今里筋線の利用者数をきちんと発表しない大阪市交通局

katamachi2007-03-01

 私は、今里筋線の問題について、「2006-12-08 大阪市営地下鉄今里筋線に漂うそこはかとない不安。」と「2006-12-09 今里筋線建設までのウンチク。」ですでに書いています。
 で、「今里筋線利用客、予測の3割どまり」という記事が、今日の朝日新聞にありました。読売新聞のニュースサイトには、「利用1日わずか3万7000人」という記事がアップされていました。

 昨年12月24日に開業した大阪市営地下鉄今里筋線東淀川区井高野―東成区・今里間、11・9キロ)の1日平均の利用者が、開業前の予測の3分の1以下に低迷していることが28日、わかった。予測通りだったとしても12年間は赤字が続く見通しだっただけに、新たな利用促進策を求める声が強まりそうだ。
 市議会交通水道委員会で、多賀谷俊史議員(自民)の質問に市交通局が明らかにした。
 同局が開業から約1か月たった1月30日に同線の駅や、他線からの連絡通路を通過した人数を調査したところ、3万7327人にとどまっていた。

 大阪市は着工前には平均利用者数を1日16万人と想定し、開業直前には下方修正して12万人としていた。実際には、その3割をも達成していない......というのが、両紙の記事の趣旨です。
 開業から2ヶ月が過ぎても、予想以上の利用者で商店街は大賑わいとか目出度い話は何も聞こえてきません。1月と2月に2回ずつ、この線の鴫野〜太子橋今市を個人的な所要で利用しましたが、夕方のラッシュ時でもロングシートに座っているのは2人とか3人とか。散々たる状況であるというのは想像できます。

都市鉄道の"初年度利用者数"は"需要予測"の半分というのが相場

 ここ10年ほど、大阪市交通局長堀鶴見緑地線京都市交通局東西線など関西では新線開業が相次いでいます。建設前には、たいてい「1日の利用者数は20万人」とか大ボラを吹いた予想が発表されていたのですが、実際、開業すると10万人とか、12万人とか、大幅に下回る数字しか達成できていない。東京圏なんかでもそこらの事情はあまり変わらない。
 むかし同人誌で「JR東西線を歩こう」という本を作ったこともあって、JR西日本がプレス向けに出す乗客数を時系列的にチェックしたことがあります。1989年の着工前、関連機関は東西線の利用者数を1日「50万人」と算出し、それを開業前の1996年に「20万人」と下方修正しています。で、実際、どうなったかと言うと、

  • 開業日(3/8) 10.1万人
  • 3月の平日 10.7万人
  • 4月の平日 12.1万人
  • 5月の平日 12.4万人
  • 同期の休日  7.0万人
  • 開業1年間 10.5万人(平日13.4万人、休日7.0万人)

と予想の約半分(いずれも1日平均)。散々な結果でした。バブルが崩壊したとか、人口が思うように増えなかったとか、いろいろ言い訳もあるのでしょうが、実際に出てきた数字を水増しすることはできません*1
 90年代以降に開業した他の都市鉄道を見ても、鉄道利用者の"実数値"は"予測値"の半分というのが相場のようですね。つくばエクスプレス線なんかは1日の利用者数が15万人と予測の13.5万人を超えて「大成功」ということになっていますが、免許されたときは予測需要47.4万人と発表していました。それを90年代半ばに32.7万人に下げ、その後、何度か下方修正し直して最終的に13.5万人としています。それをやや上回ったと言うだけでしょう。予測を大幅に下方修正してハードルを低くすることで、目標を達成しやすくして"成功"したように見せかけたんじゃないですか。そーいや、愛・地球博も目標入場者数を2500万人から1500万人に落とした上で、実際に2204万人を集めて大成功......としていたなあ。この手のゴマカシは最近の定番なのかな。
 ともあれ、自治体や鉄道会社、コンサルタント会社が計算した需要予測というのがいかにアテにならないか。いろいろ考えさせられることもあります。

なぜ大阪市交通局今里筋線の利用者の数値を出さない?

 さて、今里筋線に話を戻します。
 昨日、市議会での答弁で出てきた「3万7327人」という数字。正直、引っかかるところがあります。「2007年1月30日に利用した人数」を算出したと言うところです。鉄道の利用者なんて、晴れか雨か、平日か休日か、気温が高いか低いかなど様々な要素によって変動していきます。1月の平日のとある一日の利用者数を示しただけでは状況を把握するのは無理です。1月の平均値とか、せめて1週間とか、ある程度の期間での平均値を出してくれないと話にならない。
 それと、交通局が「同線の駅や、他線からの連絡通路を通過した人数を調査したところ、3万7327人」と報道はされていますが、それは"乗客数"なのか"乗降客数"なのか。輸送密度はどうなのか。どのような方法で採られたアンケートなのか。新駅の利用者数はどうなのか。乗客を奪われただろう長堀鶴見緑地線谷町線の利用者数はどれぐらい減ったのか。乗換客の比率は? 既存線からの定期券の切り替えは? などなど、......そうした基礎情報や関連する数字を同時に出してもらわない限り、分析に耐えうる"数字"にはなりません。
 事業者としては、新線開業したのに需要予測を下回るってのは厄介な話です。できるだけ黙っておきたい。ただ、やっぱり、新規プロジェクトをやったのならその成果をきちんと示してもらわないと、納税者としては困るわけです。その手の事業には巨額の市税や国税が何らかの形で注ぎ込まれています。民間企業だと、不利益な情報でも株主に開示しなければ信用してもらえない*2
 大阪市も、「今里筋線の利用者数1日12万人」と大見得を切ったわけだし、今里筋線を開業したことによる成果を、より正確な形で大阪市民(もちろん市外の人間にも)に提供する必要があります。じゃないと建設したこと自体が納得できない。
 とりあえず、大阪市交通局は、ストアードフェアシステムを導入しているんだし、改札機の入出場情報を見れば、誰がどこからどこへ移動したのかという細かなデータを蓄積しているはずです。今里筋線の利用者数に関して、もっと細かなデータを所持しているでしょう。他線からの乗換客数を算出するのはなかなか難しいでしょうが、十の桁までの細かい数字は無理でも、日々の利用者数は概算値で出てくるでしょう。過去に長堀鶴見緑地線を開業した時なんかだときちんとマスコミに情報を公開していたのだけどなあ。なんで、今里筋線に関してはあまり数字が報道されないんだろう。

 あえて邪推するなら、読売新聞の記事の後段

ただ、利用者に占める定期券所有者の割合が26%と、市営地下鉄全線の平均43%より低いといい、同局は「定期券切り替え時期の3、4月に合わせ、PRに力を入れる。徐々に計画通りの人数まで増えるはず」としている。

という言い訳が重要なんでしょうね。今後、利用者が増えることに含みを持たせることに。正直、1月の平均利用者数が仮に3.7万人だったとしても、それが一気に2倍、3倍に増えると言うことはありえない。それは10年前に開業したJR東西線でも同じでした。大阪市今里筋線のPRに力を入れたとしても、学生が定期券を買い換える新学期になったとしても、大きな変化はないでしょう。
 まあ、今年の4月の統一地方選挙大阪市議会も改選されるわけで、マイナスとなるデータを出していらぬ波風を立てたくないというのもあるのでしょう。大阪市長選もこの秋にあります。ただ、今里筋線の建設に関しては、大阪市会では誰一人反対の声を挙げてこなかったのですよね。自民党はもちろん、大阪市の大型開発プロジェクトを批判している共産党ですら地下鉄建設には諸手を挙げて推進してきた経緯があります*3。先の大阪市長選でも、関淳一(關淳一)市長が今里筋線の今里以南の延伸を"凍結"しようとしたのに対し、共産党系の候補が"凍結"とは何事かと揺さぶりをかける。自民党大阪市議団からの突き上げもあり、関市長は"延期"とトーンダウンする一幕がありました。
 こうなってくると、今里筋線の利用者数が想定の3割とか3分の1とか、地下鉄事業の累積赤字額がどうのこうのとか、そういうのはどーでもいい話なんだろうな。むかし大阪市のやっている大学へ10年間も通っていたんでそこらの薄ら寒い実情はたくさん見聞きしたのですが、それはまた別の話。

*1:ちなみに、3年経った2000年度でも、1日平均の利用者数は12万人ぐらいと伸び悩んでいるそうです

*2:先に書いたJR東西線の場合、その実数値が新聞に発表されるたびに、JR西日本株の株価は下がっていました。市場はシビアに判断しているんですね

*3:東住吉区を地盤とする共産党の市議会議員のホームページを見ると、地下鉄「今里・湯里線」を早期に着工する。また、地下鉄「長居公園通り線」は早期に具体化する。……なんてのを訴えかけています。本気か?