あいりん地区や山谷の簡易宿泊所で滞在する外国人バックパッカー

katamachi2007-08-30

「労働者の街」で知られる大阪市西成区のあいりん地区(釜ケ崎)で、簡易宿泊所(簡宿)を利用する外国人客が増えている。日雇い労働者が激減するなか、一部の簡宿が外国人旅行者に活路を見いだそうとPRや設備改修に乗り出したためだ。25日から開催中の世界陸上大阪大会が後押しし、格安宿は大にぎわいだ。
 3畳の和室で1泊2600円。シャワーとトイレは共同だが、エアコンとテレビと冷蔵庫は部屋に付いている。「値段が手頃で交通の便もいい。申し分ないよ。街の雰囲気はロサンゼルスのダウンタウンに似ているね」
大阪・あいりん地区の格安宿、外国人旅行者に人気朝日新聞、2007年08月29日
ホテル中央大阪環状線新今宮駅近く

簡易宿泊所が軒を連ねる東京“山谷”地区が1年で最もにぎわう季節がやってきた。コミケに参加する若者が国内だけでなく世界中から大挙して宿泊するためだ。東京の台東区荒川区簡易宿泊所が軒を連ねる“山谷”と呼ばれる地区が1年で最もにぎわう季節がやってきた。夏休みで旅行を楽しむ若者に加え、東京ビッグサイト江東区)で開かれる漫画同人誌の即売会「コミックマーケット」に参加する若者が国内だけでなく世界中から大挙して宿泊するためだ。
変貌する“山谷”──コミケでオタクのベースキャンプ化ITmedia News、2007年08月16日
ホテルNEW-KOYO常磐線南千住駅の近く

外国人向け安宿組合"Japanese Inn Group"
請う日本の安宿情報

Lonely Planet Japan

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 トルコからシルクロード沿いにアゼルバイジャンウズベキスタンを経由して東トルキスタン中華人民共和国が実効支配している新疆ウイグル自治区トルファンという町で滞在していた7年前の夏のこと。
 連日50度越えという猛暑にもかかわらず、意外と涼しい安宿のドミトリー(部屋に数台ベッドがある共同部屋)で涼んでいたとき、チェコ人のカップルと仲良くなりました。留学先のオーストラリアから母国へ帰る途中、中国国内を旅しているんだそう。ああ、東欧の人らもそこまでワールドワイドになったんだなあとしみじみ噛みしめました。
 で、私が関西の大阪という町に住んでいる。京都にほど近い……と説明すると、なにか食い入るように質問を投げかけてきます。なんでも、シドニーからチェコまで飛行機のチケット、安かったから上海、関西空港経由の便をとっていて、日本でも14日間ほど滞在するとおっしゃる。すでに「ロンリープラネット 日本」の各ページがマーカーでチェックされていました。関西空港→京都→広島→東京……と黄金ルートを行くと言うことらしい。オススメとして高野山では仏教のお寺に宿泊できるよとアドバイスすると、やたらと喜んでいた。ZENの世界は魅力的らしい。いや、あそこは禅宗とは違うのだが……まあいいか。
「でも、日本って高いんでしょう。」
 う〜ん否定できない。大阪から高野山へ行くのに片道で1200円ぐらい。宿坊に泊まると朝夕飯付きで5000円ぐらいはするか。金剛峯寺以外はあまり拝観料をとらないし、滞在はしやすいと思う。
 では、キャンプ設備は一式あるし公園で寝泊まりするよ……と明るく言うのですが、あえて勧めたくはないなあ。宗教的な町だし、周囲の人に嫌がられそう。もともと大阪、京都、東京では公園に泊まるつもりでいたらしい。でも、大阪城公園長居公園靱公園中之島公園……そこらがどんな状況を知っているだけに勧められない。京都だと高瀬川なんかがいいんだろうけど、確実にポリさんから追い出される。
 ただ日本にも20ドルぐらいで泊まれる宿がある。いや一番安いのは6ドルぐらいか。私はその場所を知っている。教えていいのか迷ったけど、公園でテントを構えていて途中で追い出されるのを想像するのも忍びない。
 そこで紹介したのが、大阪市新今宮周辺、通称、あいりん地区のホテル。やたらと喜ばれたの思い出します。2週間後に関西空港で落ち合った後、新今宮まで行って投宿まで付き合いました。設備と値段で無難な1500円ぐらいのところを勧めました。

90年代後半から整備されてきた日本の格安の宿

 ここで取り上げた記事は、5年ほど前からあちこちで使われた話題でネタとしてはさほど目新しくもないです。東京の山谷の話はオタクイベントのコミケと絡めているからかタイトルはインパクトがありました。ただ、数字の裏をとっていないから話題に膨らみがない。
 でも、日本を訪れる確実に個人旅行者たちは増えています。バックパッカーたちがみんな日本を素通りしていたのがウソみたい。先日、「2007-08-11黒部峡谷鉄道の秘境駅"黒薙駅"を訪ねる白人旅行者」でも紹介したように秘境駅と呼ばれる辺境の小駅にも「ロンリープラネット」片手の白人旅行客が降り立つようになった(ガイドにも黒薙温泉はきちんと紹介されていました)。
 大阪のみならず日本各地の都市は、旧運輸省に後押しされるように90年代から外国人旅行者の誘致に取り組んできました。でも、十数年前は「外国人旅行者=白人さん」という意識が根強かったんです。
 たとえば、90年代半ば、大阪市も参加する経済系の会議で、この「Lonely Planet Japan」の記述が問題となります。この世界最人気のガイドブックの「OSAKA」の項目で

大阪は魅力的な都市とは言えない。その多くは第二次世界大戦で破壊された。"パチンコパーラー"と高速道路の高架線で一緒くたにされたコンクリートのかたまりが終わりもなく広がっている。

と書かれていました。否定できませんね。外国人観光客の視点からは当然の表記です。全体的に大阪って町歩きという側面では観光に魅力的な町ではないというのは自他とも認めている話です。もちろん、その続きで「飯がうまい」とか「夜のネオンが」とか褒められてはいるのですが、まあそれはそれ。
 とにかく大阪市当局にはこれがお気に召さなかったようです。そうした状況を打破?して「国際観光都市」となるために誘致しようとしたのが例の「大阪オリンピック」だったり「ユニバーサルスタジオ・ジャパン」だったりしたのです。ロンプラを話の枕に使っていることからしても、この時点で、誘致する相手として頭に入れていたのは「白人さんたち」であって、大陸方面などのアジアの人ではなかったんです。

もっと日本に個人旅行者が来て欲しい

 でも、韓国や台湾の人たちが90年代半ばからツアーで大量に押しかけてきたことで意外な方向へと門戸が開かれていきます。昼間の関西空港→千歳空港便なんていつもアジア系の団体さんばかりでした。そうしたムーブメントが一回りした今、ここ5年ほどで今度は個人旅行者がようやく日本へ押しかけることになった。日本を旅していると確実に増えている。ボクがときどき通っている京都駅前の京都タワーの下にあるスターバックスではそうした人たちでいっぱいですよ。
 彼らが今まで日本にやって来れなかったのは、

  • 日本の物価が異様に高い。旅行費は北欧並み。東南アジアで一日20ドル(ホテル、飯こみ)で生活していると行く気にならない
  • 彼らが想像する日本的風景や文化は残っていない
  • アジア横断旅行をしている連中にとって、日本は地理的に隔絶されている

というところでしょうか。ようやく円安に振れたことで事情は変わっている。そこにはもちろん簡易宿泊所だけでなくユースホステル、近年オープンや改装したバックパッカーズなんかの宿主の地道な活動なんかもあったのでしょう。自分が若い頃に世界を旅してきたからこそ、たくさんの人が日本に訪れて欲しい。ほんとそう思います。そんなわけで、京都や大阪の駅や観光地でガイドブック片手に思案している外国人旅行者たちに声をかけるようにしています。自分が世界を旅していて困ったとき、疲れたときにアドバイスを受けて助かったことが何度もあったから。
 でも、その対応に一番遅れているのが、意外にも交通機関と旅行案内所なんですね。たとえば大阪から京都に行くとき、どうやっていけばいいのかという基礎情報ですら、どこで手にはいるのか分からない。大阪市だと大阪駅前の東口にメインの案内所があるのですが、駅構内を歩いていても旅行案内所がどこにあるのか、肝心の掲示がほとんどないんですね。もしかしたら「i」と掲げた観光案内所に各国語対応のパンフレットを置くだけで十分だと思っているのだろうか。その点は件のガイドブックにも書かれているのですが、いっこうに改善される気配はない。
 ちなみに、7年前に新今宮簡易宿泊所を紹介したチェコ人とは、後で「北新地まぐろ亭」へ行きました。例のロンプラというガイドブックで梅田北新地の本店が紹介されており、どうしてもこの本場の寿司屋へ行きたいと力説されていました。2週間前に中国で会ったときもすでにマーカーでチェック済でした。これで「寿司」と思ってヨーロッパに帰って欲しくないなあと思いつつ、コンベアで運ばれる寿司をつまんでいたのですが、それはまた別の話。