『“文学少女”と繋がれた愚者』にこめられたオマージュの清々しさ

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

 野村美月“文学少女”シリーズ第3弾『“文学少女”と繋がれた愚者』を読了。第2弾は僕にとってやや消化不良だったのであまり期待していなかったのですが、意外に楽しめました。
 物語の下敷きとなったのは武者小路実篤の『●▲』。本作の劇中劇の脚本として使われているだけでなく、キャラクターたちの物語にもそのまんま投影されていきます。
 これって、国語教科書にも載っている超有名作品であり、題名だけでなく内容やテーマ、そして結末まで知れ渡っている。「友情と恋愛」という固定されたイメージも共有されている。ただ、そんなベタベタな作品を引用するなら、どこかで一ひねり小細工してよ......というのがヒネた読み手の希望だったりします。
 でも、野村美月の元ネタに対するオマージュの捧げ方って、ストレートなんですね。遠子先輩の饒舌かつ舌足らずな語り口での文学評というのも本シリーズの魅力の一つになっていますが、そこで語られる言葉は素直な読解に基づいています。奇をてらった解釈や表現を狙おうとはしません。何かを"パロディー"にした作品が本棚に溢れかえっている昨今、その潔さは逆に新鮮な印象を与えてくれます。

垣間見てしまったクラスメイトの心の闇。追いつめられ募る狂気。過去のあやまちに縛られたまま、身動きできず苦しむ心を、"文学少女"は解き放てるのか――?(表2の紹介文より)

 一方、本筋の方では、主要キャラクターを取り巻く"心の闇"とか"狂気"とかが展開されていきます。武者小路や遠子先輩とは位相の異なる世界観であり、その過剰なまでの描写に当惑させられたというのも正直なところ。いつしか謎解きよりも暗黒描写の方に目が移ってしまい、物語の印象が散漫になったんですよね。まあ、第1弾から持ち越されてきた伏線がようやく動き出したし、それらが次号以降の展開にどう繋がっていくのか、請うご期待!ってところでしょうか。個人的には、あれだけ学内で暴れ回って、誰1人停学になっていないのはどうよ、と思ったりもしたのですが、それはまた別の話。