県庁所在地の大書店に行っても探している本がない

katamachi2007-08-21

 「旅行人」という出版社があります。以前、月刊の会報誌を出していたグループの起こした会社で、主に海外系の雑誌、旅行本、ガイドブックを出しています。スタッフ4名(うち常勤3名)という小規模出版社の典型的な感じなんですが、掲載されている旅情報はロンプラ並みの詳細な造りで、かつ読者や旅行者に対して真摯な態度で取り組んできたこともあって、自分みたいなバックパッカーの間で確固たる地位と評価を得るにまで至りました。貧乏旅行者の高齢化と若者の海外離れによる市場の縮小、出版不況、スタッフの高齢化……でいろいろ大変らしく、かく言う私も海外に行く回数が減っているのですが、それでもやっぱり気になる出版社の一つです。
 で、ここのオーナー兼編集長である蔵前仁一氏が、ホームページの自身のコラムで、「2007年08月17日(金) うちの本が書店にない理由」という文章を書かれていて、

 今朝(8月17日)の朝日新聞に、「手に入らない 町の本屋、新刊枯渇」という見出しの記事が掲載された。「本をつくっても売れない、読者の手に入らない」という「負の連鎖」を打開するために、返本率を下げ、必要とされる本を必要なだけ書店に届けようと、取次会社が9月から配本システムを改善するという内容だ。
 うちでも読者から、どこにいっても本が見つからないという苦情が寄せられている。どうもすいません。しかし、こういうことはうちだけではなく、多くの中小・零細出版社でも同じだ(大手でもそうかもしれない)ということがこの記事を読むとわかる。
(中略)
 だいたい前の版から改訂されているか確かめるという人は、前の版も買ってくださったヘビー・ユーザーで、こんなありがたい読者はいないのだ。こういう読者の要望に応えられないのは、大変申し訳ないと心からお詫びいたします。

と平身低頭に謝っておられます。

やる気はないけど共同出版には優しい田舎の大型書店

 この朝日の記事は、「出版、断てるか負の連鎖 書店や取次会社の試み始まる」ですね。はてなブックマークのコメントを見ると「何を今さら」と冷ややかな言葉が多いのが寂しかったりするのですが、家や職場から30分圏内に大型書店がない田舎在住の消費者には深刻な問題だったりします。
 私の自宅からクルマで5分ほどの所に売場面積500坪の郊外型書店があります。一般に500坪を超えると大型書店と呼ばれるらしく、住んでいる県内では最大最強の書店という触れ込みなんです。
 ですが、品揃えはどうもダメダメなんです。人気の新刊の冊数が多いわけでも特定分野に強いわけでも目利きのいい店員がいるわけでもない。書棚はスカスカで、取次から来たのをただ並べているだけです。せめて、西日の当たる方向に本を並べるのだけはヤメて欲しい。3年前の改装以来、そのまま放置されているから、何千冊ものの本の背表紙が日焼けしていて買う気が失せてしまいます。なのに、あの一部で有名な新風舎文芸社の本がズラーッと並べられているんです。大阪や名古屋に住んでいた時は、この手の共同出版協力出版商法で語られる「協力書店」って見たことないよなあと思っていましたが、田舎の独立系郊外型書店がきちんと対応していたんですね。先月の「自費出版で「夢を奪われた」 著者が新風舎を提訴」というニュースで有名になった「世界けんか独り旅](ここも参照)なんかも、もしかしたら置いてあるのかもしれない。

店頭在庫がない。どうにかしてくれ。しゃんとしろ、営業部。

 さて、旅行人の編集長氏が謝っておられる前段には以下のようなやりとりがありました。

「旅行人」HP掲示「『メコンの国』新版が店頭にない」
1 名前:あいうえお 投稿日:2007/07/28(土) 15:52:45
メコンの国』も県庁所在地の大書店、丸善へ行っても、紀伊国屋に行っても店頭在庫がない。どうにかしてくれ。しゃんとしろ、営業部。
6 名前:編集長 投稿日:2007/07/30(月) 14:19:26 [編集長]
岡山の大手書店については、『メコンの国』を出すときに、ファックスで注文を取っていますが、残念がら書店からの注文がありませんでした。
(中略)
それでは、そのような場合、読者はどうしたらその本を見ることができるのか、といえば、ほとんどその手段はありません。図書館にリクエストするぐらいでしょうか。出版社も、書店に注文をお願いして「注文無し」だった以上、その書店に置いていただけるチャンスはないのです。
もちろん営業が書店をまわって、この本はよく売れているから注文をいただけないかというように書店員の方に営業すれば、注文してくださる可能性もありますが、地方まで営業に出ることはうちではまず不可能なのです。というか、うちレベルの零細出版社で、地方営業までやっているところなんか皆無だと思います。
(中略)
これで納得しろというのは難しいでしょうが、少部数出版物はベストセラーと違って、目にすることさえ難しくなる(したがってますます売れない)という時代になってしまった感じです。

メコンの国―インドシナ半島の国々 (旅行人ノート)

メコンの国―インドシナ半島の国々 (旅行人ノート)

※このリンクは旧版。新版は、ここのページから購入することが可能です。

<参考>バングラデシュ新版、出たの?
1 名前:あいうえお 投稿日:2006/05/30(火) 16:11:25
どこの本屋行っても、まだ、現物を見ないもので。紀伊国屋岡山店からは、すべての御社のガイドブックが消えてしまった。
7 名前:あいうえお 投稿日:2006/06/19(月) 14:43:51
やっぱり現物はありません。訪れたのは、新宿紀伊国屋、新宿西口のデパートの中にある3軒の本屋、川崎駅周辺の2件の大型書店。売れないのではなく、売らないのと違いますか?もう少し販売努力をなさったらいかがですか?いい加減、嫌になりました。

バングラデシュ (旅行人ウルトラガイド)

バングラデシュ (旅行人ウルトラガイド)

 この岡山在住で比較的高齢と思われる方。おっしゃることは理解できるのですが、書き方が一部に反発を招いたようで、「アマゾンで買え!」、「現物を見たければ図書館で注文しろ!」、「ちっとは書籍の流通経路も理解してやれ!」と皮肉込みのアドバイスをされたりもしています。常勤社員3人の会社に、どこまでハイレベルなことを求めているのかなあ。全国津々浦々に書籍がここまで溢れている国って日本ぐらいですよ。海外旅行好きならば、そこらのトラブルやイライラもテキトーに流して、気長に手に入る日を待っていればいいのに。
 でも、本好きの一人としては、現物を見てから購入したいという過程は踏みたいという気持ちは分かります。僕も名古屋市に住んでいた頃、ここが出していた月刊誌を求めて市内中心部の大型書店を彷徨ったにもかかわらず、なかなか現物を見つけることができずイライラさせられた経験があります。何万冊ものの固まりからアタリやハズレを引く時のドキドキ感も本を消費する楽しみの一つですもんね。ネットや郵送での気楽な注文とは違う醍醐味があります。PDFで数ページアップしてみては……との意見も上記掲示板にありましたが、消費者としては本独特のあの質感を楽しみたいんですよね。そこらのバランスが難しいところです。
 ちなみに、この匿名氏が問題にしていた「旅行人ノート メコンの国 インドシナ半島の国々」(第4版)。先ほど、前述の県内最大の大型書店に行ってみると、2冊が平積みで置かれていました。発刊当時に見かけたのと同じ冊数、同じ場所です。3ヶ月経ちましたが、その間、棚配置が変更されることもなく追加されることもなくさりとて返品されることもなく、そのままの状態で放置されているわけです。書籍の流通の仕方についていろいろ問題点を指摘される識者は多いですが、かといって書店側と出版社側と消費者側それぞれが幸福になるような妙案があるわけでもない。結局、都会住まいが一番いいよなあと改めて思ったりもするのですが、それはまた別の話。