以前の中期計画でも同じ趣旨の話題が盛り込まれているんですよね。
 2010年10月に発表した「JR西日本グループ中期経営計画2008-2012見直し」では、

また、ご利用状況にあった最適な輸送モードへの転換に対する理解も深めていただくよう、地域との対話に努めてまいります。

  • JR西日本グループ中期経営計画2008-2012見直し

http://www.westjr.co.jp/company/ir/pdf/20101028_01.pdf

とあったんです。
(それを記事にした「JR西日本社長発言でクローズアップされる並行在来線問題とローカル線廃止問題 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」を参照)
 JR東日本も2008年の中期計画で同じような表現をしています。

 「地方交通線」は、ご利用の増加と徹底した事業運営の効率化を推進する。その上で鉄道として維持することが極めて困難な路線・区間については、当社グループを事業主体とする鉄道以外の輸送モードの導入も含め、全体としてのサービス水準の維持・向上をめざす。

  • JR東日本グループ経営ビジョン2020 ―挑む―

http://www.jreast.co.jp/investor/report/2009/pdf/int_special.pdf

(上のリンクは概略版。それを記事にした「JR東日本「グループ経営ビジョン2020−挑む−」を要約してみる。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月」に全文を載せていました)
 とりあえず、「最適な輸送モード等の検討」でも「最適な輸送モードへの転換に対する理解」でも「鉄道以外の輸送モードの導入」でも、なんでもいいんです。
 JR6社の抱えているローカル線、これからどうするんでしょうか。
 国鉄分割民営化から26年、まともに線路の保守点検や設備の更新もされず、ただ朽ち果てていくだけのローカル線があちこちで放置されているんですね。特にJR西日本の路線は悲惨。
 それこそ、80年代初頭の日本国有鉄道みたいに「●年までに廃止します」「それまでに関係者で寄り合って話し合いましょう」ってやった方が話はわかりやすいと思うのだけど、地域切り捨て的な話を持ち出しにくい事情もわかる。露骨にやると、政治問題になってしまう。
 国も道府県も市町村もみんな見ないふりをしている。妙にやる気を出すと、財政負担も期待されてしまう。それは勘弁して欲しい。もちろんJRも自分だけが悪者になりたくない。そうした問題先送りの積み重ねの結果が、岩泉線気仙沼線などの現状なんだよなあ。JRに補助金を突っ込みにくい事情も分かるけど、じゃあ、他に代替案はないのだろうか。
 本来なら、こういう地域の交通問題。新聞やテレビがきちんと現状を掘り起こし、市民や関係者に問題点を提示し、議論を活性化させていかねばならないんだろうと思う。でも、メディアは何も伝えない。JR西日本が2年前の中期計画でローカル線について触れた件。当時、ネットでニュース検索しても、共同通信のベタ記事しか見あたりませんでした。30年前と違い、ローカル線の存廃問題って話題にしにくいのは分かるんだけどねえ。そこまで興味ないのか。とりあえず、最近、ニュース検索で鉄道の話題をググってみても、「183系恋し、撮り鉄集結」とか「団子鼻の初代新幹線によく似た東北・上越新幹線の「200系」」とか、そういう廃止ネタばかり。いい加減、なんとかしてよ、と思うのですが、それはまた別の話。<参考>
JR西日本社長発言でクローズアップされる並行在来線問題とローカル線廃止問題 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月
JR東日本「グループ経営ビジョン2020−挑む−」を要約してみる。 - とれいん工房の汽車旅12ヵ月